自分と同じ顔をした誰かが、問いかける。

 あなたは、誰。

 首をかしげて、眉を顰めて、そして彼はもう一度同じ問いを繰り返す。

 あなたは、誰。
 あなたは、何。

 なんのためにそこにいるの。

 その問いに、答えが返されたことはない。顔は曇って、曖昧な表情を さらすだけ。その答えが欲しくて、自分はここにいる。

 それなのに。

 男でもなくて女でもなくて、アンヘル種なのに魔法も使えなくて。 騎士としての腕さえも定かではなくて。そんな不安定な自分をいつも 持て余してきた。自分の存在意義を求めてきた。ここにいる意味が、理由が欲しかった。
 自分が、誰かに必要とされていると思いたかった。

 のぞき込む。そこには、悲しげに瞳を曇らせたもう一人の自分。束ねる前の 金の髪が頬を彩り、まっすぐに肩を覆うそれを、褒めてくれた人がいた。
 女のように美しいと言われても女ではなく、男のように強いと言われても 男ではなく。答えが欲しかった。自分が何者なのか、どうしてここにいるのか。 教えて欲しかった。
 その答えを、持っているのかも知れないあの人は。

 自分をどう思っているのだろうか。こんな中途半端なままの自分を。 この瞬間にも、自分のことに思いをよぎらせることがあるのだろうか。

 恋によって性別が決まる、と聞いたことがあった。特に、彼のように、 時期が来ても分化が起こらないような特殊な場合、外部からの刺激がそれを 促すこともある、と。それならば、自分はとうに女になっていなければならないのに。

 なんの兆しもない。分化、というものがどういうふうに起こるものなのか、 彼は知らない。ただ、それが起これば自分の体が変わっていくことだけは 知っている。どのように起こるものなのか、ただ、何らかの変化が起こるということだけは。

 もう一人の自分に問いかける。

 あなたは、誰。
 あなたは、何。

 なんのためにそこにいるの。

 返される答えは、まだ、ない。


END