永遠のある場所

永遠のある場所


永遠のある場所を探してた

鮮やかな意志の下に輝く緑青の瞳
柔らかに広がる栗色の髪
空を招くように揺れる白い手

《女王候補アンジェリーク》

僕が初めて恋した少女

『セイラン様』

桃色の唇が名を呼ぶ度に

『セイラン様』

その花に触れたかった

 白い天使が空を行く

 一歩一歩着実に至高の座へと至る道を歩むその姿
 その姿がどれ程愛しく
  どれ程厭わしかったことだろう
 迷いのない姿は好ましく
  だけどそれ故に苦しかった・・・・・

 突然の訪問に驚いて、だけど嬉しそうに頷き、
 ふわりと広がるスカートの端を押さえて、行きすぎた風に怒り、
 勝ち気な目元が和んで、弾けるような笑い声が零れる。

捕まえることが出来ない天使のように

『セイラン様』

響く声すら幻の彼方

『セイラン様』

その先に探していたものを見つけられるような気がしてた

君が好きだと言えたらいいのに
たった一言が出て来ない

永遠へと続く楽土の入り口佇む人影が

ふわり サラリ

風を従え振り返る

「セイラン様?」
 俗に《恋人達の湖》と呼ばれる《森の湖》に流れ込む《祈りの滝》に祈りを捧げていた少女が振り返る。祈る姿が躊躇いを覚える程に神聖で、声をかけることも忘れていた自分に気がついたらしい。
「やあ、今日和」
「今日和、お会いしたかったです」
 聞き取りやすいスッパリとした口調で挨拶を返す姿が彼女らしい。
「僕もそう思っていたところだよ」
 言葉にだろう、にっこりと向日葵の笑顔が咲き、思わず上がりそうになる腕を意志の力で押し止め、薄く笑うに止める。自分の焦がれる想いを彼女は知らないのだから。如何にこの腕の中にと願っても、それはしてはならない。・・・・・今まで築いた全てを壊すことを、したくはないのだから。
「このまま一緒にお話ししませんか?」
 首を傾げて問う仕草につられて、柔らかな髪が揺れる。時折見え隠れする子供っぽさが愛らしく、だからこそ、ただの生意気な少女ではないから、こんなにまで、心を隠すことが苦しい程に彼女を愛した。後悔なんてしていないけれど。
「いいよ」
「よかったぁ」
 心底から喜んでいる姿は、とても好きだった。

永遠のある場所を探してた

「セイラン様」
「何?」
 静かな湖畔を歩きながら、呼びかける声に応える。
「あの、私・・・・・」
「?」
 俯いて胸元を彩る赤いスカーフをいじる姿に首を傾げる。どうしたというのだろう?何時もこちらが内心怯む程真っ直ぐな態度でいるのに?
「あの」
「言ってごらんよ。どうしたの?」
 こんな風に悩んでいる姿は嫌いだったから、促す言葉を言った。

 ・・・・・その先にある言葉を想像したこともなかった。

「私、セイラン様が好きなんです!」

「はぁ!?」
 自分でも間抜けだと思う。思うけど、それ程までに驚いた。たった一言を言って、馬鹿みたいに口を開け、惚けて見つめる。
「セイラン様が好きです」
 握り締められた白い指
「・・・・・何も言って、くれないんですか?」
 俯いたままの視線は多分自分の握った手の辺りに向けられているのだろう。それが、髪が、細い肩が、沈黙に震えている。・・・・・脅えている。

「アンジェリークが、僕を好き?」
「はい」
「本当に?」
「はい」

迷いなく天へと昇っていた天使が振り返る

「貴方が好きです」

雪のような白い天使の羽が

「セイラン様が好きです」

雪のように空へ大地へ溶けていく

「貴方が好きです」

常へと至る道を昇り
天使は降臨した

 抱き締める細い身体は彼女特有の甘い香りがする。冴え冴えとした月のようであり、花園にいるようでもある、そんな涼しくも優しい甘い香りだ。
 やっと、やっと手に入れた・・・・・どれだけ、この暖かさを手に入れたかったことか・・・・・
「セイラン様、言ってくれないんですか?」
 答えは分かっているだろうに問う声は、悪戯な響きを宿している。からかうような、言わないことを責めるような、そんな響きも内包し、それは不思議と心の奥底まで響く。
「聞きたい?」
 瞳を覗き込むと、心を覆う氷がふわりと溶ける春日の微笑みが。
「えぇ」

 微笑んだ瞳に自分を映す少女に、焦がれる想いを伝える。
 伝えたくてたまらなかった、たった一言を。

「僕も、好きだよ」

 優しい暖かさを共有する

過去は全て彼女を探す為  現在は全て彼女と共にあり  未来は全て彼女へと続く

探していた永遠のある場所で
常の少女が笑っている

「セイラン様」

永遠のある場所を見つけた


END