神などいない〜空白の二年間〜
疑問にお答えいたしましょう(笑) 「で、前から聞きたかったんだけど」 「なぁに?」 「貴女達、二年間もよく生活出来たわね」 「「・・・・・」」 乾いた風が吹きすぎた・・・・・ 「聞いちゃいけなかったの?」 濃紺の巻き毛の美女の言葉に、金の髪の愛らしい少女が答える。 「そういうわけじゃないんだけど、いきなり聞くから」 「でもねぇ、ホントに前から疑問だったのよ。どうやって生活してたのかって」 「『芸は身を助ける』」 ボソリと闇夜の黒髪の青年が呟いた。 「・・・・・察しますに、占いで生計を立ててらっしゃったので?」 ゆるりと首を傾げる仕草も優雅な銀に青のかかった不思議な色の髪の青年が言葉をかけると、少女の方が頷き、 「半分は正解だな」 口で答えたのは青年の方である。 「半分、ですかぁ?」 おっとりとした口調の、おっとりとした雰囲気の青年が湯飲みを両手で支えて問いかけると、二人は同時に顔を見合わせる。 それはただお互いに『言っていいのか?』と意向を問う眼差しであったのだが、 「目と目でツーカーでも何でもいいけどよ、他所でやれよ」 呆れたように鋼色の髪の少年が固いお煎餅に手を伸ばしながら言い、これまた二人は同時に苦笑する。 「二年以上も一緒にいたので、わざわざ言う必要がなくなってきてるんですよね」 クスクスと笑って少女が言う。元々寡黙な性である青年に合わせるうちに、何時の間にか彼女は彼の瞳を見ることでたいがいの言いたいことを察することが出来るようになっていた。 「はいはい、ゴチソウサマ」 『やぁね、熱くって』とひやかし、プリズムをまとう青年がパタパタと羽根扇で自分を扇ぐ。 「で、いったい、どうやって生活していたわけ?」 『まったく同感よねぇ』などと内心では思いながらも美女が話の軌道修正を行うと、少女が口を開いた。そこにいるなかでは、彼女と彼女最愛の人しか知らない二年間の生活を答える為に。 ふわふわとした金色の髪と翠の瞳の少女が、愛らしい声を張り上げて厨房に注文を伝える。愛らしさを演出するレースのエプロンがフワフワと動きにつられて動く。 「はい、こっち出来上がり。持って行って」 「はい」 厨房で働いている恰幅のいい女性から渡された料理を手にすると、フリルのスカートを風に膨らませて彼女はそれを持って行く。 「お嬢さんお名前は?」 料理を持って行った先の青年に声をかけられた少女はきょとんとし、幼く甘い顔立ちには凶悪に似合うその表情に青年は更に問う。 「ね、名前は?」 「えっと、私はア」 熱心に聞いてくる青年に困惑しながらも答えようとした少女だが、白大理石の冷たい指に肩を引かれて唇を閉じる。 「ナンパはお断りだ」 迫力満点の声と冷たいアメジストの瞳に、思わず腰の引ける青年である。 「仕事が待っているぞ」 「はい」 厨房を示す青年に、少女はにこにこ笑って答えると踵を返し、彼は窓際の席へと。 「・・・・・」 無言で明るい店内では唯一薄暗い窓際の席に青年が座ると、その前に何人かの人垣がすぐさま出来る。青年と向かい合うように座ったのはわけ有りそうな壮年の男で、何事かを書いた紙を可成真剣な様子で渡す。青年はそれを一読すると頷き揺らめく炎にくべ、テーブルの上に置かれたカードを手にする。 「何だぁ?」 「お前さん、知らないのか?」 ナンパを邪魔され唖然としていた青年が呟くと、近くの席に座っていた常連客と思しき男が笑いながら教えてやった。 「最近ここの街の外れにやって来た占い師と、その奥さんだよ、ありゃ」 「・・・・・え?」 思わず少女を見ると、『嘘だろう?』と思わずにはいられなかった。 元気にテーブルとテーブルの間を行き来している少女は、どう見積もっても十六、七程度にしか見えず、すぐに信じられるものではなかったのである。 「仕事は終わったか?」 「はい、そちらは?」 「私もこれで仕舞いだ」 「では、帰りましょう」 「あぁ」 緩く頷き青年が立ち上がると、小柄な少女は自分よりもずっと背の高い青年の腕に飛びつくように抱きつく。 「お買い物をして帰りたいのですけど、いいですか?」 「かまわぬ」 短すぎる答えには感情の起伏が乏しく知らない者には無関心そうなイメージを抱かせるには十分なのだが、彼に引っついている少女は嬉しそうに抱き締めている腕に頬を擦りつける。 「うふふふ」 「何がそれ程楽しい?」 「内緒です」 「?」 「ね、早く参りましょう」 にっこりと笑って彼女は青年の腕を引っ張り、何が楽しいのかはぐらかされてしまった青年ではあったが、少女のその笑顔だけですぐにそのことも忘れてしまったのである。 「じゃあ、なぁに、あんたも働いていたわけ?」 「うん」 ニコニコと笑っている少女がそう答えると、コーヒーカップに口をつけながら炎のような深紅の髪の青年がボソリと呟いた。 「カイショナシ」 『ゲシッ』 何処の誰とは言及しないが、遠慮と良心の呵責なしにその青年の頭を、誰かさんがド突き倒した。 「一緒にいる為の努力ですから」 痛そうに頭を抱えている青年に、慣れているのか少女はクスクス笑いながらフォローを入れる。 「私でも出来ることがあって、それが出来て、とても嬉しかったです」 『それに』と続けながら、少女の視線が黒髪の青年にチラと向けられる。 「・・・・・」 無言を通し、彼女が語るままにしていた青年がその視線に気がついて軽く眉を動かしたが、やはり無言を通す。 「お優しい方ですから」 幸せそうな顔で、彼女は再び過去を紡ぎ出した。 夕方の広場は一日で一番賑わう。仕事を終えて帰ろうとする者やまだ遊び足らなそうな子供達、夕方の買い物をする主婦達に彼女達を客にする店の店員の威勢のいい声が広場を埋め尽くすのだ。 「今日和」 すっかり顔見知りの店員に声をかける少女。その後ろには所在がなさそうに立っている青年がいる。 「今日はどれにするの?」 まだ若い女性店員は、それとなく青年の方へ視線を向けながら問う。たとえ人の旦那様でも、憧れは憧れとして見ることは誰にだって許されるのだ。 「えっとね」 あどけなく初々しい雰囲気を相変わらず湛える少女は幾つかの注文をする。勿論、所在のない青年は無言だ。 「はい、これはオマケ」 「わぁい、有り難う」 『きゃろろん♪』と、人妻とはとても思えない少女は嬉しそうに笑う。 「またよろしくぅ」 「はぁい」 青年と連れ立って店を離れる姿に声がかけられ、可愛く少女は手を振って応える。 「そこの奥さん、安いよ」 「まだあるから今度ね」 「ケチッ」 「ベェッだ」 「・・・・・」 同じように常連ではあるが今必要とは判断していない商品を掲げる店員と軽やかにやりとりする少女を、青年が奇異な目で見下ろす。 「どうしました?」 「慣れているな、と思ってな」 「ここの人達皆言い人で、凄く話しやすいんです」 人懐っこい笑顔の少女は随分と背の高い青年を見上げてそう言う。 「そうか」 相槌を打った青年が少女の手から袋を取り上げる。 「いいですよ、軽いですから」 「かまわん」 短い答えに宿る微かな響きに、彼女は微笑む。 「早く帰るぞ」 「はいっ」 照れたように視線を逸らす青年に特別華やかに笑った少女が応えた。 「何時もそれとなくフォローを入れて下さったりしてくれていたんです」 少女の言葉を聞き、ここで少女と本人を除くその場にいた全員の視線が青年に向けられる。心底『意外』の念に彩られた視線であった。 「・・・・・」 フンッとばかりに彼はその視線を冷たい一瞥で振り払う。 「ねぇ、引っ掛かったんだけど、いい?」 「何でしょうか?」 あどけなさの残る淡い金髪の少年の声に首を傾けると、少年が問うた。周りに『兄妹』ではなく『夫婦』と言っていたのか、と。 「えぇ」 『それが?』と再び少女が首を傾げると、チョコレート色の髪の少年が複雑そうな顔で呟いた。 「・・・・・外見だけなら、ほとんど犯罪」 「幾ら本当のことでも、言ってはいけないわ」 「フォローになっておりません」 美女の言葉にハニーブロンドの青年が苦笑しながらツッコミを入れた。 「でもそう思わない?」 思わず青年と少女と美女自身を除く全員が頷く。 「何処が犯罪なんですか?」 眉をしかめる青年はともかく、疑問符を十は背負った少女の言葉には呆れきった美女の視線が向けられた。 「外見二十五の旦那とどう見積もってたって十五、六にしか見えない奥さんだなんて、犯罪以外の何物でもないわよ」 「そんなに子供っぽいかしら?」 不満そうに少女が唇を尖らせると、少女自身を除いた全員が間髪入れずに頷き、 「ひっどぉい!私そんなに子供じゃないもん!!」 「あんた、その態度でそんなこと言うわけ?」 つい最近まで駆け落ちをしていた親友−二十才過ぎ−に美女が真顔でツッコみを入れた途端、テーブルを揺るがす程の爆笑が広がった。 ま、こういうわけでした(笑) ![]() END |