君が僕にくれたもの
不安 焦燥 苛立ち 嫉妬
そして 恋・・・・・
恋した君を想う
キミガスキ
春日の微笑み
舞う指先
幻の中でなら僕だけのもの
微睡みの中で聴く雨音は君に似て
優しく柔らかに 密やかに
しめやかに降る雨音に包まれ僕は眠る
真白いシーツの揺り篭のように
君の紡ぐ優しい時にまぶたを閉じる
心地良い風に身を浸し僕は眠る
穏やかな青翠の瞳を閉じて、滝に少女は祈りを捧げ、その姿の神聖故に、声をかけることを躊躇った。
ふわりと栗色の髪を攫う風に祈りを妨げられる。
「セイラン様!?何時からそこに?」
自分に気づいて、彼女は恥ずかしそうに頬を染めた。
「僕が来た時には君は祈っていたけど?」
木陰から歩み寄って、赤く染まった頬にかかった栗色の絹糸のような髪を払う。途端に尚赤くなる少女が可愛い。
「あの、あの、セイラン様」
キュッと重ねた細い指に力を込めて、彼女が僕を見つめる。必死な光の宿る瞳に見上げられ、目眩を伴う熱が襲ってくる。
「何?」
高鳴る鼓動を隠す為に、常より短く先を問う。
「あの、お会いしたかったです」
「・・・・・」
「ごめんなさい」
拍子抜けした沈黙を誤解して、シュンと彼女が項垂れる。
「僕も会いたかったよ」
今にも駆け去ってしまいそうな少女を引き留める為に、慌てて紡いだ言葉は思いがけず心に素直に従ったそれで。
「少し、話をしない?」
「は、はい」
パッと花咲く微笑みが嬉しかった。
恋した君を想う
それだけで世界が変わる
日だまりのような君がいる
それだけで世界が変わる
穏やかに揺れる小さな花のように
微笑む君がいるだけで
たおやかで柔らかな聞くに心地良い声が紡がれる。他愛もない、だけど優しい話。同時に胸が、痛いけれど・・・・・
「ふぅん。そんなに可愛いんだ?」
胸の痛みは故意に無視して、笑みすら浮かべて応える。
「えぇ、本当にとっても可愛いんです。ウサギと猫の中間みたいで、すごく私に懐いてくれていて」
ふと、瞳が陰ったような気がした。
「あの子の為に、頑張って女王様になりたいって、思うんです」
確かに、瞳に憂いが宿った。
「・・・・・君の為じゃないんだ」
「え?」
「聖獣の為ではない、君の願いはないの?」
彼女の唇が震える。何かに脅えるように。
「わ、私、の?」
「君の」
「ぁ・・・・・」
小さく言葉を濁して、大人しく内気な少女は祈るように組んだ指へと視線を逸らせた。
「・・・・・」
奇妙な沈黙
壊すことを恐れているのは
彼女か、自分か?
「私、叶わない願いなら、あります」
補足彼女は呟く。顔を逸らせて。
「願ってもいけないことだと、分かっているのに、どうしても、忘れられない、願いなら、あります」
隠れた瞳から涙の滴が大地に落ちて、優しく些細なことにも傷つくような性格ではあるが、同時にとても強い芯を持った彼女らしくもない。
「いったい!?」
「分かっているのに、想うことすら許されないのに」
震える声が、風に乗る。
「私は」
突然彼女が顔を上げた。決死の感情を湛えて今にも激しく泣き出しそうな表情で。
「私はっ」
そして奇跡は起こる
「セイラン様が好きなんですっ」
恋した君を想う
「私は女王候補で、恋をしてはいけないって、分かっています。それでも、私はっ」
それだけで世界が変わる
「セイラン様が好きなんですっ」
奇跡は何時も君の手にあった
内気な彼女とは思えない激情のままの叫びにも似た告白は、僕の思考回路に支障をきたすのには十分で。
「嘘」
そんな馬鹿な台詞が唇をついて出てきた。
「そんな、ひどい」
ポロポロと真珠のような涙が少女の頬を止めどなく流れていく。決死の覚悟で言った言葉をそんな風に返されて、繊細な少女の心はどれだけ傷ついただろう。
「ひどい」
ポツリと一言そう言って、彼女はいたたまれないように踵を突然返した。
「待ってっ」
慌てて追いかけ、細い腕を引く。
「あ」
小さく呟き、彼女の足がもつれて腕のなかに倒れ込んで来た。
これ幸いとばかりに逃げられないように抱き締めて、まだ泣いている少女の耳に唇を寄せる。
「悪かったよ。驚いたから」
彼女は答えない。だが聞こうとする意思表示に、涙に濡れる可憐な面を向けてくれた。
この言葉を言う日がくるとは、正直思わなかった。彼女こそが神聖なる地位に相応しいと思っていたから。
だから、唇が躊躇う。
だけど・・・・・
「僕も君が好きだよ」
大きく瞳を見開いて、再び泣き出した少女のまぶたにキスを贈る。
「知らなかっただろう?僕は君に恋をしていたんだよ」
君が僕にくれたもの
不安 焦燥 苛立ち 嫉妬
そして 恋・・・・・
恋した君を想う
奇跡を手にして君が微笑む
そして 世界は変わり
今愛する君を想う
END
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