カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいる。
 カーテンを開けばその日差しが部屋一杯に広がり、部屋の中を明るく照らし出した。
 今日も、いい天気になりそうだ。

 呑気にそんな事を考えていたの2人は、今日という日が精神的にも肉体的にも非常に疲れる一日になるとはまったく予想していなかったのだった。



紛れ込んだ泡沫の世界
第十三章〜罪も卑怯も迷いも弱さも〜




「あ、ねぇねぇ、。一緒に外へ行かない?」
 パタパタと駆け寄ってきた紫紺の少女の台詞に呼びかけられたはゆるりと首を傾げる。
「外へ?」
「うん。アメルがね、外へ行きたいって言っていて・・・だから」
 駄目?とでも言うように上目遣いに伺ってくる少女。思わず頭を撫でたくなるようないとけない姿にくらり、とするものを感じながらもはすまなさそうな笑みを浮かべた。
「うーん、ごめんね。ギブソンさん、ミモザさんと少し、話すことがあるの」
「えぇ〜〜〜。せっかく、一緒に買い物をしようと思ったのに〜〜〜。がそう言うのなら、もなんでしょ?」
 その問い掛けに頷いてみせるとぷくっ、と頬を膨らませるトリス。18歳とはとても思えない子供っぽい仕草だが、何故か彼女には似合ってしまう。
「昨日もロッカとリューグがずっと2人を独占していたのにっ。あたしだって、と一緒に何かをしたいのにっ。ずるいっ」
 何をもってずるいと少女が膨れるのか些か疑問が生じるが、どこか幼い子供を連想させる表情とストレートな感情は憎めない愛らしさがある。
「今度、ね?」
 サラリ、とした紫紺の髪を撫でて微笑むとトリスもようやく機嫌を治し、満面の笑顔を浮かべた。
「絶対だからね?」
 首を傾げながら念を押してくる姿は本当に可愛い。

(こんな妹、欲しかったなぁ)

 ほわんとした思考と共に、ほのぼの空気をトリスと共に周囲に振り撒くだった。





「・・・と、いうわけ」
「そう。姉様のところにはトリスが行ったのね」
 の話を聞いたの顔に苦笑が浮かぶ。は親友が零した台詞に瞳を僅かに見開いた。
「その台詞を聞くからには、お嬢のところに誰かが行ったってことよね」
「ええ。マグナとアメルが来たわ」
「あらぁ。じゃ、結構大変だったんじゃない?お嬢、犬好きだし」
 犬属性の青年に守ると誓った少女のダブルお願い攻撃は・・・にとってかなり強力なはずだ。
「確かに、ちょっと、辛かったかしら」
 親友の推測に今度はどこか遠い目をして呟く
 断った時に尻尾と耳が垂れ下がった幻想が見えてしまったマグナと、大きな瞳をきらきらさせていたアメルが一気に沈んだ表情になったあの時。
「あれを見るのは、本当に・・・本当に、辛かったわ・・・」
 しみじみと呟くに、それを想像したも深いため息をついた。
「よく、乗り切ったわね」
「乗り切らなきゃマズいでしょう。あのお誘いと時間的にどう考えても黒幕が出てくる時期だもの。アレとはまだ、本格的に会いたくはないわ」
「まぁね。その意見には激しく同意するわよ」
 今度は真面目な顔をしたも腕組みをして頷く。
「相手が相手だし私達の存在、察せられている可能性は大なんだけど・・・」
「それでも、本格的な顔見知りになるのはまだ先に延ばしたいわ」
 物語の進行上、どう頑張ってもかの黒幕とは『ただの通りすがり』関係になることはない。自分達が悲痛な運命と宿命を背負った彼らを守ると決めたのならば、尚更。
「取り敢えず、それは避けられたから置いておいて。ギブミモコンビのところへ行こうか」
 組んでいた腕を下ろし、扉の外を指し示すも頷いて後に続く。
 いくつか確認したい事があり、その為に召喚師としても実力のある彼らに話を聞こうと考えた2人である。
 1階にある彼等の仕事部屋へ行き、扉をノックする。ギブソンもミモザも在室していることは気配で読み取れていた。
「入ってもかまわないよ」
 中から穏やかな声が入室の許可を出し、それに従ってがそっと扉を開ける。
「失礼します。あの、少し、聞きたい事があるのですけどお時間、かまいませんか?」
「あら、何かしら?」
 おいで、と言うように手招きをするミモザの言葉通り、何かの調べ物をしていたらしい2人の側に寄り、はもう一度邪魔をする事を詫びる。
「忙しい時に申し訳ありません」
「気にしなくていいよ。私達もそろそろ休憩にしようかと思っていた頃だから」
 広げていた本を閉じ、ギブソンはどこからともなくケーキが一杯詰まったバスケットを机の上に置いた。それはもう、非常に嬉しそうに。
「君達も一つ、どうだい?」
「は、はぁ・・・」

(・・・・・もしかしなくても、パッフェルさんが配達したあのケーキでしょうか・・・・・)

 にこやかにケーキを勧めるギブソンに朝、トリスとマグナが玄関で受け取った物を思い出した2人は内心で汗を掻く。ゲーム画面ではどれぐらいの量のケーキだったのか分からなかったのだが、こうして目の前で見せられると本当にハンパではないのだ。
 と、いうか、余裕で30個はあるだろうケーキを、どう見てもそれほど大きくはないこのバスケットにどうやって詰められたのか、激しく疑問である。ついでに、この大量のケーキを本当にギブソン一人で食べ切ってしまうつもりだったのかということも。
「また、そんなにケーキを注文して。将来、糖尿病になるのは確実ね」
「君の場合は高血圧だろうね」
「ギブソンみたいに毎日食べていないの、私は」
 紅茶を運んできたミモザが呆れたように首を振りながら突っ込んだ台詞には思わずお互いの顔を見合わせた。

(本当に毎日食べているのね、この量を)
(ある意味、女性の敵だよ)

 これだけの量を食べても体型に些かの変化も見られない彼は確かに、大半の女性の敵になりそうだ。
「それで、聞きたい事とは?」
 いそいそとケーキを皿に出しながら問い掛けてくるギブソンに元々の目的を思い出し、2人は改めて居住まいを正した。
「あの、私達はトリスやマグナ達の後からここに合流した訳ですけど」
「皆さんから、私達の事を聞いていたと言っていましたよね?どんな風に話していました?」
 何を思ってそんな質問をするのか、その真意を測ることが出来ず、召喚師コンビはお互いの顔を見合わせる。真意は分からないが答えてマズいものでもないので、後輩達が説明した事を目の前にちょこんと座っている(外見だけの)少女達へそのまま伝えた。
「レルムの森の中で座りこんでいたところを見つけた、と」
「で、話しているうちに『名もなき世界』から召喚されたらしいことと」
「どうやらはぐれらしいが召喚した形跡がないってことを言ったかな」
「それと、信じられないぐらい強いってことね。もっとも、これは私達も自分の目で見ているけど」
 ギブソンとミモザが代わる代わる話すと聞いていた2人はしばらくじっと、何かを考え込んでいた。
「お嬢、よろしく」
「・・・・・姉様・・・・・」
 考えが纏まったのか、ほぼ同時に顔を見合わせた2人だったが、それと同時にがシュタッと手を挙げ、にっこりと笑うとは眉間に指を当て、ため息をついた。
「説明はお嬢の方が上手だからね」
「だからって・・・まぁ、いいけど」
 再びため息をついただったが、気を取り直すと改めてギブソンとミモザへと視線を向けた。
「召喚師には誓約している召喚獣なのか、はぐれなのか見極める能力があると伺いました。それで、お2人に訊ねたいのですが・・・今、私達の状態はどうなっていますか?」
「どうって、君達は・・・・・おや?」
「どうしたのよ、ギブソン」
「ミモザ、彼女達をよく見てごらん」
「何が・・・・・あら?」
 ギブソンに促され、改めてを見つめたミモザが驚いた声を上げる。その2人の反応に確信を持ったが静かに訊ねた。
「はぐれには・・・なっていないのですね?」
「ああ。極々弱い物だけれど・・・2人とも、誓約の鎖が巻き付いているね」
「ちょっと見には気付かないものだわ。私達も貴女達に言われなければ、見落としていたわね」
 改めてマジマジと見ながら断言する召喚師コンビに2人はやはり、と頷く。
「その誓約ですけど、召喚師の方なら分かりますか?」
「そうだね・・・召喚師の能力を持っていれば分かるかもしれないが・・・それでも、それ相応の能力がなければ難しいだろうね」
 ならば、レルムの村で顔を合わせた時に兄弟弟子召喚師達が気付かなかったのも納得がいく。
「で、貴女達の召喚主はどうしたの?」
 普通ならば召喚された近くに召喚主がいるはずで、はぐれでない限り召喚獣は召喚主の側についているはずなのだ。
 だが、話を聞けば召喚された時にはどこにも召喚主がいなかったらしいし、今現在も召喚主らしい人物の影は感じられない。
 召喚師ならば当然の疑問だろう。
「私達の召喚主って人前に出てこれる体じゃないんですよね。ですから、私達との接触も夢を媒介にしているんです」
「・・・そんな召喚師なんて聞いた事ないわね」

(そりゃ、そうだろうなぁ)

 自分達自身もゲームの世界に入り込んだという非常識な存在だし、その自分達を召喚した者も更に非常識な存在なのだ。とはいえ、それをバラす訳にはいかない。
「そう、なんですか?」
 とりあえず、召喚の常識はよく分かりませんという態度を取る事にする。ミモザの目がどこか、探るような光を浮かべているが、こちらも誤魔化すことには年季が入っているのだ。そうそう、見破られることはないだろう。
「あと、もう一つ聞きたいのですが・・・私達と同じ世界から来たという人は複数人数なんですか?」
 誤魔化すには話を変えるのが一番と今度はが疑問に思っていた事を2人に質問する。
「ああ、そうだよ」
「正確には4人ね。今は西のサイジェントという街にいるわよ」
 未だに探るような目ではあったものの、それでも2人はの質問に答えた。

(やっぱりというか、なんというか)
(誓約者も護界召喚師も揃い踏み、か)

 予想していたとはいえ、誓約者達の人数に一瞬、遠い目をしてしまう。
「西の・・・サイジェント、ですか?」
「そう。地図だとここになるね」
 ご丁寧に地図を取り出し、場所を説明するギブソンに習い、も広げた地図を覗きこんだ。
 当たり前だが、攻略本に載っているようなカラフルなものではなく、ちゃんとした(?)地図で国境や街道などもきちんと書きこまれているものだ。
「ここからだと・・・ハルシェ湖、ですか?ここから船で行けますよね」
 幸いというか、召喚された者の常として文字は読めるようで、地図に書かれた文字は何の不自由もなく読む事が出来る。
「確かに船で行けば早いけど、船代は高いわよ」
「あ、そうなんですか」
「じゃあ、街道沿いが一般的なんですね。でも・・・それだと、ものすごく日数がかかりますね」
 一応、知識として知ってはいたが、地図で場所を確認するとサイジェントは遥かに遠い。

(誓約者達がよく、移動手段として最強召喚獣を使う訳がよく分かったわ)

 心の内で呟きながら、彼女達は地図をじっくりと眺める。
 これから先、聖王都を中心としてあちこち出歩くことになるのだ。周囲の把握は必要だろう。
 そんなに気付いたのか、ギブソンが穏やかに手にした地図を2人に差し出した。
「これは君達にあげるよ。これからの君達には必要だろうしね」
「いいのですか?」
「地図は私達の必須だから何枚も持っているのよ。遠慮しないで貰っときなさいな」
「ありがとうございます」
 ミモザのカラリとした物言いにも微笑んで有難く頂くことにする。
「2人が気にするのだったら、サイジェントの子達に話を通しておくわよ?」
 もし、自分達が本当にはぐれという立場であれば是非ともお願いしていただろうが、実際は非常識な存在に召喚されていたというものだ。(サモンナイトの)一ファンとして誓約者&護界召喚師に会いたい気持ちはあるが、今はそれよりも優先するべき事がある。
「お申し出は非常に有難いのですけど、アメルの件が決着付くまではやめておきますね」
 柔らかな微笑みを浮かべ、首を横に振るにミモザも理由を察したのか何も言わずに軽く頷いた。
「ま、その気になったらいつでも言ってよ。可愛い後輩達の事とかで、貴女達にはいろいろと世話になっているし、それぐらいはするからさ。・・・ところで」
 頼もしく請け負ったミモザだったが、ふいに目の前に並んで座っているをじっと見つめだし、何かを思い出すかのように軽く眉を顰める。
「貴女達とは初めて会ったのよねぇ?」
「そうですけど」
 いくら、自分達がゲームの登場人物として目の前の召喚師コンビを知っていたとしても、それはこちらが一方的に知っているだけだ。こうして、顔を合わせて会話をするのはほんの数日前からで、つまりは初対面である。
「うーん・・・どうしてかなぁ。貴女達とは初めて会った気がしないのよ」
「ミモザもかい?」
「ギブソンもっていうことは、やっぱり気のせいじゃないのね」
 顔を見合わせ、確認している召喚師コンビにの2人も戸惑って顔を見合わせた。
 普通の(?)ドリーム小説ならば、召喚された主人公に実はリィンバウムに関わる事実が隠されていたという伏線がよくあるパターンだ。けれども、自分達がそうではないことを2人はよく知っている。リィンバウムに関わっているのは自分達ではなく、自分達を召喚した人物だ。
 だから、ミモザの言う『初めて会った気がしない』という言葉も首を捻るしかない。
「・・・でも、どう考えても無理があると思うんですけど」
「私達、本当に最近、召喚されたばかりなんですよ?」
 本当に忘れ去られているような気がするが、2人はこの世界に来てまだ一週間も経っていないのだ。彼女達の順応が異常なほど早かったせいかもしれないが。
「そういえばそうだったわね」
「君達があまりにも自然にそこにいるから、忘れていたよ」
 にこやかに言われてしまえば何も言う事は出来ず、2人は揃って項垂れるとため息をついた。
「まぁ、そう言われてしまうのも仕方ありませんけど」
 諦めたように再びため息をついた2人は進呈された地図を手に椅子から立ち上がる。
「では、お忙しいところ、すみませんでした」
「気にしなくていいよ。こちらもいい息抜きになったからね」
「貴女達、この後はどうするの?」
 ミモザの問い掛けにはお互いの顔を見合わせると、お互いが同じ事を考えている事を読み取った。
「少し、買い物へ行こうかと思っています」
 今、自分達が着ているのはミモザから借りた洋服で。ミモザは気にしないだろうが、何時までも借り続けているわけにもいかないだろう。も、時間が出来れば洋服を買いに行こうと思っていたのであり、この後に出掛けるのがいいだろうとお互いに判断する。
 幸い、この街に入る直前に盗賊退治でかなりの金銭を稼いでいるので、お金の心配はない。
「そう。じゃあ、悪いんだけど、お使いを頼めるかしら」
「私達でいいのでしたら」
「大した事じゃないの。資料用の本が届いたって連絡が来たから、取りに行ってほしいんだけど」
「ああ、それぐらいならお安い御用ですよ」
「どこへ取りに行けばいいんですか?」
 気軽に請け負う2人にミモザは本屋の場所を説明する。その場所を覚えた2人はもう一度お礼を言うと、召喚師コンビの仕事部屋を辞したのだった。





 一度自分達の部屋に戻り、出掛ける支度をしてからは玄関へと向かう。ホールに出ると自分達と同じように今から出掛けるらしい赤いマント姿の人物と鉢合わせた。
「ネスティも今から出掛けるの?」
「ああ、そうだ。そういえば君達、知らないか?マグナもトリスも姿を見ないのだが」
「あの2人だったら、アメルに街の案内をするんだって言って出掛けたわよ」
「そうか。・・・まったく、あいつらは・・・」
 眉間に皺を寄せ、何やら呟く兄弟子に2人はハテナ?と首を傾げる。
「あの2人がどうかしたの?」
「しばらく先輩のところにやっかいになるのなら、時間を無駄にしないためにも少しは知識を増やすべきだと思ってな。課題を出していたのだが・・・・・・・・・・逃げたな」
「あ、あはははははは」

(逃げたのか、双子召喚師)
(滅茶苦茶、あの2人らしいわね)

 乾いた笑いを零している2人へ視線をやったネスティは少し何かを考える風だったが、すぐに何かを決めたらしい。
も出掛けるのか?」
「ええ、少し買い物を」
「あと、ミモザさんに頼まれておつかいもね」
「ならば、頼まれてくれないか?僕はこれから出掛けるが、あの2人を見つけたら僕が帰ってくるまでに課題を仕上げておくようにくれぐれも言い聞かせておいてくれ」
「ははははは。・・・了解」
 たぶん、それはできないだろうなぁ、などと予想しつつも一応、伝言を受けた2人だった。





 まずは洋服を買うために服屋を覗く。
「ゲームじゃ分からなかったけど、かなり品揃えはいいのね」
「まぁ、この国の中心都市だし・・・物品も集まってくるんじゃないかな」
「そうね。じゃ、それぞれに見ていって終わったらここで待つ、でいいかしら」
「OK」
 簡単に待ち合わせを決めると二人、それぞれに自分達の洋服を見定め始めた。
 そして約2時間後。
「へえ、お嬢、可愛いじゃない、そのミニマント」
「うん、これは結構一目惚れっぽいかな」
 が選んだ服は若草色のノースリーブシャツ。かなり深いVネックで鎖骨や胸の谷間が覗きはするが、白いミニマントを羽織れば露出はそれほど気にならない。動き易さを重視して深緑の皮のタイトスカートは膝上の丈で両サイドにスリットが入っている。靴は茶色の皮のロングブーツなので、足元もそれほど露出はしていない方だろう。両手に滑り止めと保護を兼ねた白い皮の手袋を嵌め、金色のホルダーを巻いて三節棍を腰に吊り、終了だ。
「ところで姉様は?全然買っていないみたいだけど」
 購入した服を着ているとは反対に、は借りた服のままである。
「うーん・・・気にいったというか、気になる物はあるんだけどさ。買うとなると少し、問題が出てきてね」
「高いの?」
「いや、値段も手頃。色がね、凄く綺麗な空色で動きやすさもバッチリ、なんだけど」
 そこまで揃っていれば、買わない手はないはずである。一体、何を悩んでいるのかとは不思議そうに首を傾げる。
「じゃあ、何が問題なの?」
「デザインがホルダーネック」
 ボソッ、と呟いたの言葉には何が問題なのか、すぐに察した。
「ああ、下着が問題なのね」
「そう。ヌーブラ、この世界にあるかな?」
「いっそのこと、ノーブラで通したら?ホルダーネックって大抵、パットが入っているでしょう」
「普通に動いた時は別に問題ないけど、戦闘時は胸が揺れるから却下」
 誰とは言わないが、仲間内の純情な青年達(複数人数がポイント)が聞けば顔を真っ赤にするだろう会話を2人はサラリと交わす。
「どちらにせよ、下着も買わなきゃならないでしょう。なら、姉様の服を買って下着を変えてから着替えてもいいんじゃない?」
「そうだね」
 の意見にも頷き、下着も無事に購入すると新しい服に着替えた。
「姉様、そのブーツって3のアティみたい」
「うん、色が白だったらモロ、アティだと思うよ」
 が選んだのは空色のホルダーネックのシャツ。思いっきり背中ががら空きのタイプだが、黒のジャケットを羽織り、無防備な背中は隠されている。蒼の短パンもお尻ギリギリという短さで足がモロ出しになるが、黒の皮の膝上まである編み上げのロングブーツを履いて隠されている。なんとも、微妙な露出加減の服装だ。仕上げは黒の皮の手袋を嵌め、銀色のホルダーを巻いて、腰に刀を佩けば終わりである。
「取り敢えず、こんなものかな?」
「一応の体裁は整ったと思うわよ」
「じゃ、取り敢えず一休みしよう。喉も渇いちゃったしね」
 この世界にいても違和感のない服装になった2人は買い物の疲れを癒そうと目に入った喫茶店へと入り、それぞれに飲み物を注文した。
「さて、と。時間軸としてどこにあたるかな」
「まだまだ序盤でしょう。おそらく、ミニスを連れ帰ってくるんじゃない?」
「その辺り、だよねぇ、きっと。・・・なら、数日後にピクニックイベントの戦闘があるのか」
「・・・・・デグレア、か。彼等も辛いわね」
 悪魔の手の上で踊らされているとも知らず、ただ汚名を晴らそうとしながらその行為故に更に血塗れていく哀しい彼等。けれども、今の彼等には国からの命令を完遂する事だけが唯一縋れるモノ。
「・・・哀しい、わね・・・」
「うん・・・」
 彼等もまた、重荷を背負うことになる。『ゲイル』という召喚兵器によって絡み合い、重い運命を背負った聖女と兄弟弟子召喚師達に関わることによって。
「私達は見守る事は出来ても、話を変える事は出来ない」
「出来ないというよりも変える勇気がないだけだよ」
 漆黒の瞳に暗い影を落としながら呟いたの言葉に、の栗色の瞳にも影が差した。の呟きは確かに否定できないものだったから。
 自分達は先を知っている。
 彼等の上にどれほど哀しい運命が待っているのかを。果てない程の悲しみが降り掛かるのかを。とてつもない重い宿命を背負うのかを。
「知っていて、けれども行動を起こさないのはただ、そうする勇気がないだけ」
「・・・・・そう、ね。確かにそうかもしれないわ。もしもストーリーを変えて、そして来るべき筈の未来が来なかったらと・・・無意識に恐れていたのかもしれない」
「私達がもっと若かったら・・・ね。そうしたら若さに任せて突っ走れたのに」
 十年前の自分達がそうだった。何も考えず、勢いのままに突っ走った。
「でも、そうすると今度は周囲を見渡せる余裕がなくなるわ。私達のこの歳だからこそ、目配りが出来る事があるもの」
 今だから分かる事。あの時の自分達は自分達だけで動いているようで、その実様々な人達に見守られていた。
「結局、今の私達に出来ることをするしかないってこと、か」
「物語は始まってしまっているし、私達だって指針を決めたもの」
「そうだね。罪も重荷も卑怯も全て背負うと決めた。決めたはずなのに、どうしても迷ってしまうのはやっぱり、弱さなんだろうな」
「迷ってもいいわ。それは仕方がないことだと思うもの。でも、悩んでも迷っても、決めた事を貫けいていけばいいんじゃないかしら」
 強さを秘めた瞳で見つめてくるもゆっくりと頷く。
「やっぱり、お嬢と一緒でよかった」
「私も姉様と一緒でよかったわ」
 ふわり、とお互いに微笑み合うと同時に手にしたカップを口に運ぶ。それぞれのカップをソーサーに戻そうとした時。
「誰か、そいつを捕まえてくれっ!!」
「へっへーん、捕まらないよーっだ」
 ガラスを挟んだ大通りを二つの影が疾風のように走りすぎた。
「・・・・・・・・・・」
 視線でそれらを見送った後、再び2人は同時に飲み物を口にすると今度はお茶請けのケーキを切り分け、口にする。
「今のって・・・」
「ユエルイベントに間違いないでしょ」
 そして、再び訪れる沈黙。
「・・・あ」
「どうかした、お嬢」
「さっきの続きみたい」
 の視線を辿れば紫紺に栗色、赤に黒、緑に藍色の集団が一つの影を囲んでいた。
 遠目でしか確認できないが、どうやらオルフルの少女に食べ物を与え、この世界の常識を僅かなりとも教えているようだ。
 しばらくそれを見ていると誰かが禁句を少女に言ったらしく、凄まじい勢いで少女はその場から駆け出す。
 一同はそれを唖然として見送っていた。少女が激昂した理由がよく分からないからだろう。
「ユエルもいつか、救われるといいわね」
「うん。しかし、ゲームをしていた時も思ったけど、本当に腹立つよね、あの暗殺者。殺るなら自分の手で殺れっての。騙し続けて、それが駄目なら強制的に他人にやらせるなんざ、自分から三流だと言ってるようなもんじゃないのさ」
 少女が喚ばれた背景を思い、眉を吊り上げていただったが、いきなり背筋に冷水を浴びせられたような悪寒に襲われた。
「な、何、コレ・・・」
「姉様・・・あれ」
 もやや、顔を蒼くしながら視線を再び外へと向けている。
 銀糸と紫石の悪魔が綺麗な微笑みで自分が見定めた駒を見ていた。

(虚言と姦計の大悪魔−−−レイム・メルギトス)

 双子召喚師や聖女に話し掛けられ、にこやかに答えている姿は流麗な吟遊詩人にしか見えない。
 だが。
 は全身に浮かぶ鳥肌を押えることができなかった。
 は顔色をますます蒼くさせた。
「なんて・・・なんて『気』なのよ。これだけの距離があって、尚且つガラスが間にあるっていうのに・・・なのに、こんなにどす黒い『気』を感じ取るなんて・・・」
「姉様・・・凄く、凄く危険信号が脳裏に響くの。もう、レッドアラームなんて目じゃないっていうぐらいに。本当に・・・物凄く、危険だわ」

 微笑む姿は優しげで
 竪琴を奏でる指は流麗で
 話す物語は魔法のようで

 けれども感じた気配は超特大の危険人物

 レイム・メルギトス−−−が彼を本気で天敵と認識した瞬間であった。





 聖女を見定め、双子召喚師達を見定めながら話している銀色の悪魔。
 彼が纏っているモノを感じ取ったの顔が僅かに引き攣っていた。
「これほどとは・・・思わなかった・・・」
「流石は大悪魔と言ったところだけど・・・」
 の呟きには両手を握り締め、顔を伏せる。
「私達が気圧されているのが問題だわ」
「ええ。精神力の問題ね」
 この戦いに必要なのは何よりも強い心。諦めてしまえば、そこで終わりなのだ。
 と同じく、も自分の両手をじっと見つめながら浮かんだ考えを整理していく。
「遠目にとはいえ、黒幕を直接この目で見たわ。そして私達は確信できた。アレは・・・私達の天敵だと」
「今の時点で私達は負けている。ならば」
「そうよ。実力は当然としても、精神力をも鍛えなければアレには勝てない」
「精神修行も付け加えなきゃ・・・」
 対メルギトスの方法を考えているうちに件の悪魔は庭園から姿を消していた。
 一番警戒していた悪魔がいない今、彼等と接触するか否か。
 少しばかり考え込んだ2人はおもむろに視線を合わせるとほぼ同時に席を立った。





     






ヒロイン達の悩みはイリスの悩みでもあります。
いや、下手に話に介入して収拾がつかなくなると思うと怖くて手が出せないんです。
他のサモナイ夢は見事に話を纏めているんですけど・・・。
つまり、イリスにその技量がないということですね(泣)


さて、今回の「いきなり次回予告」です。


「好きだっ!!結婚しよう!」とついにバルレルへ告白!!!
悩み、迷うバルレルへレオルドが明かす、とバルレルの秘められた関係!!
次回「レオルド!!お前は愛に疲れている」


バルレルへ告白っ(爆)実に美味しいですっ!(激爆)
そしてレオルド。何故に愛に疲れているのさ?(核爆)