Passion


 どうして、こんなことになったのだろう。
 ともすれば溶けそうになる思考の中、彼女はぼんやりと考える。
 何時もと変わらない夜だったはずだ。少なくとも、自分にとっては。
「・・・・・ぁ」
「何を、考えている。月華」
 背筋に走った淡い電流に思わず声を漏らし、電流を流した元凶が低く問いかける。
 紺色の髪、青く鋭い瞳。胸に輝くラピスラズリの宝石が示すのは珠魅という種族。
「・・・別に、何も」
 柔らかなベッドの上、細い両手は纏めて押さえつけられ、華奢な肢体は圧し掛かる体によって身動きができないようにされていた。
「・・・どうして?」
 涼やかな声の疑問は具体的ではなく。だが、何を聞いているのか、言葉にしなくても彼女を組み敷いている者には分かっていた。
「ねぇ、どうして?・・・瑠璃」
 蒼の瞳と青い視線が絡まり合う。
 逸らされたのは青。
 答えるつもりがないのか、答えられないのか。
 それとも、答えたくないのか。
「どう、して・・・」
 涼やかに響く声はやがて熱の篭った喘ぎにすり変わり、部屋を満たしていく。
 だが、それでも、彼女はずっと問いかけていた。言葉でではなく、視線で。おそらく、誰よりも頼りにしていた戦友に。
『何故?』と。
 しかし、今、その疑問に答える者はいなかった。

 ドミナの町外れには一軒の小さな家がある。
 大きな樹の懐に抱かれているようなその家は、見る者に思わず微笑みを浮かべさせるような可愛らしさと優しい雰囲気を持っていた。
 その家の前にマントを羽織った青年が立ち、家の呼び鈴を押す。

 チリン、チリン、チリン♪

 家の外見を裏切らない可愛らしい鈴音が家の中で響き、そう時間を置かずにパタパタと軽い足音が聞こえてきた。
「はぁい、どちらさまですか?」
 紫紺の髪と瞳の少女がピョコン、と扉の影から顔を出す。
「オレだ。月華はいるか?」
「あ、こんにちは、瑠璃さん。月華さんに用事なんですか?」
 にっこりと笑う少女だが、その言葉には微かに困ったようなニュアンスが含まれていた。
「いないのか、月華は?」
 そうでなければすぐさま、しっかり者の少女は自分の保護者代わりを呼ぶはずだからだ。
 この家の女主人は陽光の髪と蒼天の瞳を持つ清楚な美女なのだが、外見と性格を見事に裏切り、冒険者としての日々を送っている。そんな彼女が冒険に出ていたとしても不思議ではないのだが・・・どうしても違和感を拭う事はできない。
「はい、2,3日ほど前に出かけたままなんです」
「そうか。それじゃ、しかたがないな」
 彼とて特に用事があったわけではなく、近くまで来たついでに月華の顔を見に来ただけなのであっさりと踵を返した。
「また、来る」
「伝言があれば、伝えておきますけど」
 首を傾げて見上げる律儀な紫紺の瞳に瑠璃は苦笑を浮かべる。
「たいした用事はないんだ。ただ、顔を見に来ただけだから」
「そうですか。じゃ、瑠璃さんが来たことだけ、伝えておきますね」
「ああ」
 頼む、と言いかけた瑠璃はしかし、コロナの驚愕の声に遮られることとなった。
 紫紺の瞳を大きく見開いた少女は転がるように彼の目の前を走り出す。一人の名前を呼びながら。
「月華さん!!どうしたんですか!?」
 青年が背後を振り返ると獣人に横抱きに抱きかかえられた陽光の髪の美女が驚いたように目を丸くしていた。
「ただいま、コロナ。それに・・・瑠璃?どうしたの、一体?」
「それは、こっちの台詞だ。・・・足をやられたのか?」
「あ・・・うん。ちょっと、油断してしまって」
 苦笑する月華のしなやかな足、そのふくらはぎに無造作に巻かれた、布を裂いただけの包帯から少しずつ、血が滲み出している。
「私、救急箱を用意してきます!」
 慌てて家の中へ駆け込む少女の背中を見送った月華は、ずっと自分を抱きかかえていた獣人を見上げるとすまなさそうに謝った。
「ごめんなさい、ラルク。重かったでしょう?」
「気にするな。いっそ、軽いぐらいだからな、お前は。・・・月華の知り合いか?」
 話し掛ける獣人に瑠璃は無言で頷いた。よくよく見れば顔が僅かに強ばっていたが、そのことに気づいた者は幸か不幸か誰もいない。
 心の奥から湧き上がる感情を押し殺し、瑠璃は獣人へ手を差し出した。
「後はオレ達がやろう」
「ああ、頼む。止血しただけだからな、ちゃんと手当てをしてやってくれ」
「分かった」
「・・・・・あの、私を無視して話を進めないで欲しいのですけれど」
 自分の頭の上で交わされる会話に少々、引き攣った顔をしながら異議を唱える月華だったが異議を唱えた途端、二人に睨まれる。
「自分で手当てをする奴なら、俺もこんなことは言わん」
「お前は妙に、自分の怪我を蔑ろにする傾向がある。こうでもしないとまともに手当てなどしないだろう」
 ステレオ状態で言われた台詞は身に覚えがあるもので、さすがに彼女も反論はできず黙り込んだ。
 大人しくなった月華の体が獣人から青年へと手渡される。
「では、またな、月華」
「ええ。今度はシエラと一緒にそっちへ行くわね」
 体を瑠璃に預けた月華がふわりと微笑むとそれに答えるように獣人も僅かに笑みを浮かべた。軽く片手を上げ、家の前から去って行く獣人を見送った後、月華は青年を見上げる。
「瑠璃はどうしてここに?もしかして、また、真珠ちゃんがいなくなったとか?」
「いや、真珠は煌きの都市にいる。近くまで来たから顔を見に来ただけなんだが・・・来てよかったな」
 家へと足を進める瑠璃の脳裏に先程の獣人が浮かんだ。
 彼女を受け取った時、分かってしまった。彼もまた、この優しい月の華を想っていることを。何故か、彼はそれを告げるつもりはないようだが。
 彼女に惹かれる者は多い。
 優しくも厳しい、強くも脆い魂と、澄みきった瞳の持ち主。一度信頼した者に対しては無防備に思える程、絶対的な信用を向ける、そんな彼女の魅力に捕われない輩がいるのだろうか。
 はからずともライバルがいることを再確認してしまった瑠璃の心には、ドロドロとした激情が渦巻き始めていた。

「コロナ、もう遅いから貴女はおやすみなさいな」
「でも、月華さん。ちゃんと手当て、出来るんですか?」
「大丈夫よ。瑠璃がいるもの」
 っていうか、彼がいる限り、おざなりな手当ては許してくれない。
 夕食を食べ、入浴も済ませた月華の言葉にコロナも納得し、ペコンと瑠璃へ頭を下げる。
「じゃ、瑠璃さん、後はよろしくお願いします」
「ああ」
 自分にあてがわれた、屋根裏部屋の自室に引き上げる少女を見送ると月華は少しよろめきながら立ちあがった。
「おい、無理はするな」
「これぐらいの傷は何時ものことだもの、大丈夫よ。どうして皆、そんなに過保護に走るのかしら」
 それはやはり、外見が影響しているからだろう。彼女の清楚な容姿はどうしても『守るべき者』としてのイメージが浮かんでしまう。
「どこへ行きたいかは知らんが、手当てが先だ。行くぞ」
「え?あ、ちょ、ちょっと、待って・・・っ!」
 フワリ、とした浮遊感を感じたかと思うと、彼女の華奢な体は青年によって抱き上げられていた。慌ててジタバタする月華だが、青年に睨み付けられ、思わず首を竦める。
「暴れるな。落とすぞ」
 止めの言葉を突きつけられれば抵抗する術はなく、不承不承、月華は青年に身を預けた。
 大人しくなった月華を確認した瑠璃は側にあった救急箱を取ると、何時も自分が泊まる部屋として提供されている書斎へと向かう。
 書斎に置いてある仮眠用のベッドへ、言葉とは裏腹にそっと月華を下ろすと青年は救急箱を漁り、消毒液や軟膏等を取り出した。
「足を出せ」
「・・・って言われても、この体勢じゃ、苦しいものが・・・」
 傷を負った場所は左のふくらはぎ。低いベッドに腰掛けているこの体勢で手当てを受けようとすると、足を高々と上げ続けることになる。体力的にというか、筋力的にそれはちょっと、つらい。しかも、今のバスローブ姿ではかなり危ない格好になってしまう。
「なら、うつ伏せになればいいだろう」
「ああ、そうね」
 軽く肩をすくめて言い放った青年に月華は素直に頷き、ポスン、とうつ伏せに寝そべった。
 目の前に曝け出されている白い足。しなやかで白大理石を思わせる肌だが、よくよく見れば無数の傷跡があることに気づく。足だけではない、バスローブで見えない体のあちこちにも浅いものから深いものまで、種類も様々な傷が残っているのだろう。そして、それは彼女が冒険者であり、戦士であり続ける限り、増えていく。
 1つ、ため息をつき、その思考を追い払った瑠璃は目の前の傷の治療に意識を向けた。
 すっぱりと切れている傷を消毒し、軟膏を塗りこむ。その手つきはぶっきらぼうな口調とは裏腹に、意外なほど丁寧だった。
 軟膏を塗りこんだ傷口にガーゼを当て、テープで止めるとくるくると包帯を巻き付ける。包帯の端を裂いてキュッと縛った。
「よし、終わったぞ」
「有難う、瑠璃」
 ふわり、と微笑む彼女の手には何時の間にか一冊の本。・・・だが、しかし。
「今夜は駄目だ」
 あっさりと青年によって取り上げられた。
「瑠璃」
「怪我で体力を消耗している時に読書なんてするんじゃない」
「だから、大した怪我じゃないと言っているのに。その目で見たでしょう?」
「お前の場合、本に夢中になって徹夜をしそうだ」
 頑として取り上げた本を返そうとせず、暗に『さっさと寝ろ』と言われた月華の眉間に皺が寄ってくる。
「徹夜したぐらいで私が倒れるとでも思っているの、瑠璃?でもね、私はそれほどヤワなつもりはないし、実際、ヤワでもないの。この怪我だって、そんなに大騒ぎするものではないわ」
 青年の手によってきっちりと包帯を巻かれた左足を上げ、大丈夫だということを示すように月華は彼の目の前でブラブラと振ってみせた。
「ラルクも瑠璃もエスカデにしたって・・・果てにはルーベンスさんやサフォーさんまで過保護に走るのだもの。もう少し、私を信用して欲しいわ」
 自分の名前以外に出てきた男の名前に、瑠璃の瞳が暗く燃える。知人の名前・・・ルーベンスとサフォーは彼女を妹のように思っていることは知っている。だが、その他に出てきた男達・・・その彼らは自分と同じ目で彼女を見ていることを、瑠璃は知っていた。
 ブラブラと揺らしている足に巻きつけられた包帯の白が目に付く。
 何度も怪我をした彼女を手当てした。その度に彼女の戦士としては不釣合いな華奢な肢体を認識した。
 何度、その体を抱き締めたいと思っただろうか。溢れる想いのまま、そして他の輩に獲られるくらいならという独占欲に満ちた心のまま・・・何度、伸ばした手を下ろしただろうか。
 だが、今夜はその自制心も外れ様としている・・・・・。
「瑠璃、聞いている?」
 少しの間、ぼーっとしていたらしい。訝しそうに眉を顰め、月華は揺らしていた足を下ろして組むと首を傾げて見せた。
「私よりも瑠璃、貴方の方が疲れているように見えるわ。もう、寝た方がいいのかもしれないわね」
 首を傾げた拍子にサラリ、と陽光の髪が肩から零れ、細い首筋が露わになる。すらりと伸びた足は無造作に組まれたお陰でバスローブの裾が乱れ、太腿の上のほうまで覗いている。
 何時もとは違う状況で見たその白い肌に、青年の細い糸で繋がれていた理性が切れた。
「瑠璃?え?」
 軽く肩を押され、ぐるりと視界が回った月華は何が起こったのか把握できずに瞳を瞬かせる。彼女が呆然としている間に青年の体が圧し掛かり、身動きできないように押さえつけてしまった。
 ここに至って、ようやく彼女も何時もとは違う青年に気づいたのだろう。ジタバタともがき始めたが、すでに遅い。
「る、瑠璃、お願い、どいて」
「・・・嫌だ、と言ったら?」
「瑠、璃・・・?」
「もう・・・遅い。枷は外れてしまったんだ・・・」
「ん、んんっ!?」
 瑠璃の顔が近付いたかと思うと唇を塞がれ、蒼天の瞳が大きく見開かれた。必死に青年の体を押し退けようと両手で目の前の胸を押すが、びくともしない。それどころか両手を纏めて押さえつけられ、抵抗らしい抵抗を封じられてしまった。
「ど、とうして・・・?」
 唇が離れた時に疑問を零したがそれは宙に消え去り、再び口付けを受ける。
 歯列を割り、口腔内を弄る柔らかな塊に眩暈を覚えた。舌と舌が絡み合わされ、甘噛みされる度に体が跳ね、唇の隙間からくぐもった喘ぎが零れ始める。
「ん、ふ・・・あ、ふぅ・・・んぅ・・・」
 ピチャピチャと響く水の音が淫蕩さを醸し出し、透き通った蒼天の瞳が熱で潤み始めた。
「あ・・・は、あぁんっ」
 青年の手が淀みなく動き、白い肌を曝け出していく。過敏な場所に触れられるたびに華奢な肢体が跳ねた。
「あ、ん、く、うぅ・・・」
 濡れたような声が零れるのが恥ずかしく、唇を噛み締めようとするが的確に感じる場所を煽られ、その努力は無に返される。
 無数の傷が残っていながらも滑らかさを失っていない肌を辿っていた手が豊かな果実に触れた。ゆっくりと撫で擦った後、果実を掴むと様々な形へと変えだす。
「は・・・あふっ、ん、あぁ・・・ん」
 背筋を這い上がる電流をやり過ごそうと彼女は背を逸らせるが、圧し掛かっている青年の体によって叶わない。
「あ、あ、あぁっ!!」
 豊かな果実の頂上に咲く蕾を口に含まれ、刺激された途端、今までにない嬌声が零れた。
「あ、や、い、やぁ・・・」
 転がすように嘗められ、吸われ、甘く噛まれ、体中を駆け巡る快感に陽光の髪が打ち振られる。白いシーツの上に乱れた陽光の髪が広がり、蒼天の瞳が快感で潤んだその表情は普段のストイックな雰囲気とは180度違い、青年を誘う艶やかな色気を醸し出していた。
 すでに力を失っている両手を開放し、するりと下肢へと滑りこませる。
 中心に触れるとそこはすでに熱い蜜をたたえ始めていた。
「あぅん、はぅ・・・あ、あん」
 指に蜜を絡めるようにして撫で擦ると逃げたいのか、じれったいのか、細い腰がゆらゆらと揺らめく。扇情的なその動きに誘われ、暖かな蜜を溢れさせている泉へと指を沈めていった。
「・・・・・っ!!」
 強烈な刺激に華奢な肢体が反りかえる。薄紅色に染まった肢体をしっかりと抱き締め、瑠璃は容赦なく快楽を送り続けた。
 熱く蠢く内壁を撫で、押し広げるように指を動かす。抜き差しを繰り返せばクチュクチュという水音が部屋に響いた。
「あん、あ、は・・・ふ、んふっ、ふあぁ」
 すでに理性を飛ばした月華は感じるままに声をあげ、青年の体にしがみつく。熱い吐息を耳元で感じた青年の体が熱く滾った。
「あああああっ!!」
 泉に埋めていた指を引き抜き、代わりに熱くなった自分を埋め込む。背中に爪が立てられたのを感じた。
 月華が落ち付く暇も与えず、瑠璃は動き出す。
 最初はゆっくりとした動きだったのが次第に激しくなり、声も上げられなくなった月華はすすり泣くような声しか出せない。その声にまた、情欲を煽られ、青年の動きがますます激しくなる。
 何時まで続くかと思われた行為も到達点が見えはじめた。何度か浅く達しても開放されず、強引に快楽の中に引き止められていた彼女の体が引き攣りだす。つま先が何度もシーツの上を滑り、細い背が反りかえる。
 そして、ようやく、意識を手放す事を許された。
「月華・・・愛している」
 消えゆく意識の中、青年の囁きが聞こえたように思えたが、確かめる術もなく月華は気を失ったのだった。

「・・・・・ん・・・・・」
「月華」
「瑠、璃・・・・・?」
 ゆっくりと意識が浮上する中、自分の名前を呼ばれたような気がした月華はぼんやりと瞳を開ける。視界に入ったのは普段の鋭さをなくした青い瞳。その持ち主の名前を呼ぼうとして、声が掠れることに気づき、次いでその原因となった行為を思い出した。
「・・・・・謝る事はしない。褒められたことではないと知ってはいるが、それでもオレはお前が欲しかった。・・・・・ずっと、お前だけが欲しかったんだ」
 真摯に語られるその言葉の中に、嘘や誤魔化しは一欠けらも入っていない。真実だと分かる口調に、月華の瞳が細まった。
「私、が・・・・・?」
 月華の両頬に手を添え、瑠璃はそっと唇に口付けを落とす。つい先程の狂乱の時のような、奪うような口付けではなく、慈しむような柔らかなそれ。
「お前を愛している。他の輩に渡すつもりはない」
「・・・瑠璃、もう少し、こっちに来てくれるかしら」
 彼女の手招きに応じ、青年がベッドに近付く。そして、次の瞬間、瑠璃の右頬が大きな音と共に引っ叩かれた。
「げ、月華」
「さっきのことは、これで許してあげるわ。これでも、手加減したのよ」
「ああ、分かっている」
 利き腕ではない左手で、拳ではなく平手。十分、手加減してもらっていることが分かる。
「そして、これは返事」
 そう、呟くと月華は瑠璃の首に両手を巻きつけ、引き寄せるとそっと唇を重ねた。
 触れるだけの、優しいバード・キス。
「私も、瑠璃、貴方が好きよ」
 密やかな囁きに青年の瞳が見開かれる。成就するとは思っていなかった想いに、彼女は奇跡を起こした。
「愛しているわ、瑠璃」
 狂恋になりかけていた想いが優しい睦言によって昇華されていく。ただ、愛しさだけが募り、瑠璃は目の前の華奢な体を抱き締めた。
「お前を守るとは言わない。守りたいが、お前はそれをよしとはしないだろう?」
「ええ、そうよ」
「だから、受け止める者になる。側にいる時も、いない時も、お前を癒し、憩う場所になろう」
 言いきったその言葉に、月華は嬉しそうに微笑む。
「だから、私は瑠璃が好きなの。ほんの一時、過保護に走ったとしても、そう思ってくれているから・・・私を戦士として認めてくれているから、私は走ることが出来る」
 ふわりとした微笑みを浮かべたまま、月華はもう一度瑠璃に口付ける。
「だから、私もその言葉を貴方に返すわ。一緒にいる時も、いない時も、私は貴方を癒し、憩う場所になる」
 視線を合わせた二人は幸せそうに微笑むともう一度口付けを交わした。
 誓いの意味も兼ねた、神聖なキスだった。

「愛している」
 癒しと憩いの場所を手に入れた恋人達の夜は静かに更けていった。


END