紛れ込んだ泡沫の世界
第一章〜出会いは冷戦〜

「お前ら、何者だ?」
 途方に暮れていた森の中、そこに現れた人物にも驚きの声を上げそうになり、咄嗟に抑える。それでも、心の中で叫ぶことは止められない。

(リュ、リュ、リュ、リュ、リューグーーーーーっ!!??)

 少し離れた場所から自分達を胡散臭そうに見ている青年は二人が何度もプレイしたことのあるゲームの中の登場人物で。

(もしかして、もしかすると、ネットで大流行のドリーム小説の主人公状態!?)

 驚愕に襲われながらもそれを口にしない辺り、二人の冷静さと精神の制御力の強さを窺うことができる。
 だが、固まったまま何も言葉を発しない二人に苛立ちを感じたのだろう。赤い髪の青年は些か乱暴な足取りで二人に近づいてきた。その青年の雰囲気には怯えたようにへ体を寄せる。しかし、は分かっていた。それは演技であることを。
「姉様。私達が事情を知っていることは・・・」
「ああ、黙っていよう」
 こっそりと耳元で囁くも微かな声で返答する。もし、これから話がゲームの進行に従うというのなら、自分達がいろいろと知っていることを知られるのは何かとマズい。
 付き合いの長さ故にお互いの言葉の奥の意味をも汲み取り、二人は視線で頷きあった。
 そんな二人の前に足を止めた青年は地面に座り込んでいる二人を見下ろし、再び問いを放つ。
「お前らも聖女の力をアテにしてきた奴らかよ?」
 眉を潜め、苛立たしげに尋ねる言葉に二人は同時に首を横に振った。だが、相手はそれを信じなかったらしく、鼻で笑い飛ばす。
「違うってのか?ハッ、信じられねぇな。だいたい、そんな奴がどうしてこんな森の中にいるんだよ」
 事情を知っているとはいえ、その言い草にの顔が不機嫌に歪んだ。
「随分な物言いですね。最初っから疑っているのなら、態々訊ねることはないでしょう。もっとも、そんな人は目が曇っていて真実なんて見極められないでしょうけど」
 辛辣な物言いにの袖をそっと引っ張り、親友を宥めようとする。
「姉様、せっかく見つけた人に向かって喧嘩を売るような事をしないでよ」
「でもね、お嬢。身に覚えのない事を言われたままでいるなんて私にとっては業腹以外の何者でもないのよ」
「だからと言って、ここがどこなのかという手がかりを失っていいの?迷い死にも野垂れ死にもご免だと言ったのは姉様自身じゃない」
「あら、この人がここにいるってことは、近くに人がいるってことでしょう。そこを探せばいいだけのことだわ」
「気がつけばここにいた・・・土地勘なんてない私達が無事にそこに辿り着けるとでも?」
「やってみせるわよ」
 二人のささやかな言い争いを聞くともなしに聞いていた(もっとも、の発言に些か不機嫌にはなっていた)青年は二人の会話の内容に首を傾げた。
「お前ら、召喚獣なのか?」
「・・・・・?しょうかんじゅうって?」
 キョトン、と(本当は知っているが)尋ね返すを見た青年はようやく彼女達の言い分を認める気になったらしい。
「こうなったらジジィに聞いた方がいいな。・・・ついて来い」

(ジジィって、もしかしなくても筋肉マッチョな元獅子将軍のアグラバインさんでしょーか)

 不審そうに自分を見上げている二人に(まぁ、今までの態度が態度だったので無理はないが)舌打ちをすると青年はもう一度問いを口にする。
「どうする。来る気があるのか?」
「姉様?」
「・・・行こう。早いところ、ここがどこなのかを把握するべきなのは確かだからね。この際、連れて行ってくれる人間が気に入らないだの何だのとゴネている場合でもないのも確かだわ」
「・・・・・姉様・・・・・」
 さり気に嫌味を吐く親友には思わずため息をついた。気持ちは分からなくもないが、せっかくの手がかりを無くすような発言は控えて欲しい、と真剣に思う。
「・・・こっちだ」
 多少・・・いや、かなり顔を引き攣らせた青年の後を追い、は森の中を歩き出したのだった。


     






リューグが出てきました。毒づきました(笑)彼と出会えばこんなものでしょう。