捕獲
愛しい貴女を捕まえましょう 想いのこもった視線で 優しい声で 何気ない労わりで ゆっくりと貴女を縛り付けましょう ・・・・・私に 「レーネ殿」 「はい?あ、ナオジ様」 背後からかけられた声に振り向き、そこに漆黒の髪と瞳が美しい異国のシュトラールを認めた少女の顔にふわり、とした柔らかな微笑みが浮かんだ。 「こんにちは、ナオジ様」 「こんにちは、レーネ殿。すみませんが、少し、時間はありますか?」 律儀に挨拶をした少女は青年の言葉に軽く首を傾げる。 少女の名は<エイレーネ>。親しい者からは<レーネ>と呼ばれている。純金の髪、アクアマリンの瞳が印象的な可憐な少女だった。 青年の名は<ナオジ・イシヅキ>。この学園のトップとも言えるシュトラールに選ばれた、漆黒の髪と瞳が美しい青年であった。 「これから、ですか?でしたらこの後の予定はありませんけれど」 「申し訳ありませんが、仕事を少し手伝っていただきたいのです。かまいませんか?」 「はい、そういうことでしたら。どれだけのことができるか分かりませんけど、私がお役に立つのでしたらお手伝いいたします」 微笑み、頷く少女の言葉は謙遜でしかない。こう見えてもしっかりとシュトラール達の補佐を務められるほど優秀であり、他のシュトラール達からも度々声がかかるのである。 「助かります、レーネ殿」 感謝する青年に少女は首を振り、再びふわり、と微笑んだのだった。 「ナオジ様。この書類はここでよろしいのですか?」 「はい。相変わらず手際がいいですね。本当に助かります」 「褒め過ぎですよ、ナオジ様。とても皆様のようにはできませんもの」 自分が褒めるとどこか、くすぐったそうに笑う彼女。その笑顔はとても可愛くて・・・誰にも見せたくないと思ってしまう。 「お茶でも入れましょうか?」 「有難うございます」 もう少しで仕事に区切りがつくと見て取ったのだろう。少女の申し出を青年は有り難く受け取る。このタイミングの良さは気配りもあるのだろうが、常に自分を気にしていてくれるからだ。ふとした事で、少女の意識が自分に向いていることに気づいたとき。それは深い満足感として青年を包む。 ずっと見ていて その瞳に自分以外を映さないで 「どうぞ、ナオジ様」 コトン、と目の前に置かれたカップを手にして青年は艶やかな笑顔を少女に向けた。 「レーネ殿、貴女も少し休憩をされてはいかがですか?」 「あの、でも、まだ少し書類が残っていて・・・」 まともに青年の笑顔を受け、頬を薔薇色に染めた少女がお盆を手にしたまま逃げの体勢に入る。けれども、それを許す青年ではない。 「根をつめても仕事ははかどりませんよ。さあ、ここに座って」 「ナ、ナオジ様っ」 あっという間に青年に捕まり、側にあったソファに座らされる。隣に青年が座り、肩を引き寄せられるに至って少女のパニックは最高潮に達した。 「あの、ナオジ様、ここはシュトラールの執務室、なんですけどっ」 「他の人は来ませんよ」 「・・・・・はい?」 艶やかな中にも甘い光を認めた少女がこれ以上はマズいと思ったのを察したかのように、青年は先手を打つような発言をする。驚きに目を見開いた少女の頬に手を滑らせ、その滑らかな肌触りを楽しみながらどこか、楽しそうに青年は他のシュトラール達の予定を教えた。 「オルフェ殿は今日、いい場所を見付けたとかでスケッチに行っています。エド殿は乗馬部で遠乗りに。ルーイ殿は新しい実験を思い付いたそうで下級生と科学実験室にこもっていますし、カミユ殿は新しい薔薇が咲きそうだと温室へ行きました」 思わず確信犯ですか、と突っ込みたくなるほど青年はスラスラと姿の見えないシュトラール達の行動を数え上げる。 「どうりで、こんな時間になっても皆さんの姿が見えないと思いました」 「ですが、私は貴女と二人きりで過ごせる時間がもてて嬉しいですよ」 さらり、と言ってのけた青年の言葉に再び、少女の頬が染まった。染まった頬で睨みつけられてもそれはただ、可愛いだけで。 「レーネ殿」 「ナ、ナオ・・・んんっ」 有無を言わせず重なった唇が少女の意識を奪い取っていく。 何度も唇を重ね、自分にしか意識を向けないようにして。 縛り付けていく。 「愛しています、レーネ殿」 言葉は鎖。口付けも鎖。 少女をがんじがらめに縛り付けて永遠に自分のものに。 貴女を捕まえましょう。 貴女を縛り付けましょう。 甘い囁きで 甘い口付けで 甘い抱擁で 貴女を捕獲しましょう。 捕獲すれば貴女は永遠に私のもの。 END |