さやさやと風に揺られ、草が鳴る。
 光は穏やかに降り注ぎ、木々の緑を鮮やかに浮き上がらせる。


 心地よい風に心地よい光。


 その心地よさに誘われるように、樹の根元でうたた寝をしている栗色の少女。
 年頃の少女にしては無防備な姿を晒しているその場へ、蒼い青年が近づく。


 サラリ。


 驚くほど綺麗な指が少女へ伸ばされ、触り心地のいい栗色の髪をそっと梳く。

「まったく、こんなところで寝るなんて、ね」

 呆れたような口調でありながら、声音は優しい。

「こんなところで寝る君が悪いんだよ・・・?」

 栗色の髪を梳いていた手が少女の唇に触れ、そっと撫でると青年は少女の上に屈み込んだ。
 柔らかく、甘い感触が触れ合った唇から広がる。

「・・・・・セイラン様。寝込みを襲うのは、教官としてどうかと思いますけど」

 少し長めの口付けから開放された途端、少女の瞳が開き、口付けられていた唇から呆れた声音が零れ出た。
 サファイアの瞳が強い意志という光を伴い、自分の上にある蒼の瞳を真っ直ぐに射抜いている。

「相手が僕なら、別に構わないだろう?」
「どういう理屈ですか、それは」

 しらっと言い切る蒼い青年に、栗色の少女が半目になった。

「だって、君は僕が好きだろう?」
「その自信は一体、どこから出るんですか」
「僕がそうなるよう、仕向けたからね」

 くすくすと笑みを零し、青年の人差し指が少女の顎に触れ、ついっと持ち上げる。

「・・・その、瞳を僕だけに向けたかったんだ」

 ふうわりと、甘い甘い光が青年の瞳に浮かんだ。

「誰にも屈することのない、誇り高く、強い意志が存在するサファイアの瞳。君自身が如実に現れているこの瞳を僕だけに向けたかった」

 サファイアの瞳に青年は口付け、そして薄紅の唇にも口付けを落とす。

「・・・だから、僕は君が僕を見るように仕向けた」
「セイラン様」
「君は、僕を好きだろう?」

 もう一度青年は甘く微笑み、三度、少女に唇を落とした。
 少女はただ、静かにサファイアの瞳を閉じ、青年の背に両手を回したのだった。



「アンジェリーク2より・アンジェリーク(コレット)とセイラン」