夜明け前


「ん・・・」
 暖かな何かに包まれ、少女はぼんやりと目を開いた。ぼけぼけとした瞳に 暖かな何かが触れる。
「メイ、目が覚めたのか?」
「きぃるぅ?」
 寝ぼけた声で確認する少女に、苦笑する気配が伝わった。
「悪い、起きたんじゃなくて起こしてしまったんだな」
 髪を撫でる優しい手に安心して、少女は更に青年の懐に潜り込む。
「メイ?」
「キールの腕の中って、あったかい」
 ほにゃらっ、と無邪気に笑って青年の胸に懐く少女の姿に、青年は思わず くらっと眩暈を覚えた。
 これは・・・あまりにも、青年の理性を揺るがすシチュエーションである。
 何せ、昨夜−今は夜明け前という時刻なので昨夜だろう−求めるままに 少女を抱き締めていたのだ。今の格好は当然、お互いに一糸纏わぬ姿で、少女がすりすりと懐いてくればその体の柔らかさや暖かさ、丸みを持った体のラインなど、ダイレクトに感じられる。・・・一種の地獄である。
「こら、メイ、あまりくっつくな」
「ほぇ?なんで?」
「なんでって、お前な・・・」
 無邪気な瞳と青年を誘う体。そのアンバランスさにくらくらくら・・・と更に理性が揺さぶられる。気分はもう、『欲望耐久レース』(笑)であった。
「こうしていると、気持ちいいのに」
 男の欲望などまったく分かりません、と言うのか、少女は青年の背中に腕を 回してぎゅうっと抱きつく。
(頼むから、察して欲しい・・・)
 必死になって理性を総動員させている青年の苦労など何処吹く風で少女は 満面の笑みを見せた。
「ね、キールは気持ち良くない?」

 ・・・ぶちっ。

 少女の笑顔と言葉で、青年の最後の理性が切れた。
「・・・もっと、気持ち良くなるか?」
「へ?キール・・・きゃうっ!?」
 抱き着いていた体が回転し、気がつけば真上に青年の瞳があった。
「キール?・・・んんっ」
 唇が塞がれたかと思うと口内に舌が入りこみ、少女は目を見開くと慌てて 青年の下から逃れようと身動く。
 しかし、青年は要領良く少女を押さえこみ、性感帯を刺激して体の奥に潜む 熱を次々と煽っていった。
「キール、キール、ちょっと、何して・・・あんっ」
「誘ったのはお前だぞ」
「そ、んなの・・・あ、たし、知らな・・・い、もんっ。あ、やだっ」
 胸に青年の熱い吐息を感じて、びくり、と少女は震える。
 柔らかな胸を掴み、力を込めればその力通りに胸は形を変え、頂きにある 蕾を口に含めば耐えきれない熱い吐息が少女の唇から零れ落ちた。
「も・・・キール、あ、あと少し・・・で、夜が、明・・・けるって、 い、う、の・・・に・・・」
「寝坊もたまにはいいさ」
「そ、そーゆー、問題、じゃ、ない、でしょぉっ!?」
「煩いな」
 呟いた青年は再び少女の唇を塞ぎ、官能を煽るかのように深く舌を絡ませる。
 舌を絡め、歯茎をなぞり、執拗に口内を刺激する舌の動きに、少女の 抵抗していた力が一気に抜け落ちた。
 ピチャ、という艶めかしい音と共に唇が離れ、二人の間を銀の糸が繋ぐ。
「あ・・・は、ぁ・・・」
 瞳を潤ませ、悩ましい吐息を零す少女の首筋に青年は顔を埋めた。
「あんっ、も、あ、んた・・・ってば、何度、す・・・れば、気が、 す・・・む、のよっ」
 体の奥から湧き上がる快感に言葉を途切れさせながらも、文句を言い募る 少女の根性は立派である。
「何度したって、気はすまない。出来ることなら、ずっとこのまま、腕の中に 閉じ込めておきたいくらいだ」
 その文句に律儀に返答しながら、青年の手は知り尽くしている少女の体を 刺激する。
「や、も・・・あぁ、は、あ・・・んんっ」
 青年の唇は休むことなく少女の胸の蕾を刺激し続け、片手は柔らかい丘を、片手は体中をくまなく撫でさする。
「あ、はぁ・・・やぁ・・・ああっ!」
 体中を這い回っていた青年の手が少女の下肢へと降り、花びらに触れた途端、少女は体を仰け反らせて嬌声を上げた。
「あ、ああっ、はあっ!」
 ゆっくりと周囲を撫で、肝心な場所に触れてくれない指に焦れて少女の腰が 無意識にくねる。
「キ、キール、ね・・・え・・・あ・・・」
「どうした?」
「ばかぁ・・・」
 涙目で睨む少女の艶やかさに息を飲み、青年は誘われるままに唇を重ねた。
「ん、ん・・・は・・・きーるぅ・・・ねぇ、お願い・・・」
「我慢、できないか?」
 艶やかに微笑む青年に抱き着き、少女はコクリ、と頷く。
 緩やかな刺激ではなく、熱いモノが欲しい。穏やかなモノではなく、激しく 抱き締めて欲しい。
「キールしか、感じられないように・・・して・・・」
 要望に応えるため、青年の顔が少女の下肢に沈む。熱く滴る雫で潤った 泉に、青年の舌が触れる。
「あ、あああああっ!!」
 少女の嬌声と下肢から響く淫らな水音に青年は更なる昂ぶりを覚える。
「あうっ、あ、あんっ、は、はぁんっ、んんっ」
 強い快感に耐えようと両手はシーツをしっかりと掴み、波間を作る。 それでも、中心から背筋を駆け上る快感は止め処がなく、ポロポロと涙が零れた。
「お前のここは、いつも甘いな」
 囁く青年の言葉が更なる羞恥を呼び、少女は顔を背ける。
「甘いの・・・嫌いなくせに・・・」
 それでも言い返すのが少女らしい。
「お前は別だ。・・・こっち、向けよ」
 ちらり、と視線を向けると自分の下肢から顔を上げている青年の視線と 合った。かあぁっと顔が赤くなるのが分かる。
 にやり、と笑う青年の余裕が悔しくて、亜麻色の髪に指を絡めて引っ張った。
「いてっ。メイ、お前な」
 睨む青年につんっとそっぽを向くと、中心を刺激されるという報復をされる。
「きぁああぁっ、あうっ、ふぁっ」
 いきなりのことで少女も思わず悲鳴に近い嬌声をあげてしまった。
「も、キールのばかぁ」
「仕返しだ」
「もう少し、まともなものにしてよぉ」
 潤む瞳に口付け、青年は笑う。
「俺はこれがいい」
 今まで青年の舌を感じていた場所に、熱いモノを感じた少女は息を飲んだ。
「つかまってろよ」
 その言葉と同時に、ゆっくりと青年が押し入ってくる。
「あ、あ、あ、あ、あ」
 体中から空気を吐き出すような感覚に見舞われる。つい、体に力を入れれば尚更青年を感じ、それがまた、刺激になる。
「メイ・・・」
 深く息をつき、青年が囁いた次の瞬間、再び少女の体に火が付いた。
「あ、あうっ、う、んんっ、はっ」
 がくがくと揺さぶられ、意識が飛びそうになりながらも強引に引き戻される。
 きつく抱き締められる力。
 体中に感じられる体温。
 痺れるような快感。
 その全てに意識を掻き回され、何も考えられなくなる。
「キール・・・キールゥ・・・!」
 しがみつく力に応え、青年もまた、少女をきつく抱きしめる。
「メ、イ・・・っ!」
「あ、ああっ!!」
 頂点を駆け抜けた少女と同時に、青年も想いを吐き出した。

「もう、信じられないっ!」
 青年の腕の中で、少女はおかんむりである。
「さんざん、昨夜やったっていうのに、普通、する?」
「仕方ないだろ、我慢できなかったんだから」
「だからってねぇ・・・」
 開き直ったのか、青年に堂々と言われてしまえばため息しか出てこない。
「だが、お前も煽るようなことをするからだぞ」
「あたしがぁ?」
 思いもよらぬことを言われた、というように少女が目を見開いた。
「そんな格好で擦り寄られてみろ、その気にならない男はいないぞ」
「そ、そうなの?」
 本気で驚いている少女に青年は頭を抱えた。こーゆー関係になって 長くなるが、まさか本当に分かっていなかったとは。
「・・・この際、寝坊ついでにもっと教えてやろうか」
「は?や、も、もう、いいって。あたし、腰が立たないのに・・・んうっ」
「今日は俺が面倒をみてやる」
「みなくていい〜」
「煩い」
 じたばたとしていた少女だったが青年の熱に煽られ、次第に啜り泣くような 声を上げ始めた。

 二人の熱い時間はまだ、続いていく。


END