恋に落ちて(前編


ここは、飛空都市。女王試験も中盤に差し掛かっていた。
鋼の守護聖 ゼフェルは仕事をさぼり、森の湖の木にハンモックを掛け昼寝を決め込もうとしていた。
平日の森の湖は休日とうって変わって静かである。休日だったら恋人たちで賑わう湖でも、平日では来る人の方が珍しいくらいだ。
ゼフェルが寝に入ろうとした時、目の端に何かが飛び込んできた。金髪の髪の少女だった。
彼女は女王候補の一人の、アンジェリーク・リモージュである。
ゼフェルは彼女のことが嫌いだった。なぜかというと、試験が始まってまもないころ、泣いていた所を見てしまっただけなのに、睨まれたからである。
それ以来嫌いだったが、彼女のほうわちょくちょくとゼフェルの執務室に現れた。
そのおかげで、今では彼女のことが少しづつ気になりだしていた。
アンジェは俯いていたので、当然ゼフェルに気付いていなかった。
そのまま、湖の岸に力無く座り込むと、突然大声で泣き出した。
ゼフェルは驚きアンジェを見つめていた。何かしてやりたいが出ていくタイミングがつかめなかった。
しばらくしてゼフェルは静かにハンモックから下りることにした。
音を出さないように気おつけたが、やはり無理だった。
ぱき・・・。
ゼフェルはあちゃーと思いアンジェを見た。
アンジェはぴっくと背筋を伸ばし、おそるおそる音のした方に振り向いた
「誰?」
「よ、よおー」
アンジェのつぶやきにゼフェルはばつが悪そうに一言答えた
「ゼ、ゼフェル様ー。いつからそこに居たんですか?」
アンジェはすっとんきょな声を上げた。瞳を見ればいつも碧に輝いている瞳が赤っぽく瞼は腫れているようにも思えた
「おめーより先にいたんだよ。それよりどうしたんだこんな所で?」
また睨まれると思いつつも聞いてしまう
だがアンジェは瞳を潤ませ、また泣き出した
「お、おい。何で泣くんだよ。オレ何か変なことを言ったかよ」
アンジェはただ首を左右に振るだけだった
ゼフェルは訳が分からなかったが、おそるおそるアンジェに近づきためらいがちに腕を背中に回して、子供をあやすように軽く背中をたたいた。
「泣き止むまで待ってやるから、訳をちゃんと話せよ」
アンジェは2,3回頭を上下に動かしたしばらくして、泣いていた訳をぽつりぽつり話し出した
「き、昨日・・寮に帰ったら・・手紙が来てて・・手紙に・・」
アンジェはまた涙を浮かべたが話を続けた
「は、母が・・死、死んだった・・書いて在ったんです・・私すごく・・後悔したんです・・女王試験なんか受けず・・母の側に居ればよかったって・・母の言いつけでも、側に・・居てあげれば・・よかったって。それに最後に・・母の側に・・居れなかったのが・・すごく・・悔しくって・・だし・・私には、もー・・帰る場所が・・ないかと思うと・・泣けてきたんです」
「おまえ、帰る場所がないって言ったが、親父はどうしたんだ?」
「父は・・私が小さい頃に・・死んでます」
「わりー、変なこと聞ーちまって」
とゼフェルは素直に謝った
「いいです・・私気にしてませんから」
「ならよー、帰る所がないって言うなら女王になれよ。そうすれば聖地がおまえの場所になるからよ」
「でも・・私なんかがなれるんかしら?それに今はロザレアに負けてるし」
ゼフェルはじぃーとアンジェの瞳をのぞき
「オレが女王にしてやるよ」
瞳にはまだ涙が浮かんでいるが、いつもと変わらない笑顔で微笑み
「はい。私、頑張ります。それとゼフェル様にこうして話しただけでだいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「別にオレは何もしてねーよ」
「そんなことないですよ!それじゃあゼフェル様、私これから育成に行きます」
とアンジェは元気よく立ち上がり森の湖を後にした
ゼフェルはアンジェが見えなくなるまで、後ろ姿を見つめていた。
そして、一つの後悔をしていた。それは、女王よりオレの側に居ろと言えなかったことだ