MOTHER WATER
全てはあの海から生まれた・・・・・ 「アンジェリーク」 ふんわりとした穏やかな微笑を浮かべ《 水の守護聖リュミエール》 は最愛の少女の元を訪れた。 「リュミエール様」 華やかに笑って少女《 女王補佐官アンジェリーク》 ハ駆け寄る。ゆったりとした衣が風をはらんで揺れる。 「少し時間に余裕があるのでお茶にしようかと思いまして、一緒にいかがですか?」 「喜んで」 金糸の髪に緑柱石の瞳の少女は、その誰からも愛される素直さと無垢さとで個性派揃いの九人の守護聖と親友である宇宙を支える女王の間に立って意見の調整等の大役をこなしている。少女の持つ明るい雰囲気を愛さない者はおらず、現女王を補佐するのに彼女以外は考えられないとは周りの一致した意見であるが、勿論少女とて心を痛める時があり、支えを求める時がある。そして、その支えとなり得るのが優しさを司る清流の髪と海の瞳の青年であった。 途切れることなく響く潮騒 「懐かしいですか?」 「えぇ、とても」 万感を込めて、リュミエールは答えた。 見渡す限り深い夜色をした海は彼が遠い遠い昔に別れた日のままに、穏やかにそこに在る。 「リュミエール様にお聞きした通り・・・・・」 『帰ったら女王陛下にもう一度御礼を申し上げなくては』と続けて、アンジェリークは傍らの青年の横顔に視線を移した。青年に気づかれないように、そぉっと・・・・・ 懐かしい、今は過去の日を思う青年の顔は何時にもまして優し気で、少女は満足しきった笑みを浮かべた。 事の起こりはある午後のお茶を催した時の話し。かの人の生まれ育った水豊かな惑星。清い青の星の海やそこに住まう人々、楽を愛し音の絶えることのない広場。一つ一つを懐かしそうに語る人は何処か寂しそうだった。 『水の惑星に行きませんか?』 現女王に願い、慈愛の笑みによって叶えられた日に、少女は青年を誘った。 『貴方の生まれた星を見たいんです。いけませんか?』 砂浜に白と青の衣が広がる。 「座りませんか?」 見上げながら、その白い指を差し伸べる。優雅に誘うように・・・・・ 「リュミエール様!?」 ちょこんと隣に座った少女は、突然抱き寄せられて困惑の声を上げる。どうしたのだろう? 「ずっと、こうしてみたかった」 アンジェリークの金色に輝く髪に頬を寄せて、うっとりとリュミエールは呟く。 「聖地ではとても出来ないから・・・・・」 他の守護聖達もいる聖地ではこんなことは絶対に出来ない。もっとも、他者が呆れる程にアンジェリークを愛するリュミエールは仕事のない日の曜日にはその溺愛ぶりを周囲に振り撒くこと振り撒くこと、女王が本気でたしなめようかと考える程である。 「この星では生きとし生けるモノ、全てがこの海から生まれたのだと言い伝えられています。そして、何時か海へと還るのだ、と」 優しい潮騒と囁きが聴こえる。 「海、もしくは水は生命の母だ、と・・・・・」 深い深いラヴェンダーを、清らかな光が切り裂いて夜が明ける。まるで海の中から生まれたようなまぁるい太陽の鮮やかな金の光だ。 「さぁ、帰りましょう」 「はい!」 元気に応える少女に笑んで彼は手をとる。 二人の恋の成就した聖なる地へと続く扉を、二人は共に開いた 昔を懐かしく寂しく思う気持ちを海へと還して 二人で明日へと向かう為に END |