森の中で赤い髪の青年に拾われ、連れてこられた場所に一歩、足を踏み入れたとは目の前に広がる光景に唖然とする。 「すっごい、人・・・」 「一体、どれぐらいの人数がいるのよ、これ」 それほど広いとは言えないだろう場所に信じられないほどの人の波。そうそう、怖気づくような性格ではないと自負しているが、それでも圧倒される。 「おい、何している。こっちだ」 思わず足を止めてしまっていた二人に青年が声を掛け、それによって我に返った少女達は慌てて青年の背中を追った。 「なんだか・・・某所を連想させるような人込みだわね・・・」 「某所って?」 「春と夏と冬に行われるお祭りの事。もっとも、あっちの方が人外魔境のような感じだけど」 「・・・・・何のことだか分かってしまう自分が物悲しいわ・・・・・」 「諦めなさいな、片割れさん」 「そっちこそね、片割れさん」 (何せ、恐ろしいほどに思考回路やその他モロモロが一致するものね) 顔を見合わせ、二人はお互いの瞳に浮かんだ思考を読み取ると苦笑を浮かべたのだった。 しばらく歩いたところで、青年は一軒の家の前に立ち止まり、ドアノブに手を伸ばす。扉を開けると後ろにいた二人を振り返り、中へと促した。 「ここだ」 周りの家と比べるとやや大きい家だろう。中に入れば使い込んだ調度品等が家に温かみを与えているのが分かる。住人の暖かな心を感じられる家だった。 「お帰りなさい、リューグ」 「アメル!?もう、いいのか?」 「ええ。私は大丈夫なんだけど、皆さんが今日は終わりにしましょうって言ってくださって」 驚く青年に対し、台所から出てきた少女はにこやかに仕事の終了を告げる。兄弟同然に育った青年にそれを告げた少女は次いで、首を傾げた。 「リューグはどうしたの?リューグも早いと思うのだけど」 「ああ、ちょっとな。ジジィはいるか?」 「お爺さんならさっき、外へ行ったけど・・・」 「何じゃ、リューグ。ワシに用か?」 少女の言葉に反応するかのように扉が開き、深みのある声が響く。 「ああ、ちょっと聞きたい事があるんだ」 「珍しいな、リューグがお爺さんに何かを聞くとは」 続いて穏やかな感じを受ける声が響き、とは自分達の後ろから聞こえてきた人物を確かめるため、振り返った。 家の中に入ってきたのは予想通り、筋骨隆々とした老人と二人をこの家まで連れてきた青年と同じ顔をした青い髪の青年である。 「・・・・・双子」 「でも、性格は違うわね」 ゲームをしていた二人には当然、青年達が双子であることも性格がまったく違うことも知ってはいたし、分かってもいたのだが実際に目の前で見ると実感がまったく違うのだ。まさに、『百聞は一見にしかず』である。 「ほう、リューグもなかなかやるのう。家に女の子を連れ込むとはな」 「ちげーよ」 「そうですね。しかも、二人ともなかなかの美人ですし」 「違うって」 「まあ、恋人の一人や二人、いてもおかしくはない年じゃしな」 「違うって言ってんだろっ」 (二人に遊ばれているよ、リューグ・・・) まったくの傍観者となっているからこそ、二人には分かった。老人と青い髪の青年の瞳が事態を面白がるように笑っている事を。 「これ、日常会話?」 「だとすれば彼、結構気の毒だと思うけど」 人生経験の豊かな人間と策士的な雰囲気のある青年相手では、猪突猛進気味の青年の分が悪い事ははっきりしている。 「確かに、あの二人相手じゃねぇ」 「でしょ?」 お互いに顔を見合わせ、肩を竦めあったところで青年をからかう事をやめたらしい老人は改めてとに視線を向けた。 「まぁ、それはともかく。一体どうしたというんじゃ」 「さっさとそう聞けよ・・・」 ようやく開放され、ややぐったりとした感のあるリューグがぼやく。 (お気の毒様、リューグ・・・) 思わず心の内で両手を合わせる二人。そのとへと視線を向け、リューグは簡単に状況を説明する。 「森の中で拾った。・・・召喚獣っぽいんだが」 その言葉にアグラバインの表情が真剣なものに変わった。 「そうか。・・・ワシはアグラバインと言う。村の皆にはアグラ爺さんと呼ばれておるから、お前さん達もそのように呼ぶといい」 「僕はロッカと言います。リューグとは双子の兄になります」 ロッカの自己紹介に二人はリューグへと視線を向ける。 「リューグって名前なのね」 「ロッカさんがお兄さんですか。確かにそんな雰囲気ですね」 納得の頷きをする二人をリューグはジロリと睨むがもも平然と受け流す。そんな二人にリューグはますます憮然とし、それを見ていた青い服の少女がくすくすと笑った。 「お二人共、凄いですね。あんなリューグを前にして平然としているなんて」 「アメル・・・」 「あら、だって本当のことでしょう?あ、私はアメルと言います。ロッカとリューグとは兄弟みたいに育った仲なんです」 ふわり、と微笑むアメルにとも笑顔を返す。 「私はと言います」 「私は」 名乗った二人にアグラバインが穏やかに声を掛けた。 「では、に。ここの・・・この世界について、説明をしよう」 アグラバインの言葉に二人も真剣な表情になり、静かに頷いたのだった。
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