GOLDEN〜Fire〜

GOLDEN〜Fire〜


 貴方に会う為に私はここへ来たのでしょう



 ・・・・・貴方に愛されたい・・・・・





 《飛空都市》と呼ばれる聖地を模して造られた次期女王選出試験会場に、全守護聖と女王補佐官、そして二人の女王候補生がやって来て、その生活に慣れ切ったある日のことである。  



「悲鳴?」

 守護聖一のプレイボーイと名高い《炎の守護聖オスカー》は、耳に届いた悲鳴が高く澄んだ女性のモノであることから聞き間違いなどではないと判断すると走った 。俊足という面では後輩である《風の守護聖ランディ》に負けるものの、彼とて足には自信がある。

 瞬く間に悲鳴のした方へと木々の間を駆け抜けた。  



「何をしている!」

 素早く腰の剣を抜くと威圧感を考えたうえで真っすぐに刃を向ける。

 向けられた刃、そして何よりそれを握るのが飛空都市の守備軍を束ねる深紅の青年であることに恐怖を覚えた男達は、何故か一様に似通った服に身を包んでいた。  

「その娘が次期女王候補であることを知ったうえでの行動なのだな?」

 確信を込めた声だ。眼差しは、千年かけても溶けない氷の冷たさと全てを焼き尽 くす紅蓮の焔が矛盾なく同居している。  

「飛空都市の守備軍を預かる者として、捨て置くわけにはいかんのでな、大人しくすれば不要に痛い思いをせずにすむが?」

 細められた眼に映るのは、男達と金色の髪の少女が一人震えている。



 申し出を蹴られ、ブツブツとぼやきながら剣を鞘に収める。足元では動けないよ うに殴られた男達が気絶している。  

「大丈夫かい?お嬢ちゃん?」

 手加減の面倒な両刃のロングソードなのでちょっとばかり機嫌が悪くなったのだが、そこは守護聖一のプレイボーイであるからして、女心をくすぐる人懐っこく豪放な笑みを浮かべるオスカーであった。

 が、少女は自分の身体をきつく抱き締めて震えている。

 赤いリボンが傍らに落ち、少女の身体が傾いた。  

「お嬢ちゃん!」

 慌ててオスカーが駆け寄れば、少女は木にもたれ掛かって気を失っている。緊張の糸が切れたのだろう。  

「!」

 眉根をオスカーは寄せる。不快気に、男達を冷淡な眼差しで見下ろす。

 少女の白い制服のボタンが幾つか失われていた。





 男達を守備軍に引き渡し、少女を聖殿の一室に休ませたオスカーは、すぐに同僚である守護聖達や女王補佐官、ちょうど聖殿に来ていたもう一人の女王候補生に連絡をつけた。

 今、少女は眠り姫・・・・・  

「入ってもいいですけど、静かにして下さいね」

 才色兼備、非の打ちどころのない素晴らしい女性《女王補佐官ディア》はそう言って、男性である守護聖に現在病室ともいえる部屋への入室を許可した。もっとも 、『全員で押しかけるのも』と、何人かは辞退したが。  

「アンジェリークゥ」

 半分泣いているような顔で少女のような可憐さとも言えるモノを持った《緑の守護聖マルセル》が呟く。  

「深い意味でも大事に至らなくてよかった、と言えるのでしょうけど・・・・・ 」  

「多感な子ですからねぇ。心の傷とならないといいのですが」

 オスカーから詳しく話しを聞いているディアの言葉に、同じく詳細を知っている 《地の守護聖ルヴァ》が応える。  

「! 大丈夫?アンジェリーク?私が分かる?」  

「ロザリア?」  

「そうよ!よかったぁ・・・・・」

 同じ女王を目指す者として共感する部分がある二人の少女の仲はすこぶるよい。 今もライバルであるアンジェリークの無事を−ことがあまりといえばあまり過ぎたので−涙ぐんで《女王候補生ロザリア・デ・カタルヘナ》は喜んでいる。  

「私、あの時?」  

「オスカー様が助けて下さったのよ。覚えてないの?」  

「混乱してて・・・・・」

 呟いて半身を起こした少女に、マルセルが抱き着く。ロザリア以上に泣きながら 無事を喜んで。  

「よかったよぉ 」  

「無事で何よりです」  

「おぉい、見えてる?」

 少女の様子に一人がそう言って手を振ると、アンジェリークは、絶叫した。  



「いやぁぁぁぁぁ!」



 半狂乱になって叫ぶアンジェリークの様子に、ディアは素早く原因に気がつくと 男性陣の退出を命じる。  

「早く!」

 迫力に押されて彼等は慌てて退出した。  

「大丈夫、もう誰も貴女を傷つけたりしないわ」

 優しい母親のように慈しみの言葉を与えると、少しだけまだ気が高ぶってはいるようだがアンジェリークは落ち着く。  

「ショックだったのでしょう?しばらくはこの聖殿で養生しましょうね?」  

「毎日見舞いに来てあげるから、そんな不安気な顔しないでよ。約束するから、 ね?」

 必死に慰めようとする二人の女性に、アンジェリークは頷いた。





 それからのアンジェリークは、生来の人懐っこい元気さやおおらかな優しさがなりをひそめて守護聖達を拒むことになったのであるが、この場合、許されざる者は アンジェリークの生命を狙い、あまつさえ不埒な行為に及ぼうとした男達にある。

 まだ何処か幼さの残る少女の心に傷をつけた罪は重いと、詳細を聞かされているわけではないが、子供故の純粋な正義感を持つ年少三人は可成ご立腹である。と同時に、被害者である少女の傷を癒そうと日々努力している。



 今日も、  

「あの、コレ、皆で作ったんだ。アンジェリークに渡して?」  

「相変わらず、なのか?」  

「こういう時こそ外で何もかも忘れて身体動かせばいいんだろうけど」  

「昨日、試しにオリヴィエ様がいらっしゃったのですが、駄目でした。思いっきり脅えてしまって・・・・・ どうも条件反射のようになってしまってるようなんですが。でもまだマシですよね、前は悲鳴上げて半狂乱ですもの。本人も努力はしているようですし」  

「そっか。じゃあまた来るよ」  

「アンジェリークによろしくな」  

「早くお話ししたいって言ってね」  

「分かりました」

 年少三人が廊下の角を曲がって消えると、ロザリアはアンジェリークのいる部屋のドアを開いて入る。  

「はい、今日は《鋼の守護聖ゼフェル》様が中心になったみたいよ。それとマルセル様から伝言、『早く話しがしたい』、だそうよ」

 手先の器用さでは守護聖一のゼフェルが他の二人を指導して作ったのだろう、三つの簡素ながら暖かみを感じる髪飾りを、昨日持ってこられた白百合の活けられた花瓶の置かれた机の上に置く。  

「あんたってば本当に果報者よね?」  

「勿体ないくらいにね」  

「そう思うなら、男性恐怖症、治すのよ!」  

「うん」

 少女は堅い意志を秘めた瞳で頷いた。

 『コココンッ!』

 独特の叩き方でドアがノックされる。  

「はい?」  

「やっほー!お元気?お姫様はどう?」  

「試してみますか?今ちょうど決意を新たにしたところですけど」

 ある意味守護聖一親しみやすい《夢の守護聖オリヴィエ》はロザリアに答えると 、一歩部屋に入った。  

「アンジェリーク」  

「オリヴィエ様」

 ぎこちないながらも、少女は笑みを浮かべることに成功する。  

「「!」」

 やっと少しは真面な反応に、オリヴィエとロザリアはパッと顔を明るくさせるのであったが、  

「アンジェリーク 」

 感激して思わず抱き締めたのが悪かった・・・・・

 かくて、悲鳴が聖殿に響き渡ったのである。





 何時までも夜は続かない、少しづつだが明けていくのだ。  





「アンジェリーク!」  

「はい」

 にっこりと笑うことが出来る程に回復した少女に、やっと面会出来た年少三人は久方ぶりのその笑顔に顔を和ませた。  

「元気になったんだ!」  

「よかったな」  

「わーん 」

 マルセルが何時ぞや同様に泣きつく。  

「泣かないで下さい、ね?マルセル様」

 頭を撫で撫で少女は苦笑する。  

「アハハ、マルセルに抱き着かれても大丈夫になったみたいだね」  

「皆様方のお陰です」

 足繁く通っていたオリヴィエに応えるアンジェリークに、何時も通りの包み込むようなおおらかな雰囲気が戻っていた。





 その日はほぼ全員の守護聖の訪問を受けた少女であったが、彼女を助けてくれた炎を司る人だけは現れなかった。  

「オスカー様?えっと、この頃ずっと守備軍の方に行ってるらしいわよ」

 特別寮に帰ろうと支度をするロザリアの答えに、アンジェリークは吐息をつく。 彼女はまだお礼を言っていないのだ。  

「じゃ、ね。また明日」  

「うん、気をつけてね」

 ロザリアがいなくなると、アンジェリークはルヴァから借り受けた本に手を伸ば した。





 夜と呼ぶに相応しい時刻、少女は訪問を受けた。  

「よお、久しぶり」  

「オスカー様!あの、あの時は有り難うございました」

 深紅の炎のような髪をした生命の恩人に、少女は嬉しそうに笑うと傍らの机に本を丁寧に置いて立ち上がる。寝間着姿は寝間着姿なのだが大きめの上着を羽織っているうえ、アンジェリークはしっかりとした素材のちょっと見には寝間着とは分からないモノを使用しているので気にしていない。

 オスカーの方も内心はどうあれ、表面上は特に変化はなかった。  

「お茶容れますね」  

「別にいいさ。お嬢ちゃんが元気になったっていうのを聞いて会いに来ただけだ から。 ・・・・・本当によかったな」  
「皆様方のお陰です。私なんかの為に色々として下さって。お茶飲んでいって下さい。ちょうど私も飲みたかったところなんです」  

「そうか?」

 てきぱきと返事を聞く前からお茶の準備をし始めるアンジェリークに、オスカー は降参した。





 瞬く間に時は過ぎる・・・・・





 ふと気がついた時には、少女の頬に青年の手が触れていた。  

「?」

 元の人見知りをしないおおらかさを取り戻していたことは、この時にはよかったのか、悪かったのか?

 流れるような動作で、唇が触れ合う。触れるだけの口づけは、切ない程に優しすぎた。

 明かりとして用いられていた火が全て消えてしまう。火を、炎を司りし者の意志 によって。

 『ふわり』 不安を覚えずにはいられない、優しすぎる抱擁・・・・・  

「オスカー様?」  

「拒むなら、拒んでくれ。ただし、理性が残っているうちに」

 少女に囁いて、また口づける。そのまま、横抱きに抱いて少女をベッドに横たえる。

 口づけや抱擁だけでなく、一つ一つの仕草が優しすぎる。胸が痛む程に、悲しく なる程に、錯覚を起こす程に・・・・・





 吐息一つとして逃さない、そんな口づけや・・・・・

 少女の涙は、青年の唇に溶けた





 真夜中過ぎの庭園に、オスカーはいた。

 手折った華のことを想いながら・・・・・  



「オスカー?」

 男性のモノとしては少々キイの高いその声に振り返る。  

「夜更かしは天敵だろう?」  

「たまにならいいのよ。こんなに綺麗な星空、美を司る者としては、存分に見ていたいじゃない?」

 百花繚乱と咲く前庭と違い、樹木の多い中庭の噴水の処に座っていたオリヴィエは、口喧嘩相手の何時もとは違う様子に気がついた。  

「どうしたのさ?あんたに元気がないなんて?」  

「別に」

 素っ気ない言い方に、スゥッと目を細めたオリヴィエは言う。

 彼は知っていた。オスカーが金色の髪の少女の元を訪れたことを。そして、何があったのかを推測することも彼には出来た。  

「華を折ったでしょう?」

 月と星を従えるように立つ男の青ざめた顔に、彼は確信を持った。本当は否定したかった予想なのに・・・・・  

「私はさ、あんたの女好きは、心を隠す為だと思ってる。他の皆は全然そこらへん気がついてないみたいだけど、私はあんたの女の子達との付き合いが、それ程親密なモノじゃないのを知ってるよ?」

 己の心を隠して、オリヴィエは言う。その顔は影になってオスカーには見えない 。  

「せいぜいKISS止まり! ・・・・・あんたは、本当は誰かを好きになるのが怖いんでしょう?いや、正確には失恋するのが、かな?」

 オスカーは押し黙って聞いている。  

「あんたの過去になんて知らないし興味ないけど、出会ってからのあんたのことはある程度分かってるつもりだよ。伊達に口喧嘩相手はしてないからね。・・・・・惚れたんだろ、アンジェリークに?」

 前髪をかき上げ、オリヴィエは言った。口調が変わっている。  

「ちゃんと言っておけよ。誤解生んだら、馬鹿を見る」

 『行ってしまえ』と呟いて、オリヴィエは空を見上げた。

 全てを拒絶するような空気に、オスカーは背を向けると言葉を飲み込んだ。



 『お前もアンジェリークに惚れているのか?』





 再び訪れた青年はドアの前で幾分躊躇した。

 少女の拒絶はなかったとはいえ・・・・・

 意を決してドアを叩くと、少女の返事。  

「あのな、さっきのことなんだが・・・・・」

 どう言ったものか、唇を噛む青年に、少女は心からの笑みを浮かべて言った。手に濡れたタオルを持っている。隣のシャワールームを使ったのだろう、髪がまだ濡 れている。  

「何か、ありましたか?」  

「え!?」  

「何もありませんでしたよ?」

 『どうかなさったのですか?』と言う少女に、青年は困惑した。  

「こんな夜中にここにいることがジュリアス様にバレたら大目玉ですよ。お部屋 にお帰りになったほうがよろしいのではありませんか?」

 それこそが、拒絶だったのかもしれない・・・・・





 聖殿から特別寮にアンジェリークが戻って数日後のこと、オリヴィエがアンジェ リークの部屋の扉を叩いた。  

「はぁい、お元気ぃ?」  

「いらっしゃいませ、どうぞお入り下さい」  

「ありがと ルヴァに緑茶を分けてもらって来たのよん」  

「わぁ 」

 きゃぴりんとした可愛らしい雰囲気にオリヴィエは艶やかな笑みを浮かべる。  

「あのねぇ、アンジェリーク・・・・・」  

「はい?」

 それは幸せそうにお茶を飲んでいたアンジェリークは、オリヴィエの真剣な顔に表情を改めた。  

「オスカーと、上手くいってないの?」  

「・・・・・」  

「まだアンジェリークが聖殿にいた頃、夜中に、部屋にオスカーが行くのを見たよ」

 視線をそらすアンジェリークに悲し気な眼差しをオリヴィエは向ける。  

「・・・・・私は、あの方の重荷にはなりたくなんてないんです。愛されたいと思う以上に」

 囁くような声に、オリヴィエは目を見開く。  

「何で、重荷だなんて・・・・・」  

「あの方は本っっっっっ当にたくさんの女性と付き合ってらっしゃるでしょう? きっとその中に本命の人がいると思うんです。私とのことを知ったら、きっとその人が傷ついてしまう。そうしたら、オスカー様もいい気分には決しておなりにはな らないでしょう。あの時のオスカー様は優しすぎて、特別に想って下さっているのではないかと、錯覚してしまいそうでしたけれど・・・・・」

 アンジェリークは自分が本命だとは知らないのだ。  

「あの馬鹿、何も言わんかったのか」  

「はい?」

 ぼそりと呟かれた言葉に、アンジェリークは首を傾げる。

 何も知らないからこその無知が無垢ともなり得るが故の少女のあどけなく可愛らしい仕草に、オリヴィエはそっと吐息をついた。





 夜のこと、オスカーの執務室の隣の私室に現れたその人物は何かしら含んだ笑みを浮かべていた。  

「何の用だ?」

 タンザナイトの瞳に不審気な色を浮かべてオスカーは問いかける。  

「アンジェリーク」

 さらりと少女の名を紡がれ、オスカーは視線を合わせた。  

「全く、あんた馬鹿?」  

「何だと?」  

「あの子と話したよ。あんたの重荷になりたくないってさ。健気だねぇ・・・・・」  

「どうしてそんなことを?」  

「あんた自分の気持ち、言ったの?」  

「言えなかった。『何もなかった』と言われては、言えんさ」

 拗ねたように彼はそう言った。  

「ふむ・・・・・ あんたさぁ、あの子のことどれだけ好きなのさ?」  

「・・・・・愛している。何時からなのかと聞かれたら答えられないがな。多分 、アンジェリークを助けた時に気がついた。だから、許せなかった。ジュリアス様 から守備軍の統括を言い渡されていたのに、あんな奴らを野放しにしていた自分が許せなかった!」

 『ダンッ』 怒りに任せて彼は机を容赦なく叩いた。そのあまりの力に、机は耐え切れずギシリと嫌な音を立てて一瞬しなった。  

「・・・・・そう・・・・・」

 くすりと小さく笑って、オリヴィエはテラスに続くガラス窓を開く。  

「入っておいで」  

「!」

 頬を赤く染めた少女がそこにいた。こっそりとオリヴィエがアンジェリークをテラスに−本人は嫌がったのだが−忍ばせておいたのだ。  

「後は知らない。しっかりやりなよ、色男!」

 激励の言葉を残して、オリヴィエは部屋を後にした。  



「あいつ・・・・・」

 まんまとしてやられたオスカーは、しかし、オリヴィエの内心を思って沈黙する 。  

「あの、オスカー様」  

「うん?」  

「私、オスカー様のこと好きです」

 ぽつり、少女は言った。  

「私、オスカー様には好きな人がいると思っていました。その人やオスカー様のことを考えると、身を引くべきだと思ったんです」  

「何でまた、そんな誤解が生じたんだろうな?」  

「オスカー様は本当にモテていらっしゃるから、そのなかの一人だと、思ったんです」  

「俺はね、お嬢ちゃん、本気で惚れた相手じゃない限り、KISS以上をしようなんて思わないよ」

 一気に少女の顔が紅に染まる。粗熱を取ろうと頬に手をやる姿に、微笑ましい愛しさが募る。  

「お嬢ちゃん・・・・・ 俺は今、どうしても欲しい星があるんだ・・・・・  聞いてくれるかい、その星の名を・・・・・」

 そっと小さく頷く少女の細い顎に指をからめ、彼はひどく甘い笑みを浮かべた。 女心を搦め捕る、そんな笑顔に、少女はうっとりと目を細めた。  

「アンジェリーク」  





「お?オリヴィエじゃねぇか?」  

「おや、ゼフェル。そうだ、あんたも飲まない?」  

「いいねぇ。付き合うぜ」

 にやりと笑ってゼフェルが座る。  

「あぁ!いっけないんだぁ!ゼフェルったら!」  

「ルヴァ様が見たら悲しむぞ」  

「まぁまぁ、あんた達もどう?今日はちょっと騒ぎたい気分なんだ」

 琥珀色の液体の入ったグラスを揺らして、オリヴィエは明るいなかにも何処か悲 しみの混ざった笑みを浮かべた。  

「ホント、やってらんなぁい」





 口づけを交わしながら、そのまま唇を動かして言の葉を紡ぐ。  

「女王を諦めて欲しい」

 細い顎に指を搦めて上向かせると、その白い首筋に口づける。  

「俺だけのモノになってくれ」

 応える言葉の代わりに、少女は頷いた。





 吐息が漏れる。甘く切なく、小さな少女の唇が震える。  

「愛してるよ、アンジェリーク」

 幾度も、幾度も、少女は頷く。  

「愛しています、オスカー様」

 少女の瞳から流れた涙を、優しく口づけた。





 月明かりに照らされて

 恋が結ばれ 破れた夜だった・・・・・


END