『今宵貴方のハートをいただきに参上致します
Angel Thief』
コピーされたそれに視線を落としていたオリヴィエが苦笑する。
「またここなのぉ?」
「油断大敵ですよぉ」
やんわりとルヴァが釘を刺すと、ジュリアスは天秤のバッチを外す。
「しばらく外に出てからつけることにしよう」
「・・・・・改装されたばかりだったよな?」
「派手に壊してしまったからな」
『前回に』とヴィクトールの言葉にクラヴィスが答える。
「さぁて、今回はどうしてやろうか?」
『どげっ』
ニヤニヤと楽しそうに笑うオスカーの頭をど突き倒して、リュミエールがその一見侮り過ぎている態度を戒めた。
「・・・・・」
清楚な美女にも通じる優美な姿ながら実は可成の力の持ち主にど突かれた青年の隣で、緊張してティムカが顔を強ばらせている。彼にとっては、これが初仕事なのだ。
「まずは敵情視察やな。ここはやっぱり、リュミさんかいな?」
「リュミエールさんはあそこの常連ですから、怪しまれませんからねっ」
お道化た口調ながら瞳だけはマジなチャーリーに、あくまで何処までも真面目一直線なランディが頷く。
「承知しました。初日にでも参りましょう。ティムカ、貴方も来て下さいね」
「は、はいっ!!」
「いいなぁ、ティムカ。僕も駄目?」
「メルも行きたぁいっ」
あくまで年少組は後方支援である。敵情視察は数少ない後方組にとってはスリルのある重要な仕事であり、人気の任務なのだ。
「・・・・・お前等までついて行ったら、尚更リュミエールの性別疑われるな」
キャワキャワと本当はティムカよりも年上の筈なのに、雰囲気や性格はどう見積もってもマルセルやメルの方が年下で、ゼフェルはボソリと呟いたものである。
「ハッキングは私とゼフェルの二人でやってもよろしいですね?」
確かめる口調でエルンストが言うと誰もが頷く。特にゼフェルなどは嬉しそうに。
「・・・・・これ、私も行っていい?」
「アンズお姉ちゃん?」
「行くって、偵察?」
アンジュとアンジェの言葉にポケットから大切そうに青いチケットを取り出したアンズは、それを閃かせながら言葉を続ける。
「これ、明日のチケットなの。せっかくだから行ってくるわ」
「はぁ!?明日って、あんた、この個展は来週よ?」
個展の期間を指さしてロザリアが言うが、アンズは肩を軽く竦めるだけ。
「本物みたいだけど、どうしたの、これ?」
親友の手から取り上げたチケットを裏返したりしながら何気なくレイチェルが言えば、
「もらったの?」
のほほんとリモージュが首を傾げる。
「うん。ちょうどこれのポスター見てたら、くれた」
脳裏に瑠璃の青年を思い浮かべながら彼女が答えると、芝居がかった動作でチャーリーがアンズに抱き着こうとする。
「男にもろうたんやな!?そんな男にもろうたチケットは破いてしまえっ」
『どがっ』
「殴るわよ」
「・・・・・もう、殴ってるって」
ロザリアが呆れたように言う。
勝ち気なアンズをからかうのが半ば趣味と化しているチャーリーだが、ベタベタ触られるのが苦手な少女は問答無用で頭を殴り飛ばすのだ。それでも懲りない辺り、趣味ではなくすでに日課なのかもしれない。
「予告状は何時も通り下見が終わってからよね?」
「十日ぐらいかかるかな?」
殴られた頭を抱えている萌黄の青年を綺麗に無視してアンジェとアンジュが言うと、目を輝かせてオリヴィエが高らかに言った。
「今度もとびっきり可愛い衣装を作るからねっ」
「・・・・・頼むから、夜目に目立つ服を作ってくれるな」
がっくりとジュリスが項垂れて言うのは、前回の『ショッキングピィーンクッ』な衣装を思い出したからだ。
「似合うのは似合ってましたけどねぇ、目立つのはご法度なんですよぉ?分かってますかぁ?」
「土壇場で作り直すなどということにはならない程度の衣装にしろ」
ルヴァとクラヴィスも前回の仕事の直前のことを思い出したのか、多少ゲンナリとした表情で釘を刺した。
「あの脚線美は捨て難いがな」
「オスカーさんっ」
ふと可成目立つと共に大胆な−あくまで動き易さを考えたものだったのだが−スリットの入った服を試着した時の少女達を思い浮かべたオスカーの呟きを聞きつけ、ランディが持ち前の真っ直ぐな純情さから顔を紅くして怒る。
「僕、頑張りますっ!!」
「いいなぁ、いいなぁ」
「メルも頑張りたぁいっ」
ギュッと手を握り締めてティムカが言う側で、マルセルとメルが羨ましそうに不満を口にする。
「その意気だ、と言いたいが、あまり力を入れ過ぎると反対にコケるぞ」
まだ余裕のある筈もない新入りさんにヴィクトールが進言してやるが、それが耳に入った様子もない。
「こんな奴等放っておいてハックしに行こうぜ」
「そうですね」
呆れたように席を立ったゼフェルの手招きに応じて、エルンストも腰を上げる。
「後でお夜食持っていくね」
愛らしく笑ってリモージュが出て行く二人に手を振った。
かくて、世間を騒がせる《怪盗AngelThief》は動き出した。
無論、その正体を知るのは極一部の限られたものだけ。マスメディアがつけた『美少女怪盗』達が、実は男女合わせて総勢二十人もの大所帯であることなど当然シークレット。
更に言うなら、以上のようなお遊び感覚が勝っている一同であることは、勿論のことだが、トップシークレットなのである。
To be continued

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