ある日の出来事
その日、異様なまでにクラヴィスの機嫌が悪かった。 「どうしたんですか?なんか、すっごく怖いんですけど」 ちょっとした用事でクラヴィスの部屋を訪問したルヴァは、開口一口そう切り出した。 「気にするな、何の用だ?」 「アンジェリーク、来ていませんか?以前頼まれた本が見つかったので渡そうとしているのですが、この頃会えなくて」 「知らん。リュミエールかマルセルにでも聞け」 「はぁ、分かりました」 触らぬ神ならぬ守護聖にたたりなし、とばかりにそそくさとルヴァは逃げ出した。背後で不機嫌のオーラが高まっていくのを恐怖と共にいぶかしりながら。 『マルセルの執務室に向かおうか、それともリュミエールの執務室に行こうか』と考えていたルヴァは、偶然にも同時に二人を前庭で見つけた。 「リュミエール、マルセル」 「何ですか、ルヴァ様」 「御用ですか?」 聖殿の庭に設けられた噴水の辺りで何か談笑していた二人の名を呼ぶと、返事が返って来た。この二人は基本的に話しやすい性格なのだ。 「アンジェリークを知りませんか?」 「今日はまだ会っていません。昨日エリューシオンの育成の為にランディとオスカーの力が必要だと言っていましたから、そっちじゃありませんか?」 「ここで待っていたらどうですか?ここなら門の近くです。あのアンジェリークのことです、きっと挨拶していってくれますから」 「そうですね」 そう答えてルヴァは談笑に加わった。 「皆様、今日和」 比較的交流しやすい三人に挨拶すると、当然ながら答えが返ってきた。 「ごきげんよう、アンジェリーク」 「今日和!アンジェリーク」 「アンジェリーク、以前に頼まれていた本が見つかったんです」 最後のルヴァの言葉にアンジェリークは顔を輝かせるが、腕の中のバスケットに目をやり少し困ったように、こう言った。 「すみません、今はこれを持っているので、後でかまいませんか?」 「えぇ、かまいませんよ。私はここにいますから、何時でも」 「ではまた後で」 にっこりと極上の元気で明るい笑顔を見せ、アンジェリークはランディとオスカーの執務室のある方へと足を向けた。 「アンジェリーク、何持ってたんだろ?」 「さぁ?」 アンジェリークの持っていたバスケットは三人の談笑の話題になり、あぁだこうだとしばらく話していたのだが、 「よお!」 「オスカー、アンジェリークに会いましたか?」 「あぁ、育成を頼まれた」 気軽に守護聖一のプレイボーイは答え、談笑の輪に入る。 「お嬢ちゃんも頑張るねぇ」 「そこがアンジェリークの良いところだよ!」 「何時もエリューシオンの事を気に掛けて、毎週土の曜日には欠かさず行っているようですし、民には随分信頼されていますね」 オスカーの一言にマルセルとリュミエールが言う。墓穴とも知らずに・・・・・ 「ほっほう、マルセルもリュミエールも随分お嬢ちゃんの肩を持つんだな」 「いえ、別に・・・・・」 口ごもるリュミエールと、 「僕アンジェリークすきだもん」 あっさり認めるマルセル。 「下手に口に出して、クラヴィスが聞いたらイジメにあうよ」 陽気な声で、誰がどう見ても派手なオリヴィエ。 「うーん、クラヴィスのイジメというと・・・・・安眠妨害(キッパリ)」 「セコい・・・・・」 がっくりと顔を伏せて苦笑する。 「だって、クラヴィスは闇だろ?やっぱ、安眠妨害だよ」 「そんなセコいことをする人か?永遠の眠りかもしれないぞ」 「暗い、本気で暗い」 「言いたい放題、言ってますね」 「リュミエール、当然これはオフレコな」 「分かっていますよ」 リュミエールとて、あれ以上クラヴィスの機嫌を損ねる気はない。この頃のクラヴィスは他から比べれば仲の良いリュミエールにすら、暗い不機嫌のオーラを放つのだ。 「しっかし、何でクラヴィスは・・・・・」 「私がどうしたのだ?」 「クラヴィス!」 『やっべぇ』というような顔でオリヴィエがそそくさとリュミエールの影に隠れる。クラヴィスの不機嫌のオーラの手から逃れるのに一番確実な場所なのだ。 「私が、どうした?」 冷ややかな闇の守護聖は再度言葉を紡ぐ。 「失礼ですが、確か甘いものは食べれましたよね?」 「あぁ、一応」 「良かった!執務室に戻って待っていれば、良いことがありますよ!さぁ、早く戻ってみて下さい」 何やら煙に巻かれてクラヴィスは執務室に戻り、残ったのは無意識に緊張していた他の守護聖だ。特にオリヴィエは汗をダラダラ流している。本気で怖かったのだろう。折角の化粧が台無しだ。 「助かった」 「感謝しろよ。お礼は一週間お茶の時間にカプチーノな」 「へいへい、仰せのままに」 悪戯っぽくオスカー、お道化てオリヴィエ。 何にしろ、明るい雰囲気が戻った。 「皆様お揃いですのね」 挨拶代わりにそう言って、アンジェリークが談笑の輪に近づく。しかし、何やら様子がおかしい。最初リュミエールやマルセルやルヴァに見せた明るい笑顔に、何やら影が射しているようだ。 「アンジェリーク、どうしたの?」 「いえ、別、に・・・・・」 素直で率直なマルセルは、思ったことをそのまま言葉にする。アンジェリークの表情の微かな暗さに気が付き、そのまま言葉にしたのだが、いきなりアンジェリークの瞳から涙が零れる。鳴咽を噛み殺し、必死に涙を止めようとする。 「ああー!マルセルが泣かせた」 「僕じゃないもん!」 「泣かないで下さい。どうしたんですか?」 「ついさっき迄元気だったじゃないか?」 慌てるフェミニスト集団。 「うっせぇな、何やってんだよ」 「アンジェリーク、どうしたの?」 めそめそした奴が大っ嫌いなゼフェルと、仕事まで一遊びしようかとアーチェリーの一式を持ったランディがやって来て各々 言った。 「あったく、女はこうだから嫌いだ」 「男がいいの?」 「誰がだ!」 オリヴィエにちょいと漏らした言葉にツッコミを入れられゼフェルが激昂する。 「誰が君を泣かせたの?」 大のアンジェリーク派であるマルセルが、その可愛らしい大きな目を思いっきり吊り上げて問い詰める。 「クラヴィスだろ」 「ですね」 仲の良い先輩後輩的なオスカーとランディが顔を見合わせる。 「クラヴィス様だって?どうしてアンジェリーク泣かすのさ!行こうアンジェリーク!絶対クラヴィス様に謝ってもらおう!」 しっかりちゃっかりアンジェリークの肩に手を回してマルセルは言い、立ち上がる。つられてアンジェリークも。 「お待ちなさい、いかにクラヴィス様とはいえ婦女子を泣かすなど・・・・・私も行きます。謝っていただきましょう」 優雅な動作でリュミエールもまた立ち上がる。細い手がアンジェリークのさらに細い手を取る。何処までが無意識なのだろう? 三人がクラヴィスの執務室に向かって行くのを幾分遅れてルヴァも後を追いかける。やじ馬と化した他の守護聖達も・・・・・変化に乏しい飛空都市に住んで数ヶ月、守護聖達が暇を潰すチャンスを逃す筈がなかった。 クラヴィスの執務室近くに、子供っぽいマルセルの声が響く。アンジェリークの右腕に自分の左腕を絡ませている。 「全く!何をしたんだ、クラヴィス様ったら!」 「別に、クラヴィス様のせいでは」 「では、誰です?答えれないでしょう?」 静かに辺りに染み渡るリュミエールの声。アンジェリークの左の手を右手でエスコートするようにもっている。 「クラヴィス様の馬鹿ぁ!」 「誰が馬鹿だ?」 軋み一つ上げずにドアが開く。先程よりも更に怖くなった闇の守護聖クラヴィスだ。思わずその迫力に二人はアンジェリークの腕と手を離す。 「ブラックホールを背負ってるみたい」 『あう・・・・・』と思わず半泣き状態になるマルセルに、何処から出したものかキャンディーを出してリュミエールが 「はいはい、マルセル。怖くはありませんよー」 ほとんど保母さんかまかり間違えばお母さんである。 「何の用だ?」 冷ややかな声に、マルセルが勇気を振り起こして言う。 「何でアンジェリークを泣かせたんです?」 「御返答によっては、クラヴィス様でも許しませんよ」 「ですから、クラヴィス様のせいでは」 「「黙って」」 ピシャリとアンジェリークはマルセルとリュミエールに言われる。 「さぁ、おっしゃって下さい」 「・・・・・ふぇ・・・・・」 「アンジェリーク!」 ペタンとその場に座り込んで泣き出すアンジェリークの頬を繊細なその両手でもって、リュミエールが包み込む。 「泣かないで、アンジェリーク。・・・・・私の水の優しさが貴方の心を潤しますように・・・・・」 そっと額に羽の感触。 「ズルい!アンジェリーク、僕の緑の豊かさが君の心を癒すように・・・・・」 本日二度目の羽の感触。 「おぉおっと!アンジェリーク嬢を巡ってリュミエールとマルセルが対決か?」 無責任にオリヴィエ。楽しそうだ・・・・・ 「俺も交ぜろ!」 天下のプレイボーイ炎のオスカー。楽しんでいる・・・・・ 「ダメ!アンジェリークは僕の!」 「誰が誰のものです?」 キッとリュミエールにしてはきつめの視線を向ける。もっとも、元気が有り余る最年少のマルセルだ、負けていない。 「ぼ・く・の!」 「俺のだよな、お嬢ちゃん」 火に油を注ぐようなオスカー。本気で楽しんでいる・・・・・ 「やぁ、皆がんばるねぇ」 「アンジェリークの意志は何処へ・・・・・」 「ないんじゃねぇのか」 「可哀想に」 傍観者四人組。止めろよ、お前等・・・・・ 「皆様、止めて下さい」 『グスグス』と泣きながらアンジェリークが言う。 「アンジェリーク、君を泣かしたのはクラヴィス様なんだろう?」 「何があったか、言って下さい」 「クラヴィス様のせいではないんです」 必死に弁護するアンジェリークに、引っ掻き回して楽しんでいた二人と傍観者をしていた面々が、 「他に何の理由で泣くのさ。俺の所に来た時はあんなに嬉しそうだったのに」 「バスケットに、クラヴィスへのプレゼント入れてたんだろ?だから俺にクラヴィスの好み聞いたんだろ」 「受け取ってもらえなかったのかよ?」 「でも、アンジェリークバスケット持ってないよ」 「アンジェリークはお気に入りだったのでしょう?どうして泣かしたんです?」 『何があった?』と言いたげな視線がクラヴィスに集中する。 「私は知らん」 『フンッ』とばかりにそっぽを向く。しかしその視線がアンジェリークに向かっているのに気がついた者はいない。何か複数の感情の混じった瞳だ。 「私、この頃クラヴィス様に良くしていただいているのにお会いしていなくて、久しぶりにお菓子を作って持って行ったら、なんだかクラヴィス様が怒っていらっしゃって、それが悲しくて・・・・・」 「やっぱり、クラヴィス様が悪い」 「せっかくわざわざ作って持って行ったのに」 「怒られたらねぇ」 「泣きたくもなるな」 なんとか言葉を紡ぐアンジェリークに傍観者の面々も味方になる。 「泣くんじゃないよ、お嬢ちゃん」 大きな手でオスカーが頭を撫でる。 悪者にされたクラヴィスは、さらに不機嫌になる。 「この頃ずっと機嫌が悪かったですよね?確か、日の曜日から」 『ポツリ』とルヴァ。『ピクリ』とクラヴィス。 「守護聖としての能力を休ませるあの日に、もしかしてアンジェリークを誘いに行ったのではないんですか?」 「俺それ見たぜ」 パッと手を挙げてゼフェル。視線が集まる。 「暇で作った望遠鏡で丁度見た。特別寮の方に行ってたから間違いない」 「もしかして、フラレたんですか?アンジェリークに?」 「・・・・・」 無言のクラヴィス。図星だったりする。 「この間なら、アンジェリークは私と公園に行ってクラヴィス様と会ってますよ」 言ったのはリュミエール。頷くのはアンジェリーク。 「自分はフラレてリュミエールと一緒の所を見たせいで機嫌が悪かったんですね」 得心顔のルヴァ、その他の面々。 「クラヴィス様が、いらっしゃっていた?」 キョトンとした顔になるアンジェリークに、クラヴィスが言う。 「あの日行ったら、お前は出て来なかっただろう?その後公園に行ったらリュミエールと一緒に来ただろうが!」 「知りません!リュミエール様と公園に行ったのもクラヴィス様にそこで会ったのも覚えていますが、クラヴィス様はリュミエール様の前に来て下さいませんでした」 「・・・・・」 「何処かで、誤解があるようですが」 調停役に何時の間にかなっているルヴァ。 「リュミエール、お前は何時頃に行った?」 「九時三十分過ぎです」 「私は九時だ」 「九時!じゃあ、分からないはずだわ!」 両手で口の辺りを覆ってアンジェリークが言った。一気に集まる守護聖達の視線に晒されながら、アンジェリークは口を開いた。 「私は朝の日課に冷水シャワーを浴びるんです。聖殿が開くのが十時過ぎなので八時に起きて、目を覚ます為に一時間近く入ります。私、低血圧なんです」 呆れたのか、誰も口を開かない。 「なるほど、水を使っていてはチャイムも分かりませんね」 苦笑を浮かべルヴァが言う。 「何してるんですか?」 「ロザリア!」 「な、何よ!」 掴みかからんばかりの勢いで、アンジェリークはジュリアスと共に彼の執務室から出て来たロザリアに詰め寄って聞いた。 「ロザリアは朝にシャワーを浴びる?」 答えは、 「浴びるわよ。ちゃんとした姿でないと皆様方に笑われちゃうじゃない」 「決定!クラヴィスが悪い!」 ルヴァの一言が決着を着けた、かに見えた。 「しっかし、あのクラヴィスがねぇ」 「単にフラレたと思い込んでスネてただけだものねぇ」 「あの日以来よく私はアンジェリークの部屋を訪問していたのですが、いけなかったんですね。クラヴィス様がアンジェリークに聞こうにも執務がたくさんおありでしたようですから、来てくれなくては聞けなかった筈です」 「僕もアンジェリークの所に遊びによく行った」 「少し控えろよ、マルセル。アンジェリークもエリューシオンを育成しないといけないんだから」 「何にしろ、クラヴィスが悪いということで、お開きにしよう」 「するな!馬鹿者!」 とうとう、クラヴィスが爆発した。 「あぁあ、どうしたものかしらね」 しばし考え、ロザリアはアンジェリークの腕を掴んで走る。アンジェリークは思わず転びそうになるのを、なんとかクリアする。 「ディア様に御相談するわよ」 妥当な意見だ。 さて、頼みの綱であるディアの答えは、 「放っておきなさい。たまには運動も良いでしょう」 『あれが運動なんだろうか』と、二人は顔を見合わせお互いの瞳に同じ思いがあるのを察した。 「ここからお帰りなさい。近くを通ると巻き込まれるかもしれませんからね」 ベランダ(ディアの執務室は二階だ)から一見しただけでは分からない、見事に建物に溶け合った梯子を示して言った。 「はい、明日も御指導よろしくお願いします」 「はい、また明日」 にこやかなディアの笑顔に見送られ、二人は梯子を降りて行ったのである。 さて、二人の女王候補生が無事に聖殿から出て行った後も九人全員で取っ組み合いをしていた守護聖達だが、なんとか日も暮れ始めた頃に正気に戻った。 「アンジェリーク達は?」 「帰ったんだろ」 「疲れた」 「背骨がギシギシいってる」 「育成に行かねぇと」 三々五々に言いながら、やっと正気に戻った守護聖達は自室や下の大陸に向かう。 「クラヴィス様」 結構激しい取っ組み合いだったのにもかかわらず、少々着崩れした程度のリュミエールが敬愛する先輩守護聖に問いかけた。 「アンジェリークは何を持って行ったのですか?」 風に吹かれて髪をゆらしながら、クラヴィスは何も答えなかった。 「教えて下さってもよろしいのに」 少々膨れ、リュミエールはそう呟いた。背後でルヴァが叫んだ。 「しまった!に本を貸すのを忘れていた!」 深夜に近しい闇の刻 「アンジェリーク・・・・・」 小さく青年は、明るく優しいかの少女の名を呟く。 「アンジェリーク、お前に『安らぎ』を贈ろう。私が司る『闇の安らぎ』が、今宵、お前を安らかな眠りの園へと誘うだろう」 白い手から輝く闇が現れ消える。冷ややかでしかし安心出来る穏やかな闇は、眠るアンジェリークの頭上から忽然と現れるとその力を行使した。 「お休み、優しい子。また明日」 何処からか、夜風が吹いて闇を司る人を優しく包み込んだ。囁く声も。 『クラヴィス様・・・・・』 「ぎゃははははは!」 「何だ?一体」 何やらけたたましい笑い声が複数する。嫌な予感というものが、ダイナミックにクラヴィスの背を駆け登る。 「あ、けぇって来たぞぉ!」 「何をしている」 「酒盛りぃ」 どうやら笑い上戸らしきゼフェルがけたたましく笑っている。陽気さに更に磨きをかけているオリヴィエが無理やりルヴァに化粧をしようとしている(ヤメろって)。普段の冷厳さは何処へ行ったのか、はた迷惑な絡み酒はジュリアス。 「待ぁってたぜぇ。何処へ行ってたんだぁ?あ、もしかしてお嬢ちゃんの所に夜ばいに行ったのか?」 オスカーの台詞に『ギクッ』とばかりに引きつるクラヴィス。『行った』のは当たりだったりする。正確にはアンジェリークの部屋の外の窓の近くまで行っただけ(これでも十分に変態な気がするが)。 「何ですって?」 「ひどい!僕だってまだ何もしてないのに」 酒が入って少々性格の変わったリュミエールと過激な性格になったマルセルだが、マルセル、何って何? 「どうだったぁ?上手くいったかぁい?」 「誰が夜ばいだ!」 「やっだなぁ、あんさん以外に誰がおりますねん?」 何処の出身だ、オスカー。 「お前という奴はそれでも闇の守護聖、私と共に陛下の左右に並ぶ者か!?」 「絡むな、ジュリアス」 「クラヴィス様!アンジェリークに手ぇ出したら貴方でも容赦しませんよ」 「まだ何もしてない!」 リュミエールに脅され、墓穴を掘るクラヴィス。 「まだだろうとこれからだろうと、ぜってぇアンジェリークに手ぇ出す奴は許さん!」 「喧しいぞ!マルセル」 「フフフ・・・・・前から考えてたげど、綺麗な髪だよねぇ?」 何だか妖しい雰囲気を背負いクラヴィスに迫るオリヴィエだが、目付きがイッちゃっている。危ない・・・・・ 「コラ!止めろオリヴィエ!」 「つれないなぁ。嫌なのは最初だけだよ」 「やぁめぇろぉ!」 「いけ!そこだ!押さえろオリヴィエ」 「そっち持てオスカー」 何か、台詞が危ない。 「あっはっはっはっはっはっ!」 「バック転行きます!」 「私の酒が飲めんのか!」 何やってんだか・・・・・ 「似合う!ぜってぇ美人だ!」 「喧しい!」 見事にオリヴィエとオスカーの二人の手で化粧を施されたクラヴィスが怒鳴る。ちなみに本気で美人だ。 「逆らうとろくな目に合いませんよ」 クラヴィスが犠牲に合っているうちにしっかり化粧を落としたルヴァが囁く。唯一まともそうなルヴァに、きつめの迫力美人に変貌させられたクラヴィスが聞く。 「何故こんなことになった?」 「最初は、ちょっとした取り決めをしていたんです。特別寮には九時過ぎになるまで行かないこと、って。アンジェリークもロザリアも朝に水を使っているようですから」 「で、決めている間に酒を飲んだのか?」 「はぁ、オスカーが持って来まして」 後はご覧の通り、である。 「クラヴィス、ルヴァ、なぁにやってんだよ!」 「寝たい」 「同感」 切実なため息を、二人は同時に漏らした。 次の日、守護聖全員が二日酔いになったことを追記する。 END |