ファムファタール〜運命の女〜
初めての出会いの印象はお互い、最悪だった。 あいつは俺のことを 『ビジネスライクで二重人格のぼったくり野郎』 と、本人目の前にして言い放ち、俺は俺であいつの気の強さやでしゃばって仕事の邪魔をしたのが 気に入らなかった。 最初はあいつの霊力の高さに目をつけ、『神輝会』に入れるつもりだった。 少なくとも、そう、思っていた。 けれど。 あいつと出会った頃の俺は心に闇を住まわせ、誰にも隙を見せない人間だったのにあいつだけは始めから素顔を見せることが出来た。 思えば、その頃からあいつの太陽の輝きを持つ魂に惹かれていたんだろう。 神父の言葉が蘇る。 『あなたは今、夜なんです!でも、夜は必ず明けます!』 『あなたの夜に決して沈まぬ太陽をあげよう』 余計なお世話だと思っていた言葉だったが、悔しいことにその通りになっている。 あいつなしではいられない俺がいる。 あいつのいない世界には意味を見出せない俺がいる。 気が強くて、時には乱暴で。本気で腹を立てれば蹴りまで出てくる。 鈍くてどこか抜けてて。何時の間にかトラブルに首を突っ込んでいる。 後先考えなくて周囲の人間の苦労も知らなくて。放っておけばどんどん一人で突っ走っている。 それでも俺はあいつ以外、欲しくない。 俺は知っている。 あいつの優しさを。 あいつの暖かさを。 無限大で底無しのお人好しで、どんなトラブルに巻き込まれても笑っていられる強さを。 どんなに無茶苦茶でも真実を見失うことのない真っ直ぐな心を。 歪むことなく物事を見つめる素直な瞳を。 何時でもどんな時でも輝いている太陽の魂を。 ファムファタール。運命の女。 俺にとってのファムファタールはあいつだ。 俺を丸ごと変えた、運命さえ変えてしまったあいつ。 『テルちゃん』 あいつだけが俺をそう呼ぶ。 他の誰もそんな風には呼ばない。いや、呼ばせない。 そう呼んでいいのはあいつだけだ。表面だけではない俺を知っているあいつだけだ。 あいつには見せていない俺がある。けれども、確信出来る。 俺が俺でいる限り、あいつは俺を見限らない。 あいつがあいつである限り、俺が絶対、あいつを離さないように。 俺のファムファタール。 俺の運命。 今日、俺はこの手にファムファタールを手に入れた。 『・・・・・俺は、お前を、米倉麦子を愛しとる。お前以外、麦子以外、欲しくないんや』 『・・・・・わ、たし・・・・・私、も、好き・・・・・テルちゃんが、好き・・・・・』 初めて触れたファムファタールの唇はとても、甘かった・・・・・ END |