カサリ、と足元で下草が音を立てた。
 普通の人間ならば聞き落とすであろう、そんな小さな音を夜の静寂と常人離れした聴力で聞き取った人物がトレントの枝に腰掛けて月を見上げていた顔を下へ向ける。

「・・・今晩は、瑠璃」

 驚いた様子もなく、穏やかに微笑む彼女の背後には銀に輝く夜の女王の姿。

「何をしていた」
「別に、何も」

 涼やかな声音からは何も伺えない。
 空気を銀に染める夜の女王を背負いながら、体の輪郭を銀で縁取らせながら、染まる事のない陽光の髪と蒼天の瞳。
 昼の色彩を身に纏いながら、彼女が持つ雰囲気は夜のもの。
 アンバランスでいながら、しっかりとした足で大地に立つ。
 儚い容姿でありながら、傑出した戦闘能力の持ち主。
 お人好しで流されそうでありながら、一貫とした意思を貫く。
 そんな彼女の名は。

「月華」

 手を差し伸べ、降りるよう促せば、穏やかに微笑み軽やかに地面へと降り立つ。

「・・・何が、あった」

 穏やかな微笑みに透ける哀しみ。気付かない訳はない。時は短くとも、浅くはない付き合いをしていると自負している。

「・・・・・月が・・・綺麗ね、瑠璃・・・・・」

 質問に答えず、堂々と闇の玉座に座る女王を見上げる彼女の姿に青年は唇を噛む。
 彼女の緩やかな拒絶に問い詰めることなどできず、さりとてそのまま立ち尽くすこともできず。

「瑠璃・・・・・?」
「俺は、ここにいる」

 彼女の細い体を背中から抱き締め、耳元で囁いた。

「・・・瑠璃」
「月華、忘れるな。俺がいる事を」

 夜の女王の光のもと、切なく愛しい者を抱き締める珠魅の青年の姿があった。



「聖剣伝説LOMより・女主月華と瑠璃」