出会いは薄桃の空間で             

                                                 別れは深紅の空間で

 穏やかな太陽の光の下               

                                                    無情なる闇の中

 綺麗な綺麗な微笑み              

                                                 動くことのない白い顔

 暖かな掌                   

                                                     冷たくなる身体

 それは幸せなひと時                 

                                                   そして失った永遠



                私達は

                        その時

                                永遠を

                                        失った



紛れ込んだ泡沫の世界
第十八章〜ピクニックへ行こう!〜




「あら、おはよう、
「おはようございます、ミモザさん」
 にこやかに挨拶を繰り広げ、は食堂に入った。入ったはいいが、その場に広がる雰囲気に二人揃って首を傾げる。
「・・・・・なんなんですか、この雰囲気は」
 こくり、と首を傾げるは外見年齢とその容姿に似合った、非常に可憐な雰囲気を漂わせていた。・・・たとえ、との朝の鍛錬の後で、その手に似合わない武器を持っていようとも。
「おはよう、
「朝も早くから熱心だな」
 冒険者コンビはさっさと傍観態度を取っているようで、食堂に広がる雰囲気をものともせずに明るく鍛錬帰りの二人に声を掛けている。
「あ、おはよう。・・・・・で、結局アレはなんの騒ぎなの?」
 食堂の雰囲気を作り出している人物達を視線で示し、傍観態度を貫いているコンビには説明を求めたが、彼等よりも先に問題の人間達が声を掛けてきた。
。君達からも先輩に言ってくれ」
「いや、私達から言えと言われても・・・」
「まずは状況を説明してくれないと意見の言いようがないわ」
 普段から眉間の皺がオプションでついているようなネスティだが、その皺がより深くなっている。苛立ちも思いっきり出ているのだが、相対するミモザは腕を組んでニヤニヤ笑いを浮かべるのみ。
「この状況下の中、呑気にピクニックへ行こうだなんて、何を考えているんですか、先輩っ!」
 ネスティが叫んだ台詞で一気に状況が読めた二人はお互いの顔を見合わせた。

(そろそろかなぁ、とは思っていたけれど)
(そうね。間違いなくピクニックイベントだわ)

 視線のみの会話を成り立たせた二人は再びネスティとミモザへと視線を向ける。
「えーと、つまり」
「ピクニックへ行こうと提案した訳ですか、ミモザさん」
 ニヤニヤ笑いを浮かべているミモザに確認をとれば、悪巧みをしているような色を浮かべている瞳をに向けて頷いた。
「そーよぉ。ずっと屋敷に篭りっぱなしじゃぁ、不健康極まりないしね。気分転換も必要よ」
「いつ、あの連中が襲ってくるか分からないんですよ!?」
 勢いよく噛み付くネスティだったが、がひらひらと手を振りながらその勢いを止める。
「ネスティ、今更反対したって無駄だと思うけど」
「どういうことだ?」
 が反対するどころか『無駄』と言ったことに、ネスティが眉間に皺を寄せたまま睨めば、がゆるりと首を傾げてみせた。
「だって、ミモザさんが言い出したのでしょう?なら、もうすでに根回しは済んでいると思っていいのではないかしら」
「あら、さっすが、ね。そーよ、もうアメルちゃんに頼んで一杯お弁当を作って貰ったのよー」
 『ね?』と、丁度、台所から出てきたアメルへ視線を向ければ、ミモザの最後の方の台詞と視線に気づいたアメルがはにかみながら頷いた。
「あ、はい。皆さんのお口に合うか分かりませんけれど・・・」
「どーお?あんた達、アメルちゃんのお弁当を無駄にする気?」

(落ちたな、青触覚)
(あれじゃ、落ちるでしょうねぇ)

 うっすらと頬を染めて微笑むアメルを見たロッカが物言いたげでありながら黙り込んでしまい、その姿を見た二人は視線を交わし、苦笑を零す。
「別に行かないなら行かないでいいのよ?ここで留守番をしてくれればいいんだから。私達は私達で楽しむしね」
「ミモザ先輩、言われたものを買ってきましたー」
「これでいいですかー?」
 不敵に言い切るミモザの背後から、無駄に緊張感のある雰囲気をぶっ壊す呑気な声が響いた。それを聞いたネスティの眉間の皺が更に深まる。
「トリスにマグナ。君達まで何をしているんだ」
「何って、ミモザ先輩のお使いだけど」
「今の状況を考えろ!呑気にピクニックをしている場合じゃないだろう!」
「でも、ネス。ミモザ先輩に逆らうだけ、無駄だと思うんだけど」
 こくり、と二人揃って首を傾げる姿は可愛いのだが・・・トリスはともかく、何故、男で18歳にもなっているマグナが似合うのだろう・・・。
「うーん、この場合、弟妹弟子達の方が的確な判断を下しているわね」
「あれも一種の刷り込みでしょ。ミモザさんに逆らうなっていう」
 兄弟子と弟妹弟子の問答を見ながらボソボソと囁きあっている間に決着はついたらしい。いかにも渋々といった様子でネスティがため息を吐いている。
「確かに、先輩に逆らうだけ無駄だな」
「あらぁ?そんな可愛げのないコトを言う口はこの口かしらぁ?」
「い、いたたたたたっ、せ、先輩、引っ張らないでくださいっ」

(うわぁ・・・・・)
(ミモザさん、最強・・・・・)

 こともあろうに、ネスティの口を引っ張って不敵に笑っているミモザの姿に流石の二人も顔を青くして背筋に冷や汗を流す。色々なドリーム小説を読んできたが、こんな場面を拝んだことはない。ふと、彼の弟妹弟子の方を見れば、双子の兄妹は兄弟子に向かって小さく合掌していた。・・・ミモザの称号である『幻獣界の女王』が伊達でないことがよく分かる場面であった。





「それにしてもミモザさん、思い切りましたね」
 頑固に反対していたネスティをあっさりと言いくるめ、各々がピクニックの準備をする為に居間から出て行ったことを確認したが苦笑と供にミモザへと話しかけた。
「ん?何の話かしら?」
 あくまでも食えない笑顔を浮かべるミモザに、と同様の苦笑を浮かべる。
「このピクニックで誘き出すおつもりなのでしょう?」
 『誰を』とは言わないが、目の前の女性は察することは出来るはずだ。でなければ、高位召喚師を名乗れない。召喚師は召喚の実力だけでなく、知識やそれに伴う判断力も要求されるのだ。召喚という魔力を制御する為に。
「・・・よく、気づいたわねぇ」
「いい加減、私達も煮詰まっていましたし・・・私達が煮詰まっているということは、あちらも煮詰まっているということでしょう?」
「そんなところに、これ見よがしに出かければあちらも何らかの動きを見せるでしょうね」
 後輩達が気づかなかったミモザの目論見をあっさりと見破ってみせた二人にミモザは今度こそ、本当の苦笑を浮かべた。
「参ったわねぇ。貴女達にそんなにあっさり見破られるほど、この計画はお粗末なのかしら」
「いえ、それはないと思いますよ」
「私達もそろそろ、何かを仕掛けなければならないだろうと思っていましたから」
 あくまでも穏やかに話す彼女達だが、判断力は優れているとミモザは思う。もっとも、彼女達が色々なところで非凡さを発揮しているので驚くのも今更という感じではあったが。
「・・・ただ、本当に思い切ったな、と思うのですけれど。アメルを囮にするなんて」
「本当に。下手をすると彼女を奪われて一巻の終わり、なんてなっても可笑しくないんですよ?」
「ああ、それは貴女達がいたからね」
「・・・・・は?」
「私、達・・・・・?」
「貴女達・・・の腕と心を信用したのよ、あたしは」
 思いがけないミモザの言葉に二人の目が見開かれる。だが、それは次第に満面の笑みへと変わっていく。
「・・・ならば」
「ご期待に添えますね」
「ええ、期待しているわ」
 言葉を交し合った三人は視線を合わせ、お互いに微笑みあったのだった。





「へぇ、それでケイナはフォルテと一緒に旅をしているんだ」
「なんだか・・・素敵ですね」
「何が素敵なものですか」
 フォルテとケイナの出会いの話を聞き、納得したり感心したりする仲間達と眉間に皺を寄せていかにもうんざりだと言わんばかりのケイナの姿をやや遠くから眺めていたが小さく笑みを零した。
「女性が集まると恋愛話に話が発展するのは、どこの世界でも同じなのかしらね」
「私とお嬢が二人だけで話す時の内容は色気もそっけもないけれどね。それよりもお嬢、もう少し離れた方がいいんじゃない?」
「どうして?」
「巻き込まれるよ、まず間違いなく。恋愛話を聞くのはともかく、質問攻めにされたくはないでしょ」
「確かに。護衛獣カルテットのところへ避難しましょうか」
「賛成」
 お互いに頷きあい、歩調をやや緩めると後ろにいた護衛獣達と並ぶ形になる。赤い護衛獣はちらりと視線を向けただけで何も言わず、黒い護衛獣も気にした風もなくガショガショとその歩を進めている。緑の護衛獣と紺の護衛獣は二人を伺うように顔を見上げてきた。
さん、さん・・・?」
「お姉ちゃん・・・?」
 疑問を含んだ声と視線に柔らかく微笑み、はレシィの、はハサハの手を取るとそのまま繋いだ。手をとられたレシィは顔を赤らめて「はわわわわ」などと意味不明な言葉を漏らして慌て、ハサハは繋がれた手をじっと見つめ、嬉しそうにふにゃっと顔を崩した。
 その様子は二人の純粋さを表しているようで、物凄く・・・。
「可愛いわねぇ・・・」
「和むなぁ・・・」
 空いた方の手で自分の頬を押さえ、はほぅ、と言葉を零した。
「腐女子的に言えば『萌え』?」
「姉様、無理に腐女子的に言わなくてもいいから」
 かくり、と肩を落とし、ヒラヒラと手を振るは頬に手を当てたまま、首を傾げる。
「でも、『萌え』よね?」
「・・・・・否定は、しないわ・・・・・」
 念押しするかのように言葉を重ねるに更に脱力したは深々とため息を吐いた。
「ねぇ、は・・・って、どうしてそんな後ろにいるのよ」
「ホント、いつの間に・・・あー、ずっるーいっ!!」
「は?」
「へ?」
 突然、大声でトリスに指で自分達を指され、二人は思わず間の抜けた声をあげる。
「レシィとハサハ、と手を繋いでるーっ。あたしも手を繋ぎたい!!」
「・・・いや、その」
「何も力を込めて言わなくても」
 思わず二人して顔を見合わせた後、はトリスへと手を差し出した。
「・・・なら、私か姉様か、どちらかと手を繋ぐ?」
「両方と!」
「・・・・・はぁ?」
 元気良くリクエストしたトリスに再び、二人の間の抜けた声があがった。
「あー、それはさすがに」
「他の通行人の方に迷惑になるわよ?」
 は左手でレシィの手を繋ぎ、は右手でハサハと手を繋いでいる。トリスのリクエスト通り、二人の手と繋ごうとすれば・・・5人が横一列に並ぶという、通行人に対して少々傍迷惑な並び方になるのだ。
「だって、二人とも手を繋ぎたいもん」
 ぷくう、と頬を膨らませる姿はとても18歳とは思えぬものなのだが、何故か似合ってしまうトリスに二人は苦笑を浮かべる。
「・・・では、行きはお嬢と手を繋ぐといいわ。帰りは私と手を繋ぎましょう?」
 が出した折衷案をしばらく考えていたトリスは満面の笑顔で大きく頷いた。
、絶対だよ?」
「ええ」
 にこにこと笑顔でと手を繋ぎ、至極ご満悦なトリスにようやく、周囲は落ち着いた。・・・何名か、羨ましそうな視線を向けるものもいたが、それは置いておいて。
「ねえねえ、
「はい」
「なぁに?」
「あのね、二人の初恋って、どんなのだったの?」
「・・・・・」
 せっかく逃げたのに、結局は巻き込まれるのかとは内心で項垂れた。他の人間なら兎も角、トリスの純真な瞳と真っ直ぐな質問から逃げることは出来ない。
「初恋、ねぇ・・・」
 僅かに首を傾げる二人にトリスは期待に満ちた視線を向ける。何故か、周囲の男性陣も密かに聞き耳を傾けているようだ。
「初恋、ないってことは・・・」
「それはないでしょ。もああ見えて20歳を超えているのよ?普通に考えても恋の一つや二つ、していたっておかしくはないじゃない」
 トリスの質問に考え込んでいる二人の姿にマグナが疑問の声を上げるが、あっさりと大人びた考えでミニスが否定する。傍から見れば発言している台詞がまったく逆な二人である。
「・・・・・恋よりも先に愛を知ってしまったものね・・・・・」
 ポツリ、と呟いた声は小さいものだったが、周囲の者が耳を澄ませていた為か、はっきりと皆の耳に入ってきた。
「そう、だね。恋しい、ではなく愛しい、だったからね」
 何かを懐かしんでいるかのように、優しく瞳を細めるに仲間達は三々五々、お互いの顔を見合わせる。言葉の内容を聞こうにも、なんとなく雰囲気的に聞きにくい。
 そんな周囲の雰囲気に二人とも気づいていたが、思い出した心は追憶へと向かっていく。

 運命に出会い、永遠を失い、魂が暴走した過去。
 それらすべては『愛しい』というただ一つの言葉がキーワード。

「ごめんなさいね、トリス」
「ご期待に沿えるような恋愛はしていないのよ」
「初恋、ないの・・・?」
 きょん、と首を傾げる(激・可愛い)トリスに二人は苦笑を零す。
「初恋の前に、自分自身の存在を掛ける人に会ってしまったから」
「出会ったことを後悔することはないけれど、あの後、まともな恋愛はしなかったわね」
 実際『あ、いいな』程度の人がいても、そこから発展しなかったのだ。逆に交際を申し込まれても、相方である親友を優先させるのですぐに別れてしまっていた。
 なんだかんだ言いながら、きちんとした恋愛経験は積んでいないに等しい。ある程度のお付き合いは経験しているので、それとなく異性の感情を察することはできるが、それまでだろう。
「ふぅん。じゃあ、二人の好みの男の人って、どんなの?」
 初恋話から難を逃れたかと思えば、続けて問われたトリスの無邪気な質問にまたもや二人の顔が引き攣った。
「・・・・・私達の好み?」
「うん」
 どこまでも無邪気に頷くトリスに二人は頭を抱える。周囲の男性陣からは『よく聞いてくれた!』と感謝の視線が送られてはいるが、もちろんトリスは気付いていない。
「そんなに気になるの?」
「だって、あたし、お姉ちゃんが欲しかったんだもん。お兄ちゃんはもういるし」
 繋がりなどまったくないようなトリスの台詞だったが、良くも悪くも数多くのドリーム小説を読み漁っていたはトリスが言いたいことを瞬時に理解した。
「・・・もしかしなくても・・・」
「トリス、私達のどちらかとマグナがくっつけばいいとか、思っているのかしら・・・?」
 十中八九、ほぼそうだろうと予想をつけ、敢えて恍けずに訊ねてみれば天然少女は満面の笑みで頷く。
「すっごーい、よく分かったねっ!でも、お兄ちゃんじゃなくて、ネスでもいいんだっ」

(天然トリスちゃん・・・その発言はちょっと、問題だと思うのよ・・・)

 がっくりと肩を落とし、ため息を吐く二人の側で米神に青筋を立てたネスティがトリスへお決まりの台詞を怒鳴る。
「君はバカか!?いきなり突拍子もないことを言うんじゃないっ!!」
「むぅ。どうしてネスが怒るのよ」
 ぷくぅ、と頬を膨らませる姿は本気で18歳には見えず、そして強烈に可愛い。だが、幼い頃から一緒に育っていた兄弟子にはその可愛らしさも見慣れたもので、ますます目尻を吊り上げた。
「本人の意思を無視するなと言うんだ!」
「えーっ、じぁあ、ネスは二人が嫌いなの?」
「そういう問題じゃないだろう・・・」
 何やら疲れたように呟く彼に、何が悪いのかまったく分かっていないトリスはきょとんと首を傾げている。
「えっと、トリス?この場合、単純に好き嫌いで片付けるものじゃないのよ?」
「そうなの?」
「そうねぇ。トリスがちゃんと恋とか愛とかを理解すれば、分かると思うわ」
 しつこいようだが、双子召喚師は18歳である。普通、その年齢であれば初恋ぐらい経験しているものだが、彼等の幼年期が幼年期である。恋愛観念に関して少し・・・いや、かなりズレているのは仕方がないだろう。
「とりあえず、私達の好みだけれど」
「お兄ちゃんとか、ネスは違うの?」
 どうしてもそこに固執するのかと半ば呆れた苦笑が浮かぶが、それでも二人は律儀に紫紺の少女の疑問に答える。
「どうかしら?取り合えず・・・私達って外見と中身の差が結構、激しいでしょ?」
「ああ・・・それは、確かに」
 何を思い出しているのか敢えて聞かないが、微妙に視線を外しながらフォルテが頷く。
「外見で勝手に惚れられて、中身を知って『幻滅した』なんて勝手な事を言わない人間がいいわね」
「え?そんなことを言われたこと、あったの?」
 目を丸くして聞き返すミニスには渋い顔で肯定した。
「あったのよ、実際」
「腹が立ったわよねぇ、あれは。自分の理想を人に押し付けるなっていうの」
「だから、私達を私達として丸ごと認めて受け入れてくれる人がいいわね」
 お互いに顔を見合わせ、頷きあっている二人にどこか面白がっているミモザが確認するように尋ねてくる。
「それって、とっても強い貴女達を認めなさいってことかしら?」
「まぁ確かに、程強かったら、男の人のプライドなんてなくなっちゃいそうよね」
 普通に武器を手にして、闘うことが当たり前なこの世界でさえ二人の強さは尋常ではないのだ。平和だという彼女達の世界ではその強さは異様でさえあるだろう。外見が外見であるだけに、確かに詐欺でもあるが。
「んー、でも、ここだったらを受け入れる人もいるんじゃない?」
 どこか大人びたミニスの言葉にがゆるりと首を傾げる。
「ミニス?」
「だって、ここは強い女の人だって当たり前なんだもの。だから、の強さを認める男の人だっているはずよ」
 実際、私のお母様だって・・・と小さく呟くミニスの顔がほんの少し、青いことは彼女の為に見ない振りをしては柔らかく微笑んだ。
「そうね。本当に私達を見てくれる人なら、私達も嬉しいわ」
「でも、何よりもを惚れさせなくちゃね。これはなかなか難関よぉ?」
 ふふふ、と含み笑いを零すミモザの言葉に改めて気合を入れた人間が何人いたのか、それは置いておいて。
 そんなこんなで一行はピクニックの目的地であるフロト湿原へと足を踏み入れたのだった。





「ここがフロド湿原かぁ」
「綺麗な場所ね」
 ゲーム画面では分からなかった湿原の風景には物珍しげに辺りを見回した。そんな二人の周囲ではゲームで交わされていた会話が飛び交っていて・・・。
「あ、ミモザさん・・・」
「・・・本当に飛んで行ったわね」
 ピクニックの提案者である張本人が新種生物に目を輝かせ、活動家らしい俊足ですっ飛んでいった。
「ミモザさん、本気で忘れていないよね?このピクニックの本当の目的って彼等を誘き出す事なんだってことを」
「・・・・・そうでないことを、願うしかないわ・・・・・」
「いや、お嬢。頼むから、視線を泳がせないでよ」
 あらぬ方向へ視線を外した相棒に思わず冷汗を流す。他の面々は早速とばかりに各方面へ足を伸ばしたりお弁当の用意をしたりしている。
「皆、慣れたんだね・・・ミモザさんの行動に」
「人は成長するものだもの」
「それ、微妙に違うと思う・・・」
 確か自分は相方から突っ込まれる方ではなかったかな?などと思考を飛ばしつつ、はさくり、と湿原へと足を踏み入れた。背後に親友の気配を感じ取りながら、表情は何一つ変えずに小さく囁く。
「・・・何時頃、来ると思う?」
「流石に、こればっかりは予想がつかないわ・・・」
 片割れと同様、の囁く程度の小さな声が背後から響く。振り返らずとも親友が表面上は何でもないような顔をしていることが分かる。
「けれども、お嬢。気配はしっかりあるよ」
「そうね。いつでも私達を取り押さえる事が出来る・・・というところかしら」
「こんな事を言うのもなんだけど・・・槍使いさんが先走ってくれて助かるよ」
「確かにそうね。彼が先走ってくれるからこそ、総指揮官殿と交渉が出来るのだし。彼も部下を大事にする上司でよかったわ」
「多勢に無勢もいいところだもんね。いくら私達でも、100人以上の軍人と打ち合えばボロボロになること間違いなし」
 素で本職の軍人と渡り合える人間が何を言うんだと仲間達が聞けば突っ込みが入るかもしれないが、彼女達とて体力は無尽蔵にあるわけではないのだ。
「・・・とりあえず、事が起きるまで休みましょう?」
「そうだね。体力を温存しておくべきだろうね」
 相方の提案に頷いたは仲間達の居場所を把握できる場所を選ぶとそこに座り込んだ。その背後に座ったは軽くの背に凭れる。背中に掛かった軽い重みにはくすりと笑みを零すと、自分もの背に軽く寄り掛かった。
 言葉もなく、ただ静かな時が流れる。
「・・・綺麗だけど・・・一緒にいるといいのにと思うのは贅沢かしら?」
 ポツリ、と呟くはゆるく頭を振った。
「そんなことない。私だって、そう思うよ」
 綺麗に晴れ渡った空を見上げ、ゆっくりと瞳を閉じる。



 永遠に傍にいると誓った。

 けれども。

 傍にいた光は闇に喰われ、絶望した魂が暴走した。
 魂が暴走した果てにあったのはただ、虚無だけ。

 闇と絶望と虚無を抱えたまま時が流れ。

 再び光が現れた。

 世界さえ超えた、この地で。



「・・・理屈なんてどうでもいいわ。私は誓いを守るだけ」
「ええ。言霊で誓約した誓いは私達にとっては何よりも神聖なモノ」
 だから。
「誓約を」
「誓いを」
「私達は守る」



「きゃああぁぁっ!!」



 ピクニックイベント戦闘開始の悲鳴が湿原に響いた。




     





 せ、戦闘までいかなかった(汗)何故にピクニックイベントが分割してしまうほど長くなるのだろう・・・。
 それにしても、つくづくこのヒロイン達は恋愛色が薄いというか、逆ハーになりにくいというか。いや、分かっちゃいるんです、彼女達がいろんな意味で強すぎるからだということは。しかし、もうすっかりコレで固定してしまって弱く書けなくなってしまっています。
 み、皆さん、こんなヒロイン達についてこれています・・・・・?



 では、今回の「いきなり次回予告」は。



『う〜ん』うなされるを隣りで寝ていたが揺さぶり起こした。
『ああっ!!』その後ろには、醜い悪霊のイオスが…
【次回 朝起きるとトグロを捲いてるウンコの恐怖 “ネグソシスト”】
この恐怖に貴方は堪えられるか〜〜



 イオス・・・悪霊になるほどを・・・(違)
 あらゆる意味で怖いと思います、ハイ。