側にいさせて〜メイ〜
ね、知っているかな? あたしがあんたを好きなんだってこと。 好き。すごく、大好き。一番好き。 大好きだから側にいたい。 女の子なら、恋をしている女の子なら当然の想い。 分かってくれるかな。 ずっと側にいたいってこと。 「メイっ、お前〜〜〜〜〜!」 「うっるさぁーいっ、ちょぉっと間違えただけでしょっ!」 魔法研究院の一角からいつもの言い合いが響く。 「ちょっと?これがちょっとっていう代物か!?」 緋色の肩掛けを身に着けた青年がぽっかりと開いた天井を指して怒鳴った。 「だいたい、練習していたのは風の防御術のはずだろう?それが、何で天井をふっとばす竜巻になるんだ!?」 怒鳴る青年に負けじと、少女も腰に手を当て、怒鳴る。 「そんなの、あたしだって知らないわよ!」 「いばるな!!」 非常に風通しのよくなった広間で、二人のほとんど意味のない言い合いが続く。 「あのね、キール。見えないかもしれないけど、あたしだってこれでも一応、一生懸命にやってんのよ?だけど、予想よりもはるかに結果が大きくなるんだもん」 膨れながらも抗議する少女に、青年もそれ以上は何も言えない。 確かに、いつも魔法を練習するとき、この少女が使う魔法は予想よりもはるかに大きな魔法として出現する。 少女の魔法力が桁外れなのか、それとも制御能力が悪いのか甚だ疑問ではあるが。 「・・・そうだよな。悪かった、怒鳴って」 いつになくあっさりと謝罪する青年に毒気を抜かれ、少女もモゴモゴと謝罪を呟いた。 「あ、いや、あたしも悪いけどさ。・・・魔法力を制御できないっていうのが、ネックなのよねぇ」 ため息をつく少女の頭を軽く撫でながら、青年も頷く。 「分かっているのなら、いい。お前の魔法力は本当に、桁外れだからな」 黙って青年の手を受け入れていた少女は、ボソリと呟いた。 「・・・本当に、不器用な奴」 「何か、言ったか?」 「ううん、何も」 耳聡く少女の呟きを聞きつけた青年が問うが、少女はにっこりと笑ってかわす。 「メイ?」 「この天井のこと、報告しないといけないでしょ?あたし、しておくから。で、制御の仕方をもう一度復習してみる」 「あ、ああ。・・・妙に、熱心だな、お前」 「そう?」 「ああ。何か、理由でもあるのか?」 「理由?あるけど、教えない」 もう一度にっこりと、鮮やかに笑った少女はくるりと身を翻すと小走りに広間を出ていった。広間を出たところでそっと、呟く。 「だって・・・まだ、言えないもん」 あたしが頑張るのは、キールのため。 キールの隣に立てるようになるため。 保護者ではなく、あたし自身を認めてもらうため。 そうしなければ、あたしは何時までもキールのお荷物だ。 好きだから。側にいたいから。だから、荷物であり続ける事はあたし自身が許せない。 時々、あたしの髪を撫でてくれる手。言葉は不器用なくせに、その手は饒舌で、撫でてくれるだけでキールの言いたいことが分かる。 さっきの手は、『それでも、お前は頑張っている』と言っていた。 優しいくせに、優しくみえない不器用者。 でも、あたしはそんなキールが大好き。 いつか、きっと、この恋を実らせるために、あたしは頑張るの。 とても、とても大好きな人。 あんたの側にいたい。ずっと、側に。 ずっと・・・ずっと、側に・・・ ね、側にいさせてよ。 END |