hardなパートナー
それは純粋な気持ちだった。ただ、大好きな人の誕生日を祝いたいという。 だが。 「ね、泰明さん」 「何だ」 ふと、思い付いたというような何気なさで少女が言葉を紡ぐ。内心は結構ドキドキしていたのだが。 「今、欲しいものとかありますか?」 「ないな」 即答。 「な、ないんですか」 「一番欲しかったのはあかねだ。だが、あかねは今、こうして私の側にいてくれるだろう?なら、もう欲しいものはない」 無意識とはいえ、実に恋人の喜ばせ方が上手な青年である。 真っ赤になりながらも、それでは目的が達せられないと少女は更に質問を投げかけた。 「欲しいものがないのなら、何か私にして欲しい事とか、ありませんか?」 「外出の回数を減らして欲しい」 「・・・それはただの希望では・・・」 またもや即答した内容に今度は顔を引き攣らせつつ、少女が少しばかり反論する。 青年と共にいるために京に残った少女ではあったが、活発な性格は一般の京の女性のように屋敷に引き篭もっている事をよしとせず、気ままな外出を繰り返していた。それが少女たる所以だと分かってはいるものの、龍神に愛される清らかさはどうしても人外の者達を引き寄せる。青年の片腕とも言うべき存在の式を側につけているとはいえ、心配しないはずはない。 「して欲しい事とはつまり、希望だろう?」 「それはそうなんですけど」 「だいたい、急にどうしたのだ?」 何か欲しいものはないか、して欲しい事はないかなどとこの少女は今まで言ったことはないのだ。あまり周囲に気を使わないような性格に思われがちだが、意外と人の気持ちを読むのは上手く、青年の口数が少ない上に口下手な心情の変化を読みとるのもお手の物である。その少女が改めて問いかけるということは、何かがあると思って間違いはない。 「んーっとぉ・・・」 視線を上にあげ、数瞬考え込んだ少女は次いでにっこりと笑みを浮かべる。 「本当は驚かせたかったんですけど・・・14日は泰明さんのお誕生日でしょう?ですから、何かを贈りたいなって思ったんです」 『でも、泰明さんってば何も欲しいものはないし、私にして欲しい事は外出を控えることだなんて、贈るものがないじゃないですか』 むぅっ、と膨れながら言い募る少女は凶悪的に可愛い。意識する間もなく青年の腕が少女を引き寄せ、宥めるように口付けた。 「・・・ん・・・」 素直に青年の腕に体を預け、口付けを受け止める少女を見た青年の脳裏にある人物から聞いた言葉がよぎる。 「あかね」 「はい」 青年に抱き締められ、嬉しそうに微笑む少女の額に口付けた青年の唇からとんでもない言葉が出たのはこの時だった。 「四十八手をしたい」 「・・・・・・・・・・はいぃ〜〜〜っ!!!???」 青年の台詞を聞いた瞬間、少女の聴覚が拒否反応を示す。固まってしまった少女の脳裏が徐々に言葉の意味を理解し、次いで少女の唇から引っ繰り返った声が飛び出した。 まぁ、それも無理はないだろう。おおよそ、この世界の住人が知っているとは思えない言葉を、この青年はなんでもないことのようにさらり、と口にしたのだから。 「や、泰明さん、そんなコト、誰から聞いたんですかぁっ!?」 真っ赤になりつつ喚く少女の思考は真っ白に焼き切れている。でなければ、少し考えれば分かることをわざわざ青年に問いただすことなどしないはずだ。 「天真だが?」 「・・・・・て・ん・ま・く・ん?」 「ああ。お前が私の屋敷に来た頃にいろいろと教えて貰った」 「・・・・・・・・・・」 (何って事を教えるのよ〜〜〜〜〜っ!!!いえ、それよりもどうしてソレを全部、知っているの!?) 性知識の反乱している現代から来た少女もある程度の知識は持っている。だが、その知識も正常な・・・というか、ノーマルなものばかりで四十八手などというものはとてもとても知るものではない。 (それを全部知っている天真君って、一体、何?) おまけに、それを好奇心旺盛な青年に逐一教えたという。と、なれば、青年の次の行動は実践、というわけで・・・先程の台詞になるらしい。 「・・・・・・・・・・覚えていなさいよ、天真君・・・・・・・・・・」 バックにおどろ線をしょっているかのようなおどろおどろしい、低い声で少女は呟いた。頭の中はパニック寸前なのだが、一つ年上の同級生に報復することだけはしっかりと心に誓う。 「あかね?」 「・・・泰明さん、ソレ、全部試してみたいんですか?」 一つ、深呼吸をして、無理矢理心を落ち付かせた少女は出来るだけ冷静に青年に問い掛けた。 「・・・駄目か?」 まるで子供・・・いや、子犬のような綺麗に澄んだ瞳を見た少女は深くため息をつき、眉間に出来た皺を押さえる。少女とて、青年に求められるのは嬉しい。だが、ソレとコレとは問題が違う。 「駄目とはいいませんけど・・・いくらなんでも、一晩で全部は無理です」 やると言ったら、青年はやり遂げてしまうだろう。だが、そうなる前に少女の体が壊れてしまうに違いない。 そこまで思考を巡らせた少女は本気で自分の体の危機を感じ、たらっ、と冷や汗を流した。 「一晩でなければ、いいのだな?」 確認をとる辺り、青年はどうしても試してみたいらしい。それを読み取った少女は自分の体の安全のため、青年をきっちり説得することにした。 「短期間でこれを全部試すのは無理です。正直言って私の体が持ちませんし、泰明さんだってお仕事の支障がでます。ですから、どんなに多くても3つに止めてくださいね」 「分かった」 素直に青年は頷いたがその直後、抱き締めていた少女の体を軽々と抱き上げる。 「きゃあっ!?」 目を白黒させている少女に青年は鮮やかな笑顔を向けるとすたすたと寝所へ足を進めた。 「ちょ、ちょっと、泰明さん!?今、昼間ですよっ!?」 どこへ向かっているのか理解した少女はますます慌てるが、青年は歯牙にもかけない様子であっさりと一言、言ってのける。 「神子は承知しただろう?なら、問題ない」 『大有りです〜〜〜っ!!』という、少女の叫びは青年の唇に塞がれ、とうとう言葉にならなかった。 その後の事は・・・まあ、お察しの通りである。 延々と青年に翻弄される少女が何時、開放されるのか・・・それは神のみぞ、知る。 END |