バス・タイム
「うっわー、びしょびしょ」 栗色の髪の少女が肩に羽織ったケープを外し、ぎゅっと絞ると大量の水がぼたぼたと落ちた。 「早く、お風呂に入った方がいいですわね」 水を吸って重くなった帽子を頭から下ろしながら、薄紅の髪の少女が女官にその旨を依頼する。 「あ、私は後でかまいませんから、お二人でどうぞ」 顔に張りついた髪を剥がしながら純金の髪の少女が少しうろたえたように早口で言った。 薄紅の髪、紫紺の瞳を持つふわふわとした可愛らしい少女は<ディアーナ・エル・サークリッド> この国、クライン王国の第二王女である。おっとりとした性格ではあるが、趣味のひとつに王都のおしのびがあったり、ドレスで木登りをしたり、なかなかお転婆なところもある少女であった。 栗色の髪、栗色の瞳を持つ可愛いけれども勝ち気そうな雰囲気の少女は<メイ・フジワラ> 魔法研究院の魔法実験失敗でこの世界に召喚されてしまった異世界の少女である。好奇心旺盛で興味のあるものには首を突っ込みたがり、一部の者には「歩く台風」と認識されている少女であった。 純金の髪、エメラルドの瞳を持つ絶世の美貌を誇る少女は<シルフィス・カストリーズ> クライン王国初の女性騎士である。生まれた時には性別がなく、思春期を迎える頃に男女のどちらかに変化するアンヘルという特殊な一族の民であり、去年の秋頃、女性へと変化した少女であった。 この三人の少女達が出会ってまだ1年である。 しかし、立場も性格もまったく違う三人の少女達は妙に気が合い、少しずつ親交を深め、今ではお互いに親友とも言える間柄を築いていた。 四月に入ってから三人はそれぞれに忙しく、ようやく顔を合わせることの出来た少女達は王宮の中庭で話しこんでいたのだが、春先の不安定な天気は快晴だった空をいきなり雨模様に変え、三人の少女達を上から下までずぶ濡れにしたというわけである。 入浴を辞退した純金の少女を、薄紅の少女と栗色の少女が揃って睨みつける。 「何、言っているのよ」 「そうですわ。それでは、シルフィスが風邪を引いてしまうではありませんか」 詰め寄る二人を困ったように見ながら、それでも純金の少女は首を横に振った。 「伊達に鍛えてはいませんから、大丈夫ですよ」 だがしかし、純金の少女の親友達はその言葉に納得せず、ぐいぐいと女性騎士を浴場へと引っ張っていく。 王宮の中、第二王女の部屋にしつらえた浴場は使う少女の趣味により、可愛らしいピンクでまとめられていた。 壁に使用しているタイルは淡いピンク、ところどころに小さな花束を描いたタイルを使用している。床は濃い目の臙脂色、だだっ広いとしか言いようのない浴槽は白大理石で、真ん中には水瓶を持った女性像。その水瓶から浴槽へとお湯がこんこんと流れ込んでいた。 半ば強引に脱衣所に連れ込まれた純金の少女は更に困った顔で二人の親友の顔を代わる代わる見つめる。 「あの・・・本当に、私は後で入りますから・・・」 「だーめ」 「だめですわ」 二人同時に勢い良く反論され、純金の少女はずるずると後ろに下がった。 「ひ、姫、メイ」 「どうして逃げますの?」 「あたし達と入るの、そんなに嫌なわけ?」 「い、いえ、そういうわけでは・・・」 悲しそうな顔に思わず首を横に振ったのがいけなかった。途端に、二人の顔が明るくなる。 「だったら、一緒に入ってもかまいませんわよね?」 「シルフィス、ちゃんと女性に分化したんでしょ?だったら問題無いよ」 「い、いえ・・・その、私が見られたくないので・・・」 ずるずると下がっていた純金の少女だったが、いくら広いとはいえ、脱衣所にも壁はあるのだ。ベタッ、と壁に張りつく格好になった純金の少女を、にんまりと笑った二人の親友達が同時に羽交い締めにする。 「女の子同士で恥ずかしがること、ありませんわ」 「そうそう。ぱぁーっと脱いじゃいなよ」 「ちょ、ちょっと、待って下さい〜〜〜っ」 たとえ、女性に分化しても騎士としては優秀で、新人騎士の中でもその腕は一、二を競うほどの能力を持つ純金の少女であったが同時に騎士道精神も見事に磨かれていたため、自分よりもか弱い女の子である親友二人にはどうしても力任せの行動は取れない。これが男相手ならば問答無用で殴り飛ばしているのだが。もちろん、二人の少女達も純金の親友のそんな性格を見越しての行動であった。 「メイ、こっちは押さえましたわ」 「了解。さ、シルフィス、脱いだ、脱いだ」 「きゃあぁっ」 ・・・会話だけ聞いていれば、無茶苦茶危ない台詞の連発だ。 「・・・シルフィス?」 「こ、れは・・・?」 二人の視線の意味を理解した純金の少女は苦い笑みを浮かべ、前髪を掻き揚げながら自分の体を見下ろした。 「お二人にこれを見せたくなかったから、後で入ると言いましたのに・・・」 形の良い胸、細い腰。 騎士として鍛えているにもかかわらず、純金の少女の体は筋肉でガチガチに固まってはおらず、適度な柔らかさを持ち、そして綺麗なプロポーションを保っていた。日に焼けることを知らないような白い肌は触りたくなるような瑞々しさを持っていたが・・・その肌にいくつもの傷が刻み付けられている。 裂傷、切り傷、火傷・・・種類も様々な傷が。 「これ、全部・・・騎士になってからですの?」 「どうして、ちゃんと治してもらわないの!?」 親友達に詰め寄られ、純金の少女はため息をついた。今にも泣き出しそうな彼女達・・・そんな顔を見たくないからこそ、隠していたというのに。 「治療はしましたよ。・・・治癒魔法ではありませんけど」 「遠征から帰った後でも、魔法研究院へ行けばよろしいのに」 「・・・一応、私も女性としての羞恥はありますから・・・」 「あ、そうか」 純金の親友の言葉にポンッと手を打ち、改めて体を見てみれば傷は胸元や腰周りなどに集中している。 「魔導士って圧倒的に男性が多いですわね、確かに」 「そうか、それで魔法での治療を躊躇ったってわけ」 「まぁ、そういうことです」 頷く純金の少女の体をじっと見つめていた栗色の少女がその傷に手をかざした。 「メ・・・」 「黙って、ですわ」 声をかけようとした純金の少女を、薄紅の少女が制止する。栗色の少女の意図を理解したために。 栗色の少女が小さく呪文を呟くとその手に淡い緑の光が集まり、純金の少女の傷に降り注ぐ。暖かな波動に、純金の少女の唇から気持ち良さそうなため息が零れた。 「気持ち良さそうですわね、シルフィス」 「ええ。暖かくて・・・お風呂に入っているみたいです」 「じゃ、これが終わったら一緒に入ろうね」 にこり、と笑う親友達に純金の少女も今度は素直に頷く。辞退していた理由である傷が消えてしまったのであれば、頑なに拒む必要もない。 「・・・はい、終了」 「さすが、メイですわ。綺麗な体になっていますわね」 「有り難うございます、メイ」 薄紅の少女が感嘆したように、あれほどあった数々の傷が栗色の少女の治癒魔法で綺麗に消えていた。 純金の少女の礼に頷いた栗色の少女はふと、真剣な表情になる。 「あのね、シルフィス。これからはあたしが傷を治してあげるから、だから、遠征の後、あたしのところに来て」 「・・・でも・・・」 「シルフィスがわたくし達に心配をかけまいとしているのは、分かりますわ。けれども、シルフィスはわたくし達の大事な親友ですのよ?心配もしますけど、それ以上に貴女の体に傷があるままなのは、嫌ですの」 「ね、だから、変に隠したりしないで」 「お願いですわ」 「・・・はい」 代わる代わる自分の気持ちを訴える親友達に純金の少女はふわり、と微笑んで了解した。自分を思う親友達の心が何よりも嬉しかった。 「さぁて、本格的に風邪を引く前に、お風呂に入っちゃお!」 栗色の少女の当然ともいう意見に親友達も頷き、衣服を脱ぐと少女達は浴場に入っていく。 「・・・まぁ、メイってば、結構胸がありますのね」 「本当ですね。メイは着痩せするタイプなんですか」 「ディアーナも細い、細いと思っていたけど、すごく腰が細いじゃない」 「・・・これでよく、木登りが出来ますね」 「シルフィスだって、細いではありませんか」 「姫ほどではありませんよ。それに、これでも筋肉はありますから」 「そう?何だかそんな風には見えないけどな。胸だって割と大きいし、形もいいし」 お湯に浸かり、冷えた体を温めながらも少女達のおしゃべりは続いていたのだが、薄紅の少女が純金の少女に向かって爆弾発言を投下した。 「ね、胸に触ってもかまいません?」 「え?え?」 「あ、あたしも、あたしも!シルフィスの胸って、柔らかくって気持ち良さそうだもん」 焦る純金の少女を目の前にしていながら、栗色の少女も勢いよく薄紅の少女の要望に便乗する。 「あ、あ、あ、あの、あの・・・」 「ほらほら、逃げない、逃げない」 「メイ、捕まえていてですわ」 「任せて」 「お二人とも、待って下さいって・・・うわぁっ」 「往生際が悪いですわ、シルフィス」 ・・・危ない台詞の連発、第二弾である。 「うわぁ、柔らかーい」 「本当ですわ。それにほら、片手では余るぐらい、大きいのですね」 「・・・っ」 ふにふにと二人に胸を刺激され、はからずも漏れそうになった声を純金の少女は必死になって堪えた。が、次に感じた刺激にびくんっと体を震わせてしまう。 「え?ひょっとして、シルフィスって、敏感なんだ?」 「い、いえ・・・」 慌てて否定してみせるものの、背筋を指先ですうっと撫で下ろされ、今度こそ声を漏らしてしまった。 「シルフィス、ここが弱いのですね」 「ふぅん。じゃ、ここは?」 「あっ・・・だ、め・・・っ」 抵抗しようにも、力ずくで出来ないことは脱衣所の出来事で分かっている。しかし、それでも何とかならないかと純金の少女は弱々しく首を振った。 「う・・・わ、シルフィス、可愛い」 その仕草を見た栗色の少女がボソリ、と呟く。 「ええ。それに普段はストイックな雰囲気ですから、すごく色っぽいですわ」 薄紅の少女がうっとりと目を細め、脱力している白い体を見つめた。 纏め上げた純金の髪が一筋、二筋、頬や首に張りつき、力を無くしたように浴槽に体を預けている。与えられる刺激にうっすらと頬を染め、乱れた呼吸を正常に戻そうと瞳を閉じて薄く唇を開いている姿は普段の凛々しい女性騎士とは正反対に、妖艶ささえ漂っていた。 「これだけ色が白いと、キスマークも映えるだろうなぁ」 「ちょっと、つけてみましょうよ」 にっこりと、実に可愛らしく微笑んだ薄紅の少女は純金の少女の首筋に唇を寄せるとペロリと舐め、次いで少し強めに吸う。ちりっとした刺激が純金の少女の背筋を走った。 「あんっ」 普段の涼やかな声とは違って、ひどく甘く響いた声に驚いたのは純金の少女自身であった。 「や、やだ・・・」 「恥ずかしがることないじゃない。可愛いよ、シルフィス」 「これだけ敏感だと、いろいろとしてあげたくなりますもの」 くすくす笑いながら薄紅の少女はまた、別の場所に唇を寄せ、純金の少女の白い肌に紅い華を咲かせた。 栗色の少女はまろやかな双丘を柔らかく揉み、時折頂点の蕾をつまんだりする。 「ふ・・・あ、あふっ・・・う、ん・・・はぁん・・・」 二人に与えられる刺激に抗いきれず、純金の少女は喉を晒して喘いだ。エメラルドの瞳が沸きあがる快感に反応して潤み始める。 「すご・・・色っぽーい」 「本当に感じやすいんですのねぇ」 手首の裏側をチロリと舐めた途端、ビクッと体を震わせて純金の少女が反応するのを見た薄紅の少女は感心したように言った。 「ここもね、シルフィスは弱いみたいなの」 「どこですの?」 栗色の少女の言葉に薄紅の少女がその手元を覗きこむ。栗色の少女の手が純金の少女の脇腹をさわさわと撫でると、純金の少女は背を反らせてびくびくと震えた。 「あ、は・・・あんっ」 二人の手の動きによって快感を煽られ、その熱は次第に下肢へと集まっていく。お湯に浸かっていても、自分の中心が濡れていくのが分かった。無意識に腰が熱の開放を求めてうごめく。 「シルフィス、ひょっとして、ここ?」 「ああっ!」 するり、と花弁を撫でられ、純金の少女は嬌声を上げた。体中の感覚が一気に下肢へと集まっていくような感じに、純金の少女は身悶える。 「ね、シルフィス。キス、しましょ?」 薄紅の少女が両手で頬を包み、上へと向かせた。紅色の唇に桃色の唇が重なり、そっと舌が入りこむ。 「んっ・・・ふ、あ・・・んむぅ・・・」 舌をくすぐられるように刺激され、甘い呻き声があがる。もう、それを恥ずかしいと思うような余裕はなかった。 「可愛い、シルフィス」 にっこりと笑った栗色の少女が柔らかい丘に口付け、頂点にある蕾を口に含む。キュッと堅くなった蕾を舌で転がすように舐めたり吸ったり、時折軽く噛みつくと純金の少女は背を反らせて喘いだ。 「あ、あん、は・・・ん、あぁん、はぅっ」 二人の少女によって上半身に数多くの紅い華が咲き、上気した体を彩っている。その紅い華を撫でていた指が下肢に降り、蜜を溢れさせている花弁の中心へと埋められていった。 「あ、あ、あ、あ、はぁんっ」 「シルフィスの中、とても柔らかくて熱いですわ」 「そう?じゃ、あたしも」 「あ・・・だ、だめっ・・・はうっ」 薄紅の少女の指が沈められている花弁に更に栗色の少女の指が沈められ、痺れるような感覚が背筋を走る。 「あ、あうっ、は・・・あん、あぁっ」 更には二人同時に指を動かされ、信じられないほどの快感に純金の少女は眩暈を起こしたような気になった。 「あ・・・も、もう、や・・・め・・・あ、あはぁ・・・」 一気に頂点に向かって走り出した体を止める術はなく、縋りつくもののない不安定なお湯の中で純金の少女は必死に足を突っ張って体が倒れないようにする。そして、それが尚更自分の中にある指を絞めつける結果となっていた。 「すごいよ、シルフィス。ものすごく、絞めつけてくる」 「ふふっ、感じているシルフィスの顔、本当に色っぽいですわね」 「んっ・・・も、あ・・・あんっ」 中で指を動かされ、首筋に口付けを受け、体中を愛撫され、快感に痺れたような体はびくびくと震える。痺れたような感覚は次第に大きくなり、背筋を駆け抜けていく。 「あん、あ、あ、あぁ、あふっ、あああぁぁぁっっ!!!」 痺れが最大限に膨れ上がり、爆発したような感覚に陥った純金の少女は頭の中も真っ白にスパークし、そして白い闇に身を委ねたのだった。 「ん・・・」 ぼんやりとした意識の中、体を包む柔らかな絹の感触に純金の少女は自分が今居る場所を考えた。 「え・・・と・・・?」 「あ、シルフィス、目が覚めた?」 「ごめんなさいですわ。調子に乗ってやりすぎましたわね」 「姫・・・メイ・・・」 声の方向に視線を向けると、純金の少女の両脇に薄紅の少女と栗色の少女が寝転がっている。 「大丈夫?なんか、のぼせちゃったみたいなんだけど」 「お水を飲みます?」 顔を覗きこんでいる二人の顔を見ていた純金の少女はようやくこうなった原因を思いだし、真っ赤になってシーツを頭から被ってしまった。 「あら?」 「シルフィス?」 首を傾げる二人の耳に、ようやく聞こえるような小さな声が届く。 「あ、あの・・・だ、大丈夫、です、から・・・」 純金の少女が恥ずかしがっていることに気づいた親友達は顔を見合わせ、悪戯を企むような笑みを浮かべると同時にシーツに手を伸ばし、勢い良く引っ剥がした。 「きゃあぁっ!?」 「恥ずかしがることないよ?」 「ええ、本当に可愛かったですわ」 真顔で褒めるその言葉にますます顔を赤くする純金の少女の頬に、両脇から薄紅の少女と栗色の少女が口付ける。 「ね、また、一緒にお風呂に入ろうね」 「・・・」 一瞬、本気で断ることを考えた純金の少女であった。 余談ではあるが、純金の少女が二人の親友につけられたキスマークをうっかり騎士団の連中に見られ、騎士団では「ついに、シルフィスに恋人ができたのか!?」と噂が飛び交っていたらしい。 END |