ミッドナイト・ブルームーン
ふと、目が覚めた。 不審な気配を感じたわけでもないのに何故目が覚めたのだろうと考え、すぐに答えを見付ける。 カーテンを閉め忘れた窓から満月の光が差しこみ、ベッドまで届いていたからだ。 蒼い大気の中、銀の光線が差しこむ空間は見慣れた部屋を別の世界へと変え、見ている者を不可思議な気分にさせる。 ふわふわとした、現実感の薄い感覚。 暖かなベッドの中から出る気はないが、何時もとは違う空気に触れたくてそっと腕を差し出した。 剥き出しの腕に蒼い大気が纏い付く。 窓の外を伺えば純銀の円盤のような夜の主人の姿が見える。 「綺麗・・・」 小さく呟く涼やかな声は密やかな空気に溶けこんでいく。 魅入られたかのように一心に見詰めている彼女の肩に暖かな腕が絡み付いた。 「起きていたのか?」 背中からすっぽりと抱き締められ、耳元で囁かれる低い声に彼女は軽くかぶりを振る。 「目が覚めただけ。ねぇ、瑠璃、今夜の月はとても綺麗ね」 「そうか?」 淡々とした声音に頓着せず、彼女はただひたすら純銀を見詰めていた。 「月華」 「なぁに?」 少しも自分を振り返らない恋人に青年の機嫌が少しばかり悪くなる。華奢な体を抱き締める腕の力を強めても、彼女は青年を見ようとはしない。 「瑠璃も見て。こんなに綺麗な月、そんなに見れるものじゃないわ」 「・・・俺はもっと綺麗な月を知っているからな」 「え?」 意外な返事に彼女の顔が後ろを向いた。 やっと自分を見た恋人の額に口付けを落とし、その耳元で青年は囁く。 「お前以上に綺麗な月はいない。俺の、月の華以上にはな」 「・・・・・!!」 さらり、と言ってのけた青年の言葉に彼女の顔が真っ赤に染まった。再び青年に背を向け、恥ずかしそうに俯く。 「月華?」 囁きながら首筋に口付けられ、行為に慣れた体がびくり、と震える。 「ちょ、ちょ・・・っと、瑠璃?」 「ん?」 「何、して・・・あ、んっ」 「さあ?」 くすくすと笑う青年の片腕が腰に回され、もう片方が豊かな果実を包み込んだ。 「駄、目・・・って、く・・・瑠ぅんんっ、璃ぃ、はぅ・・・」 柔らかく揉まれると、緩やかな電流が背筋を這い登り、彼女は背を逸らせて熱い吐息を零す。 「もう一度、月華・・・」 華奢な体をくるりと返すと青年は反論を聞く前にと唇を塞いでしまった。何も言わないうちに言葉を封じられ、抗議を込めた拳が青年の胸を叩く。だが、遠慮がちな叩き方では青年の行為を止めるストッパーとはならず、易々と押さえこまれてしまった。 塞がれた唇を舐められ、思わず薄く開いてしまう。開いた瞬間、その行動を後悔しても後の祭で深く濃厚な口付けが始まった。 歯列をなぞられ、上顎をくすぐられる。舌を絡められ、吸われ、甘く噛まれると喘ぎのような吐息がくぐもるように零れた。くらくらとした眩暈に襲われ、酸欠を起こす寸前でようやく開放される。 ぐったりと体を青年に預け、大きく息をついて酸素補給を行っていた彼女の体が再び跳ねた。 「や、駄目、駄・・・目、って・・・あ」 揺れる扇情的な胸に顔を埋め、そこここに残っている傷跡に舌を這わす。きつく吸い上げればくっきりと紅華が咲き、白大理石の肌に映えた。 「駄目?」 「さっきから、そう、言ってって・・・あうっ」 「これでも?」 何時の間にか下肢に触れていた手が熱くなりだした泉に触れる。鋭く息を吸い込んだ彼女の頭が緩く左右に振られた。 「もう、治まりがつかなくなっているんじゃないか?」 「やぁ、あ、んんっ、んふぅ」 蜜に濡れた花芯を見つけだし、捏ねるように刺激すると泉の奥からとくとくと蜜が溢れてくる。 「この、体力お化けっ」 「何とでも」 「馬鹿ぁ・・・」 「愛しているから」 睦言のような、戯れ言のような会話に熱で潤んだ蒼が青を睨んだ。 「私、朝、起きれなくなるのよ。責任取ってくれるの?」 「もちろん」 睨む蒼に口付けた青年の手が細い腰を抱え上げる。 「望むのなら、ずっと、な」 「・・・それも、嫌・・・あ、あ、あああああっ!!」 体の中に入ってくる圧倒的な熱に嬌声のような悲鳴が上がった。息を整える暇もなく快楽を送りこまれ、しがみついた背に爪を立てる。 「瑠璃、瑠・・・璃、もう少し、ゆっ・・・く、り・・・お、願い・・・っ」 強暴なほどの動作について行けず、ただ、悲鳴しか上げられない。だが、その声が嗜虐心を刺激し、ますます青年の情欲を煽る。 果てのない行為の終わりは彼女が失神するまで続けられた。 青年が地上の月をしっかりと抱き締めているのを見ているのは天に輝く月だけだった。 翌朝、当然のごとくベッドに沈没している恋人の世話を、青年がとてつもなく嬉しそうに焼いていたとか。 END |