シーツの中の海


 ずっと、夢だったんだ。
 君と一つのシーツにくるまることを。
 シーツの海で泳ぐことを。
 ずっと、夢みていた・・・





 目覚めてから、僕は腕の中の寝顔を見つめ続けている。
 大好きで、大切な、金の髪の僕の天使。
 ぐっすり眠っているその寝顔は可愛くて、でも、とても綺麗でドキドキする。
 少し、ためらったけどその金の髪に触りたくなって、そっと触れてみた。
 柔らかくて、ふわふわとして、まるで綿菓子のよう。
 丁寧にその髪を梳いていたら、ゆっくりと瞳が開かれた。
 綺麗な、綺麗な若草色。僕の星の森と同じ、優しい色。



「アンジェリーク、起きた?」
「あ、はい。おはようございます、マルセル様」
「うーん、まだおはようじゃないんだよ」
 不思議そうな顔をしているアンジェリークに僕は窓の外を見せてあげた。
「ね?まだ、外は暗いでしょう?」
「本当。ちょっと、早起きしすぎましたね」
 くすり、と笑うアンジェリークを僕はぎゅっと抱き締める。
「マルセル様?」
「うん。アンジェリーク、本当に僕の側にいるんだなぁって思って」
 綿菓子のような金の髪を梳く。ふわふわとしていて、でも指に絡まったりしないで、触っていてとても気持ちがいい。
「ずっとね、こんな風にアンジェリークの髪に触りたいって思っていたんだ。太陽の光を弾いて、キラキラ輝いていて、とても綺麗で。本当に綺麗な髪で、触ってみたかった」
 アンジェリークはくすぐったそうに僕の行動を受けていたけど、そっと手を伸ばして僕の髪に触ってきた。
「アンジェリーク?」
「私も、こうしてマルセル様の髪に触ってみたかったんです。私のくせっ毛と違って、マルセル様の髪はサラサラしているでしょう?それが、とても羨ましくて」
 アンジェリークの指の間で僕の髪が流れ落ちる。
 その二の腕に薄赤い跡。僕がつけた跡だ。
「アンジェリーク」
 名前を呼ぶと大きな目が僕を見る。ちょん、と唇にキスをすると途端に真っ赤になった。
「マ、マ、マ、マルセル様」
 焦っている様子が可愛くて、またキスをする。ますます赤くなるけど、アンジェリークは僕のキスを避けない。拒まない。それが、とても嬉しい。
「ねぇ、アンジェリーク。まだ起きるのは早いし、もう少し寝ていようよ」
「そうですね」
 こくん、と頷くアンジェリークをもう一度抱き直して、ちょうど僕の顎の下にある金の髪に頬をつける。
 そして、そっと言った。
「おやすみ、アンジェリーク」
「おやすみなさい、マルセル様」



 シーツの中の海で僕達は寄り添って眠りにつく。
 ずっと、こんな朝が続くことを祈って。





 ずっと、夢だった。
 君と一緒に目覚める事が。
 君と寄り添って眠ることが。
 ずっと、ずっと、夢みていた。





END