五福戦隊 チャンバラー
(3)


 秋の夜長に相応しく、名月の光受けながら、雅な庭園を眺めつつ、東城家では、食事も済んで茶も飲んで−−−−−
「さぁ。皆の者、準備に取りかかるのじゃ」
 御頭の声に、遠山1人が張りきった。
「みんな、今から本名呼んじゃダメだからねぇ」
「わかっている、奉行。この格好で本名を呼ばれたら、恥ずかしくて生きていけん」

※五人衆の制服(ユニフォーム)は、古式懐しき和服である。
 和服といっても、ただの和服ではない。
 どーらくじじい事東城重臣。齢六十にして目覚めた鉱物学が罷り間違って−−−否−−−高じて、生まれた超級繊維(ミラクル・ファイバー)である。
 繊維と名が付いているが、金属である。
 切れも裂けもしない優れもの。しかも、重さは普通の着物と変わらない。
 チャンバラーの強さの秘密。その一である。
 そして、東城重臣。齢、六十五にして目覚めた機械工学(テクノロジー)で造り出した赤外線暗視装置(ノクトビジョン)と変声機(ボコーダー)。この二つが五人衆の付ける御面についている。
 強さの秘密。その二である。
 因みに御面は鬼面、阿多福面、女面、天狗面、火男面の五つである。※

「と、いう事で・・御台、着付けてぇ〜」

[ここで、解説しておこう]
※皆の呼び名について。
(呼び名つまり、ここでは彩良幕府における役職(立場)を示す)
まず、先程登場した奉行と御台
『奉行』は当然、遠山の金さんから−−遠山園河のこと。
『御台』は、家で着付をやっている−−高野美香子のこと。
続いて影武者牧野理恵は、『影』
兵頭文は、本人の技量に因り公儀指南役
公儀指南役といえば柳生一族。依って呼び名は『柳生』
最後の如月美和は、その性格の堅さ故、火付盗賊改方長官。
火盗改といえば鬼の平蔵こと長谷川平蔵。斯くして、御頭。
しかしながら、御頭は既にいるので『長官』となる。
ちなみに本日登場しない東城彩良は、将軍である。
だから、やっぱり呼び名は『上様』なのであった。

 五人衆の着付の間、御頭は繁々と奉行の持ってきた四角い紙(カード)を見た。
 ブラック・シップが残していった深紅のカードが物語るものは−−−−−−
*tonight=今夜。
*dog・bell=戌の刻(五ツ)の鐘。
*mountain・alongの大地=山沿いの場所。
 つまり、【本日・午後八時・学校の運動場で】と、云う訳だ。

 その頃、フローレンスと愉快な仲間たち−否−ブラック・シップのメンバーは、シークレット・ベースを出て、山伝いに学校に向かっていた。
(いつものルート)

 本日の催しは、午後七時の町内放送で、既にお知らせされている。
 情報の出所は、東城家の道楽じじい、御頭こと東城重臣。
 勿論、東城重臣本人は、学校まで出て来たりしない。
 このどーらくじじいの手先。と、いうよりは−−−−じじいに利用されまくりの人物がいる。
 町内放送の放送局員、穴浦権造(二十六歳、独身)
 この男、実は密かに、この催しの追っ掛けである。
 対決有りの情報が入ろうものなら、何をおいても飛んでくる。
 総ての番組を中止して、この対決を放映する−−−しかも実況付きで−−−
 じじいは茶の間で、のんびりと御観覧。
 最初は、びっくりしていた町内の人々も、田舎町の数少ない娯楽と、最近は、すっかり馴染んできている。
 家を空けれる者は皆、学校まで出て来るし、そうでなければテレビの前から動かないとくる。

五福町町内放送、今日も今日とて夜間営業


 運動場は夜間照明に照らされて、舞台は準備万端、整って、主人公のお出ましを今や遅しと待っている。
 さぁ、穴浦権造の登場だ。
『今晩は。五福町営放送の放送局員、穴浦権造です。本日は、番組を変更して、特別放映番組≪対決≫をお送り致しております。秋も深くなり直接、現場で≪対決≫を観覧するには肌寒い季節となって参りました。しかし、ご覧下さい。この様に大勢の観客がこの五福町立五福小中学校運動場に詰め掛けております。観客の皆さんの声をお聞き下さい』
 ≪対決≫を見に来た町民達は、正面から小学校舎よりに集まっている。
 小学校舎を背にして、運動場を見る形になっている。
 皆、敷物や簡易椅子などを持ってきて、思い思いに座っている。
 その中央辺りに実況席が設けられている。
 熱いお茶を配っているのは、五福町青年団の方々だ。
 ほかには、五福町婦人会の人々が焼きおにぎりを配っていたりする。
『女の子の集団がいます。ちょっと、お話を伺ってみましょう。−−−−−いつも、≪対決≫をここで見てらっしゃる方々ですか』
「そうで〜す」
『かなり涼しくなってきましたが、これから、もっと寒くなっても、この≪対決≫、ずっと現場で見たいと思ってますか』
「思ってま〜す。だって、チャンバラーってカッコイイんだもん。テレビで見るのとぉ、迫力とかぁ全然違うしぃ・・・寒くなったらぁ、服とか、いっぱい着ればいいしぃ・・・ねぇ・・・」
『そうですね。−−−チャンバラーの誰が好きですか。あなたから・・』
「あたしはぁ、”剣士”が好きです」
「わたしは、”闘将”」
「私は、”姫御前”が、いいな」
『そうですか。皆さん、格好良いですからね。これからも、寒さに負けず、頑張って応援して下さい。・・時間は、そろそろ八時です』
 中学校舎の横手から金髪巻毛の白い衣装の少女と黒服の集団が走り込んできた。少女を中心に、黒服が左右に並び、中学校舎を背にして立つ。

フローレンスは白い仮面を付けている。
黒服の男達は、アルバートの薬を服用して狼男に変身している。

『おぉっと、ブラック・シップが現れた〜。時間には律儀な連中です』
 少女が夜空に向かって大きく手を広げた。
 静まりかえった運動場に少女の声が響き渡る。
「−−−月見などと云う悪しき風習をこの世に遺してはなりません。今宵、我等がこれを抹消して差し上げましょう。−−−この燃え盛る炎の中で月見団子は消えるのです。−−−−−これは、聖なる消滅のCeremonyなのです」
 声高らかに少女が喋っている間も休みなく実況は続いています。
『おお〜・・いつの間にか、黒服が用意したと思われる焚火が少女の側に在ります。黒服の中で唯一ネクタイだけ白の男が少女に飾られた月見団子を差し出しました。受け取った少女は月見団子を炎の上に−−−』
 月見団子を器ごと炎に投じようとしたその時、大音声。
「ちょおっと、まったぁ〜」
 体育館の屋根に五つの影。体育館にスポットライトがあたる。
「洒落た真似をしてくれるじゃないか。それは与作じっちゃんの月見団子だ。くだらない理屈をほざいてないで、さっさと、その月見団子を返してもらおうか」
 穴浦権造の声が響き渡る。
『お待たせしました。主役の登場です。−−−−−是ぞ日本の正装。−−−来たぞ−−我ら≪対決≫視聴者の英雄。
正義の味方の定番−−−五人の戦神(いくさがみ)【五福戦隊チャンバラー】
右から、外柔内剛の戦神−−−鬼才の「剣士」
     才色兼備の戦神−−−扇の舞の「姫御前(ひめごぜ)」
     一刀両断の戦神−−−鉄扇の「守護神」
     剛健実直の戦神−−−凄腕の「闘将」
     正確無比の戦神−−−疾風の「侍」            』
 息継ぎもせず、捲し立てる。−−−−流石は専属実況放送局員−−−−
『え〜、情報によりますと、今日の≪対決≫は、町営長屋『ちゃんばら長屋』在住の与作さんの奥さんが作った月見団子をブラック・シップが強奪した事に端を発している模様です。相変わらず、ブラック・シップは言う事は派手な割にやっている事はせこいです。毎度、被害者になってしまう与作さんですが、この度、番組が始まる前に取材にお伺いしました。しかしながら、ブラック・シップの所業が思いの外、大きく御言葉を頂戴する事が出来ませんでした。日本情緒あふれる行事お月見を抹消しようなどと承服しかねる自体です。我等が英雄「チャンバラー」。今、華麗に体育館の屋根より舞下りたぁ−−−−お〜っと、ブラック・シップ、首領と思われる少女が後へ下がりました。臨戦体勢です』

※東城重臣が齢七十歳にして目覚めた超電動で編み出した超小型重力制御装置。これが、五人の袂に一つづつ入っている。
 この為、五人は重力度十数%で動いている。
 通常の八十倍の動きが可能。
 強さの秘密。その三である。※

『狼男達が剣を抜きました。これは西洋の騎士が持つ両刃の剣です。対するチャンバラーも闘う構えを見せております。どうやら、話し合いは物別れに終わったようです。声の聞こえるところまで近付きたいのですが、あまり近付くと戦闘の邪魔になります。マイクを設置したいところですが、何分ここは運動場ですので、それは叶いません。−−−両者陣営、じりじりと緊張感が高まってきています。お〜っと、両者一斉に仕掛けました。−−−≪守護神≫は、いつも通り直立不動。相手が掛かって来るまで動きません。−−−−−すご〜い、すごい、≪闘将≫。その名の通りの闘いぶりです。相手の胸倉を掴んで、背負い投げ〜。瞬く間に狼男達が地に伏していきます。≪剣士≫も負けてはいません。気合、一刀バッタ、バッタと薙ぎ倒しています。神技と噂の高い剣捌き。今日も冴え渡っております。闘いは騎虎の勢いと化してきました−−−−−≪剣士≫の隣では華麗なる舞。≪姫御前≫です。−−−狼男達の衣服が裂けています。≪姫御前≫の使う扇子には刃が仕込んであります。油断すると、ばっさりと、やられてしまいます。ブラック・シップ、迂闊に近寄れな〜い。そして、≪侍≫は、いつもの如く、素早く動いて四方八方から守護神に近付く者を打ちのめしています。≪侍≫には≪剣士≫の様な技こそありませんが、相手の隙をついて、正確に急所に打ち込みます。一刀必中、動きに無駄がありません。−−−しかし、多勢に無勢−−−おぉっと、≪守護神≫に1人、向かっていったぁ〜。しかし、≪守護神≫まだ動きません。狼男が剣を上段に構え切り掛かる。≪守護神≫動いたぁ。剣をさっと躱して、狼男を張り倒す。−−−−そして、また元の直立不動。−−−−大勢、多勢いた筈の狼男達の殆どが地面に倒れております−−−−すばらしいぃ〜。これは素晴らしい。チャンバラー独壇場です』
 Piiiiii−−−−−−−−−−
『何の音でしょうか。−−−あっ・・これは笛の音です。ブラック・シップ側、少女の横に立つ白ネクタイの狼男が横笛を吹いています。少女が羽扇を持つ手を挙げました。−−−倒れていた狼男達が一斉に立ち上がって少女の方へ駆け寄っていきます。少女が身を翻しました。退却です。少女は現れた時と同様に、中学校舎の横手に走っていきます。狼男達が続々と後に続きます。ああぁぁ、ブラック・シップを追っている間に、チャンバラーも消えてしまいました。−−−−−−本日の≪対決≫BLACK・CHIP対五福戦隊チャンバラーの軍配はチャンバラーに上がりました。−−−−−−文句なしの大勝利です。負けるな。チャンバラー!強いぞ。チャンバラー!君達の活躍を五福町民、みんなが期待している。ブラック・シップに対抗できるのは君達だけだ。五福町の明るい未来のために−−−−−進め、五福戦隊チャンバラー−−−−−実況は五福町町営放送、放送局員、穴浦権造でした。−−−それでは五福町立小中学校からお別れ致します。−−−また次の機会にお会いしましょう』

 ブラック・シップのシークレット・ベースでは、フローレンス様が不機嫌だった。
 狼男達は、解毒剤を服用して、黒服の男達に戻っている。
「口惜しい。お前達あのような連中に、またしても倒されるなんて情けない限りだわ。それでも、お前達エリートなの。その様でエリートなんて、烏滸がましいわ。お前達、たった今から全員クビ」
「フローレンス様」
「何・・?・・・アルバート」
「本日の計画は成功でございます。町民は皆、月見など忘れて我々に夢中でした。本日、月見は行われていません」
「成功かしら」
「そうでございます」
「そう、だったら良いわ。−−−お前達。お前達のクビは保留にしといてあげるわ。−−−−今日は疲れました。もう、休みます」
 フローレンスは、−−−−−山田イネに戻って、静かにお休みになりました。

「疲れたのはこっちだよなぁ。自分は、立ってただけじゃないか」
「ぼやくなよ。いつもの事じゃないか」
「僕、クビになれるかと思ったのに」
「甘い、甘い。イネ様は毎回、同じ事を言うじゃないか」
 むさい黒服男達が、輪になって肩を叩きあった。
「ま、明日も早い。そっそと片付けて寝ようぜ」

 一方、五福戦隊チャンバラーこと彩良幕府の面々は、一度、東城家に戻り着替えてから、再び学校に行って、ブラック・シップが中学校舎の入り口に放置していった与作さんちの月見団子を回収してきていた。
 五福町町営長屋『ちゃんばら長屋』の与作さん宅で御頭も交えて、遅れ馳せながら”お月見”をやっていた。
「与作、団子が戻ってきて良かったな」
「お前さんのお陰だ。御隠居さん」
「儂は何もしとらんよ。儂の弟子が≪対決≫を見にいっとての。置き忘れられとった団子を見つけて、持って帰ってきよっただけじゃ」
「みなさん、いつも、いつも、ありがとう」
「私達は何もしてません。こうして、お月見に便乗しちゃって、かえってこちらがご迷惑なんじゃないですか」
「そんな事はない。若い子が大勢居って楽しいものじゃ。みなさんのお陰じゃ。こうして、無事に月見が出来るのもな。ゆっくりしていって下さいよ。うちは、ばーさんと二人きりじゃから、遠慮せんでええけんの」
 ワイワイ、ガヤガヤと、望月の夜は更けていく。
 大きな月が沖天に掛かる頃、彩良幕府の面々は、各々、家路についた。


 五福町は、いつも通りの静かな夜を迎えた。
 夜を迎えた五福町は、明かりが消えて真っ暗闇。
 秋の虫たちの涼やかな音色だけがいつまでも聞こえていた。



END


読まなくてもいいよーな登場人物紹介はこちら(笑)