光明
彼の者は光 天上から舞い下りてきた無垢なる光 闇の中にいた自分に投げかけられる一筋の光 暖かく優しく闇である自分を包む光 この世界の守護天使 眩いほどの純白な翼を持つ光の天使 彼の者は光 月明かりのみが辺りを照らす闇の中、ぞろぞろとさ迷い出るアンデット達を一人の青年が迎え撃つ。 ザクッ。 一刀の元に切り捨て、崩れ折れたアンデットには見向きもせず、青年は新たなアンデットへ剣を走らせた。 細身の体から繰り広げられる剣技は鋭く、隙がなく、一切の無駄を省いた動きは優美な舞いを思わせる。だが、その優美さとは裏腹に月光に照らし出される氷のような冷たい美貌には感情は一切浮かんでいない。 冷酷に、冷徹に、そして冷静に。青年は一体、また一体と確実にアンデットを倒していく。 ザンッ。 最後の一体を倒し、剣を下ろした青年の視線に、白い何かが落ちてきた。 白い・・・雪とも見えたそれは、純白の羽。だが、夜中に飛ぶ鳥など梟ぐらいしかいない。 純白の羽の出所を探すように青年の視線があげられ、そして視線が合った。 「貴方はクライヴ・セイングレントですね?」 月光を浴び、純銀の髪を艶やかに光らせた、麗しい程の美貌の天使が空に浮かんでいた。 ただ、無言で自分を見ている青年に柔らかく微笑みかけ、天使はふわりと青年の目の前に舞い降りる。 「私は天使、ラビエルといいます」 「・・・天使?」 青年の呟きに天使は頷き、自分の目的を話した。世界の混乱を、それを正す勇者のことを、そして青年に勇者になって欲しいことを。 「本当に・・・いるのだな」 「はい?」 「俺に頼みたいことがあるなら来い・・・。お前の好きにしたらいい」 首を傾げる天使から視線を外し、青年は淡々と告げた。途端に、天使の麗しい美貌に晴れやかな表情が浮かぶ。 「有難うございます、クライヴ。貴方のような・・・あ、クライヴ!?」 天使の感謝の言葉を聞くこともなく、青年は姿を消した。あまりの素早さに天使も後を追うことは出来ず、一人ぽつんと取り残される。 しばらく青年が消えた方向を眺めていた天使だったが、やがて気を取り直したかのようにその背にある純白の翼を広げた。 バサリ。 純白の羽を落としながら天へと帰って行く天使の姿を離れた場所から見ていた青年の前にも純白の羽が落ちる。 無意識に手を差し伸べ、羽を受け止めた青年はもう、麗しい姿の見えない夜空を見上げた。 「天使か」 光の住人である存在が何故、闇の住人である自分の前に舞い降りたのだろう。だが、深く考える前に自分は承諾してしまった。 「・・・まあ、いい」 軽くかぶりを振ると青年は現在、寝泊りしている場所へと足を向ける。 その手に純白の羽を持ったまま・・・。 青年は気づかない。己の心が僅かに変化したことを。 ただ、闇のみを見つめ、光を見つめることを諦めていたその心に一筋の光が射し込んだことを。 だが、青年がそれに気づくのはまだ先である。 剣を抱き、静かに眠りに身を任せる青年の上に、朝日が射し込んでいた。 END |