月天女


 月の吐息が降り落ちる
 銀色の吐息が辺りを染める
 夜の主人の儚い吐息は
 優しくも不安定な夢の色

 ふわり、と桜色の水干の袖が翻る。
 さらり、と艶やかな髪が風に流れる。
 真っ直ぐで澄んだ瞳が空を見上げ、清冽な夜の空気を抱き締めるように細い両手が広げられる。

 小さき星の姫の屋敷の庭。
 美しく整えられた庭の中で少女は一人、空を見詰め続ける。

 ふいに。
 少女の体が何者かの腕に引き寄せられ、すっぽりと広い胸の中に抱き締められた。
 抱き締められた時に嗅覚に届いた護摩の香り。
 もっとも、香りが届く前に背後の気配で誰がいたのか、少女には分かっていたが。
「どうしました、泰明さん?」
 いつもは柔らかく、大切そうに抱き締めてくる腕が今晩はやけに力一杯抱き締めてくる。まるで、腕の中の者を逃がすまいとするかのように。
「泰明さん?」
 柔らかく響く声と共に少女の暖かい手が青年の頬に触れた。どこまでも澄んだ、真っ直ぐな瞳が金と深緑の瞳を覗き込む。
 月明かりを受けた少女は自身が淡く発光しているかのように銀色に縁取られ、星明りを写し込んだ瞳はキラキラと輝いている。
 活発な昼間とはまるで違う、涼やかで神秘的な少女が青年の腕の中にいた。
「決して帰さない・・・たとえ、お前自身が切に願おうと、私はもう、お前の暖かさを離すことは出来ないのだ」
 幾度繰り返しただろう、不安と願いと執着の混ざった囁きを少女は優しい微笑みと口付けで受け止める。
「ええ、帰さないで下さいね。たとえ、龍神様が道を開こうとも・・・私を抱き締めて離さないで下さい」
 繰り返す口付けはやがて深くなり、お互いを求め合うものへと変化する。
 少女の唇から零れ落ちる吐息と雫が少女の表情に艶めかしさを添え、幼さが際立つ輪郭に色香を漂わせた。
「・・・あかね」
 ただ一言。その一言だけで少女は理解する。
 微笑んだ少女の手が伸び、青年の手が少女の見た目よりも軽い体を横抱きに抱き上げた。
 視線を交わし、口付けを交わす。何度も繰り返し口付けながら、青年の足は少女の寝所へと向かう。
 何も、言葉はいらなかった。

「ん・・・は・・・」
 艶やかな吐息が唇から零れ出る。
「美しい、な」
 月明かりに輝く白い裸身を見詰め、青年は囁く。
 幾度か身を重ねてはいるが、それでもその身の美しさは見る度、青年に感嘆の念を抱かせた。
 真っ直ぐな褒め言葉に顔を赤らめながら、少女はそっと微笑む。
「泰明さんも、綺麗ですよ」
 そっと伸ばされた手が青年の頬に、髪に、そして瞼へと触れた。
「この顔も・・・髪も。金と深緑の瞳も、とても綺麗。・・・ねぇ、この瞳で私以外の女の人を見詰めないで下さいね」
 少女の願いに青年は深く口付けることで応える。
「あかね以外を見詰めるつもりはない。お前も、私以外を見るな」
「私も、泰明さん以外を見詰めるつもりはありませんよ」
 これ以上愛せないと思うほどに愛した人以外を、どうして見詰める事ができようか。生涯ただ1人と思い定められる相手を見付けたというのに。
「あ・・・んっ」
 柔かな果実に加えられる緩やかな刺激に背を反らせ、あえかな声が寝所の空間を震わせる。
「ふあっ・・・あぁん・・・」
 与えられる感覚に敏感に反応し、白い肢体も艶やかに染まっていく。豊かな果実の上に宿る蕾も固くしこり、摘まれる瞬間を待っていた。
 誘われるように蕾に口付けると紅色に染まった唇から嬌声が零れ出る。
「あぁっ、あ、やあぁんっ」
 思わず青年にしがみつき、萌葱色の艶やかな髪を掻き乱す。少女の白い腕に青年の髪が絡まる様は尚、艶めかしさを醸し出していた。
 唇で感じる弾力と掌に感じる弾力を楽しみ、時折強く口付けては赤い華をその肢体に散らす。無数に咲く華は青年の独占欲を表していた。
「く・・・ふっ、はぅ・・・」
 絶え間なく感じる悦楽に下肢から蜜が溢れてくるのを感じる。瞳を潤ませ、身を捩らせようとした少女を押さえ付けた青年の手が膝を割り、奥へと進入する。
「あ、や、ぁ・・・」
 開かれた足を閉じようとしてもすでに青年の体が入り込み、閉じる事は叶わなかった。
 青年の指が蜜を湛える泉に触れ、クチュ・・・と音をたてる。
「ん、ん、あぅっ」
 中に入り込み、掻き乱され、強烈な快感に少女の思考は真っ白になった。耐える術もなく、唇からとめどもなく嬌声が響き渡る。
「あんっ、あんっ、あ、ふぁ・・・は、うぅん、くふぅ・・・」
 青年にしがみつき、背を反らせ、乱れる少女はたとえようもなく艶やかで青年の情欲に訴える。
「誰にも・・・渡さない」
 これほど狂わされるのは少女だからこそ。決して失えない、狂おしいほどに愛しい少女。
「貴方だけを・・・愛しています」
 乱れる息の下、少女は微笑み、青年に口付ける。青年の言葉を認め、受け入れ、許す口付けを。
 それは、限りない優しさと愛しさに彩られた口付けだった。

「ふぁっ、ん・・・あ、やぁ・・・あぅっ」
 背中から抱き込まれ、青年の膝の上に座らされた格好で青年を受け入れた少女は掠れる声を上げ続ける。
 自分の体重でより奥深くまで青年を受け入れ、前に回された青年の手によって豊かな果実を揉みしだかれ、体中を駆け巡る快感に少女はただ喘ぐしかなかった。
 青年を受け入れた下肢からは淫らな悦楽の音が絶え間なく響き、欲望の蜜が後から後から溢れ出る。
 青年だけが見ることの出来る、艶やかで淫らな少女。その事実が青年に深い満足感を覚えさせた。
「あ・・・ね、ぇ・・・ね、もぅ・・・」
 僅かに身を捩り、少女は瞳に懇願を浮かべて青年を見詰める。ただ、それだけの動作にも少女には刺激として感じられ、背筋を震わせた。
「泰、明、さん・・・お、願い・・・」
 月明かりに照らされた少女の願いに応え、青年は動きを激しくする。
 喘ぐ声が切れ切れになり・・・押さえた悲鳴が長く部屋に響いた。

 青年と少女の営みを見詰めるは銀の月
 柔らかな銀の光は優しい光
 見詰めるように包み込むように
 夢のようなひとときを過ごすようにと
 恋人達へ投げかける

 銀の吐息は月の優しい光


END