『今宵貴方のハートをいただきに参上致します
Angel Thief』
「で、何があったわけだ?」
「あのアンズが途中で物事を放り出すだなんてねぇ。・・・・・よっぽどのことがあったのでしょうねぇ」
「では、細部については何も?」
「私とゼフェルである程度はハックして確かめました」
ズズゥッとお茶を啜りながらの年長者達の台詞である。
「・・・・・まったく、アンズに何があったのだ?」
豪奢なブロンドを背中に流し、ジュリアスが再び同じようなことを言いながら眉をしかめると、あっつい湯気をたてる湯飲みに息を吹きかけながらルヴァが緩く首を横に振る。
「ロザリアやレイチェルはもとより、アンジェやアンジュ、リモージュにまで何も喋らなかったそうですからね」
「一度決めたら決してそれを翻さぬ娘だ。誰が問うたとて無駄だろう」
物憂気に首を振る仕草に、クラヴィスの漆黒の髪がユラユラと揺れた。
「大丈夫ですか?随分と今のアンズは不安定なようですが」
微かに落ちたメガネをツイッと人差し指で戻しながら言うのはエルンストである。
「あれのことだ、仕事から外されると逆に暴れるぞ」
ボソリとクラヴィスが言うと、エルンストはその様子を想像でもしたのか眉を寄せた。
「そんなものですか?」
「アンズは妹思いですからね、家で待つより一緒に行くことを望みますよ」
まだ幼い頃からアンズだけに限らず、アンジェ、アンジュ、リモージュ達を見てきたルヴァは自信有り気にそう言って頷く。
その途端、
「あったりまえよ」
高飛車にアンズの声が響き、
「見て見て、皆お揃いにしたの」
きゃろりんとしたリモージュの声が続いた。
揃いのぴっちりとした黒いパンツは動きを妨げない為か極端に短く、その分同じ色の柔らかな素材のロングブーツはふくらはぎを半ばまで覆う程に長い。
「上着の丈と色は違うけどね」
「・・・・・もう一つ分位はボタンつけて欲しかったわね」
ピランとスカートのように広がる上着の裾を持ち上げてレイチェルが言うと、ブスッとした顔でロザリアがぼやく。
艶やかなシルクの光沢で光るチャイナカラーの上着は、それぞれ色とその裾の長さを違えており、ちょうど一つ分ボタンがないだけ腰より上の辺りからスカートかマントのように広がっているのだ。
得意の工具を差した革のベルトをつけながらアンジェが言った。
「おなか冷えそう」
「ナイフはちょうど広がっているから取り易いけど」
アンジュが腰にチェーンを巻き、幾つもの細いナイフを取り易いように確かめながら差していく。
「どう?」
「前回よりはシンプルにしたんだけど」
「前回って、色はともかく、フリルビラビラの実用性は限りなく0というよりマイナスだったじゃない」
チロリとアンズが手厳しい台詞を言いながら、表の職業をファッションデザイナー兼モデルのオリヴィエを睨んだ。
「ねぇ、アンズのが一番裾が長いけど、大丈夫?」
ふと全員の裾の長さを見比べたレイチェルが問う。
「ん?大丈夫よ」
円を描くような裾の最も長い部分が踵より多少上という長さではあるが、アンズにはたいした束縛にはならないらしい。
「長い方が動くと華があるでしょ?」
「そうですねぇ、アンズはよく飛び跳ねますからねぇ」
「確実に目は引くな」
「別の意味で引かないか?」
「あぁ!思っても言ってはいけないことを!」
パッションブロンドに指を搦めて紡がれた言葉に、慎重に女性陣から視線を外して言われた台詞である。
「ま、まぁ、いいけどね」
苦笑しながらのアンズの台詞である。否定はしたくても出来なかった。
「ぁん?衣装合わせか?」
「わぁ!かっわいい!!」
「ちょっと、パンツが短すぎませんか?」
「目のやり場が・・・・・」
「おなか冷えない?」
騒がしく残りの男性陣が現れるや、口々に少女達の衣装にコメントする。
「あら、リモージュ、ボタン」
自分の首元の華を模したボタンを指してロザリアが言うと、
「ヤだ。外れちゃってる」
慌ててリモージュがそれに指をかける。多少ひっかける輪が大きく緩かったらしい。
「首元じゃやりにくいだろう」
ヒョイッとオスカーがつけてやりながら屈んでリモージュの耳に囁く。
「本当は俺としては外す方がこの」
『どごげじゃん』
「だからリモージュにも手を出すなって言ってるでしょうがっ!?」
「おおっ!見事だっ」
身長差頭一つ分は軽いオスカーの頭を蹴り飛ばしたアンズに対するヴィクトール−職業警備員−の素直な賞賛である。
「止めは私が刺しましょうか?」
おっとりと微笑みながらリュミエールが申し出るが、目がまぢだ・・・・・
「リュミさんリュミさん、目がマジで怖いわ」
ピラピラと何時もなら囃し立てるチャーリーが手を振って思わず止めに入る。
「アンズお姉ちゃん、かっこいい」
「さっすが私達の姉さんよね♪」
どっかズレまくった感想は、無論アンジュとアンジェである。
・・・・・だから、警察の皆さんが見たら泣くぞ・・・・・
青い月が雲の陰に隠れ、幾つもの影の存在を隠す。
「Game start、successful!」
「Yes!」
再び現れた銀の月の光が差し込む青白い廊下に複数のヒールの音が高く響き、凛々と涼しい少女の声が続いた。
「そこの殿方!ごめんあそばせっ!!」
To be continued

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