暗闇に銀色の光が走る。
 甲高い音が辺りに響き、微かな気配がすぐ側の岩影へと走り込んだ。
「・・・囲まれて、しまったかしら?」
 ふぅ、と小さくため息をつき、けれども油断なく神経を辺りに向けて様子を伺うのは陽光の髪に蒼天の瞳を持つ、剣を手にするには不似合いな美女だった。
 ふと、ひとつの気配を美女は捕らえる。
 と同時に、その気配は自分の側へと滑り込んできた。
「・・・怪我は?月華」
 辺りをはばかるように、囁く程度の小声で尋ねてくる相手へ、美女は驚愕の視線を向けた。
「・・・る、瑠璃?どうして、ここにいるの?」
 宝石を命の核とし、そして命の核となった宝石には魔力が宿るという種族。それ故に他種族から狙われる珠魅という種族の青年が美女の蒼の視線を見返している。
 美女の驚きの視線に対し、青年は器用に片眉を上げてみせた。
「たまたま、通りかかっただけだ」
 青年の台詞に美女は思い出す。
「煌きの都市への街道がすぐそこにあったわね、確か」
 そして闇夜の中、モンスターに囲まれた彼女を見つけ、青年は加勢に来たということだ。
 あまり物の形がはっきりしない闇夜で彼女の姿を見つけられるのかという疑問が出るが、長年真珠姫の騎士として在り続けた青年にとって造作もないことであろう。
 そのことを十分知っている美女はだからこそ、蒼の視線に疑問ではなく確信めいた問い掛けを投げかけ、それを受け止めた青い珠魅は僅かに肯定の頷きを返した。
「正直、助かるわ」
 たとえ雑魚であろうとも、このように囲まれてしまうと、身動きが出来なくなってしまう。
 だが、迎え撃つ人数がたった独りではなく2人ならば。
 そして、背中を預ける相手が信頼出来る者ならば。
 それは何よりもの助力となる。
「月華」
「ええ。一気に抜けましょう」
 青年の促しに美女は頷き、片手剣を握る手に力を込める。
 そして。
「行くぞ、月華!」
 青年と共に岩影から飛び出し、片手剣を振るう。
 強い光を放つ蒼天の瞳が辺りを見回した。
「いきます」
 キラリと片手剣が僅かな星明かりを受けて光り、それを手にした美女は青年の後を駆け出した。



「聖剣LOMより・女主<月華>と瑠璃」