五福戦隊 チャンバラー
(2)


 数十分後、秘密基地もといシークレット・ベースから山伝いに学校の裏を通って、五福町営長屋『ちゃんばら長屋』へ
 五福町営長屋『ちゃんばら長屋』は、五福町人口の六割を占めるお年寄りの憩いの場である。
 与作さんは、奥さんの作った月見団子を縁側に飾り付けていた。
 夜が更ければ、これまた山田家と張る名家 東城家の御屋敷越しに満月が見える筈である。
 与作は月を見ながら奥さんと、注しつ注されつ過ごそうと思い浮かべていた。

 その静寂を無粋な声が破った。

「ハハハハハーーこの月見団子は我々ブラック・シップが頂いていく」
「ああ〜〜ばっちゃんが作ってくれた団子が〜〜」
 縁側で泣き崩れる与作とその奥さん。
 団子の後に残されたのは−−−−−

月見団子はブラックシップが、頂戴した。
今宵、古き悪しき風習の終焉の時なり
※★※ tonight,dog・bellの鳴る時、
mountain・alongの大地にて
月光に集いて
浄化の火を放たん

BLACK・CHIP

深紅のカード−−金色で書かれた文字は−−−意味不明
署名は黒い船のマーク


「御頭ぁ〜たいへんだぁ〜事件です」
 こちら、東城家の隠居部屋。
 東城家は、山田家とは違った意味での名家である。
 五福町一体を余所者或いは、他家のしま争いや侵略から護る由緒正しい任侠の家系。
 五福町の若者の就職先は、山田家の使用人か、東城家の若衆か。
 この二つが五福町きってのエリート職である。
 その東城家の御隠居、詰まる所任侠の東城組先代が、御頭である。
 そして、今日も騒動の原因となる声が〜
 この声の主、町営長屋向こうの農家の娘で、名を遠山園河という。
 遠山は幼少の砌、御隠居の男気(?)に惚れて弟子入りしたという変わり者。
「相変わらず、騒々しい。何事があったのだ」
「それが、御頭。カクカク、シカジカで〜」
「ほう、そうか」
「そうかって。御頭、今のでわかったんですか」
「わからん」
「だったら、頷かないで下さい。わかったのかと思うじゃないですか」
「しかしの。カクカク、シカジカでわかるのが”お約束”であろう」
「−−−ハイ・・・その話は一寸、そこに置いといて・・」
 遠山が物を置く動作をする。
 すかさず、御頭がそれを持ってくる。
「持ってきたら駄目かの」
「ダメですよ〜、おかしら〜。真面目に聞いて下さいよ〜」
「わかった。わかったから駄々を捏ねとらんで、用件を言わんか」
「あのですね。また、ブラックシップの奴等が〜〜〜〜」
「よし。彩良幕府出動じゃ」

−−−−五福町に存在する二つの組織。残る一つが『彩良幕府』
 秘密結社BLACK・CHIPを打倒する為、結成された正義の組織。
 と、云うのは・・表向き。裏を返せば、暇を持て余す老人の最大の娯楽。
 要するに、東城家御隠居、東城重臣の”どーらく”なのである−−−

 指令を受けた遠山園河(彩良幕府の町奉行)は、面子を集める為に東城家を後にした。
 まずは、東城家から一番遠い如月家から−−−
 如月家は剣の道場を開いている。
 五福町に生まれた男子は、この道場に一度は通わされる定めである。
 如月の家に生まれた者は男女の区別なく、剣の道に進む。
 幼少の頃より鍛えられ、年端もいかぬ内に一人前の剣士と成る事が義務付けられている。
 武士の心得を真の髄まで叩き込まれ、話し方も古風なら、思考回路の方も古風に出来上がっている。

−−−−古式に法り、武士道に生きる−−−−


これが、如月一族である。


「美和ちゃんあそぼぉ〜」
「心身のだれる声を出すな。私は忙しい」
「えぇ〜あそんでよぉ〜」
「出すなと言うのに・・・(溜息)・・・貴様が来ると碌な事がない」
「そんな事言わずさぁ。与作じっちゃんが困ってんだ。人助けだよ」
「また例のアレか」
「そうソレ・・長官、出動しようよぉ。泥棒だよ。火付盗賊改方長官の出番だと思うんだけどなぁ。それにさ、弱きを助けるのが武士道だよねぇ」
「そこで恥ずかしい名前を連呼するな。・・・毎度、毎度、同じ台詞を言ってて、いい加減飽きないか」
「あきないよぉ」
「どうせ承諾するまで、そこで私の修行の邪魔をするつもりなのだろう」
「うん」
「わかった。(溜息)いこう」
「そうと決まれば、次。早く、早く」

 お次は兵頭家。
 兵頭家は与作同様都会からの引越し組だ。
 柔の道を極めんが為と、道場を営んでいる。
 今の道場主の父親、つまり先代が交通事故に巻き込まれ、重傷を負った。
 その治療に莫大な金が掛かり、地価の高い都会を引き払い、この五福町へやって来た。
 この町に来てまだ数年だが、気風が合うのか、既に馴染んでいる。
 柔道の腕も大したもので、東城家の新入り達が如月家と、この兵頭家に、順番に放り込まれるといった次第だ。

−−−五福町になくてはならなくなった柔道一家−−−


それが、兵頭家である。


「文ちゃんあそぼぉ〜」
「嫌」
 にべもなく、言い放ちながら組んだ相手を投げ飛ばす。
「なんでぇ。なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでぇ」
「五月蝿い。あんたと美和ちゃんが一緒に来た時に良い事が有った例がないわ。だからよ」
「そんな事言わずにさぁ、文ちゃん。ねぇ・・稽古なんか止めて実践をやりに行こうよぉ」
 目の色の輝きが変わったかと思うと、

≪ダンッ≫

 一際、大きな音がして、再度相手を投げ飛ばしていた。
 軽く汗を拭く、口元には僅かな笑み。
「なにまた、例の西洋かぶれの一団がでたの。いいわ。いってあげる」

 さて、正義の味方と云えば、『五人』と、相場が決まっている。
 只今、『火付盗賊改方長官』如月美和、『公儀指南役』兵頭文、『五福町町奉行』遠山園河。の、三人。あと、二人。

 で、数合わせが次の人。
 尤も、かなりのところで、役に立つ人物ではあるのだけれど−−−−−
「美香子ちゃんあそぼぉ〜」
「変わり映えしない登場の仕方ね」
「お花なんて生けてなんてないでさぁ」
「もう直ぐ終わるから、待ってて」
「あれっ・・山田さん、お花習ってるの」
「華だけじゃなくて、お茶に着付と日本舞踊」
「じゃあ、週四日も美香ちゃんちに通ってるの。大変だね」
 美香ちゃんと呼ばれた少女の家である高野家は五福町で『家元の家』と、云われている。
 何故なら、美香ちゃんの祖父は、茶道の家元。
          "     祖母は、着付の家元。
          "     父親は、日舞の家元。
          "     母親は、華道の家元。
 なのである。
 五福町に生まれた女子は、この『家元の家』に一度は通わされる定めである。
【何処へ出しても恥ずかしくない、立派な花嫁が出来あがる】
 と、五福町内で専らの評判。

−−−高野家へ通えば、花嫁修行は・・万全。大和撫子養成所−−−−−


それが、高野家である。


 そして−−近い将来−−茶道、着付、日舞、華道の家元になるであろう少女。
 それが、高野美香子である。
「なんかさ、山田さんて日本って感じするよね。美和ちゃん」
 何気ない会話が続いていく中、イネの整った無表情の口元が一瞬、引きつったが、それに気付く者はいなかった。
「じゃあ。山田さん、また明日ね」
 用が有るからと告げて、イネを置き去りにして和やかに去っていく。

 『彩良幕府御台所』高野美香子を加え、これで四人。
「あとは上様を御呼びするだけだ」
−−−−−尤も、呼べば直ぐ来るというものでもないのだが−−−−−
「無理よ。今日は暴れん坊将軍がある日だもの。絶対、出て来ないわ」
「三人が三人、声を揃えて言うことないじゃないかぁ」

*「ここで、説明しよう」*
 我らが彩良幕府の長は、その名の通り東城彩良。
 御頭の孫である。
 彩良は、この正義の行為という名の茶番に呆れており、事有る毎に出動を渋るのだ。
 そこで登場するのが、影武者。
 形だけでも五人揃えようと云う、勧善懲悪を悲願に持つ、どーらくじじいとその弟子の目論みで・・・金で釣った影武者。
 しかしながら、これが似ても似つかない−−−いや、失礼−−−あまり似ていない人物を影武者に立ててしまった。
 じじいが云うには−−−細かい事は気にしないのが、どーらくと、いうものだ−−−そうだ−−−まぁ、出来てしまったものはしかたない。
 どうせ彩良本人は出動しない訳で、その上一切、関知しない気らしい。
 それでは、五人目。本日、最後の人物。
 我等が彩良幕府将軍の影武者殿を迎えに行くとしよう。
「−−−広長舌、終わったぁ」
*「終わったよ」*

「理恵ちゃんあそぼぉ〜」
「何の連絡もなしに四人、揃うて−−−何やまた、例のアレか?」
「当たり。ピンポン、ピンポーン。感がいいねぇ〜」
「ほな、急いで屋台のよーいやな・・・・・」
 齢、十三歳にして−−−−この商人根性−−−−牧野家の将来は明るい。
「ぶぅー。本日の主役は、あなたぁ〜」
「何?・・・なんぼ、出す?・・ただぁ。ただより高いもんはあらへんで」
「まぁ、そう言わずに。彩良の家で御頭が、人数分の夕飯を用意して待ってんだから。・・・・まっ、そういう事で・・・ねっ・・」
「現物支給かい。ま、ええわ」
「そう、そう。商いは、駆け引きだよ」

♪口八丁、手八丁、言い包め、丸め込み♪


 あまり、全く、乗り気でない連中の背中を押して、遠山は、東城家へと向かうのだった。