闇に射す光
純金の騎士見習いがふわりと微笑む。 「エルディーア・・・ノーチェ」 綺麗な声でわたくしの名を呼んだ純金の騎士見習いは、わたくしの中の闇を照らす純金の光。 ある日の午後。 憂い顔の美女が人待ち顔で広場の噴水の縁に腰掛けていた。 ブルーグリーンの髪、サファイアの瞳。神秘的な雰囲気をまとった女性ははっとさせるような、印象的な美しさを見る人に与える。 そんな美女に一つの純金の影が駆け寄った。 「すみません、ノーチェ。待たせてしまいましたか?」 ずっと駆け通しだったのだろう。軽く息をはずませている少女に、美女は柔らかな笑みを向ける。 「大丈夫よ。約束の時間はまだでしょう?」 「ええ。でも、今日は私のお願いを引き受けてくれましたから、いつまでも待たせては・・・」 「相変わらず、律儀なことね」 くすくすと軽やかな笑みを零した美女は腰掛けていた噴水の縁から立ち上がると軽く首を傾げた。 「で、どんな服が欲しいのかしら?」 「そうですね・・・」 美女と同じように首を傾げ、純金の少女は考え込む。 出会った頃、まだ性別の定まっていなかった純金の騎士見習いは寒さの緩んできた早春、ほっそりとした優美な美少女へと変化した。 能力的にはまったく問題なく、また、騎士の昇格試験にも優秀な成績を示した少女は初の女性騎士として認められ、あちこちで活躍している。 「では、やはり動きやすいものがいいのね?」 「ええ。やっぱり、窮屈なのは苦手ですから」 何かと忙しい少女ではあるがその忙しさが災いしてまだ、女性用の服を入手していない。ようやくまとまった休みが取れた少女は用事があるからと延び延びになっていた服の購入を計画しようとして、ある事実に気づいた。 つまり、自分が女性用の服については無知にも等しいということを。 困り果てた少女はある事件をきっかけにして親しく交際するようになった女性に事情を説明し、助けを求めたのだった。 「ところで、一つ聞いてもいいかしら」 服を手にしながらブルーグリーンの髪の美女は、妹のように可愛がっている美少女と一緒に服を選ぶ約束をした時から持っていた疑問を口にした。 「はい、私で答えられることでしたら」 「たいしたことではないのだけれど・・・どうして魔導士のお嬢さんや王宮のお姫様と一緒に服を選ばないのかしら?わたくしを頼ってくれたのはとても嬉しいけれど、普通なら年の近い友達を選ぶものでしょう?」 当然といえば当然の疑問である。そんな美女の疑問に、純金の美少女は親友達を思い出したのか、苦笑を浮かべた。 「確かに、最初は彼女達に手伝ってもらおうと思っていましたが・・・彼女達に相談すると着せ替え人形になってしまいますのでちょっと、遠慮させてもらったんです」 「あぁ、成る程ね」 非常に納得する理由に美女も苦笑しながら頷く。 何せ、少女は絶世を誇る美貌の持ち主だ。それ故に何を着せても似合いそうであれもこれもと着せたくなる心理は非常に理解できた。 「わたくしもそうしたくなるもの。お嬢さん達ならきっと、するわね」 「ノ、ノーチェ?」 思わず腰が引ける少女に美女はコロコロと笑う。 「心配しなくてもそんな時間の無駄はしなくてよ」 それに、貴女に嫌われるような行動もね。 胸の奥で呟く言葉は自身を戒める鎖にもなる。 優しい貴女。敵であるはずのわたくしを受け入れてくれた貴女。 貴女はわたくしの光。 闇の中、目的もなくただ生きるだけだったわたくしに光という道標を示した貴女。 何よりも、誰よりも、大切なわたくしの光。 貴女が男性に変化しようと、女性に変化しようと、どちらでも良かった。 貴女が貴女のまま、純粋で真白な心でいれば。 わたくしの希望でいてくれさえすれば。 わたくしは、わたくしの人生を捨てたことを悔やみはしない。 眩くも優しい純金の光。 貴女はずっと、わたくしの闇を照らすただ一つの光。 END |