ギンッ、という金属音が響き、金色の影が疾風のように駆け抜ける。
 銀色の剣が陽光を弾き、鋭い軌跡を描いた。
 銀色の軌跡の先には全身を黒い衣で包んだ、見るからに怪しい人物達。
「・・・くっ」
 銀色の光に肩と大腿部を切り裂かれ、黒い衣の人物は苦悶の呻きを漏らした。だが、金色の影は追撃の手を緩めず、更に相手を追い詰める。
 しかし、黒い衣の人物もそれなりの手錬れらしく、鋭く迫ってきた剣先から逃れ、逃走を図った。
「シルフィス」
「すみません、レオニス様。一人、逃しました」
 いつの間にか背後に立っていた男を振り返る人物は絶世とも言える美貌の少女だった。
 純金の髪にエメラルドの瞳は極普通の色彩だが、少女をかたどっている一つ一つのパーツが奇跡のような美貌を創り出していた。
「相手は深手を負っている。それほど遠くへは行けまい」
「この者達の身柄を確保次第、すぐに後を追います」
 足元に倒れている数名の黒衣の男達を見下ろし、冷静に告げる少女だったが、背後に立つ男は首を横に振った。
「身柄の確保は後の者達に任せ、シルフィスは奴の後を追え。私も指示を出してからお前の後を追う」
「レオニス様?」
 少女の訝しげな視線を受け、男の冷静で無表情な顔にふと、僅かな笑みが浮かんだ。
 外見は確かに月光を連想させる清楚で慎ましやか、そして『騎士団の華』と呼ばれ、近隣諸国にまで鳴り響く美貌の持ち主である少女であったが、その実、銀色の太陽のような同僚の少年と並んで、国一番の剣の使い手である上司の次に実力があると認められている。
 驕るわけではないが、己の実力を少女はきちんと把握していた。
 後を追うのに多少、時間が掛かるかもしれないが、人手がいるほどではない。
 もちろん、少女の上司である男もそれは理解していた。
 僅かな笑みを浮かべたまま、男は続ける。
「もちろん、お前一人でも対処出来るだろう。過小評価するつもりもない。ただ、手伝いがいれば楽だろう?」
 国一番の剣士を手伝いにするとはなんとも贅沢だが、少女は上司が申し出た『手伝い』を素直に受け止め、頷いた。
「分かりました。では、私は先に行きます」
 上司が頷くのを目にし、少女は軽く頭を下げるとくるりと背を向ける。
 そして、少女は駈け出した。
 己の騎士としての誓いと共に。



「ファンタスティックフォーチュンより・レオニスとシルフィス」