側にいさせて〜シルフィス〜


 知って・・・いますか?
 私が、あなたを好きなことを。
 好きです。大好きです。・・・愛して、います。
 ずっと、側にいたい。好きだから、側にいたい。
 恋をすると、こんな風に思うものなのでしょうか?
 けれども、思うのです。
 あなたの側にいたいと。

「シルフィス」
「はい。・・・あ、隊長」
 後ろから名前を呼ばれ、振り向いた少女は男を認めるとふわりと微笑んだ。
「今から時間をとれるか?巡回に行くのだが、相方が急病で行けなくなったのだが」
 無表情だが、男のその口調にはすまなさそうな響きが入っている。
 再び、少女はふわりと微笑んだ。
「私でよろしいのでしたら、相方を務めさせてください」
「すまないな」
「いいえ」
 ゆるく首を振った少女はふと、何かを思い出したようにくすり、と笑う。
「・・・?どうした?」
「いえ。少し、思い出しただけです。確か、以前にも同じようなことがあったな、と」
「ああ、そういえば、そうだな」
「あの時は本当に、隊長がいてくださって助かりました」
 そう言いながら巡回する少女の瞳は油断なく周囲を見まわし、以前のような見習い特有の危なっかしい雰囲気はない。名実共に、立派な騎士だ。
「・・・本当に、お前は成長したな」
「隊長?」
 男の呟きに少女は振り返り、見上げる。きょとん、とした、騎士としては不似合いな無邪気な瞳に苦笑を漏らし、男はポンポンと少女の頭を叩いた。
「あの時とは違って、今はお前も立派な騎士だ」
「・・・有り難うございます」
 ふと、少女の瞳に憂いが浮かび、しかしそれを隠すように少女は視線を逸らせる。ごく、さりげなく、不自然に見えないように。
「お前はよくやっている。だが、無理はするな」
「・・・はい」
 少女が夜遅くまで訓練をしていることを男は知っているのだろう。
 さりげない、いたわりの言葉を貰い、それを嬉しく思いながらも、それでも少女はため息を禁じえなかった。
 時折、自分の頭を叩く男の行為はどうしても、子供扱いにしか思えない。
「シルフィス。女性となっても、騎士になりたかった理由があるのか?」
 ふいに投げかけられた質問に、少女は瞳を見開き、次いで悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「ええ、ありますよ。けれど、教えません」
 くすくすと楽しそうに笑う少女に、男もつられて笑みを浮かべる。
「教えない、か」
「はい」

 私が騎士になるために頑張り、その後頑張ったのも、隊長がいるから。
 隊長の隣に立ち、対等に視線を交わして。
 そうして、隊長に認められるために。
 好きだから。隊長が、好きだから。
 だから、守ってもらうだけの私にはなりたくなかった。
 いつか、きっと、この恋を実らすために、私は頑張った。

 この世で一番、大切なあなた。
 大好きで、大切で、大事なあなた。
 大好きです。
 だから、ずっと、あなたの側にいたいのです。

 ねぇ、側にいさせてくださいね。


END