甘い看病〜Sylphis−side〜


(大分楽になったかな……)
 シルフィスはベッドの中でふうっと息をついた。
 あの夜からレオニスの風邪をもろに引きうけてしまったらしいシルフィスは、今朝熱を出して仕事を休んでいた。
 だが、今は熱は引いたようだ。メイからもらった薬が効いたのかもしれない。
 ぼんやりとカーテンからわずかに覗く窓の外を眺めると、日は高かった。ちょうど昼下がりの 頃なのだろう。
 レオニスに抱かれたあの夜のことを思い出すだけで頭に血が上り、熱が上がりそうになる。
 考えて見れば、恋人になったその日の夜に……とは、なんとも早過ぎる展開で、シルフィスはしばらくまともにレオニスの顔が見れなかった。というか、すぐに寝こんでしまい、そのままレオニスの顔を見ていないだけのことなのだが。
 だが、ベッドに一人横たわっていると、妙に寂しい気がした。
 自分を抱いて引き寄せる硬い腕、全身を熱くさせた唇、すべての感覚を酔わせる蒼い瞳…。
 何もかもが鮮明に思い出され、焦がれている自分に驚く。
 一瞬でも離れていたくない。いつもその腕に抱かれていたい……。
 そんな自分が恥ずかしかったが、本当の気持ちだった。
 そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい…?」
「私だ。」
 びくんと身体が震えた。 あわてて飛び起きてガウンを羽織り、ドアを開ける。
「レオニス様……。」
 レオニスはほっと安堵したように息をつくと、ドアを閉めてシルフィスを抱きしめた。
「よかった…それほどひどくはないようだな。」
「は、はい…。」
 あの夜と同じ腕の感触と髪の香りに、シルフィスは真っ赤になって身体を硬直させた。
 レオニスはそのままシルフィスを抱き上げると、ベッドに横たわらせて傍らに座った。
「すまなかったな、私のせいで…。」
 髪を撫でる大きな手にまだ頬を染めながら、ぼそぼそと呟く。
「い、いいえ…あの、お仕事中なのに来てくださったのですか?」
「仕事はいつも余裕をもって進めているからな。今日くらい休んでもたいしたことはない。…おまえのほうが大事だ。」
 当たり前のように紡がれた言葉に、シルフィスは熱が出そうなほど酔った。
 白い手で、その大きな手を包み込んで愛おしむ。
「お会いしたかった……。」
 潤んだ翡翠に射すくめられ、レオニスはかすかに眩暈を覚えた。
 手にシルフィスの形のよい紅い唇が寄せられると、その柔らかい感触に狂いそうな理性を必死で抑えつける。
 レオニスはそっとシルフィスの手から逃れると、少し離れた。
「もう休め。……おまえが眠りにつくまで、ここにいるから安心しろ。」
 シルフィスは上半身を起こして俯いた。
 細い体がかすかに震えている。
 かすれた声が、ためらいがちに言葉を紡いだ。
「……寒い、です…。」
「……火を強くするか?」
 暖炉に近づこうとするレオニスを、細い腕が引きとめた。
「もう…抱きしめてはくれないのですか?」
「……。」
 レオニスは崩れそうな意志をなんとか支え、落ち着いた声で宥めた。
「おまえを抱きしめれば、それだけではすまなくなる……。無理をさせたくはない。今日は 休むんだ。」
「…あなたがいないと休めません……。」
 震えるシルフィスの言葉は、レオニスの必死の努力をあっさりと崩した。
 うっすらと紅潮した頬に、そっと触れる。
「…もう…毎夜おまえなしではいられなくなる……それでもいいのか?」
 長い睫が濡れたように煌いた。
「私は…すでにそうです…。」
 ゆっくりと顔を近づけ、瞳を閉じて唇を重ねる。
 やわらかな唇を開かせ、舌を絡め取る。
「はっ…あ……。」
 キスの合間にもれる声はどこまでも甘くレオニスを酔わせた。
 白い肩に口付け、ゆっくりと服を下ろしていく。
 窓の日は傾きかけ、空は赤くなりつつあった。
 カーテンの隙間から差し込む陽の光に洗われた金の髪が、燃えるように輝いている。
 やわらかな白い胸に唇を寄せると、シルフィスは本能的に逃げるように身体をずらせようとした。
 だが、レオニスの腕がその動きを止めた。
「……逃がさない…。」
 先端を舌先で弄ばれ、もう片方の乳房にも指が忍び寄る。
「あんっ……や…レオニス…っ。」
 そのかすれた声さえも、レオニスを狂わせるほどに甘く誘う。
 濡れて潤った秘所に舌を入れ、焦らすようにさまよわせる。
 シルフィスの身体が反る。
「やぁ……も、だめ…レオニス……だめ…。」
 耐えきれないほどの快感に身を貫かれ、シルフィスはなす術もなく懇願した。
 レオニスはふっと笑みを浮かべ、その紅潮した耳朶を優しく噛んだ。
「きゃ……っ。」
 ぞくっとして思わず悲鳴をあげる。
 熱い息遣いとともにレオニスの甘い声が囁いた。
「どうしてほしい…?」
 シルフィスはほとんど気絶してしまいそうなほどに朦朧としていたが、レオニスの囁きに鳥肌が立つほど感じて身をよじった。
「そ…そんなこと…言わせないで、くださ…い…。」
「おまえが私をここまで狂わせ、溺れさせているのだぞ。……多少の意地悪はさせてもらわねば な……。」
 なお焦らすように、指が下肢をすべるように撫でる。
「んっ……はぁっ……もう、ずるい…ですっ…。」
 潤んだ翡翠が甘く睨む。
 レオニスは観念したように苦笑すると、深く口付けた。
「ずるいのはおまえだ。……優位に立っているのはいつもおまえなのだからな……。私はおまえの甘い囁きに、その言動に…いつも屈せられてしまう。たまには…私がおまえを溺れさせてみたいものだ。」
 シルフィスの細い腰を持ち上げ、開かせた脚の間に自らを深く収める。
「ああっ…んっ、ふ……うっく……。」
 レオニスの強弱をつけた腰の動きに、シルフィスはただその感覚を奪われて声を漏らすだけだった。
「はあっ…や……レオニス…あんっ……。」
 貫かれたまま胸に寄せられた唇に意識が揺さぶられる。
 気が狂いそうだ。シルフィスは上り詰めそうになりながら必死にレオニスにしがみつく。
 密やかな水音と喘ぎ、甘く響く吐息にすべてをゆだねて溺れる。
 お互いの激しい恋の囁きに―――今はただ溺れて……

 シルフィスが目を開けると、部屋はすっかり暗かった。
 そっと顔を上げると、黒髪に包まれた静かな寝顔があった。
 長い睫が伏せられ、穏やかな寝息を立てている。
 眠っていてもしっかりと自分を抱いている腕に確かな安らぎを感じて、シルフィスはそっとその唇にキスをした。
(毎夜この方に抱かれて眠りについたら……ずっと熱が下がらないかもしれないな)
 そんな思いが頭をよぎり、くすりと笑う。
(でも、離れても寒くて眠れないから……おんなじか。ふふっ…可愛い寝顔…)
 もう一度キスをして、そっと目を閉じる。
 冷めない恋の熱に冒される時間はこれからもずっと続く。
 ずっと――永遠に……


END

コメント

遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます。
前回送った作品の後日編です……うう、レオニスがもうオリジナルから かけ離れてますね…くすん。
イリスさん、すてきな贈り物をありがとうございました。
お返しがこんなもんでごめんなさい(爆)。
これからもよろしくお願いいたします〜。

Written by SIRFIS
For IRISU
1999/6/12

イリスより

SIRFISさんとは実は、誕生日が10日違い。
あまりの近さに親近感を覚え、誕生日祝いの創作(しかも、裏(爆))を
押し付けたのに、喜んでくださった上、イリスの誕生日祝いまで頂けるとは・・・
海老で鯛を釣ってしまいました(笑)
本当に、有り難うございます。