月夜の散歩


月の光の下で微笑む少女
金と銀が混じり合ったような不思議な色の髪
空と大地を写し出したような蒼と翠の色違いの瞳
その身一つで世界を具現していたような元・天使

微笑む少女を見つめる少年
穏やかな大地のような亜麻色の髪
澄みきった宝石のようなエメラルドの瞳
優しく穏やかな吟遊詩人の少年

二人の出会いは普通ではなく
けれども惹かれ合う過程は普通で
求める心のままに二人は互いの手を取った


「ラビエル、少し散歩をしませんか?」
 湖の辺にある宿に部屋を取り、窓から見える湖を眺めていた元・天使であった少女に吟遊詩人である少年はそう、誘いをかけたのだった。

「綺麗ですね」
 湖に映る月と天上に輝く月を眺めながら、少女は微笑む。空から降ってくる銀色の光を受けとめるように、手を空に差し出す。
「足元に気をつけてください」
 手を差し出した少年に笑顔を向けると、少女は空に差し出していた手を少年に預けた。そのまま二人は手を繋ぎ、ゆっくりと湖の岸辺を歩いて行く。
「ここは、昼間の光景も綺麗ですけど、夜も綺麗なんです。特に、月が水面に映っている風景が」
「ええ、本当に・・・」
 インフォスの平和を勝ち取った天使は勇者の一人、<フェリミ・マクディル>と想いを交わし、その側で生きることを選んだ。その背にあった、輝く純白の翼を天に返し、ただの少女として・・・。
 吟遊詩人である少年と二人、土地から土地へと渡る風のような生活。元・天使としての名残なのか、はたまた別の勇者であった踊り子の影響なのか、少女は踊りに才があったようである。
 少年の唄う曲に合わせ、少女は優雅に、軽やかに踊る。唄う少年は時折少女へと視線を向け、視線が合うと優しく微笑む。少女も微笑みを返し、また踊る。
 何気ない、そんなやり取りがとても幸せなのだと二人は知っている。命を懸けた闘いを経験した二人だからこそ、身を持って実感出来るのだ。
 旅の間、少年は自分の知っている綺麗なモノを少女に教えた。

 見渡す限り広がる海原。
 風が吹くたびに色を変える草原。
 陽光で宝石のように輝く山の万年雪。
 一斉に命が芽吹く森の木々。

 一つ一つ、それらを教えるたび、少女は瞳を輝かせ、手を叩いて喜んだ。
「これを、私達は守ったのですね」
 嬉しそうに微笑む少女が、一番綺麗だった。

 銀に染まる湖。銀の円盤のような月。銀色の、夜。
 ひっそりとした空気に身を浸し、お互いの手の温もりを感じて歩く。
「綺麗、ですね」
 ふと囁いた少年の言葉に、少女はコクリと頷き、振り返った。
「月も、湖も・・・本当に綺麗」
 にっこりと微笑む少女を少年はそっと後ろから抱き寄せると、その耳元に囁いた。
「僕が言っているのは、貴女のことです、ラビエル」
「フェリミ?」
 抱き寄せられ、少年の温もりを身近に感じた少女が赤くなりながら少年を振り返り、見上げる。
「月の光に照らされた貴女は、とても綺麗です」
 優しい、エメラルドの瞳に見つめられ、少女は更に赤くなった。顔を伏せ、赤くなった頬を隠しながらもその体をそっと少年に預ける。・・・温もりが、優しくて、嬉しかった。
「フェリミ。私、幸せです」
 抱き寄せられたまま、少女はそっと呟く。
「こうして、貴方と一緒に世界を回って、私達が守った風景を見られて、みんなの笑顔が見られて」
 少女の両手が上がり、自分を抱き締めている少年の手と重なった。
「なにより、こうして貴方と一緒にいられる」
「そうですね。そして、これからもずっと、一緒ですよ、ラビエル」
「はい、フェリミ」
 視線を合わせた二人は幸せそうに微笑むと、瞳を閉じる。
 幸せな言葉を呟いて。
「愛しています、ラビエル」
「愛しています、フェリミ」
 月の光の下、二人の囁きは幸せに満ちていた。


END