「シールーフィースー♪」
 やたらと明るい声が後ろから掛けられたかと思うと、背中に軽い重力がかかった。背後を振り返る前に、純金の少女の頬に栗色の少女の口付けが落ちる。
「すっごい、久しぶりよねっ」
「はい、本当にお久しぶりです、メイ」
 満面の笑みを見せる栗色の親友に純金の少女もふんわりと微笑む。
「シルフィス、怪我とかはありませんでしたの?国境付近の見回りとはいえ、安全とはいえませんのでしょう?」
「大丈夫よ、ディアーナ。もし、シルフィスが怪我をしていたとしても、このメイ様がちゃーんと、綺麗な体にしてあげるから」
「・・メイ、その表現は、些か問題があるような気がしますが・・」
 少し苦笑を零しながら純金の少女が呟けば、薄紅の少女が腰に手を当て、熱弁を振るう。
「あら、シルフィス。メイの言うことは正しいですわ。貴女の綺麗な顔だけでなく、綺麗な体に傷がつくだなんて許せませんもの」
「・・・・・姫・・・・・」
 騎士として守るべき存在である薄紅の少女の熱弁に、純金の少女はくらりと眩暈を感じるのを禁じえなかった。
「それよりもシルフィス。こっちに来て下さいませ」
 薄紅の少女の願いに純金の少女は反射的に従う。この王都に来てから騎士として修行を積み、王家の人間を最優先で考える癖がついてしまっているのだ。
「お帰りなさいませ、シルフィス。無事でよかったですわ」
 ふわり、と薄紅の少女が微笑み、絶世の美貌と謳われる純金の少女の額に口付けを落とした。
「・・・お二人が私を待っていて下さる限り、私は戻って参ります」
 真摯に自分を想ってくれる親友達に、純金の少女は幸せそうな微笑を浮かべる。
「ね、シルフィス。お返しはしてくれないの?」
 悪戯っぽい瞳で栗色の少女が首を傾げれば、薄紅の少女もポンッ、と両手を合わせた。
「そうですわ。わたくし達からの口付けは沢山していますけど、シルフィスからの口付けってあまりありませんもの」
「え・・・あ、その・・・」
「嫌・・・ですの?」
 口篭る純金の少女の姿に、薄紅の少女が悲しそうに瞳を曇らせる。
「いえ、そうではありません。・・・ただ、私がしてもいいのかと、そう、思いまして・・・」
 きっぱりとした否定の後、躊躇いがちに呟いた言葉に薄紅の少女も、栗色の少女も満面の笑みを浮かべた。
「あら、まったく問題はありませんわ」
「あたしだって、シルフィスからなら嬉しいもん」
 どこに問題があるんだと言わんばかりの二人のおおらかさは真っ直ぐに、自分への好意を示している。
「ありがとうございます」
 だから、純金の少女も素直に二人への好意を込めて微笑みを浮かべた。
「なら、問題はないでしょ?」
 ふいに栗色の少女が純金の少女に飛び付き、反射的に純金の少女は栗色の少女を受け止めた。自分よりも少し、背の高い親友の首に腕を絡め、栗色の少女は爪先立つ。
「シルフィス、大好きよ」
 その言葉と共に、栗色の少女は純金の少女の滑らかな、白い陶磁器のような頬に口付けた。
「ホラ、シルフィスも」
 首に腕を絡めたまま催促する栗色の少女に、純金の少女は苦笑を浮かべる。
 体当たり的な彼女の行動は一種の爽快感を見る者にもたらす。そして、純金の少女はそんな行動を起こす彼女が好きだった。
「私も好きですよ、メイ」
 好意の言葉を返し、行動でも返す。
 純金の少女から頬に口付けを受けた栗色の少女が嬉しそうに笑った。
「シルフィス、わたしくも大好きですわ」
 栗色の少女と交代し、純金の少女の頬を両手で包んで引き寄せた薄紅の少女が白い額に口付ける。
「ね、シルフィス?」
 悪戯っぽい瞳で薄紅の少女が微笑むと、苦笑を零した純金の少女が少し腰を曲げ、忠誠を誓った親友の額に口付けを落とした。
「はい、私も姫が好きです」
「だって、あたし達は大事で大好きな友達同士だもんねっ」
 元気一杯に宣言した栗色の少女に、親友達は笑顔で頷く。

 立場も性格も、育った環境もまったく違う自分達だけれど、こうして大好きだと言える友人を持つことができたのは、すごく幸せなことだと彼女達は知っていた。

「大好き」

 言葉と口付けは彼女達の絆を更に強くするものだった。



「ファンタスティックフォーチュンより・ディアーナとメイとシルフィス」