胸に輝く永遠の煌き
〜幕間・再び迷子のお姫様〜


「お前、いい奴だにゃ!」
「・・・・・別にいいけどね・・・・・(ため息)」





 商売根性故か、それとも性格故か。やたらと押しの強いウサギネコの商人に押し切られ、白皙の美貌でありながら温かみのある青年はいつの間にか盗賊討伐の為に彼に同行する事になっていたのだった。





「・・・あれ?」
 嬉々として歩く同行者の後を何の感慨もなく歩いていた青年はふと、視界に入った人物に首を傾げる。
 アーティファクトを開放し、出現したリュオン街道。その入り口付近でうろうろ・・・いや、おろおろしている小さな影。
 近づくにつれ、その小さな影が小柄な少女だという事が次第に分かってきた。
 白いドレス。長い栗色の髪を緩く編んで垂らして。大きな栗色の瞳をあちらこちらに向けている。
「な〜んか、『聞いた』事のある背格好なんだけどなぁ」
 きょろきょろしている小さな少女は見た事はない。だが、その身体的特徴は聞いた事がある。それも、つい最近、最愛の妹から。
「ねぇ、君」
「え、あ・・・わ、わたしのこと・・・です、か・・・?」
 びくっ、と肩を揺らした少女はおそるおそる声を掛けてきた青年の顔を見上げた。
「うん、君を呼んだよ」
 にっこりと暖かい笑顔を浮かべながら、青年は軽く首を傾げる。
「僕はジルフェ。親しい人達はルーフェって呼んでいるよ。で、君、エアリアル・・・アリアって女の子を知らないかな?」
「アリアお姉様を知っているんですか?」
「うん、僕は彼女の兄なんだ」
「お兄様・・・」
 びっくりしたように瞳を見開き、青年を見上げてくる少女に彼は更に微笑んだ。
「ああ、やっぱり君だったんだね。アリアから話を聞いていたからそうかなーとは思っていたんだけど。・・・こんなところにいるってことは、もしかしてまた迷ったのかな?」
「あ・・・そ、その・・・そう、です・・・」
 顔を真っ赤にして俯き、小さな声で返答する少女の可愛らしさに青年はくすりと笑みを零す。
「なんだったら、送ろうか?ドミナの街まで」
 自分が何故ここに来たのか、その理由を遥か彼方まで蹴り飛ばしている発言だが、彼にとって鬱陶しい商人より保護欲をそそる可愛い女の子の方が当然優先順位が上なのだ。
「どうかな?」
 近寄りがたい白皙の美貌でありながら、浮かべる笑顔で温かい印象を受ける青年は心からの親切心で少女に道案内を申し出たのだが、やや人見知りの気がある少女は慌てたように首を横に振った。
「あ、そ、その、大丈夫です。道を教えていただければ・・・」
「そう?」
 果たして、道を教えただけで彼女が無事にドミナの町に辿り着けるのか、大いに疑問であり、心配でもあるのだが、初対面である自分が強引に送るわけにもいかないだろう。

(でも、まぁ、大丈夫かな?それほど複雑な道じゃないし)

 リュオン街道からドミナの街までの道順を思い浮かべ、迷うことはないだろうと考える。
「じゃあ、よく聞いてね。ドミナへはこの道を真っ直ぐに行って、大きな樹と赤いポストの家のところで右に曲がるんだ。後は真っ直ぐに行けばドミナだから」
「あ・・・はい、分かりました。ありがとうございます・・・」
「うん、気をつけてね」
 にこり、ともう一度人好きのする笑顔を浮かべると相対していた少女も再び顔を赤く染める。

(ホント、可愛いなぁ)

 妹から聞いた目の前の女の子のナイトらしい青年が必死になるのも分かる気がする。
「あの、じゃあ、わたしはこれで・・・」
「うん、またいつか、会おうね」
 軽く手を振り、数歩進んだ後、背後を振り返れば。
「えーっと・・・こっち・・・かな・・・?」
 あちこちに視線をやりながら、ふらふらと歩く白いお姫様の姿。
「・・・・・し、心配だ・・・・・」
 たらり、と汗が流れるのは致し方ないだろう。やっぱり送っていこうかと考え込んでいる間に白いお姫様の姿は消えており。
「また、あいつが暴れている気がするにゃー」
「そう、だな・・・」
 図太い神経を持っているはずの商人がどこか遠い目をして呟いた言葉に、珍しく同意する青年の姿があった。



「真珠はどこだっ!!??」
「落ち着け、瑠璃っ!!」



 青年と商人が危惧していた出来事がやはり、起こっていた事を最愛の妹から聞いた兄はただ、深いため息をついたのだった。



 因みに。
 この出会いから青年も必然的に青い騎士と白いお姫様と関わりを持つことになるのだが、それはまた別の話である。