encounter〜フィアナ〜


出会いは突然
けれどもそれは必然


 驚いたわよ。だって、信じられる?
 本物の天使があたしの前に現れて、勇者になって欲しいって頼むんだから。

「フィアナ」
 てこずった賞金首をどうにか倒して一息ついていたところに掛けられた可憐な声。
 はっきり言って、この場にまったく不似合いで不釣合いな声に顔をあげると、可憐な声に似合いの可憐な姿の少女がそこに立っていた。
「フィアナ・エクリーヤ・・・ですね?」
 妙に確信を持って訊ねるな、と思った。不審ではあるけれど、賞金稼ぎとしてのあたしのカンは、警戒心を呼び起こすものではないと告げている。
「ああ、そうだけど?」
 不思議そうなあたしに気づいたのか、ラビエルと名乗ったその少女は驚くことをあたしに告げた。
 自分は天使で、あたしに勇者になって欲しい、と。
「天使・・・?ホントだ、翼がある・・・」
 驚きはしたけど、でも、勇者になるっていう話とは別。あたしはあたしの理由があって賞金稼ぎをしている。勇者なんて片手間にやれるほど生易しいものではないだろうし、だからと言って、賞金稼ぎをやめるだなんて問題外だ。
 けれども、断ろうとしたあたしを、おっとりとして見える天使はしばらく考えると条件を示してみせた。その条件を考えると確かにあたしの不利にはならない。
「そっか・・・それならやってもいいよ」
 承諾すると天使は心から嬉しそうに微笑んだ。真っ直ぐに、あたしの瞳を見つめて。
 あたしを見つめるその瞳は天使の名に相応しく、無垢で純粋だった。

訪れる悪夢
目の前で息絶えた父さんと母さん
この体につけられた堕天使の印


 純白の翼が深紅に染まる
 華奢な体がボロ布のように吹っ飛ばされる
(ラビエル!!)
 夢を見ているあたしには、叫びでさえ声にならない。
 あたしにとっては夢だけど、夢ではないことは分かった。
 現実で、天使が死闘を演じていることを、直感で悟っていた。
「・・・く・・・う・・・」
 呻き声を上げながらも、天使は細い腕に不似合いな剣を手にして立ちあがる。
 堕天使の哄笑が辺りに響く。
 ふらふらになりながらも、どうして立ちあがれるのか。
「フィ・・・ア、ナ・・・」
 小さな囁きと共に、剣をしっかりと握り締め・・・
「やああああっ!!」
 そんな剣の持ち方じゃ、切り掛り方じゃ、また、返り討ちに合う!!
「きゃあああっ!」
 何度目かの返り討ち。もう、翼も体もボロボロなのに、なのに、また、天使は立ちあがる。
「守る、の。・・・フィアナを、今度は、私が・・・」
 ・・・あたしの、為?
 万人に等しい愛を注ぐと言う天使が、あたしだけのために?
「フィアナは・・・私の大事な勇者で・・・友人です。あなたの、好きには・・・させません!」
 堕天使に向かって言い放たれた言葉。
 その言葉が衝撃と共にあたしの心に響く。
 そんなに・・・そんなに、大事に思ってくれていただなんて。
 こんな時なのに、あたしはすごく、嬉しかった。
「フィアナを・・・」
 だけど、天使の力は尽きかけている。もう、気力だけで意識を引き止めているようなものだ。
 あたしが、あそこに行けたなら!
「守・・・ら、なく、て、は・・・フィ、アナ・・・を・・・」
(ラビエルに力を貸してあげられたら!)
 あたしと、天使の心が強く、強く願ったからだろうか?剣が金色に光りだした。
 それは、まさに奇跡。
 あたしと天使にとっては優しく、暖かく、力強い光でも堕天使にとってはただただ、忌むべきもので。
「おのれ・・・おのれ、ガブリエル・・・ミカエルめ!小賢しいまねを・・・!!」
 呪詛の言葉を吐きながら、堕天使は消えていった。
「ま、待ちなさい・・・っ!」
 天使は倒れこんだ体を引きずり、追いかけようとして・・・
 そこで、あたしの意識は闇に沈んだ。

開かれた未来 結ばれた絆
なによりも信頼できる天使
私の自慢の友人


 目が覚めた途端、何もない空間から血塗れの天使が現れ、床に落ちる。
「ちょ、ちょっと、ラビエル!」
 慌ててベッドから降りて天使の側に寄ったが、呻き声を上げるだけで意識の回復はなさそうだ。
 ふと、気づいた。
 小さい頃からずっとあたしの体を包んでいた重苦しいモノがすっかり晴れていることを。
 ・・・つまりは、そういうことだ。
 あたしはずっと、堕天使に取りつかれていたということ。
「ありがと、ラビエル。あたしを守ってくれて」
 どこまでも純粋で、無垢で、けれども真摯に思ってくれる。
 あたしは、最高の友人を持った。

突然の出会い
必然の出来事
すべては天使の御心のままに


「フィアナ、お願いがあるのですが」
「またぁ?たまには、仕事にもなるようなものを持ってきてよ」

 お金が必要なあたしの事情をもう少し、理解してくれると嬉しいんだけどなぁ。


END