次女《アンジェ》は元気な女の子
「はい、多数決により決定いたしましたぁっ」
「数の暴力だ」
「民主主義よ」
涼しく響く不機嫌な声に、打てば響くタイミングで答えたのは橙色のリボンが何処かあどけない雰囲気を醸し出す勝ち気そうな少女である。
「相変わらずアンズには負けるんだな」
クツクツと低い声で赤のかかった黒髪の男が笑ってそう言い、隣にちょこんと座っているクリーム色のリボンが尚更幼く見える少女が微笑んで続ける。
「だってお姉ちゃんが一番ですもん」
「そうよねっ」
クスクス笑って向日葵色のリボンをつけた弾けんばかりに元気そうな少女が同意する。
「いい加減慣れちゃいましたよね」
クスッと悪戯っぽく笑うのは墨色の髪の少年である。
「今日和ぁっ!お邪魔するわよっ!!」
玄関の方から声が響き、パタパタと軽やかなスリッパと床の奏でる足音も小走りに、緩くウェーブのかかった金髪のきつめの美少女がやってくる。
「今日和、レイチェル」
「いらっしゃい」
「何持って来たの?」
立ち上がって金髪美少女《レイチェル》の分のお茶を入れようとするのは三姉妹の末妹でクリーム色のリボンの《アンジュ》、ソファに座るよう勧めるのは次女で向日葵色のリボンの《アンジェ》、目敏く一つ年下の親友の手の中の封筒に気がついたのは長女で橙色のリボンの《アンズ》である。
「郵便屋さんと玄関で会ってね。あんた達宛てよ」
それぞれ淡い色彩の封筒を渡され、三姉妹は見事な程同じ動きで封筒を開く。
「「「・・・・・」」」
「ねぇねぇ、やっぱりラブレター?」
ワクワクとした風情のレイチェルの言葉に、ピクリと反応する者がいる。誰とは言及しないが。
「・・・・・アンジェ、アンジュ」
引きつった顔で勝ち気な長女が手元の手紙から視線を外さずに片手を伸ばすと、二人の妹達はすんなりと自分達の手紙を姉の手に渡す。
「な、何?」
トントンッと机の端で三人分の透かし模様のされた薄い手紙を重ねると、彼女は問いかける幼馴染みの声にも答えず、おもむろに電灯に透かした。
「・・・・・こいつ馬鹿?」
「お、お姉ちゃん、酷い」
「言いたい気持ちは分かるけど」
内気な三女はたしなめ、元気な次女は苦笑しながら消極的に同意する。
「・・・・・果たし状?」
「それなら受けて立つんじゃない?アンズなら」
「口で言い負かせますからね」
「セイラン相手で鍛えられてるからな」
セイランの言葉に、ティムカが悪戯っぽく言い、ヴィクトールが人の悪い顔で付け足すと、
「何処に映画のチケット同封した果たし状があるのよ」
ピラピラと好評上映中の映画のチケットを振るアンズである。
「でも、馬鹿にしてるわよ。幾らなんでも堂々と二股どころか三人掛け持ちで付き合おうだなんて。そりゃ、私達性格は全然違うけど」
そう言ったのはアンジェで、その手には姉から渡してもらって確認してみた、ワープロで書かれたらしい透かすと最初の名前のところ以外全て同じ内容の手紙が三通分重なってあった。・・・・・確かに、人を馬鹿にするにも程がある。
「お姉ちゃん達、どうしよう?」
人見知りが激しく、何時も姉達の後ろに隠れるアンジュが二人の姉の顔を交互に見て言う。何時も頼りになる姉達はこういった場合、更にとても頼りになるから。
「フるに決まってるじゃない」
妹達と同じ筈なのに、どういうわけかきつい印象が拭えない鮮烈な青翠の瞳がギラリと怒りに歪む。
「・・・・・それ、お姉ちゃんにお願いしていい?」
「いいわよ」
しっかりと請け負う姉の姿に、ホッとしたように微笑んだ緑青の瞳の少女は隣の男の顔を少しだけ仰ぎ見る。
「・・・・・」
バツが悪そうに自分より可成背の低い少女を見下ろしていた鳶色の瞳の男は視線を逸らす。自分の視線が、捨てられる寸前の犬状態に近かった自覚があったのだ。
一歩間違えば親子にも見られかねないこの二人−何せ童顔の少女と厳面の男である−だが、実はこれでれっきとした恋人同士である。付き合い始めたのは、つい先日のクリスマスから。となれば、本人達の性格から人前でベタベタしたりはしない−否、二人っきりでも性格的に出来ないらしいが−のだが、時々恋人同士らしい甘い雰囲気が二人から流れることがあり、
「・・・・・ノロケは他でやって欲しいものだね」
ボソッと群青の瞳の青年が『純情街道まっしぐら』な恋人達にツッコミを入れ、アンズが隣で深く頷くことになるのである。
「ねぇねぇ、フッちゃっても。チケットはもらっちゃってもいいのかな?」
「あの、まさか・・・・・行くんですか?」
それぞれの封筒に入っていた映画の前売り券を集めてブルーグリーンの瞳の少女が言うと、驚きと呆れの混ざった声で薄墨色の瞳の少年が言う。
「映画とチケットに罪はないと思うの」
「あんたねぇ」
苦笑して顔を覆う友人を不思議そうに見る少女の隣で、切なそうに少年が目を伏せた。
頬にかかる栗色の髪をクルクルと指に巻きつけながら、彼女は心底呆れたようなため息を一つ零す。
「アンジュもそうだけど、アンジェもいい加減鈍感なのよねぇ」
「君もだろう?」
「私はあそこまで鈍くないわよ」
「どうだか?」
懐疑的に言うベッドを椅子代わりに何かを描いている青年の足元、絨毯に座ってベッドを背もたれ代わりにしている少女は眉をしかめて青年を振り仰ぐ。
「どういう根拠でそんなこと言うわけ?」
「自分の胸に聞けば?」
「ないから聞いているのよ」
ポンポンッと言い合う姿は極自然で、口喧嘩めいてはいても相手を傷つける意志は見られない。ティムカが『いい加減慣れちゃいましたよね』という所以である。
「そうだね、君は鈍いんじゃなくて目を逸らしているだけだものね」
「・・・・・放っておいてよ」
「放っておけるなら、放っておくさ」
鉛筆とスケッチブックをシーツの上に転がし、先程までそれに触れていた手が栗色の髪を撫でる。愛しむように、優しく・・・・・
「子供扱いされる年じゃないったら」
憮然とした少女が邪険に手を振り払うと、セイランの瞳がキラリと悪戯に輝く。
「子供扱いが嫌いなら、大人の扱いをしてあげようか?」
クスクス笑って長い指が細いあごを取ると上向かせる。
近づく薔薇色の唇を己が手で押し止めると、アンズが険悪な口調で言い放った。
「二度目はないわよ」
「・・・・・あのこと、まだ根に持ってるの?」
「持つに決まってるでしょうがっ」
「たかだかキスの一つくらいで」
「初めてだったのよっ!?一回叩かれたくらいですんだだけでも有難いと思いなさいよねっ!!」
『とっとと忘れてやる』云々とぼやく少女に、青年はクスクスと笑う。
「だから手加減してあげたろ?本当はもう本気のキスの方が好みだったんだけど」
「・・・・・殴り飛ばす」
ギュッと握った手を振り上げる少女を制して、彼は艶然と微笑んで言う。
「どうせ殴られるのなら、した後の方が得だよね?」
「っ!?」
『何を?』と問う前に唇が塞がれ、息苦しさに薄く開かれた後にそれは深く求める口づけに変わる。
「んん」
嫌がる腕を床に押しつけ、彼は反応を楽しむように伏せ目がちの瞳に映る少女の初めてのことに強ばった顔を見ながら続ける。
「何から目を逸らし続けているのか、突きつけてあげようか?」
余裕の態度で言う青年に、酸素補給を急ピッチで行っていた少女が怒鳴る。
「余計なお世話よっ!!」
誰がどう見たって『押し倒されている』少女は、それでも生来の勝ち気さで自分を失わない。それが尚更青年を煽っているのだが。
「余計なお世話、ね。確かにそうだ。だけど、それも、たまにはいいさ」
「・・・・・っ。性格悪すぎるわよ、セイランッ」
ゆっくりと、不自然にゆっくり自分の首筋に向かう青年に言えば、
「君は素直じゃないね」
とかわされる。
漏れる吐息が首筋に降り、キュッと目を閉じる少女と、今にも赤い跡をつけようとする青年の耳に、等しくその声が届いた。
「お姉ちゃぁんっ」
「お風呂入ろうっ」
「人の緊張感を壊すのには最適な子達だね」
苦笑しながら緩々と少女から離れる青年の言葉である。
「私には可愛い妹よ」
外されていた一番上のボタンを、『何時外したのよ!?』などと考えながら留めた少女はそう答えて立ち上がる。
「じゃあね」
後ろを見ずに手を振ると、その腕が取られる。
「ん」
バランスを崩したところ、触れるだけのキスを受けて見開いていた瞳が伏せられ、彼女は小さく意味のない言葉を漏らすと・・・・・
『バッチン』
「・・・・・アンジェの件では、手を貸してもらうからね」
据わりきった声で言うと彼女は今度こそ廊下に出た。
ドアが閉まる寸前、その背後で叩かれて熱く熱を帯びた頬の痛みも忘れたように笑い転げる青年の声が、無論少女にも届いたのだが、彼女は当然黙殺した。
「新年明けましておめでとうございます」
テレビから流れるその挨拶の言葉に重なって、今日も今日とて寝起きの悪い青年を叩き起こす声がリビングにまで届く。
「新年早々、進歩はないのか?」
「まだ六時ですからね。セイランさんには辛いでしょう」
「というか、あれは半分嫌がらせも兼ねてるんじゃないかしら?」
「セイランさん、お姉ちゃんに手を焼かせるのって、すごく好きみたいだもんね」
のほほんと外に出て行く準備はOK状態の四人の台詞である。
「おはよう」
噛み殺し損ねた欠伸混じりにそう言って、頬にかかる瑠璃の髪をかき上げる青年の頭を後ろから少女が軽く小突く。
「新年早々手間かけさせないでよね」
『今年も先が思いやられるわ』などとぼやきながら、彼女はすぐ下の妹の手からバッグを受け取る。
「本当に行くのかい?絶対に人がいっぱいで苦労するよ?」
「往生際悪いわよ」
本気で嫌っそうな冷たい一瞥にも動じない少女はきっぱりと言いきると、青年の腕を問答無用で引っ張る。
「ほらほら、行くぞ」
「数の暴力と言われようと、民主主義は民主主義ですからね」
家の鍵を閉める少女に代わって腕を取った二人の台詞である。
「早く行こうよ、お姉ちゃん」
「レイチェル先に行ってるかもよ」
こちらは新年のお参りに行くのを積極的に勧めた少女達の台詞である。
「あれ?ティムカ君だけ?」
人波に揉まれつつお参りをすませ、おみくじやお守りを売っているところにまで避難した後、それを一緒に見ていた筈の姉と妹の代わりに四つ年下の少年がいることに首を傾げる向日葵色のリボンの少女である。
「皆さんここも人が多くなり始めたから、先に避難するって。場所は聞いてあります。あっちの大きな木、確か、約束の木とか言ってましたけど、もう行きますか?」
「うん」
「じゃあ、手を」
「え?」
極自然に出された腕に彼女は驚く。
「人が多いですから、はぐれるといけませんし」
「う、うん。そうね」
恐る恐る少年の褐色の手と自分の手を重ねる。相変わらずドキドキする鼓動は早まっても止まらない。
「・・・・・ね、ゆっくり行きましょ」
「?」
「ほ、ほら、子供連れも多いから、気をつけてあげないと」
「えぇ、そうですね」
にっこりと少年らしい頬に笑顔を浮かべてティムカはアンジェに笑いかけると、少女の想像より強い力で握った手を引いて歩き出した。
「アンジェお姉ちゃんとティムカ君、あっちに行っちゃった」
「上手くいったみたいね。ま、元々疑うことを知らないしね、二人共」
「・・・・・この代金はアンズにつけるよ」
「払ったでしょ、前払いで。あれ以上はごめんよ」
「・・・・・いったい何を払ったんだ?」
以上、コソコソと木の影に隠れて二人を見ていた同行者達の台詞だ。
「やっぱ、あれね。ティムカ君を騙せるのはセイランくらいよね」
「どういう意味だい?それは?」
「そのままでしょ」
「まったくだ」
「ヴィ、ヴィクトールさん、お姉ちゃん、レイチェル・・・・・」
ようするに、セイランがティムカに『人が多くなって来たから自分達はあっちにいる』云々と嘘をついたらしい。もっとも、これについての責任は、他の四人も背負うものらしいが。
「ティムカ君の前だとどうしても嘘ってつきにくいのよね」
「そうそう、何か、冗談でも真に受けてくれるから、すっごく罪悪感出来るのよね」
「それがないのは僕だけって言いたいわけかい?」
「・・・・・違うのか」
「だ、だから、ヴィクトールさんもお姉ちゃんもレイチェルも、言い過ぎ・・・・・」
ボソボソと五人も固まってそんなことを話していたのだが、突然レイチェルがクシャミをした。
「ヤダ、寒いから風邪ひき始めたのかしら」
暑いのは比較的強いが寒さには弱い金髪の少女はコートの前をかき合わせると、早々に立ち去るべく四人に辞去の言葉を言った。
「またね」
「気をつけてね」
「バイバイッ」
手を振って見送る少女二人に男性二人から声がかけられる。
「・・・・・で、どうするの?」
「帰るか?」
その言葉に二人の方に向き直った姉妹は顔を見合わせた。
「私は、もうちょっと残りたいな。お守り、本当は私も見たかったから」
「そうだったの?なら、せっかくだしヴィクトールさんと一緒に行っておいでよ。いいでしょ?ヴィクトールさん?」
「かまわんが」
「じゃ、デートしといで、アンジュ」
クスクスと笑ってアンズが言うと、途端に真っ赤になってアンジュが頬を膨らませる。
「アンズお姉ちゃんっ」
「いいじゃない、別に。学校始まったらデートする時間なくなるんだもん。今のうちにしておけばいいじゃない」
あっけらかんと言ってアンズはセイランの方を見る。
「で、セイランは?」
「余り物同士ということで、アンズに付き合うよ」
「アリガト。・・・・・というわけだから、アンジュをお願いしますね。平地でもコケる子だから、今日は特に気をつけてあげて下さい」
「分かってる」
「ヴィクトールさんもアンズお姉ちゃんも、ひっどぉい」
「そう膨れるな」
プンプンッと怒る姿も幼く可愛い恋人の栗色の頭を苦笑しながらヴィクトールは、彼としては優しくだが、少女にとっては乱暴に撫でる。
「じゃあね。先に帰ってるから」
「失礼しますよ」
ほんの少しだけ可愛がっている妹達が離れていく寂しさを覚えながら、わざと陽気に手を振って踵を返すアンズにセイランも従う。
「こっちを通らない?」
「何でよ?」
「ただの散歩さ」
遠回りの道を示す青年の顔を見上げて、彼女はふと笑った。
「・・・・・そうね・・・・・」
「いないわね」
「いませんね」
嘘を言った同居人達がいる筈もないのだが、嘘を嘘と知らず来たのだから、二人は大きな木の下でポツンと立ち尽くすしかない。
「間違えたかな?」
「約束の木って言っていたんでしょ?だったらここでいい筈よ」
少女と少年が協力しても抱えられないような大きな木を示して、彼女が彼の自問を否定する。
「約束の木って、言うんですか?これ?とても大きな木ですね」
「あ、そうか。まだこっちに来て一年しか経ってないもんね。知らなかったのね?」
「ここの生活に慣れるのに時間がかかってしまって、知りませんでした」
ザラザラした木肌に手を当てて、薄墨色の瞳を少年は上へと向ける。
「この木の下で約束するとね、絶対にその約束は守られるんだって」
四つも年下とは思えない程落ち着いている、何時の間にか好きになっていた少年の隣でアンジェはそう説明した。
「どんな、約束も?」
「そう、どんな約束も」
少年の素直な光を宿す瞳が少女を映し、少女の弾けんばかりの輝きを灯した瞳が少年を映して見つめ合う。
「たとえばね」
言葉をきって、彼女は一度大きく息を吸った。
「たとえば、私がティムカ君とずっと一緒にいたいって思って、ティムカ君が頷いてくれたら、ずっと一緒にいられる、とか、ね」
驚いた瞳で自分を見ている少年を、少女は不安そうに見つめ返す。
「あの、それって、その・・・・・」
初めて聞く少年の狼狽えまくった声に、逆に少女の意識は冷静になる。
「ようするに、私はティムカ君が好きだから、ずっと側にいて欲しいってこと」
何時も何時も、自分は自分の姉や妹も含めて彼からは『お姉さん』的に見られていることは知っていた。最初は自分もそれが嬉しかった。最初は『妹』とはまた違った『弟』という年下の存在が出来たことが、純粋に嬉しかったのだ。だけど、今は・・・・・
「私はティムカ君が好きよ」
「だって、ぼ、僕、ずっと年下ですよ?」
「アンジュとヴィクトールさん程は離れてないわよ。・・・・・それに、好きなんだもん。理屈じゃないもの」
わたわたと狼狽えまくっていた少年は、ここでやっと少女の握り締めた指が震えていることに気がついた。
「好きなんだもの。それだけしか、ないのに、それを否定だけはしないで」
唇を噛み締めて俯く少女を瞳に映して、少年は慌てて言葉を紡ぐ。
「す、すみません。ひ、ひてい、否定なんてしません。すごく嬉しいです」
嬉しすぎる気持ちが生み出す勢いのままに彼は言う。
「僕もアンジェさん好きだから」
今度は少女が驚く番だ
「ほ、本当に?」
「今度は、貴女が否定するんですか?」
悪戯っぽく笑ってティムカが言うと、少女はブンブンと首を横に振った。
「そんなことしないっ」
「なら」
にっこりと彼は笑って少女の手をとる。
「これから僕達、両想いですね」
「最初は僕、アンジェさんのことお姉さんみたいだなって、思ってたんです。だけど、色々な話をしているうちに、どんどん心の中でアンジェさんの存在が大きくなって、気がついたら好きだったんです」
「私も、最初は弟が出来たみたいで、嬉しかったんだけど、何か、本当に気がついたら好きっていう、感じで」
クスリと二人は間近で顔を見合わせ、笑い、お互いの瞳に同じことを見つけた。
「・・・・・姉さん達は気がついてたわけね」
「多分、そうじゃないかと」
バツが悪そうに二人は笑い、自然に手を繋ぐ。
「そう言えば、この間の映画なんだけど、一緒に行かない?姉さん達には断られちゃったの。せっかくの前売り、捨てちゃうのはもったいないし」
「それって、僕達の初めてのデートって、考えていいんですよね?」
悪戯な子供のように、手を繋いだ二人は軽やかな口調でそんなことを言いながら、同じだけ軽やかな足取りで家路をたどったのである。
END
|