晴れた夜空
| 「・・・・雨が上がったか・・・・・。」 突然の夕立。それはなかなか止まず、上がったときにはすでにすっかり日が暮れてしまっていた。 さっきまでの雨が嘘のように空には星が散らばっている。 青年の腕の中で気持ちよさそうに一人の少女が眠っている。 青年の名は阿倍泰明。稀代の陰陽師阿倍清明の愛弟子でその力は京でも屈指の実力を誇る。 普段の彼は無表情で感情を表に出すことが無い。 唯一の例外が隣で眠る少女である。 泰明の感情の源と言っても過言ではない。 事実、彼が感情を表に出すのはすべて彼女がらみだ。 「・・なかなか目覚めないな。」 ため息をつきつつも目元は優しい。 己の腕の中でのみ眠る少女。 伝わる体温・鼓動・吐息。 そのすべてが宝のように思えて・・・・。 道具・人に非ずの自分・無感情・・・それがすべてだった。 それ以外の事実はなくそれだけ・・・そう信じて疑わなかった。 少女に出会うまでは・・・。 少女と出会い、話すにつれなにかが心の奥に芽生え始めた。 その何かがわかったときには驚愕した。 心・・・・・。 自分に無いと信じて疑わなかったもの。 その心の奥底にある暖かい感情。 “愛しさ・・・・” その感情は泰明を優しく包む。 暖かく、そしてなんと幸せなものか・・・・。 その時知った。 『幸せを知れ』という意味・・・。 それは理解することはできないこと。 それは己の心に逆らわず素直に受け止め感じたときに『知る』。 「・・・よく眠るな・・・。」 苦笑しつつも決して少女を起こすことはしない。 この腕に少女をいつまでも抱いていたいのは他ならぬ自分。 独占欲・嫉妬・不安。 それは愛の裏側にある感情。 それも少女を通して『知った』もの。 現に少女を独り占めしているのだがそれでも不安はぬぐえない。 それを見抜いたのか、ある時少女が微笑みながら言った。 ‘私が安心して眠るのは泰明さんの腕の中だけよ’ その言葉がどれだけうれしかっただろう。 少女に安らぎを与えられるのは自分だけ・・・。 また自分に安らぎを与えられるのも少女だけ・・・。 互いを必要とし必要とされる関係。 想いを込めて少女の額に口づけをする。 やがて少女が微睡みから目覚める。 「ん・・・・・?」 「・・・目覚めたか・・・。」 「・・雨は?」 「とっくに止んでいる。」 「そっか・・・・。」 目が覚めても少女は泰明の腕の中にいる。 少女の一番のお気に入りの場所。 「ふふ・・・泰明さんはやっぱり温かいね。」 「そうか?神子の方が温かいと思うぞ。」 少女が怪訝な顔つきになる。 なにかまずいことでも言ったかと泰明は記憶の糸をたぐり寄せた。 すぐにその原因に思いついたらしい。 「泰明さん・・・。」 ちょっと拗ねた少女の声。 「すまない。つい・・・・。」 もはや神子ではない少女は名前で呼んで欲しいと泰明にお願いしたのだ。 すこし頬を赤らめ、まだ言い慣れない愛しい少女の名を呼ぶ。 「・・あかね・・・・。」 星明かりの中で二つの影が重なる。 雲一つない晴れた夜空がやさしく二人を包んでいた・・・・。 <おわり> |
| (イリスより) 本当は頼久さんがファーストだというまこさんから強奪した泰明さんXあかね(笑) 泰明さんのあかねに対する優しい心の動きがものすごく伝わって、幸せな気分になりました〜。 最後の名前を呼ぶ場面・・・頂いたものにはイリスの名前があってひっくり返ってしまい(いや、嬉しかったけど(^_^;)) そのままUPするにはあまりにも恥ずかしかったので、ここではあかねと呼んでもらいました |