Duty Completion!!



カタカタとキーボードを叩きながら、ふと我に返る。

一体全体、何をしているんだろう、あたしは。
『こちら狼。そっちの具合はどうですかい?』
『こちらネズミ、ミッションはいまのところ滞りなく遂行中。数分で作業は終了する。どうぞ』
足元に転がる某国のエージェント諸君を尻目に、あたしはヘルメット内に装備されているインカムに対してそう言った。
薄暗い端末室は明かりは灯っていない。
あたしが持ち込んだ、本当に超小型の端末が情報のすべてを移動させている。
すべて、といってもとあるシステム関連のみで他には一切手をつけていない。
あらかじめ作っておいた、適当なダミーシステムで監視システムやプログラムをごまかしながらの作業。
身に着けているのも、使っているのもわが国のトップシークレット扱いのもの。
そしてその行動も。
そう、普通の警察官ならこんなスパイもどき、いやスパイ活動をしない。
インカムの向こうにいる彼が、笑った。
『こちら狼。暇で暇で退屈しそうだ』
そうは言うが、彼も彼で外の警備をしている部隊と交戦中のはずだ。
この場所を警備している軍の一部をひきつけ、そして軍の目を外にと向けさせるという難しい役柄を、彼はなんなくこなしている最中だろうに。
『代わって差し上げてもよろしくってよ』
そう、おどけてあたしが言うと、彼はまた笑った。
『何か珍しいものでもありましたか?』
『そうですね、開くと自分を消す自爆プログラムですかね』
『おやおや、そんなものまで作ってどうするんでしょうねえ』
『さあ? そんなことより何ゆえあたしがここに来てこうしているのか、いまだに分かりません』
『普通の公務員がご苦労様です』
『こらこら、そういうことを通信で言わない。傍受されたらどうします?』
傍受されていないことを知りつつ、あたしは苦笑する。
『そんなへましませんて、俺は。…っと、じゃあ、この辺で』
そう、あたしは普通の公務員なのだが。
ゆっくりと意識を覚醒し、背後に回ろうとした某国のエージェントをふりむき様に一蹴りで沈黙させるとあたしは作業を再開する。
あたしの名前は
かつては平和大国と謳われた日本のブレイブポリスの一員である。



「某国内軍事基地に侵入…って穏やかな作戦じゃありませんね。と、いうよりも、なぜそんな作戦にブレイブポリスが動かなければならないのか不思議でなりませんが」
やんわりとあたしは目の前に座る、冴島総監と顔見知りである防衛軍のセイアさん、そしてスコットランドヤード・ブレイブポリス主任であるレジーナに言った。
当然のごとく、こういった隠密がらみの話にデッカードや友永警部は参加させない方針のためここにはいない。
いるのは、隠密ロボであるシャドウ丸ただ一体のみ。
の疑問はもっともだわ。本当はこういった場合、特殊工作員が動けばいいんだけど、そうも行かないのよ」
レジーナはそういうとあたしには書類で、シャドウ丸にはデータで情報をくれた。
「なるほど」
犬…失礼、狼タイプに変化したシャドウ丸の目が点灯する。
「もうすでに各国のその手の皆さんが激しく動いてるようですぜ、
「そのよう…ですね…。で? その状況内でシャドウ丸にどうしろと」
「シャドウ丸だけではない。君。君にも動いてもらいたいのだ」
「あたし?」
「そうよ、さん」
セイアさんが真剣な、そして沈痛した面持ちであたしを見つめた。
「あのハッキングツールを作成した、貴女に」
あたしは額を押さえた。
カゲロウ事件において、あたしが緊急時に於いて作成したハッキングツールはあの時だけしか使わないつもりだった。
リアルタイムハッキングという、現在のコンピュータの全セキリュティーを素通りして相手に対して情報を与えたり会話したり、はたまた相手側の情報を得るツールだ。
リアルタイムというからには、数十分という誤差もなく、わずかコンマ01程度の時差でそれが行えるものをあたしは確かに作った。
違法と知りつつも、それしかその事件の最大の被害者を救うにはなかったのだ。
まあ、その詳しい話はあとにしよう。
ともあれ、現在そのツールはシャドウ丸が自分の記憶容量の中に収めて活用しているらしい。
「実はな…某国の相手国にLN国があるのを知っているだろう」
「やたら好戦的な国でしたねえ」
シャドウ丸がふんふん、と相槌を打つ。
「国連においてもこの国は発言力が年々強まっている傾向にあるの。そのLN国と某国との仲は最悪の一途を辿っているのは知っているわよね」
「ええ」
あたしがうなづくと、レジーナは真剣な表情で続ける。
「非公式の情報だけど、LI国が某国にたいして宣戦布告しそうなのよ」
「!」
宣戦布告、ということは…。
「戦争?」
「そりゃあ、穏やかじゃありませんねぇい」
シャドウ丸がそう言いながら、心配そうにあたし達を見つめる。
「それも、きわめてレベルの高い戦術プログラムの完成と新たな軍事ミサイルの完成がもうまもなくだそうだ」
「ミサイルの方はなんとかできるわ…だけど戦術プログラムはそうは行かない」
「……第三次世界大戦を起こさせるわけには行きませんよ。何とかしなくちゃ」
「うむ」
シャドウ丸の言葉に冴島総監はうなづく。
「そこで貴方達にしてもらいたいのは、そのシステムを開発している工場内に進入し、戦術プログラムの奪取よ」
「奪取?」
ぴくん、とあたしはその言葉に反応する。
「そう」
レジーナは顔色をうっすらとだか、硬くする。
冴島総監たちは苦渋の表情を浮かべた。

話はこうだろう。
国連に加盟しいるすべての国家機関は、戦争を起きるのは避けたい。
しかしながら、某国とLI国に対抗するべく連合軍を組織して威圧すれば、必ず遺恨の念を二つの国は持ってしまう。
かつての日本を連想させるように急成長の過程にあるかの国と、そういったトラブルはどこの国も避けたいのだ。
表立って行動すれば、非難を浴びてしまうので昔ながらの特殊工作員を使って、トラブルの元になるプログラムをなんとかしたいと考えるのは、当然の行動だと思うが。
破壊ではなく、奪取ときた。
……あきれた。
あたしは溜息を深くついた。
レジーナがうつむく。
冴島総監やセイアさんがはっきり言いたがらないわけだ。
各国家機関は、LN国が作成した戦術プログラムが欲しいのだ。
自分達の国の強みにするために。
「……奪取した後は?」
「……スコットランドヤード・ブレイブポリスを通じて私の国が管理することに今のところなっているの…」
「今のところ?」
シャドウ丸が声を上げる。
「現在の時間もなおも世界会議中よ。勿論、日本も参加してね」
「日本も?!」
「日本は核を所有しない、となっているだけ戦術プログラムを所有してはいけないという世界規定はない」
冴島総監は静かにこう言った。
「そしてこの一件に関しての発言及び行動のすべては、記録することになっている」
記録…。
滅多なことは言えないということか、とあたしは目線を落とす。
「防衛軍は日本を防衛するために作られた組織だから、こういう行動はできないの」
セイアさんは苦笑した。
日本にもこういった活動をする人材はいるだろうが、お目付けというかブレイブポリスがらみで
レジーナがいるためにそのことは公にしたくはないのだろう。たとえブレイブポリスの仲間といえども、今回は勝手が違う。
「シャドウ丸は工場内施設の撹乱及びおとり、そして。貴方に内部からの全システム情報のマスターを奪ってきて欲しいの」
あたしは、溜息をついた。



それが今回の任務のすべてだった。
日本以外の国家機関の皆さんたちも、大変精力的に活動していらっしゃるようで。
この国に入ったと同時にあたしとシャドウ丸は何カ国かの方々とお会いする羽目になった。
もちろん、丁重にお出迎えをして引き上げていただくケースをあたし達は選んだが。
世界会議は今もなお続いている。
レジーナの国が所有の権利を得ていることに同意をしない国が、猛反発をしだしたからだ。
その余波のおかげで、今まさにこの工場内は特殊工作員だらけになっている。
工場施設の管理体制が悪いわけではない。
所詮、人が作った場所だ。
抜け道はいくらでも、ということだろう。
かく言うあたしも今回はその手で内部に侵入したので人様のことをとやかく言える立場ではない。
いつもの婦人警官の制服ではなく、防衛軍が開発していた特殊スーツ(ライダースーツのようなものだ)に、ヘルメットのようなものを被っている。
ある一定時間内ならば、各センサーに引っかからないという優れものだ。着膨れというか、体のラインも一概にはあたしのことを女性とは見て取れないだろう。
このスーツ自体を泥棒が泣いて欲しがるということは、言うまでのない。
ヘルメット内部にはシャドウ丸と外部からの通信を受けるシステムが組み込まれているし、赤外線探知、及びその他もろもろの機能がついていた。
まあ、この機能もスーツに内蔵された充電式の電気がなくなればおしまいなのだが。
『こちら狼。猫がそちらに向かってる』
猫、このI国の警備の人間のことだ。
ただの警備ではない。
武装をした警備。
進入した人間を強制的に排除するだけの武装をした人たちのことだ。
『こちらネズミ、キャットフードはあいにく切らしてると伝えて下さい』
『そうも言ってられやせんぜ?』
『仕方がない。こちらで迎え撃ちます。ちょうどこちらも終わったことですし』
『了解。気をつけて』
『そちらもね』
あたしはそう通信を切ると、この工場におけるマスターデータを移したそれをスーツの中に押し込んだ。
かすかに聞こえる金属音。
ヘルメット内部のシステムを稼動させれば、シャドウ丸に内蔵されているのと同程度の隠密回路を作動させる。
これも時間限定だが、やることはすべてやったのだ。
出し惜しみをして捕まり、いらない心配をさせるわけにも行かないだろう。
友永警部達の顔が頭に浮かび、あたしはシステムを作動させると薄暗い部屋に乗り込んできた兵士数人をなぎ倒した。



ビー、ビーっという甲高い音が工場内に響き渡る。
ばたばたという足音が聞こえてきた。
足元に転がっていた特殊工作員の皆様方も目が覚めたらしく、あたしが昏倒させた兵士の装備を取り上げると、あたしに対して嬉しくない暴言を吐きつつ各々の逃走ルートに走っていった。
力をあわせようとか言われないで、逆に助かった。
一言でも話せば、彼らは身に着けた知識であたしが日本人であることを突き止めるだろう。
それは後々国際問題になった時、困る。
大いに困る。
あたしはそんなことを思いつつ、銃を向けてくる兵士達と命がけの鬼ごっこ&隠れん坊を繰り広げた。
…身体を鍛えるために格闘技を自分に仕込んでおいてよかったと痛感したことは、これで一体何度目だろうか。
しかし、走る方向を間違った。
あたしは工場内における生産プラントを覗く羽目になったのだ。
人型のロボット。
ブレイブポリス並みの武装が取り付けられる、寸前のもの。
通常のビル5階程度の高さから、あたしはそれを見てしまった。
「……超AIは?!」
「そんな無粋なものはつけないようにしているのだよ、我々は」
丁寧な英語が聞こえて、あたしは身体をこわばらせた。
「そう、無粋というと君が被っているものも無粋だね。是非はずしてミスかミスターか教えて欲しいものだ」
一個中隊分の銃口があたしに向けられた。
通路の両脇からはさまれる形であたしは追い詰められてしまう。
目の前の手すりを乗り越えられてもこの高さだ。
スーツがもつかどうか。
左も右も兵士達が銃口をあたしに向けている。
万事休す、というのはこういうことかな? とかあたしは思っていた。
不思議に絶体絶命、とか思わない。
LN国の…将軍クラスの人物が、髭をたくわえた彼は綺麗な軍服にいくつかの勲章を飾って笑っていた。
「各国の工作員もここまでは入ってこれなかった」
「……褒めているつもりかどうかは判断しかねますな、閣下」
男とも女ともとれる口調で言うと、向こうは笑う。
「褒めているんだよ。これでもね。それに君は他の国のどの工作員よりも優秀らしい」
「……」
あたしはゆっくりと目の前にある手すりに近寄りながら、彼との会話をヘルメットに内蔵されたシステムを使って録音、そしてシャドウ丸に対して回線をつなぐ。
今現在のあたしの状況下を知らせるためと、兵器開発の物的証拠のためだ。
…いまさらそんなものを欲しがる国はいないが、こうしておけば外交上この国とトラブルを起こしたときに役に立つかもしれない。
…セイアさんに渡しておけば。
「人形に意思など必要ない。ましてやそれが兵器ならなおさらのことだと思わんかね」
「…」
「確かにブレイブポリスに使われている超AIは通常ではじき出した数値をはるかに上回るものを出す。しかし感情というものがあればいろいろ厄介なことも増える」
「いきなり正義に目覚められても困る?」
あたしの言葉に、彼は笑った。
「そして、ある一定の人間を潜在意識に刷り込んでいるようなものなど必要ないのだよ」
友永警部のことだ。
超AIを持つロボットは、感情を一番最初に生み出したロボット、デッカードのコピーなのだ。
そのデッカードの感情を生み出すきっかけになった友永警部とのことは、他のロボット達の一番深いところまで浸透している。
そう、感情を持つロボットすべてにとって友永警部はかけがいのない存在なのだ。
「それならば、既存の人型兵器を強化していけばいい。統一されたシステムでな」
そのシステムも含まれていた、ということかな?
あたしは懐に入れているモノが重くなったように感じた。
「さあ返してもらおう…まったく脱帽ものだったよ。君の能力には。まさか修復ツールや復元システムそのもの、そして【あれ】までも全て一切合財マスターデータとともに盗むとは」
「もう一度製作者に作らせてはいかがでしょう? 閣下」
「あいにく君も知っての通り、大元を製作した科学者達はみな病死してね」
「それは残念」
何が病死だ、とあたしは口の中で呟く。科学者達は皆、この戦争をしたい症候群の連中に殺されているのだ。
あとくされのないように、もう彼らが必要ないと知った時点で。
「それに、そのままではどの道、そのデータは使えないぞ」
優しく、まるで子供に言い聞かせるような大人の口調でそう男は言った。
ガシャン!!
銃口の全てがあたしに向けられる。
引き金に兵士達の指がかかった。
「さあ」
「あいにくと」
あたしは言った。
気配、というか緊張感の中で研ぎすまれた感覚が、それが近いことを示す。
手すりに手をかける。
「そのほうがこちらには都合がいいので」
「何……?!」
あたしは次の瞬間手すりから身を躍らせた。
彼の声が心に響く。



!!!!!』



工場全体の電源が消えて、爆発音が鳴り響く。
壊された壁から出てきた、大切な仲間があたしの名前を呼んだのだ。
当然、通信であたしだけに。

シャドウ丸!

あたしが心の中でそう叫んだ瞬間、あたしの身体はすぐそこにあったシャドウ丸の背中にいた。
彼はあたしとあの男との会話を聞いてから、まっすぐここに来てくれたのだ。
そう。
隠密回路をフル稼働させて、映像にもセンサーにもその存在自体を写さない様にして。
『ついでに、壊しちまいましょう!』
犬型になったシャドウ丸が床に着地した途端、あたしの返事を待たずにその前足で人型兵器を破壊する。
『デッカードの旦那方にいらない仕事を回されても困るんでね!』
『違いない』
そう、あたしが返すと彼はにやりと笑ったようだった。
だが、笑っていられるのもそれまでだった。
工場の非常用の電源がついたのだ。
この国の言葉で盛大にあたし達をののしり、そして兵士達に「殺すな。データを取り戻せ!」とわめいているあの男の声をヘルメットのシステムが拾う。
『このままいきやすぜ』
『了解!』
あたしの返事に気をよくしたのか、シャドウ丸は犬型のまま、そしてあたしを背中に乗せたまままた壁を破壊した。
飛んでくる瓦礫がごくごく小さなモノなのは、彼があたしに当たらないように瞬時に計算して破壊したからだろう。
瓦礫が何かを壊し、そこから火の手が上がったのを見た。
やばい。
その火は瞬く間に機材に引火した。
『行きやすぜ!!』
そうシャドウ丸が叫んで、工場を飛び出した。
他から見るとあたしたちはどう映っているんだろう。


火の手が上がる軍事基地を背景にした、犬型隠密ロボットとその背中にいる頭から足の先まで真っ黒な特殊工作員。


…想像力が希薄なあたしはそう考えてから、止めた。
『シャドウ丸。このまま海まで出てジェット機に変化。それからは国連の空母までですが燃料は持ちますか』
『燃料はまあそこそこもつが…、本当にそれをそのまま奴らに渡しちまうのか』
奴ら、というのは国連のことだろうか。
それとも所有を認められた国のことなのだろうか。
『そういう命令です』
『……』
あたしの言葉にシャドウ丸は黙る。
彼が言いたいことはわかる。これをもった国がいつ、このシステムを使うようになるかはまったく時間の問題なのだ。
そしてまたあたし達はこういう行為を繰り返さなくてはならないだろう。
『まあ、そのまま素直に使えればの話ですけどね』
あたしはそれだけ言うと、走るシャドウ丸の上から周囲を見つめた。
『? ?』
振動や衝撃が来ないのは彼が気を使っているからだ。
『風を肌で感じたいと思うのは贅沢なんでしょうね』
『そりゃあ止めといたほうがいいでしょう』
追跡してくる軍もどうやら撒けたようだ。
シャドウ丸から飛び降りると、ジェット機に変化してもらい、あたしたちは国外への逃亡に成功する。
当然ジャミングシステムやらいくつかの機能でを使いまくって後々に遺恨を残さないようして。



「ご苦労でした、ミス
外交官を伴って、レジーナと冴島総監が空母の上で待っていた。
シャドウ丸が燃料を補給するまで、あたしはヘルメットを脱ぐ。
潮風が気持ちいい。
「いえ」
あたしは固くなりながら、握手を求める外交官に対して失礼にならないようにそっとそれを拒絶し、敬礼してみせる。
「ブレイブポリス所属、。ただいまをもって作戦の移行を宣言いたします」
「了解しました」
外交官は苦笑した。
この言葉は国連を含めた国家軍がよく使う言葉で、文字通り、作戦上における任務を他の人に譲渡する場合に用いられる。
「本作戦における、今後の責任全てにおいて我々が引き継ぎましょう。ご苦労様でした」
あたしはこの言葉を待っていた。
今後どんなことがあろうと、日本は、そうブレイブポリスは一切関知しない。
そう、どんな事が起ころうと。
あたしは、静かに小型の端末からマスターデータが入っているそれを渡した。
「コピーなどは行っていませんが、もしもお疑いであれば…」
「いいえ、結構。その端末はシステムの移動処理をする為だけのものだとは、ミスター冴島より聞いています」
にこにこと向こうの外交官が笑う。
「では今後は私たちスコットランドヤード・ブレイブポリスが警護につきます」
レジーナの言葉に、冴島総監は頷く。
あたしは背筋をのばしてそれを聞く。
「もしもミスが良ければ、食事などを用意してありますが?」
「いえ、結構です。総監は?」
「いや、私はすぐに国連本部に顔を出すように言われているのでね。ドリルボーイがそろそろ…」
「おっまたせ〜♪ 総監v あ、とシャドウ丸。?なんでここにいるの?」
騒音とともにドリルボーイが迎えにくる。
セイアさんはどうも日本での事務処理だと聞くとますます都合がいい。
「その話はあとでゆっくりと。シャドウ丸はすぐに飛べますか?」
「え? ええ、大丈夫ですけど、。あんたは疲れてるんじゃ?」
「いえ、平気です」
あたしは外交官とレジーナに対して敬礼をする。
「大変申し訳ありませんが、ではこれより日本に帰国させていただきます」
「うむ。君がそういうなら仕方がない」
レジーナが何か言いかけるが、周囲を気にして何もいえない。
彼女も国の命令は絶対だろう。
「では、総監、ドリルボーイ。先に帰ります」
「は〜い♪」
「うむ。報告はシャドウ丸に出してもらう。君はゆっくり休みたまえ」
「はい、ありがとうございます。シャドウ丸!」
「合点!!」
あたしは、シャドウ丸に乗り込むと日本へと帰路に立った。
「任務完了ですねぇ」
シャドウ丸がおずおずとそう言う。
あのシステムが今後どうなるか心配しているのだろう。
「いいえ」
あたしはヘルメットを脇において、首もとのチャックを緩めた。
「任務は継続中です」
「?」
あたしの言葉にシャドウ丸は?マークを飛ばしまくりながら、飛行していく。



「へえ、そんなことがあったんだ」
友永警部と他のメンバーの休憩時間中に、シャドウ丸があたしとの任務というか事件というかのお話を、いろんな部分をはしょりながら報告する。
「でも不思議なんですよねえ。ねぇ、なんで『任務は継続中』なんです?」
シャドウ丸の言葉に、他のメンバーの瞳があたしに向けられる。
「現在も任務継続中ですよ」
「? だってレジーナの国の人に任せたんでしょう?」
友永警部の言葉にあたしはただ日本茶に口をつけた。
と、その時。
!!」
デッカールームの大画面に二分割で通信が入る。
一人はレジーナ、そしてもう一人はあの外交官だ。
「ミス・!! 貴女という人は!!」
「なんでしょう?」
あたしは声を荒げる彼に対して静かに言った。
「あのシステムはわが国が所有を国連の世界会議において…」
「何を仰ってるのか判りません。あのシステムに関しての全ての権限、および保管における責任はあの時点で貴方に移行されています」
びくつくドリルボーイやパワージョーを尻目にあたしがそう言うと、捨て台詞を言って外交官の顔が消える。
そう、もう日本の手を離れているし、あれから何十時間もの時間が経過していて、いまさらあたしに対してどうこう言えるようなことはできないので当たり前である。

。ありがとう…」
「レジーナ、何が起こったの?」
友永警部の言葉にレジーナは薄く笑う。
勇太や皆は話を知っているのよね? と聞いてから彼女は口を開いた。
「こちらの施設内で、例のシステムを起動しようとしたの! そしたら、システムそのものだけじゃないのも一緒に入っていたの」
「それは任務間の違反とかには当たらないのですね? レディ」
デュークの言葉にガンマックスが鼻で笑った。
「一介の警察官に、軍事がらみのことさせる方がどうかしてるんだぜ?」
「確かにそうだが」
マクレーンが心配そうにレジーナを見つめた。
「ぜんぜん問題はないわ。だっては、システムを守るアンチハッキングプログラムごと、まるごとそっくりそのまま奪ってきたんですもの!」
レジーナの感嘆の声に友永警部が?マークを飛ばす。
専門的な話はまだわからないのだ。
「そうですねぇ、泥棒は金庫を開けて中の現金を盗むとします」
シャドウ丸がそう言うとデッカードが口を開く。
は金庫ごと盗んだ、ということだ」
「……たとえが悪いですが、そういうことであります」
ダンプソンが憮然とした声で最後に言う。
「「で? それでどうしてあの人怒ってたの?」」
友永警部とドリルボーイの声が重なった。
「金庫は鍵が合わないと開かないわ、勇太。そのシステムもキーワードがないと簡単には見れないようになっていたの」
「WHAT? それでもレジーナなら『合鍵』ぐらい作ってあけられるだろう?」
ガンマックスの言葉にレジーナは瞳をきらきらさせる。
「そう! 合鍵で中を見たとたん、どうなったと思う? システムの全てがなくなっちゃったの!」
「ええ?!」
友永警部があたしとレジーナを交互に見つめた。
「調べようにもマスターデータ全てが消えちゃったからどうしようもないの。しかもプロテクトが固くて、コピーする前だったから」
「つまり、システムは全てなくなってしまったということか、レジーナ」
「そう!」
とシャドウ丸が苦労してとってきたのが?」
「理由はきっとが知ってるわよね?」
パワージョーの不満そうな言葉にレジーナがそう返す。
あたしは皆の視線をやんわり受け止めると「さあ?」ととぼけた。
シャドウ丸が立ち上がってあたしの傍に近寄る。
、あんた…あのプログラムどうしました?」
「…どの?」


シャドウ丸の頭の中で、おそらくこんな会話が繰り返されていることだろう。


『何か珍しいものでもありましたか?』
『そうですね、開くと自分を消す自爆プログラムですかね』


シャドウ丸はあたしのその言葉で確信したらしい。
「でも、そしたらシャドウ丸とさんの苦労は…」
「勇太。そのシステムが残って、あたしの国家機関が所有したとするわ。そしたらそのシステムを狙ってサイバーテロやその手の犯罪はあたしの国に増えるでしょう。悪い方向にすれば、そのシステムを入手したらあたしの国が第二のLN国になってしまうかもしれなかったの」
LI国はあのあと、軍事工場を爆破させてしまい、その手の産業を大きく後退させた。
例のシステムも開発者を自らの手で抹殺してしまっていたのだからもう二度と製作はできないだろう。
……まあ、当分の間は某国がはばを聞かせるだろうが、戦争が起きるよりは幾分かはましだ。
敵対する国を失ってますます増長しそうな予感はあるが。
「それに、そんな危険な戦術システムなんかないほうが人類のためだわ? そうでしょ
レジーナの言葉にあたしは黙って日本茶を飲む。
「ノーコメント?」
「黙秘権とも言いますね」
あたしがそう言うとレジーナは笑った。
「この件に関しては正式に国連から文書が出ると思うわ。もちろん日本にもね、じゃあ」
そう言ってレジーナは画面から姿を消した。
、さん?」
友永警部の不安そうな声にあたしは笑った。
「…一応レジーナも関係者ですからねえ…めったなこといって彼女に迷惑かけるわけにはいかないんですよ」
そう言ってデュークに安心させるように言うと、お茶を一口飲む。
「では、やはり刑事が…?」
ダンプソンの問いに、あたしは頭をかいた。
「国の皆さんには大変悪いと思いましたけれど、あんな戦術システムを残してたら、未来の人にもロボットにも申し訳ありませんからね」
ですから、とあたしは小さくつぶやく。
「消えてしまえるものなら、消えてしまったほうがいいんですよ」
だからあたしは自爆プログラムを当初作成していた。
間に合わないのでプロテクトごとデータを盗んだのだ。
パスワードの部分を変更し、判らないようにその場しのぎにしようとすると、それがシステムを収めてあったデータの近くに保存してあったので驚いた。
亡くなってしまった科学者が、作っていたのだろう。
万一を考えて。
あたしはすばやくそれをシステムに連動させてから、あの外交官に手渡したのだ。



「そのとおりだ」
「冴島さん?」
冴島総監がにこにこ笑いながらデッカールームに入ってくる。
どうやらあちら側から連絡があったようだ。
笑っているので問題はないだろう。
あったら困るが。
刑事は、任務どおり奪取したのだよ、勇太くん。人類からシステムを奪取したのだ」
「総監?」
「大丈夫だ。もう二度とあんな戦術システムが作られはしない、とは断言できないが」
とりあえずは…。
「任務完了、ってとこですかね」
あたしがそう笑いかけるとシャドウ丸は驚いて、そしてつぎに笑い出した。
「…まったく、貴女にはかないませんねえ」
「違いない」
デッカードたちもあたしを感心した瞳で見つめた。
あたしはなんだか苦笑いを浮かべる。



このとき、某国が同じシステムを製作し、システムを暴走させる事件を起こすのは、この数年後となるのを、誰も予想はしていなかった。
その時、あたし達ブレイブポリスが、またも出動してしまうのは別のお話。





(くう様より)
やはり勇者警察は長くなってしまいます(苦笑)。
本気で分割しようかと思いました。
長々と書いてしまいましたがいかだだったでしょうか?
「犯罪組織に潜入。証拠データなんかをハックしてとんずらしようとした矢先に発見されて、犬型に変形したシャドウ丸の背中に乗って脱出!」
でしたが、
犯罪組織を国家機関にさせていただきました(汗)
まあ戦争を仕掛けようとする国は平和な世界間を乱すという犯罪者ということで勘弁していただければ幸いですイリス様(すがりつき)ー!
い、いや、普通の犯罪組織だとシャドウ丸が一人でさくさく行っちゃうので(涙)。>いいわけ。
しかも、甘くないし!(涙)
すみません、イリスさまー(涙)

中に出てきた国名・機関は言うまでもなく架空の機関ですのであしからず。

イリス様、リクエストありがとうこざいました〜v

(イリスよりお礼)
きゃあああぁぁぁっっ(はぁと)くう様、本当に有難うございますーーーーーっ!!!
ヒロインもシャドウ丸も無茶苦茶格好いいですっ!!(握り拳)
スケールがでかくなったことで格好よさも割り増しですし♪
シャドウ丸が壁をぶち壊しつつ、ヒロインを背中で受け止めるところなんて、まさにイリスが夢見ていたそのまんま。
やっぱりシャドウ丸が好きですね、はい。