薄桃の花弁舞い散る樹の下で 出会うは運命 私達の最愛 視線が交じり合う 言葉もなく ただ視線だけが 引き寄せられる心 魅入られる魂 視線が合った それだけだった けれども 確かに感じた 運命の視線 運命に出会い 築かれた私達の絆 出会った樹の下で交わされたもの 約束 約定 誓い 運命に誓う 魂に誓う 絆に誓う 私達の最愛を守ると 『名』に誓う |
「『強くなります』・・・か」 「『強く』なるわよ、アメルは」 改めて3人はそれぞれの決心をとに語った。 リューグはアグラバインを捜しに行き、ロッカはアメルを守る。アメルも2人の行動を認めて受け入れると、吹っ切れた表情で語ったのである。 それこそが、とが望んだことだった。 喧嘩別れのように一行から離れるのではなく、十分に話し合い、お互いに納得した上での離脱をしてほしかったのだ。 「いろいろな意味で『強く』ならなければ・・・これから起こる出来事を乗り越える事など出来はしないもの」 「そう、だね。過去の因縁は・・・想像以上に重いものだから・・・」 今はまだ、本当に序盤。これから次々と想像を絶する困難と苦しみと悲哀が待ち受けている。それを乗り越えない限り、高みからほくそえんで眺めているであろう、あの大悪魔に打ち勝つ事など到底、出来はしない。 いや、下手をすれば取り込まれてしまうかもしれないのだ。 「そんなこと、させはしないけど」 「精一杯、抗ってみせるわ」 この先、おそらくは何度も繰り返すだろう決心を2人は口にする。言霊として己の誓いとする。 「・・・ん?あの2人だよね?」 「ええ。どうしたのかしら?また、ここに戻ってくるなんて」 先程この部屋を出たはずの双子達の気配を感じ取ったとは顔を見合わせ、お互いに首を傾げた。 リューグは今すぐ出て行くわけではなく、準備をして2、3日後に出発するつもりだと聞いている。ロッカとてこの後、鍛錬するつもりだと言っていたはずなのだが。 首を傾げ合っていた2人だが、ノックの音が部屋に響くと扉へと足を進めた。 「はい」 「どうされました、お2人共」 気配通り、扉の前に並んで立っていた双子達には首を傾げて問いかける。 「僕は頼まれ物を持ってきたんですよ」 「頼まれ物?」 「はい。お2人の服です」 「もしかして、ミモザさんですか?」 「ええ。2人の格好があんまりだと言って」 ロッカ経由で告げられたミモザの言葉にとは顔を見合わせ、苦笑を零した。 今までが今までだったとは言え、ずっと破ったシャツとスカートのままだったのだ。ミモザが見かねるのも無理はない。 「それは、確かに」 「有難く、お借りしましょう」 同意の頷きを返し、はロッカから服を受け取る。ミモザの性格からしておそらくは動きやすい服だろう。 「それで、ロッカさんの用事は分かりましたけど、リューグさんはどうされました?」 「俺は・・・に話がある」 「私に、ですか?」 驚いて問い返せば真剣な瞳で頷くリューグ。それを見たはふわりと微笑んだ。 「分かりました。ここではなんですから、庭にでも行きましょうか?」 「ああ」 部屋から出て行く2人を何とはなしに見送ったロッカは自分と同じように親友と弟を見送ったを見下ろす。視線を感じたのか、深い漆黒の瞳が自分よりも頭一つ分以上も上にある穏やかな瞳を見つめ返した。 「さん、少し相手をしてくれませんか?」 何かを考える前に、するりと自分の口から滑り出た言葉に自分自身が一番驚く。 「鍛錬の相手ですか?私でよろしければ、喜んでお相手をいたします」 ロッカが自分の言葉に驚いている事に気付いていないのか、はロッカの申し出に躊躇いを見せることなくあっさりと了承の意を示し、先程渡された服から自分用と思しき物を選び出していた。 「・・・いいのですか?」 「ええ、もちろん。・・・どうして、聞き返すのですか?」 心底、不思議そうに首を傾げる姿は実際年齢を聞いているにも関わらず、どことなくあどけない。 「疲れていませんか?・・・その、僕達のこととか、いろいろあって、さっきまで寝ていたと思うのですが」 気遣う彼の言葉にはふわりと微笑みを浮かべた。 「大丈夫ですよ。ロツカさんの言う通り、確かに先程まで寝ていましたが、疲れは大方取れましたし、手合わせ程度ならば、十分お相手できますから」 気遣ってくださってありがとうございます、と柔らかな微笑みを向けられ、ロッカの頬が僅かに赤くなる。それを誤魔化すようにロッカは慌てて部屋の外へと足を向けた。 「玄関で待っています。・・・その、ありがとうございます」 律儀に相手をしてくれる礼を告げ、部屋を出て行くロッカの後姿を見ながら、は再び微笑みを零し、ミモザが貸してくれた服に腕を通すと自分の武器を手に玄関へと向かったのだった。 連れだって歩いていたリューグとは庭の一角に辿り着くとそこで静かに向き合った。 樹の幹にもたれ、ただ静かにリューグが口を開くのを待っている。 彼が何をどう話そうか、自分の中を整理しているのを分かっていて、それを待っていることがリューグには分かった。 自分よりも年上だと聞いたし、数々の行動からもそれが感じられる。分かってはいるが、それでもリューグは悔しかった。自分がいかに子供なのかということを相対して示されていることが。 「・・・、俺に言ったよな。アメルの存在を免罪符にするなと。あれは、どういう意味だ?」 「わざわざ言わなくてもリューグさんはもう、気付いているのではありませんか?」 あくまでも言葉は柔らかく、態度は暖かく。 自分の事だけしか考えられず、周囲にも迷惑を掛けていればこの態度は一転して冷気漂う冷たいものになるのだろう。だが、自分を律していれば彼女達の態度はどこまでも優しく、暖かい。 そして、ただ優しいだけではなく・・・愛情を含んだ厳しさも、ある。 自分の間違いや愚かさに気付いていながら、間違った方向へ進もうとしていた事を改めて言葉にするのは勇気がいる。自分が話すよりも他人から話してもらった方が楽なのは確かで、けれども、彼女はその甘えを許さない。 自分で認め、そして乗り越えることが必要だから、何も言わない。 澄んだ栗色の瞳だけが真っ直ぐにただ、リューグを見つめていた。 「・・・ああ、そうだ。お前達が見抜いていたように、俺はアメルを口実にしていた」 苦しそうに眉を顰めながら、それでも自分が卑怯だったと認める言葉をリューグは口にする。それを聞いていたの顔にふわりと暖かな微笑みが浮かんだ。 一度認めれば、リューグはそこから成長する。不器用なほど真っ直ぐな彼だからこそ、苦しみを乗り越えようとするだろう。そんな行動が人を成長させるのだ。 「でも、今はそうではないのでしょう?自分の復讐心とアメルさんを守ろうという心とは別だと、そう、認識しているのでしょう?」 微笑みながらは訊ねる。己の卑怯な部分を曝け出し、認めた彼だからこそ、はこれ以上の心の負担は不要と考え、手を差し伸ばす。 静かに頷くリューグには満足そうに頷いた。 己を律することが出来るのならば、たとえ旅の途中で敵に出会おうとも冷静に対処することが出来るだろう。 双子の兄と殴り合いの喧嘩をしていた時のように、怒りと復讐心で我を忘れ、敵へ突っ込んでいくような無謀な事だけはしないと確信出来る。 「・・・よかった・・・」 だからこそ、口から零れた呟きは心からのもので。口調からも雰囲気からも滲み出るほっとした心の動きはリューグにも伝わる。 「何で・・・」 「はい?」 「何で、お前はそうなんだ?」 質問の意図が分からず、瞳を瞬かせているを見て、リューグはふいっと視線を逸らせた。 「あの、リューグさん?」 「アメルの存在を免罪符にするなと言った時、お前はそれ以上の事をその場では言わなかった。今も、俺の行動を気遣っている。・・・どうして、そこまで気に掛けてくれるんだ?」 視線を向けようとしないリューグに見えないと分かっていても、はふわりと微笑み掛ける。 「言わなくても、リューグさんは気付いていたでしょう?なら、態々あの場で暴露して気まずい思いをする必要はありませんもの」 視線を向けずとも分かる。可憐な容貌に合った、穏やか微笑みを彼女が浮かべていることが、声音に篭った暖かさで容易に推測できる。 「それに、リューグさんの気持ちも分かりますから。でも、頭に血が上った状態で復讐なんて、出来るわけがありませんしね」 「・・・そういえば、自分も復讐者だったと、言ったな・・・」 問いかけるリューグの視線には一瞬、自嘲の笑みを浮かべるが、すぐにいつもの優しい微笑みに変わった。 「それに関しての質問は受け付けません。昔の傷を掘り返す自虐趣味は、私にはありませんから」 声に宿る拒絶の色にリューグははっとしたように視線を逸らした。 「悪い・・・」 決まり悪そうに謝るリューグには今度こそ、本当の柔らかな微笑みを浮かべる。乱暴者に思われがちなリューグだが、きちんと人を思いやれる優しい心を持っている事には気付いていた。 「あの・・・よ、少しでいいから、相手をしてくれないか?」 「鍛錬の、ですか?私でよろしいのでしたら・・・」 「俺はがいい」 今度は真っ直ぐに瞳を見据え、一歩間違えば告白に聞こえかねない台詞を口にするリューグの真っ直ぐさに再びは柔らかな微笑みを浮かべる。 「分かりました。では、服を着替えてきますので、少し待ってくださいますか?」 「ああ。玄関にいる」 頷くリューグへ頷き返し、は身を翻した。 身軽に自分達に与えられた部屋へ向かうの背を見送ったリューグも待ち合わせの玄関へと向かったのだった。 「え?」 「あら」 「あ」 「まぁ」 再開発地区で顔を合わせる事になった人物達のそれぞれの呟きである。上から青・蒼・赤・碧だが、ぽかんとお互いの顔を見合わせていた彼等の内、真っ先に我に返ったのは蒼と碧のコンビだった。 「お嬢達も鍛錬に来たの?」 「ええ、リューグさんに手合わせを頼まれて。そういう姉様もでしょう?」 「まぁね。しかし、さすがは双子というか・・・ほぼ、正反対の性格なのに行動パターンはよく似ていること」 「本当に」 くすり、とお互いに微笑み合う蒼碧コンビとは別に青赤双子は何とも複雑な顔でお互いの顔を見合わせている。 別に嫌っているわけでもないし、家族としての愛情もそれなりにある。だが、相手を素直に認めることは出来ないという微妙な年頃でもあり・・・。 結果、彼らの表情はなんとも複雑なものになったわけである。 それに気付いた彼女達は再び笑みを零し、それぞれの鍛錬の相手へと声を掛けた。 「ロッカさん、少し休憩をしますか?」 「リューグさん、手合わせをしましょうか?」 内容は正反対のものであったが、声を掛けられた相手にも反対意見はないらしく、それぞれの場所を移動する。 「では、始めましょうか」 「ああ」 得物を構えたリューグとを見守るようにロッカとは邪魔にならない場所に腰を下ろす。 「ロッカさん、水分を補給した方がいいですよ」 「あ、はい、すみません」 差し出されたコップを素直に受け取り、お茶を口にしながらロッカは目の前で繰り広げられる2人の得物の遣り取りを見つめていたが、しばらくして僅かに感じる違和感に眉を顰めた。 「さん、何か・・・違和感があるのですが」 感じた違和感を口にすれば、は穏やかな微笑みを浮かべるだけで何も言わない。 何も言う気はないのだとそれで悟ったロッカはもう一度視線を2人に向け、違和感の元を探り出した。 「あ、もしかして・・・」 「気付きましたか?」 「はい。さん、リューグに稽古をつけているんですよね?武器の扱い方、捌き方、体を動かすタイミングなんかを」 屋敷の庭で行われた手合わせは確実にの実力が勝っており、勝負もあっさりとついていた。だが、今、目の前で行われている手合わせは実践に添った稽古と言ってもいいもので、は微妙な手加減をしながらもリューグの弱点を容赦なく攻めている。それを克服することができれば、戦闘のレベルは確実に上がるだろう。 「・・・と、いうことは。もしかして、さんも?」 目の前の2人が来るまでの鍛錬を思い返す。 との実力は互角だと言っていた。ならば、あっさりと決着がついてもいいはずなのだが、かなりの長時間、得物を突き合わせていた記憶がある。そして、自分の弱点を容赦なく攻められていたことも。 血の繋がりはないというのに、本当に似通った思考と行動をとる彼女達である。彼女達の友人達が『前世の双子』と冗談でも呼んでいたのに納得さえしてしまう。 「お2人とも、今よりずっと、強くなれますからね」 明確ではないが、肯定の意を含んだ返答にロッカも穏やかに微笑んだ。 彼女達は自分達を信じてくれている。だからこそ、こうして稽古もどきの鍛錬に付き合い、自分達が尚、強くなれる手助けをしてくれている。その信頼が嬉しく、そして応えたいと強く思う。 けれど、今はとにかく。 「ありがとうございます」 諸々の意味を込めた感謝の言葉を返そう。 ロッカのお礼の言葉にはただ、穏やかに微笑む。ロッカの言葉の意味を正しく理解し、そしてそれを受け入れた暖かな微笑みだった。 そんな、ほのぼのとした空気を漂わせているロッカとの側で、いつの間にか鍛錬を終了したらしいリューグが座り込んでいる。 「えーっと、大丈夫ですか、リューグさん?」 「こ・・・こ、これっくらい、・・・・・どーっ・・・て、こと、・・・・・ねーよっ」 (ゼエゼエ言いながらでは説得力ゼロなんですが) 手加減はしたものの、容赦なく弱点を攻撃したので疲労はかなりのはずなのだが、震える手で斧を握る根性は確かに見上げたものなのだろう。 「取り敢えずは、水分補給が先です」 「は・・・?」 「姉様、私達の分もある?」 戸惑っているリューグに構わず、に水分の有無を問う。問われたも不思議そうに自分の手にある水筒の中身を確認し、へと答えた。 「あるけど。でも、お嬢も用意しているんじゃないの?」 「私のは後で必要になるから」 「・・・・・ああ、なるほどね」 何時ものようにアイコンタクトでお互いの意思疎通を図った2人に双子達はついていけず、目を白黒させている。 「・・・お2人とも、一体何の話をしているのですか?」 問い掛けてきたロッカに対し、はふわりと微笑み、説明をした。 「ロッカさんとリューグさんが休憩をしている間、私達の手合わせをしましょうって事をお嬢は言っているんですよ」 「俺はまだ、休むとは言ってねぇ・・・」 座りこんだ地面から立ち上がろうとするリューグに少しばかり、呆れた表情を浮かべたは立ち上がろうとしていたリューグの足をひょいっと払ってしまう。当然、払われたリューグは地面へ転がるはめになった。 「てめ・・・っ、何しやがるんだっ!」 「今の足払いを避ける事も出来ない人が、鍛錬しても何も身に付きません。身に付かない鍛錬を続けても、時間の無駄です」 「ぐっ・・・」 の尤もな台詞にリューグも何も言う事は出来ず、渋々その場に腰を下ろして渡されたコップに口を付ける。 それを横目に見ながら自分も水分補給を行い、軽く汗を拭いたはへと声を掛けた。 「準備はいいかしら、姉様」 「かまわないわよ。鍛錬と模擬戦、どっちにする?」 「そうね・・・準備運動を兼ねて5分は鍛錬、5分過ぎたら模擬戦でどう?」 「それでいいんじゃない?じゃ、始めようか」 ぐるり、と肩を回しながらは頷き、刀に手を掛ける。も三節棍を両手に構え、と対峙した。 2人が視線を合わせた瞬間、周囲の空気が変わった。 ピンと張り詰めた糸のような緊張感と静かな闘気が周囲を支配する。 「はっ」 「やっ」 短い呼気と共に2人が同時に仕掛ける。 三節棍を弾いた刀が下から切り掛かり、弾かれた三節棍がすかさず叩き落とす。刀を叩き落とした三節棍が横から襲いかかれば叩き落とされた刀が跳ね上げた。 華奢な体躯が息つく暇もなく縦横無尽に動き回り、漆黒と栗色が跳ね回る。金属がぶつかり合う音が辺りに響くが、何故か2人の足音は殆ど聞こえない。 「・・・あいつら、何て速さで動くんだ・・・」 自分達が相手をしていた時とは段違いに違うスピードに、リューグは唖然と呟く。 「確かに・・・これでは、僕達が敵わないのも無理はない・・・」 ロッカも自分達との格の違いをまざまざと思い知らされ、思わずため息をついた。 だが、双子達の複雑な心境など知らぬとばかりに、動き回っている2人は更なる鍛錬へと移る。 「お嬢・・・そろそろいくよ」 「ええ、分かったわ」 短いやり取りの後、2人の動きが変わった。得物だけでなく体術まで使い出したのだ。 お互いの武器がぶつかり合う合間に蹴りや手刀が入り、だが動くスピードは衰えない。 ふいにお互いの距離が開いた。 片手に三節棍を掴んだが静かに呟く。 「『月星散華』」 呟いた瞬間、の周囲にあった瓦礫が次々とへ向かって飛んだ。 飛んでくる瓦礫を見据え、も静かに呟く。 「『桜華乱舞』」 その瞬間、飛んできた瓦礫は全て細かく砕け、地面へと落ちた。 一呼吸置いた後、は刀を鞘に収める。相対していたも三節棍を折り畳んでいた。 「こんなものかな?」 「そうね・・・もう少し、技の切れが欲しいと思うのだけれど」 首を傾げつつが呟けば、唇に指を添えて考え考え、が答える。 そんな彼女達に固まっていた双子達がようやく思考を動かしだした。 「さん、さん。その、さっきのは一体・・・?」 「ほとんど、人間業じゃねーぞ、今の」 どこか擦れたような声で問い掛けてくる双子。目の前で信じられないような技を見せられれば、仕方がないかもしれない。 「今のって・・・私達が繰り出した技の事ですか?」 揃って頷く双子に彼女達は顔を見合わせた。 「これもまぁ、色々あった経験が生み出したものと思って下さい」 どこか、苦いものを含んだ笑みで言われれば、その『色々あった経験』とはどんなものなのか、それを聞く事はできず。ならばとロッカは別の疑問を口にした。 「技を繰り出す時、呟いていましたが・・・技の名前ですか?」 「ええ。私はこの刀に因んで『桜華乱舞』」 「私も三節棍に因んで『月星散華』と」 「・・・・・聞き慣れない言葉だな」 「そうでしょうね」 「言い回しは私達の国独特のものですから」 地面に座りこみ、が準備していた水分を飲みながら2人は頷く。水分を補給しながらは自分の刀を目の前に翳した。 「この刀、鍔の透かし彫りも鞘に押された金箔も同じ花で・・・私達の国では『桜』と言って、私達の国の人達が愛してやまない花なんです」 「サクラ・・・?」 「それ、アルサックじゃねーのか?」 「ここでは、アルサックと言うのですね」 どこか、哀しげに微笑み、は優しい手つきで金箔の花びらをなぞる。 「私達の国を感じ取られるこの刀に『桜華(おうか)』と名づけました。私達の国の言葉で『桜の花』と書きます。そして、この刀で繰り出す技を『桜華乱舞(おうからんぶ)』・・・桜の花びらが風で舞い踊るような動きで瞬時に複数の標的を倒す技です」 「私の得物は三節棍。・・・ここでは珍しい物のようですね」 チャリ、と鎖の音と共にが自分の得物を取り出した。 「私達の国とは別の国特有の武器で・・・叩き潰す事が主ですが、使いようによっては足や腕の一本ぐらい、軽く持って行きます」 無骨な武器とは裏腹な細い指が装飾に使われているエメラルドを撫でる。 「装飾に使われている月と星の意匠に因んで『月星(げっせい)』と名づけました。私達の国の言葉で『月と星』と書きます。そして、繰り出す技は『月星散華(げっせいさんか)』・・・星が粉々に砕け散るように標的を粉砕、もしくは周囲にある物を三節棍を使って相手へとぶつける技です」 穏やかに説明する二人だったが、言葉の端々にうっすらとした郷愁が感じられた。 「元の世界に・・・帰りたいのか?」 そう聞いたリューグだったが、すぐにバツの悪そうな表情になる。誰だって、見知らぬ世界にいるよりも家族や友人達がいる自分の世界へ帰りたいに決まっている。 「確かに帰りたいですけど・・・でも」 少しばかり、戸惑ったような顔になったが口篭ると、引き継ぐようにがその後の言葉を続けた。 「もし、今、元の世界に帰れるとしても、私達は帰りませんよ」 「なんでだ?」 驚いたように聞いてくるリューグにはふわりとした微笑みを向ける。 「今の状態で帰れるわけ、ないじゃないですか」 「私達はアメルさんを守ると決めました」 の言葉の後をが続ける。強い意思を漆黒の瞳に宿らせながら。 「ですから、帰りません。・・・例え、それで帰れなくなったとしても」 「私達は私達の誓いを守ります」 圧倒的な意思に満ちた瞳・・・いや、全身に宿る強い意思と覇気に双子達は息を飲んだ。まさか、これほどの答えが返ってくるとは思っていなかったのだ。 「誓い・・・?」 「過去に捨てた名を、再び名乗りました」 「その名に掛けて誓いました」 「『蒼の夜叉姫』の名に掛けて」 「『碧の阿修羅姫』の名に掛けて」 「言霊として誓い、誓いは誓約と化して約定となり」 「私達は今、ここにいます」 彼女達の覇気に呑まれながらも彼等の耳にはある単語が引っ掛かっていた。 三度目に聞く、彼女達の異称だった。 「その名前・・・聞くのは三回目ですが、どういう意味ですか?」 ロッカの疑問にの視線が僅かに下がる。 「この名もまた、私達の世界に連なるモノです。ある時には闘神であり」 「そして、ある時には鬼神でもある・・・私達の通称」 この名を最初に名乗った時に見せた僅かな自嘲と悲しみの混ざった笑みを今、再び浮かべた2人にロッカはそれ以上のことを聞く事が出来なかった。その兄の様子に気付いたリューグがぼそりと忠告する。 「突っ込んだ事は聞かないほうがいい。拒否されるだけだ」 「・・・聞いたのか」 リューグの口調からすでに弟が聞いていた事に気付いたロッカが尋ねれば無言の頷きが返る。 「そうか」 ならば、また自分が聞いても拒否されるのだと理解したロッカは静かに納得した。いつかまた、彼女達が話してくれることを願い、今はこれ以上の質問をすることを控える。 「もう少し、手合わせをしましょうか?」 外見と性格とは裏腹な戦闘能力を持つ彼女達の問い掛けに双子達は同時に頷き、それぞれの得物を手にした。 自分達よりも遥かに大人である彼女達。実力もあるが、それ以上に強い精神の持主達。 その強さはふとした時に敵わない、と思わされる。 けれども。 強さの奥に隠された悲哀が確かにあり、それを受け止めるに足る人間になりたいと願う。 頼りにして欲しいと、願う。 そう思うのは。そんな風に想ってしまうのは、つまり、そういうことで。 「なぁ。それ、やめろよ」 「はい?」 「ああ、僕も気になっていたんです」 「何が、ですか?」 双子達だけで通じているらしい会話にとの2人が首を傾げる。 それにしても、端的なリューグの言葉だけで何を言いたいのか理解できるロッカは流石双子と言うべきか。 「その言葉遣いです。さんもさんもお互いの時は砕けた言葉遣いをしているのに、僕達に対しては丁寧じゃないですか。もっと、普通に接してくれませんか?」 「あと、『さん』付けもいらねぇ。呼び捨てにしろよ」 まずは、こちらから歩み寄る。そして、距離を感じていた2人の態度を改めてもらうのだ。 突然の希望にもも戸惑ったようにお互いの顔を見合わせる。見合わせた後、が戸惑った顔のまま、確認を取ってきた。 「えっと・・・その、いいの?この言葉遣いで」 「ああ、そうしろ」 「・・・じゃ、これからそうさせてもらうわね、ロッカ、リューグ」 「ええ、そうしてください」 砕けた言葉遣いになり、名前も呼び捨てになった事で満足そうに頷くリューグとロッカの2人にともいつものふわりとした微笑を浮かべる。 「では、改めて」 「手合わせをするわよ」 微笑みを浮かべながら自分の得物を持ち上げる彼女達に応じ、双子達もそれぞれ自分の得物を手にしたのだった。 との2人がロッカとリューグに対し、呼び捨てと言葉遣いが変わった事に気付いた皆(主に双子召喚師と聖女)が騒いだ結果、なし崩し的に全員にも同じようにすることになった事を明記しておく。 段々と人間離れしていくヒロイン達。いくらなんでも、必殺技はないでしょう(書いた本人が何を言う)
さて次回の「イキイキにんげんウオッチャー!」は、 ヒョットコ島でなんと80年間くらげを捕り続けてきたさんにスポットを当てて、レポーターはおなじみでお送りします。 島の名物「レイム干し柚子味噌風味」プレゼントもお見逃しなく! ・・・・・「レイム干し」って?「柚子味噌風味」って? ってか、こんなものを食べたら食当たりを起こしそうだ・・・・・。 |