Fascinated Heart
眩い光が少女を包み込む< 栗色の瞳が真っ直ぐに見つめる 桜色の唇が動く 『サ・ヨ・ウ・ナ・ラ』 声は聞こえない けれども言葉は心に響いた 喪失 そうしつ ソウシツ 引き裂かれる痛みに心が叫ぶ 『行くな!』 心の叫びは声にならない 体は硬直して指先一つ動かせない ただひたすら見つめる 叶うならば少女を抱き締め決して帰しはしないのに! 一際鮮やかに少女は笑った 白い光が視界を焼く 後に残るのは何もない空間 ガバッ!! 毛布を跳ね上げ、青年が飛び起きた。肩で息をして生々しい夢の余韻を振り払うかのように軽く頭を振る。 「夢・・・か」 亜麻色の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜ、青年はため息をついた。 あまりにもリアルな夢。けれども、そのリアルさが青年にある事実を突き付けた。 心が血を流すような喪失感。ぽっかりと穴が開くような、いっそ、心が壊れればと思うほどの痛み。 「あいつを帰すということは・・・ああいうこと、なのか」 分かっていた。いや、分かっていたつもりだったのだ。 これほど、あの少女と別れることに心が悲鳴を上げるだなんて・・・ 「・・・すっかり、心を奪われてしまったってことか」 どうしても認められなかった事実。けれども、この夢を見た後ではそれを認めるしかなくて。 素直に感情を表せない自分にとって、少女の素直な表情は羨ましく、また眩しいものであった。 ぶうぶう文句を言いながらも自分が与えた課題を解き、賑やかな祭りには真っ先に参加する。かと思えば星空が好きだという意外な一面もあり、何度も空を見上げている姿を見た。 どこまでも強気で好奇心旺盛で何にでも首を突っ込み、自分はどれだけこの少女に振りまわされたか。 「・・・けれども、あいつは決して俺を責めなかった」 魔法実験に失敗して巻き込まれた、いわゆる犠牲者であるのに少女はこの状況を楽しもうという態度を貫いて青年を責めたことは一度もなかった。 それが、少女の強さ。置かれた立場を嘆くよりもまず、その状況を楽しもうという、一見お気楽に見える行動。未来を真っ直ぐに見つめる視線は少女の強さを確かに現している。 「・・・メイ・・・」 心の殻を破った想いは加速度的に膨れ上がり、少女を帰すことを考えれば心が悲鳴を上げる。 「メイ・・・っ!」 胸元のパジャマを握り締め、体を丸めた。心が痛くて、気が狂いそうだった。 「キールゥ?起きている?そろそろご飯だよ」 コンコン、と扉をノックして中を覗き込んだ少女がベッドの上で胸元を掴み、顔を真っ青にさせている青年を見て慌てて側に駆け寄る。 「キール!?どうしたの、どこか、具合でも悪いの!?」 青年の肩に手を掛け、青白い顔を少女は覗きこんだ。 栗色の瞳とコバルトグリーンの瞳が交差する。 「きゃあっ!?キ、キール!?」 いきなり青年に抱き締められ、少女は慌てて側から離れようとした。しかし、青年は力の加減もなしに少女を抱き締め、決して離そうとはしない。 「帰るなよ・・・」 「キール?」 「俺を置いて、帰るなよ。・・・俺の心を奪って帰るなよ」 手加減もなく抱き締められていてかなり息苦しい少女だったが、青年の言葉を聞いてそっと抱き締め返す。 「メイ?」 「帰らないわよ」 あっさりと、なんでもないことのように放たれた言葉。意味を飲み込むのにしばらく時間がかかる。 「帰・・・らない?」 「帰らない。・・・あたしの心を奪った人がここにいるのに、帰れないわよ」 呆然と青年は少女を見つめた。 今、自分が聞いた言葉は自分の願望が聞かせたものだろうか? 「メイ、本当に?」 「んもう、疑り深いわね」 じろっと睨んだ少女だったが、すぐに笑顔を浮かべる。 「キールが好きよ。何度でも言うわ。あたしの心はキールに奪われたの」 「メイ」 少女の肩に顔を埋め、青年は吐息をついた。 「ずっと、俺の側にいろよ」 「うん」 頷く少女の上に、影が落ちる。 朝日が差し込む部屋の中、二つの影はいつまでも離れなかった。 きっかけは少女が帰る夢。 けれども、心はずっと前から奪われていた。 お互いに奪い、奪われ、だけれどずっと一緒ならばそれは幸せなこと。 お互いだけをずっと、見つめているのだから・・・ END |