ギィン、と刀の音が鳴り響き、ヒュン、と槍が振られる音が響く。 燦々と太陽の光が降り注ぐ下で、蒼い珠魅の青年と純金の人間の娘がそれぞれの武器を振るっていた。 いつもの冒険の途中で、いつもの戦闘。 出会ったモンスター達が襲わなければ何もしないが、襲ってくれば当然自分達の身を守るために起こる、必然的なもの。 出会ってからそれほど時間は経っていないが、背中を預けることが出来るほどの信頼はお互いに持っている。 二人は背中合わせに立ち、それぞれの愛用の武器を振るい、目前の敵を屠る。 お互いの位置を感覚で知覚し、無駄のない滑らかな動きでお互いの死角をフォローする。 音楽はそれぞれの武器が鳴る音と微かな足音、そして呼吸。 殺伐としているのに何故か目を離せない吸引力を持つ、銀の光を供にした舞踏。 最後のモンスターを切り捨てた珠魅の青年が刀を振り、血糊を落とすと鞘に収める。 娘は辺りを見回し、隠れているモンスターがいないか確認をとり、周囲にはもう何もないことを確かめると道端にあった岩に腰掛けた。 「怪我はないか、アリア」 「いや。瑠璃は?」 至上の美声とも思われる声の持ち主だが、彼女の言葉遣いは非常にぶっきらぼうだ。だが、それにも慣れた青年は気にすることもなく問われた内容に答える。 「たいしたことはない。掠り傷だ」 「薬を出そうか?」 軽く首を傾げる娘の質問に青年は肩を竦めることで返す。 「大丈夫だろう。毒を持っているモンスターはいなかったからな」 「そうか」 軽く言ってのける姿から本当に深刻な怪我はないのだろうと娘も納得して頷くが、ふと青年についた傷が目についた。 「瑠璃、傷が」 「ん?どこにだ?」 銀と紫の視線が真っ直ぐに自分に向かっていることから、自分では分からない場所に傷があるのだろうと青年は悟る。 色違いの瞳を持つ娘に傷の場所を尋ねればこめかみを示された。 手で触れてみればうっすらと指に血が付着する。 「これぐらいなら、薬をつける必要もないだろう」 「・・・そうか?」 触った感覚と指に付着した血液の量で自分が言ったかすり傷の類だと判断した青年だが、娘は僅かに眉を顰めて青年の傷を注視していた。 「そんなに気になるか?」 あまりにもじっと傷を見つめる娘に青年は少し戸惑う。 冒険者としてこの世界を回れば必然的にモンスターと戦うことになる。戦いがあれば怪我があるのは当然で、だから今更この程度の傷で心配するとは到底思えない。 「いや。ただ、洗ったほうがいいかと」 娘の言葉に青年は再びこめかみに触れ、傷を確認する。 ピリリとした痛みが走るものの、騒ぐほどではないと判断する。 「これぐらいなら、舐めておけばいいさ」 軽く言ってのけた青年だったが、次の瞬間、その台詞を後悔するはめになった。青年の言葉を聞いた娘が近づいたかと思うと、青年のこめかみの傷に口付けたからである。 「なっ、アリアっ!?」 慌てて飛び退けば、不思議そうな顔の娘が首を傾げつつ青年を見つめている。 「どうした、瑠璃」 「どうしたって、お前、今・・・」 「ああ、傷を舐めたが」 それがどうした、と言わんばかりの娘に青年は口をパクパクさせるだけしかできない。青年の動揺などまったく理解できていない娘は不思議そうな顔のままである。 「いや、だから、どうして傷を舐めるんだ」 「今、瑠璃が言っただろう、『舐めておけばいい』と」 「それは、確かに言ったが・・・」 「自分でこめかみは舐められないだろう?」 だから、舐めたのだと言いたいのだろうが・・・青年の言葉を真面目に受け取って行動に出る辺り、娘の突拍子のなさが現れているようだ。 青年にしてみれば、舐めておけばいいという程度の掠り傷なのだから放っておいても大丈夫という意味で言っただけで、 それを額面通りに受け取られれば反応に困ってしまう。 「瑠璃?どうした?」 「あ〜〜〜、いや。・・・・・なんでもないさ・・・・・」 信頼した者には無条件で疑いを持たず、無防備ささえある娘の性格を青年はこの時ほどどうにかして欲しいと思ったことはなかった。 そして、口付けられたこめかみに熱を持ったまま、青年はただ、深いため息を吐くしかなかったのだった。 「聖剣伝説LOMより・女主<エアリアル>と瑠璃」 |