SWEET KISS


 ねぇ、キスをしよう?

 甘いキスを
 幸せなキスを

 キスをして、抱き締めて、幸せに酔って
 世界で一番素敵なキスを

 軽いキス
 深いキス

 どんなキスだって、きっと幸せ
 大好きな人とするのなら、キスは幸せになる魔法

 軽いキス  甘いキス  深いキス  幸せなキス

 ねぇ、キスをしよう?

 あなたは、どんなキスが好き?



「・・・んっ」
 甘やかな吐息と共に、濡れた唇が離れる。
 うっすらと頬を染めた少女が上目遣いに相手を睨んだ。
「もう、セイラン様ってば、いきなり何をするんですか」
「いいじゃないか、別に。誰かが見ているわけでもなし」
「そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ・・・」
 ぽかぽかとした陽気の平日の午後。
 森の湖にある木の木陰に座り、感性の教官であるセイランと女王候補であるアンジェリークはとりとめもない話をしていたのだが、会話が途切れた時に青年が少女を引き寄せ、キスをしたのだ。
 唇が離れた途端、文句を言った少女に青年は澄ました顔で受け流す。
 その態度にぷぅっと膨れる少女の頬を笑いながら青年は軽くつつくと、再び少女の腰を引き寄せ、唇を重ねた。
 軽く触れると少し舌を出して、少女のふっくらとした紅い唇を嘗める。引きそうになる華奢な体を片腕で押さえ、もう片方の手を栗色の髪の中に差し込み、動かないように抑えた。
 青年の舌は執拗に少女の唇を嘗め、時折口角をつつき、少女が自分から唇を開くのを待っている。
「・・・はぁ・・・」
 くすぐったい感覚に耐え切れなくなった少女は思わずため息をついた。
 その際に薄く開かれたのを逃さず、青年の舌がすかさず少女の口内へと入り込む。
「んっ・・・んんっ」
 深く求められるキスは極上の美酒を飲まされたような酩酊感を少女にもたらし、澄んだサファイアの瞳が熱に浮かされたように潤んでくる。
「セ、セイラン・・・様ぁ・・・」
「何?」
 飽きることなく額や頬、とにかく少女に触れられる場所すべてに唇を寄せる青年はその行為に夢中で、答える言葉もキスをしながら。
「こんなキス・・・されたら私、立てなくなっちゃいます・・・」
 ・・・キスをすること自体は、いいのかい・・・場所は誰かが来るかもしれない、森の湖なんだぞ?
「そうなったら責任を取ってちゃんと抱えて行ってあげるよ」
「行き先がセイラン様の私室だなんて、私は嫌ですからね」
「・・・嫌なの?」
 ・・・図星だったんかい。私室に連れ込むつもりだったんだな?
「明日も育成があるんですよ?立てなくなるのは嫌です」
 キッパリと言いきる少女に青年は拗ねた顔をしながらもキスをするのをやめない。
「セイラン様・・・いい加減、離してくれません?」
「嫌だ」
 いつまでも離さない青年に少女は困ったように言うが、あっさりと青年は却下した。
「せめてキスぐらい、いいじゃないか」
 せめてって・・・十分しているじゃないか。
「僕にキスされるの、嫌なのかい?」
「そうじゃなくって・・・」
 キスをしようとする青年をやんわりと押し返すと少女は青年の唇にチョン、とキスをした。
「アンジェリーク?」
「私もキスをしたいのに、出来ないじゃないですか」
 クスクスと笑みを零しながら茶目っ気たっぷりに片目をつぶる少女に青年も笑みを誘われる。
「そうか。じゃ、キスをしてくれる?」
「ええ」
 にっこりと笑った少女は青年の首に腕を巻きつけ、頬にキス。青年もお返しに少女の鼻の頭にキスを返した。

 額にキス
 耳元にキス
 顎にキス
 目尻にキス

 何度も繰り返し、お互いにキスをする。
 幸せを抱き締めるような感覚にうっとりとして、お互いの体温を感じて、そしてキスをして。
 キスをする度に幸せで、だから触れることをやめられない。

 キスをしよう
 世界で一番素敵なキスを
 それだけで幸せになれる、素敵なキスを
 ねぇ、キスをしようよ

「ちょっ、セイラン様、腕の力を緩めて下さいってば。キスが出来ないじゃないですか」
「僕はやっぱり、こっちがいいな」

 ・・・いい加減にしなさい、あんたたち・・・

END