微かな歌声が耳に届いた。
「・・・・・?」
 微かではあるが、年若い女性の声だと判断した男の眉間に皺が寄る。
 夜も更けた時刻、若い女性が外を出歩くには些か物騒な時間だ。
 騎士としての性か、自然に声が聞こえる方向へと足を向けていた。
 そして。
「・・・あら?今晩は、ルヴァイドさん」
 小柄で保護欲をそそる可憐な美少女が月の光を受けながら、柔らかに微笑んでいたのだった。
「こんな夜更けに出歩くなど・・・年頃の娘としてはあまり褒められたものではないぞ」
 眉を顰め、紅茶色の瞳に心配と嗜める感情を浮かべた男の苦言に彼女は隣に座るように勧めながら、変わらず柔らかい微笑で彼に答える。
「私を襲うような方はいませんよ?」
「・・・それほど小柄で、組みし易いと思われる容貌を持っている事を自覚したほうがいい」
「では、言葉を変えましょう。私を襲える人はいませんよ?」
「・・・・・・・・・・」
 微妙な言葉の違いで大幅に意味を変えた内容に、彼女の隣に腰を下ろした男は黙り込んでしまった。
 彼女は確かに男の胸に届くか届かないかという小柄な体型で、ふんわりとした微笑が似合う可憐な容貌の持ち主だ。だが、その外見とは裏腹に戦闘技術は超一流。事実、一団を率いる総指揮官である自分とも互角に武器を付き合わせる事が出来るのだ。
 そんな彼女に襲い掛かったとしても数秒・・・いや、下手をすれば一瞬で返り討ちにされることは間違いない。
 そして、彼女もそんな自分を知り、且つ自信も持っているからこそ、普通の女性ならばしないだろう夜中の散歩などと呑気な事をしているのだ。
「確かに、お前は強い。それは、俺も認めている。だが・・・それでも、心配はするのだ」
 ボソリ、と内心を吐露すれば彼女の瞳が軽く見開かれ、次いでふわりと微笑を浮かべる。
「前から思っていましたけれど・・・ルヴァイドさんは本当に優しいのですね」
「優しいのはお前の方だろう」
 敵対しているとはっきり分かっているにもかかわらず、優しく暖かな微笑を自分に向ける。血塗られた自分達に向かい『嫌いにはならない』と告げてくれた。
 何故、と思う。何故、この娘はこんなに暖かな感情を向けてくれるのだろうと。
「ルヴァイドさん。あの時も言いましたが、私達は理解しているだけです」
 ふんわり、ふうわりと暖かな微笑が男を包む。
「私はアメルが好きです。ですから、彼女を守って貴方と対立します」
 無骨な武器を操るとは思えない、細く華奢な手が男の頬を包む。
「けれども、戦闘とは関係ない場所でならば・・・貴方とこうしてお話をしますよ?」
 男の額に柔らかな唇が触れた。
「・・・・・また、こうして話をしてくれるか?」
「ええ」
 ささやかな願い事は、暖かな笑顔と声で応えられたのだった。



「サモンナイト2夢より・連載夢ヒロイン2とルヴァイド」