Love Birthday


 白い騎士の制服を綺麗に着こなし、廊下を歩いていた純金の髪の美少女がある一つの部屋の前でその歩みを止め、中を窺う。探していた人物を見つけると嬉しそうな笑顔を浮かべ、その人の名を呼んだ。
「アイシュ様」
「シルフィスじゃないですか。どうしたんですか?」
 ふんわりとした笑顔を浮かべ、近隣諸国にまで鳴り響く美貌の女性騎士を射止めた王宮文官の青年は席を立つと少女の側まで歩み寄った。
「今日はお仕事、遅くなりますか?」
「いいえ、いつも通りに帰れますよ」
 それが何か?と首を傾げる青年に、少女はますます嬉しそうな笑顔になる。
「今日はアイシュ様の誕生日でしょう?ごちそうを作りますね」
「シルフィスのごちそうですか。それは楽しみです」
 にこにこ、にっこり。
 二人が顔を見合わせ笑い合う姿は一見、ほのぼのとしているが、漂わせている雰囲気は周囲の者達が胸焼けを起こしそうになるほど甘ったるかった。
 アツアツの新婚に何を言っても無駄だと悟っている周囲は、ただひたすら二人を視界に入れないようにして仕事をこなしている。
「それでは、早く帰ってきてくださいね」
「分かりました。シルフィスも仕事で怪我をしないように、気をつけて」
「はい」

 ちゅっ♪

 ついっとつま先だった少女が青年の頬にキスをすると、青年も笑顔を浮かべて少女の唇に軽く口付けを落とした。

 ちゅっ♪

 ・・・どこまでもアツアツで甘甘な新婚さんである。
 この二人の挨拶にも周囲は無関心を決めこんでいたが、全員が同じ事を思っていた。
(他所でやれ、他所で)
 ごもっともな意見だ。

「お誕生日、おめでとうございます、アイシュ様」
「有り難うございます、シルフィス」
 ワイングラスを軽くぶつけ、二人はこの上なく幸せそうな微笑みを浮かべる。
 お互いに惹かれあい、想いを交わし、側にいることを望み、そうして今、大切な人の大切な日を祝い、祝ってもらえることがとても嬉しかった。
 ずっとこんな風に日々が続くことがとても嬉しかった。
「アイシュ様、来年もごちそうを作りますね」
「それは、楽しみです」
 来年も、再来年も。どんなに時が過ぎてもこんな風に過ごすのだと確信出来る幸せ。
 確信している二人はどこまでも幸せだった。

 まったくの余談だが、この二人の万年新婚ぶりはいつまでも衰えることなく、胸焼けを起こす空気を相変わらずずっと周囲に振り撒いている。
 周囲の気苦労は計り知れない・・・。


END