ベスト・フレンズ


 ディアーナの第一印象は「お姫様らしくないな」だった。
 だってお姫様ってもっとおしとやかなもんじゃない?
 滅多に人前に出たりとかしないもんだと思うし。
 もっとこう…神秘的な存在っていうの? そういうもんだと思ってたんだ。
 あっ、でも誤解しないでよ。別に悪く言うつもりなんてないよ。 何ていうのかな、お姫様も普通の女の子と変わんないんじゃないって言いたいだけなの。
 そうディアーナもあたしと変わんない、普通の女の子なんだよね。
 だからあたしとも友達でいられるんだよね。

 メイの第一印象は「面白い子」でしたわ。
 だってわたくしを見て「本物のお姫様」って言ったのには驚きましたわ。 姫に偽者なんているのかしら?
 メイにとってわたくしが王女であるかなんて関係ないのですわ。
 メイにとってわたくしは普通の女の子なのですわ。
 だからわたくしとメイは友達でいられるのですわね。

 久しぶりに教科書を開いてみた。
 以前は全然理解できなかった内容が何故だか少しは理解できるようになった気がする。たぶん気のせいだろうけど。
 教科書を閉じようとした時控えめにドアをノックする音がきこえた。
「こんばんはですわ、メイ」
「いらっしゃいディアーナ。本当に来たんだ」
「勿論ですわ。わたくしは一度言った事は絶対に取り消しませんのよ?」
 えへんと得意げなディアーナを見て、こういうところがディアーナ らしいっていうか、まあ可愛いところなんだなと感心する。
「わたくし友達のところにお泊りなんて初めてなんですの。とても 楽しみですわ」
「あ、やっぱそうなんだ。お姫様ってそういうとこが不便だよねー」
「そうなんですの! メイなら分かってくれると思っていましたわ」
 友達の家に泊まるなんてメイにとってはそんなに珍しくはないけど、 ディアーナにとってはそうではないみたいだ。
 もともと今夜ディアーナが泊まりに来ることのなったのは、メイが一回 お城で暮らしてみたいと言ったら、ディアーナもメイのところに泊まってみたいと言い出したのがきっかけなのだ。
 まあそれも面白いかも、という事で今ディアーナはメイの部屋に いるのである。
「まあメイ。これはむこうの世界の本ですの? 見たことない文字ですわね」
「ああ、それね。教科書なの」
「教科書? メイが勉強だなんて珍しいですわね」
「失礼ね! あたしだってたまには勉強くらいするわよ、なんてね。もうすぐむこうの世界に帰れそうなの。だからちょっとは勉強しとこっかなって 思ってね」
「まあ……そうなんですの」
 今まで楽しそうにしていたディアーナが急にしゅんとなった。
 メイが何時かはむこうの世界に帰る。分かっていたつもりだったけど、 もっと先の事だと思っていたのだ。
「ディアーナ! 急に暗くなんないでよ」
「だって……メイがいなくなるなんて淋しくなりますわ……」
「ディアーナ………大丈夫よ、だってまだ帰れると決まったわけでもないし、それに……あたしこの世界に残るかも」
「え……それは嬉しいですけれど、むこうの世界にはお父様やお母様が いらっしゃるのでしょう?」
 この世界に残る……それは家族を捨てることになる。それは分かっている けどこの世界の人達とも別れたくない、そんな気持ちもあるのだ。
 特にキールとは………。
「うん……そうだよね。キールだってあたしを帰そうとがんばってるのに あたしがこんな事いってちゃいけないよね」
 キールはあたしを帰そうとがんばっている。
 彼ががんばっているのに帰りたくないなんて言えるわけがない。
 だって彼はあたしの事を何とも思っていない、間違って召喚してしまった 事に対する罪悪感しかない……。
「メイ……あなたむこうの世界に帰りたくないのですわね……キールが いませんものね、むこうの世界には……」
「そんなこと……」
「ありますわ。だっていつだってメイの視線の先にはキールがいますもの。 気づかないはずありませんわ」
 ディアーナがこんなに鋭いとは思わなかった。
 それともそんなにあからさまだったのだろうか?
「それにキールだって……」
「もういいわよディアーナ。あたしよく分かってるもん。キールはあたしの事なんてなんとも思ってない事くらい。だからさっさとむこうの世界に帰ったほうがいいのよあたしは」
「そんな! さっさと帰るなんて言わないでほしいですわ」
「ごめん、ディアーナ。もうこの話はやめて、そろそろ寝るわね。明かり 消すわよ」
 そういって明かりを消してさっさと布団にもぐりこむ。ディアーナも しかたなく布団にもぐりこんだ。
「おやすみ、ディアーナ」
「おやすみなさいですわ、メイ」

 ディアーナの視線を感じるけどとりあえず寝たふりを続ける。
 本当はキールの視線にだって気づいている。その視線の意味だって。
 だけどキールがあんまりがんばるものだからちょっとごねてみただけなのだ。
 だってあたしがむこうの世界に帰ったらもう合えないんだよ。それでも いいのかなって不安になるのは当然でしょ?
 だけどきっとキールはあたしを引き止めてくれるわ。そんな気がするの。
 だから心配しないでね、ディアーナ。あたしたちはずっと一緒よ。
 だからちょっと位心配かけても許してくれるよね?

 ディアーナはちらりとメイを見てため息をついた。
 まったく。メイはちっとも分かっていませんわね。
 キールの視線の先にはいつだって同じ人しかいませんのに。
 あの焼けるような視線に気づかないなんてメイは鈍すぎですわ。
 でも本当は気づいているのよね?
 だってわたくし達は親友ですのよ。気づかない筈はありませんわ。
 メイ、今は黙っていてあげますわ。
 でも、今だけですわよ?
「ふふ……覚悟していて下さいね、メイ」
「ディアーナ? 起きてるの?」
 いけない、思わず口に出してしまいましたわ。
「まあ、ごめんなさい。起こしてしまいましたわね。お休みなさいですわ」
「うん……お休み」



 本当ならわたくしがこの世界に引き止めておきたかったのに、 しょうがないからキール、あなたにその役目を譲って差し上げますわ。
 だからもしメイを泣かせたらただじゃおきませんわよ。
 メイはわたくしの大事な親友なんですからね。





             Fin