IF STORY・U

IF STORY〜兄妹バージョン結婚編〜


 真っ白いドレスは女の子の憧れ
 何時かそれを着て世界で一番好きな人の隣に立つのだ、と

 急遽花嫁控え室となった部屋で、栗色の髪の花嫁さんと花嫁さんの一番の親友がお喋りをしながら支度を急いでいた。
「これを二度も着るだなんて思わなかったわ」
 白いほっそりとした華奢な身体を白絹の優雅なドレスで包んだ栗色の髪の少女が、随分と皮肉に笑う。
「いいじゃない、普通は一度しか着られないのよ」
 少女の栗色の髪を梳き、真珠と金剛石の使われたティアラを乗せ、ティアラで押さえたヴェールの襞を整え、と、金髪の可成の美少女はテキパキと花嫁を飾っていく。
「ほら、手袋」
「うん」
 ドレスと同じ生地で出来た手袋はドレスと同様に簡素である。刺繍の一つもされていない。
「ちょっと立って」
 要請に応じて少女が立ち上がる。
 ほっそりとした型の優雅なドレスは、まるで白い花を思わせる。真珠と金剛石を繋げて作られたティアラは随分小さく、ドレスにも刺繍だとか飾りはあまりつけられていないのに、否、だからこそ少女の勝ち気ななかにあるたおやかな可愛らしさを見事に引き出している。
「うん、いいと思うよ」
「有り難う」
 にっこりと緑青の瞳の花嫁になる少女が笑うと、その幸せそうな笑顔に、同じだけの笑顔で菫の瞳の少女は応じる。
「いいかな?」
 涼しい声が部屋に広がる。
「花婿がいきなり花嫁のとこに来てどうするの?」
「いいじゃないか、早く見たかったんだ」
 菫の瞳に睨まれて群青の瞳が笑って言った。
 その会話を聞くともなく聞きながら、大きな姿見を見つめていた少女はため息をつく。
 彼女の脳裏には、一週間程前の、ある『式』のことが思い出されていた。

「後でね、兄さん」
 もう今日を限りに二度と着ることのないだろう制服の様子を玄関の鏡で確かめた少女が言う。
「分かった」
 先に学校に向かう妹に保護者代わりの兄が頷く。
「今日は皆、ウチに来るのかい?」
「ううん」
 プルプルと少女《アンジェリーク》は兄《セイラン》の言葉に首を横に振る。
「そうか」
 氷のような美貌がほころぶ。
「じゃ、いってきまぁす」
 そう言いながら今にもドアに手をかけようとする少女の腕を取り、青年は引き寄せる。
「危ないじゃないっ」
 怒り出す妹の勝ち気な顔に、兄の冷たい顔が近づく。
「ん」
 軽く触れるだけのキスに、少女は行動に出た。
 『すっぱーん』
「だから、そういうのを止めてって、何度も言ってるでしょう!?」
 殴られた頭を痛そうに押さえた青年が、ジロリと睨むと言い放つ。
「嫌だ」
 ・・・・・簡潔極まりない答えだ。
「にぃすわぁん」
 ・・・・・情けない声だ。
「何だい?」
 澄ました声が返る。
「もぉっ!!」

 説明もなしだと、はっきり言って『妹に迫る兄の図』は異常である。が、この兄弟は血の繋がりがない。何でもセイランはアンジェリークの母親の前の夫の連れ子だったのだそうだ。
 元々そのことを知っていた青年にとって『妹』は血の繋がりを考えるなら他人でしかないが為、恋愛の対象としてしまっており、少女も『兄』を『兄』と思うことが出来ないことが多々あった。それでも一応一年前まではちゃんと極普通の『兄妹』をしていた−否、『兄』を『兄』と思えないことは十分普通でないだろうけど−のだが、少女がその事実を知った後に、まぁ、この状態になってしまったわけだ−因みに、両親はすでに他界してしまっているので止める人物はいない−。

「アンジェリーク」
「おはよう」
 外で待っていた一つ年下の《レイチェル》と何時ものように並んで歩くのも、今日が最後だ。
「今日は早く行かなくていいの?」
「アッハハ、生徒会代表なんて、式でお祝い言うだけだもん。他の役割なんて当日はないからいいのよ」
 ヒラヒラと手を振り快活に笑って言うレイチェルに、アンジェリークもまた笑う。
「それよか、アンジェリーク、進学も就職もしないんだって?どうして?」
 おかしなことに二人の通っている学校は学年で制服が違う。アンジェリークは赤いハイウエストのスカートにボレロ風の上着だが、レイチェルはミニ丈のワンピースである。
「家事に専念するだけ」
「婚期、逃すわよ」
「・・・・・」
 まさか『そのうち兄さんと結婚する』だなんて、この年で言えるわけがない。十の子供が言うなら微笑ましいが、高校を卒業する年で言おうものなら−レイチェルは血の繋がっていないことを知っているが−、どんなに笑われるか・・・・・

 さてしばらくして、卒業式に妹の保護者代わりとしての最後の務めとして出席する為、至極ありきたりな濃紺の服を着込んだ筈なのに随所に見られる独特の着こなしだとかが人目を引く青年が玄関を出た。
「セイラン!」
「ん?」
 突然声をかけられた青年が長めの瑠璃の髪をかき上げざま声の方を向く。
「僕はこれからでも早いくらいですけど、そちらは遅刻になりませんか?」
 声に、青年の視線の先にいる赤みがかった黒髪の男がおおらかに笑う。
「かまわんさ、どうせ今日の俺の授業は潰れたんでな」
 男《ヴィクトール》は彼の妹とかつては彼も通ったエスカレーター式の学園の中等部で体育の教師をやっている。
「それで、何の用ですか?」
 『とっとと言え』と言わんばかりの態度は見知ったもので、ヴィクトールは特別不快に思うこともなく、言った。
「スマン!」
「え?」

 式は、それまでは滞りなく過ぎていった。中高合同の卒業式は他校に比べればべらぼうに人数が多いだろうが、それには慣れている。エスカレーター式の学園なのだから当然と言えば当然だ。
『兄さん来てくれたかな?』
 卒業生入場の際にそれとなく視線を巡らせたのだが、たとえ周りによく似た人物が山のようにいたとしても、絶対に見間違えることの出来ないような存在感のある兄だ。伊達に生まれてからずっと一緒にいたわけではない。後ろ姿だろうと、遠目だろうと、きっちり見分ける自信があるのに、分からなかった。多分、その時点でまだ来ていなかったのだろう。あれ程時間厳守と言っておいたのに・・・・・
 瑠璃色の髪と群青の瞳の青年は彼女にとって、大好きな自慢の兄であり、人には言えない愛しい恋人でもある。その人のことを考えていた少女は、くす玉の割れる音に視線をそちらに向けた。
 ぱっくりと開いたとても大きなくす玉が一つ、紙吹雪と『卒業おめでとう』という、オリジナリティに欠けた垂れ幕、そして・・・・・
「何、あれ?」
 後ろの保護者席もざわめいている。
 大きなくす玉のなかに、どうやらもう一つあったらしい、小さなくす玉がある。
「あ」
 アンジェリークの目が丸くなる。
 『テテテテテッ』  小走りに一人の少年がそのくす玉の下に行くと、それに取り付けられた紐を手にしたのだが、その少年《ティムカ》は少女と同じマンションに住まう人物である。当然顔見知り、どころか、住人の中でも特にレイチェルやヴィクトール同様に親しい者である。

 『ぽんっ』
 呆気ない程簡単にくす玉が割れる。

 勢いに負けた椅子の倒れる音がした。

「レイチェルッ!」

 叫びと共に少女は壇上の親友の元に駆ける。ここが何処で、ついさっきまで何をしていたのかなんて、彼女の脳裏にはすでに跡形もない。
「何考えてるのっ!?」
 掴みかからんばかりのアンジェリークに、にっこり笑ってレイチェルは言う。
「あそこに書いてある通りよ」
「・・・・・あそこって・・・・・」
 小さなくす玉の下には大きなくす玉と同じように垂れ幕もあったのだが・・・・・

『祝御成婚今年度高等部卒業生アンジェリーク過年度卒業生セイラン』

 デカデカとそう書かれているではないか。

「レイチェルゥゥゥゥゥッ!!」
 卒業式ということもすっかり忘れ果てた少女は叫ぶ。
「何で私と兄さんの結婚だなんてっ!!」
 ここで、保護者席で盛大に腰を抜かす者が続出した。当然である。
「だって、どうせするんじゃない」
 朗らかに言ってのけた生徒会代表は、小粋にパチンッと指を鳴らす。
「さぁ、着替えてもらうわよ!」
 舞台の袖からいきなり生徒会の役員−ただし女性のみ−が現れたかと思いきや、そのままの勢いでアンジェリークを連れ去る。
「うっそぉぉぉぉぉっ!」
 アンジェリークの叫びは、尾を引いて響いた。

 唖然呆然、失神寸前、有り体に言えば気絶の一歩手前の少女である。いっそ気絶して一時でも現実から逃避したかったのだが、それも気丈な性格から出来ないでいた。
 人形の花嫁さんが着るような愛らしいフリルに模造真珠とダイヤモンドに見立てた硝子と各所に刺繍をされたウェディングドレスと、背中を流れて更に流れるヴェールが背後でサラサラとした衣擦れの音をさせている。
「ヴィクトールさん、ティムカ君」
 ふと気がつけば、拝み倒さんばかりのヴィクトールとごまかし笑いのティムカの二人が何時の間にか側にいた。
「すまん。父親代わりのエスコートは俺がすることになってるんだ。本当にすまん」
「で、僕がをヴェールを持つ役なんです」
 『多数決に負けた』とはウィクトールの弁である。多数決、そのまたの名を、数の暴力と言う・・・・・
「・・・・・」
 今一度入場するべく引かれた赤い絨毯に一歩足を踏み入れた少女は、諦めた。
「・・・・・」
 『不機嫌ここに極まれり』としか形容出来ない兄が、白いタキシードを着て立っているのだ。
 異様な静寂のなかを静々と少女は歩き、壇上に上がった。

「「レイチェル!」」
 結婚式が終わり、そのまま二人は卒業生とは別口として先に式場を退場した−ご丁寧に二人の退場時にはウェデングマーチがかかり、本物の花びらが撒かれた−のだが、次に連れて行かれたのは、この日の為に整えられた本来は校庭であり、本日は『卒業おめでとうパーティー』の会場である場所であったのだが、同時に『結婚披露宴』も兼ねていたようだ。ウェディングケーキと思しきデカい
ケーキがまるで人を威圧するようにそびえ立っている。
「おめでとう。ブーケは私の方に投げてね」
「それだけ!?」
「ちゃんと説明してもらうよ!?」
 バリバリ全開に怒っている一対の人形のように整えられた年上の幼馴染み達に、少女はニコニコと笑って言う。
「だぁって、出来るかなぁって思って言ってみたら、皆一致団結して手伝ってくれるって言い出したんだもん」
「「・・・・・」」
 ノリのいい、ひじょうどころか異常にノリのいい学校ではあった。エスカレーター式の為、顔ぶれはあまり変わらないので異常に団結力の高いところだということも、二年前に卒業した青年も今日卒業する少女も知っていたけど・・・・・まさか、こんなことにまで一致団結するとは・・・・・
「因みに、教師は一部を除いてほぼ全員反対したんだがな」
 ぽつりとヴィクトールが言った。
「何処で調べて来たのか、弱み使って脅したんだ」
「ヴィクトールさんにはしてませんよ。数の暴力は使ったけど」
「「・・・・・」」
 脱力しまくりの二人である。
「知ってたわけ?」
「なぁに?二人の仲?」
「そう」
 力なく問う声に、強気な美少女は言い放つ。
「この天才美少女レイチェルに分からないものなんてないのよっ!」
 ナイスバディをそらして高らかに笑う幼馴染みを見て、『天才じゃなくて天災だ』と、思わず同じことを考える四人であった(笑)。
「あの、そろそろ」
 怖ず怖ずと、アンジェリークも顔だけは知っている生徒会のメンバー(男)が告げた。
「ウェディングケーキに入刀をお願いします」
 ・・・・・やっぱりするのか・・・・・

「どうしたんだい?」
 思いっきり巨大なため息をつく少女に、青年が不思議そうに問いかける。
「ちょっと、この間のこと思い出して」
 回想から舞い戻った少女は苦笑いを浮かべる。
「成程」
 同じく苦笑するセイランである。
「何よ、あれを全部用意するのってすっごく難しかったんだから。アンジェリークにバレないように根回ししたりとか」
 指折り数えるレイチェルに、新郎新婦は声を揃えて言った。
「「してくれなんて頼んでない」」
「ぶぅっ」
 むくれる親友の頬に初々しい花嫁は親愛のキスを送る。
「ゴメン、大好きよ、レイチェル」
「はいはい、セイランさんの次にでしょ」
 クスクス笑って少女もキスを返す。
「そろそろ時間ですよ、アンジェリークさん」
「セイラン、お前ここにいたのか」
 ティムカとヴィクトールがひょっこり現れて言った。
「わぁ!綺麗ですねぇ」
「またその隣で父親役か、俺は?」
「パパ、仕事で出れないんだもん」
「親しい人の中で一番年かさなんだからしようがないですよ」
 ワイワイと賑やかな一同を見て、少女の口元が幸せの笑みの形に歪められた・・・・・

 二回目の結婚式とはいえ、やっぱり疲れるものは疲れる。
「ここに入るのって初めて」
 それでも初めて兄のアトリエに入る少女は好奇心に瞳を輝かせて辺りを見回す。
「間取りは変わらないのね」
「当たり前だろう、ここの下は僕達の家だよ」
 自分の使っているちょうど上の階の部屋をアトリエにしていた青年はそう応える。
「今日はこっちで寝るといい」
「明日の片付け凄そうだったね」
「まあね」
 極々親しい友人達を招いた内輪の結婚式だったのが、会場を自宅でもあるマンションの一階を使ったのが、悪かった。内輪だけとなると新婚家庭だろうが躊躇なく乱入するのだ。お陰でけっこう凄いことになってしまった部屋を片付けるのは明日にして、今夜はアトリエの方に来たのである。元々青年はここで作業してそのまま泊まり込むことが多かったのでそこら辺の不自由はないだろうと判断したのだ。
「ここ、私の部屋の上よね」
 まだ白いウェディングドレスのままの少女はそう言って、そのドアを開けた。

「あ」

「見たな」
 照れくさそうな声がすぐ近くから響く。

 そこには彼女がたくさんいた。

 何十枚という完成された物もある。習作を綺麗にまとめたノートも。
 ・・・・・そこには彼女がたくさんいる。

「ほら、おいで」
 じっとそこを見ている新妻さんを強引に連れ出す青年である。
「もっと見ていたかったのに」
「今度」
 すぐ側の青年の部屋にあたる部屋に移動する。
「どうして今は駄目なの」
「恥ずかしいからに決まってるだろう」
 ため息をつく青年に、不満そうだった少女はクスクス笑い出す。白い手袋は流石に外しているが、それも含めて今日少女がまとったウェディングドレス一式は青年が考案したものである。
「兄さんたら」
 何時も超然とした兄が、とても身近に感じられて嬉しくてたまらない。
「アンジェリーク、そろそろその『兄さん』は止めてくれないか」
 苦笑ぎみにセイランが言う。確かに、その通りだ。
「あ、はい、兄さん」
「ほら」
「ごめんなさい、兄さん」
 ・・・・・直りそうもない。
「今度から『兄さん』と呼んだらペナルティだよ」
 悪戯な瞳に気がついて、少女は首を傾げる。
「兄さん?」
「もうペナルティだね」

 唇が塞がれる。

「兄さん!」
「ペナルティ」
「ん」
 逃げられないように抱き寄せて、彼は唇を重ねる。
「ふにぃ」
 元々あった疲れとの相乗効果で、ぐったりと白い花嫁は花婿に身体を預ける。
「あっ」
 ふわりと少女を包む浮遊感

 小さな音がして、その部屋は闇を引き入れた。

 栗色の髪は素直な少女自身のように柔らかなストレートで、指に絡むことなく滑り落ちた。
 白い面をこうして眺めるのは一年ぶりと言ったところか。・・・・・今度はちゃんと優しく出来た、と思う。
 夢を怖がる小さな頃ならいざ知らず、それなりの年になってからは少女が悪夢にうなされて青年のドアを叩くということもなくなった。それは当然で、その後に見たのは一度だけ。すでに一年以上前の今まで築き上げた関係全てを壊した夜とその次の日の朝、全てをやり直す朝に見た寝顔だけである。これからは幾らでも見ることが出来るのだろうけれど。
「ん?」
 しなやかな髪を梳いて遊んでいた青年は、少女のまぶたがゆっくりと開いていくのを見た。緑青の瞳はあくまで素直で無垢な光を宿している。
「兄さん」
「ペナルティ」
 そう言って唇を塞ぐ。
「・・・・・」
 目を伏せて大人しく受け止めた少女は、唇が離れると青年を睨んだ。
「・・・・・卒業式の時もそうだったんだけど、今回の式も私は何も知らなかったんだけど」
「言ってなかったっけ?」
「言ってない」
 低く笑う声にむくれた少女が頬を膨らます。
 ジーッと恨みがましい目で訴える少女の目元にキスをして、彼は苦笑する。
「一年はちゃんと待っただろ?褒めてもらってもいいくらいだ」
 ベタベタとキスを繰り返しながら、旦那様はベタ惚れの奥様に言う。
「同じ屋根の下、普通なら一年ももたない」
「約束したのに?」
「約束していたとしてもね」
「・・・・・代わりに私が嫌がってもキスしてたじゃない」
「親愛だよ」
「・・・・・嘘つき」

「おはよう」
「おはよう、若奥様」
「レイチェルッ」
「キャハハハ」
 思わず真っ赤になるからかいがいのある友人を、遠慮呵責なしに笑い飛ばすレイチェルである。そのままからかうのにうってつけな少女をからかう言葉を言って、それに勝ち気な性格から怒り出す反応を見ては更にからかう。酷いものだ。
「朝から元気だね」
 新聞を取りに行ったきり、なかなか戻って来ないアンジェリークを迎えに来たセイランの台詞だ。
「ごめんなさぁい。新婚さんの邪魔する気はなかったんだけど」
 そんなことを言いながら目が笑っている少女である。
「兄さん聞いてよ、レイチェルったら」
 ブーブーと不満たらたらな少女が言い募ろうとしたが・・・・・
「ペナルティ」
「・・・・・」
 一瞬目の前で何が起こっているのか分からなかったレイチェルも、すぐに『回れ右』をした。当然だ。
 『すっぱーん』
「もういい?」
 景気のいい音がしてから振り向いたレイチェルである。菫の視線の先では、青年が張っ倒されたのだろう頭を抱えている。
「言っておいたことだろう?」
「だからって、こんなとこでしなくったっていいじゃない!」
 ・・・・・『ノロケは他所でやれ』状態の新婚である。
「やってらんない」
 ぼそりとそう言うと新聞を持ってとっとと部屋に帰る金髪の少女であった。これから先一年以上、もしかすると半永久的に続くかもしれない本人達の自覚のないノロケが繰り広げられる、これがほんのきっかけでしかないだろうことを少女は漠然と察したのだが、それは当たったからといって、少女にとって楽しいことでは−当然だが−ない・・・・・

「だから、どうしてそんなにしたがるのっ!?」
「これまでしてなかった分だよ」
「してなかったって・・・・・」
「約束通り『恋人』であるより『兄』であることを優先していたからね」
「あれで!?」
「ちゃんと人目は気にしていただろう?」
「・・・・・今もしてよぉ」
「ごめんだね」
「にぃすわぁん」
「ペナルティ」
「んん」
 ・・・・・だから、勝手にやってなさい・・・・・

END