紛れ込んだ泡沫の世界
第十四章〜修羅を棲まわせる者〜

 未だに唖然としているらしい一団に殊更のんびりとは声を掛ける。
「あれ?皆、どうしたの?」
 一斉に振り返られ、一同の視線に晒されて内心、引きそうになったがあくまで表面はのんびりとした表情を浮かべる。
「そういえば、買い物に行くっていってたわね」
「ああ、そうか。じゃ、休憩中かな」
「あ、うん・・・」
 どうやら今度はいきなり声を掛けてきた自分達に驚いているらしいと判断したはアメルから、重そうな荷物を極自然に自分の手に移した。
「あ、さん・・・」
「気にしない。私の方が力があるからね」
 軽くなった自分の手にようやく荷物が移った事に気付いたアメルが慌てるが、はただ優しい微笑みを浮かべ、緩く首を横に振る。
「姉様って何気に男前なところがあるものね。買い物をする時でも気が付けば姉様が荷物を持っているし」
「力がある者が重い物を持つのは当然だと思うけど?」
「そこに至るまでの行動が自然すぎて男前なのよ」
 軽妙な2人の掛け合いに一同もようやく、意識をはっきりさせたのだろう。いきなりトリスが大声をあげる。
「あーーーーーっ!!!」
「な、何?」
!何時の間に服を変えたの!?」
「え?あ、ああ、この服?」
「ホントだ。服を買ったの?」
「ええ。何時までもミモザさんの服を借りている訳にもいかないもの」
 問い掛けるマグナには微笑んで頷くと、何故かアメルが残念そうなため息をついた。
「残念です・・・」
「アメル?」
「一緒に服屋さんへ行って、さんやさんに似合いそうな服を着て貰いたかった・・・」
「私も!はもっと、可愛い色とか服とかが似合うと思うの!」
 随分と意気込むアメルとトリスを見たに冷や汗が浮かぶ。忘れ去られているようだが、自分達はもうすでに可愛いといわれる服を着る年齢は過ぎ去っているのだ。
「トリスにアメルも。私達はもう、可愛いとかそんな服を着る年じゃないのよ?」
「外見は似合うからいいんです」
 アメルにきっぱりと言い切られた2人はただ、乾いた笑みを零すしかなかった。
「あ、そうだ」
 ふと、思い出したように呟いたは視線を紫紺の双子へと向ける。
「マグナ、トリス。出掛ける前にネスティと会ったけど、かなりご立腹だったわよ」
「うっ」
 の言葉を聴いた瞬間、双子達の顔が引き攣り、額に冷や汗が浮かんだ。
「ネスティから伝言。『僕はこれから出掛けるが、帰ってくるまでに課題を仕上げるように』だそうよ?」
「ネスが帰ってくるまでに!?」
「そんなの、無理!!」
 から伝えられた伝言を聞いた双子は即答で反論する。
「あ、あのねぇ」
「即答反論しなくても」
「だって、あの課題の量を見てみてよ!」
も、無理だと分かるさ!」
「だからと言って、逃げ出すのも問題だと思うわよ」
「皆はネスがどんなに厳しいか知らないから、そんなことが言えるのよ!」
「間違えるたびに雷が落ちるし、嫌味は言われるし、逃げたくもなるさ!」
 双子達の息の合った反論に周囲はただ、唖然とするばかりである。一応、嗜めたもすぐに諦め、苦笑を浮かべるのみだ。
「あら、噂をすれば影ね」
「え?」
「ほら、あそこにネスティが歩いているわよ」
 が指し示す方向に難しい表情で歩くネスティの姿があった。途端にの背後に双子達は隠れようとする。トリスはともかくとして、マグナが隠れるのは些か・・・いや、かなり無理があるのだが、とにかくネスティに見つかってお説教を受けるのは何としても避けたいらしい。
「やれやれ」
「2人とも。そんなことをしなくても、ネスティはもう、通り過ぎてしまったわ」
 見れば分かる事実なのだが、それでも2人はの背後からネスティの後姿を伺っている。兄弟子の弟妹弟子達に関する嗅覚と厳しさが骨の髄まで染み込んでいるのだろう。
 そう、思っていたのだが。
「ネスの後を尾けよう!」
「・・・・・はい?」
 思わず2人の顔を見れば、興味津々といった表情を隠しもせずに兄弟子を見つめている。
「止めた方がいいと思うけど」
「見つかったら雷どころじゃないわよ」
 一応、止めはするものの、兄弟子がどんなに厳しかろうと、湧きあがる好奇心に双子達は逆らえないようだ。
 結局尾行をすることになり、結果、辿り着いた場所は。
「嘘・・・」
「『蒼の派閥』本部・・・?」
 厳かな雰囲気が漂う『蒼の派閥』本部へとネスティが入っていったのを唖然と2人は見つめていた。
「ここって、『蒼の派閥』本部?」
「そう、だけど・・・」
「どうしてネスが・・・」
 が確認の為に聞いても双子は唖然としたままである。
 ネスティが何故ここを訪れたのか、そして何故双子達がそのことで驚いているのか、何となく分かっているはお互いの視線を合わせ、フォローに回ることにした。
「ふうん。『蒼の派閥』って、確か召喚術を通して世界の真理を研究しようってとこだっけ」
「あ、だったら資料もかなり豊富にあるわね」
「え?」
 どういうこと?と自分達を見上げ、見下ろす双子と聖女達。気のせいか、護衛獣カルテットも興味深げに見つめているようだ。
「ネスティがずっと書斎に篭っていたのは知っているわね?」
 の確認に全員が首を縦に振る。
「あれは何も、マグナやトリスに課題を出す為だけじゃないのよ」
「え、そうなの?」
 本気で驚くトリスにちょっとばかり、ネスティに同情する
「例の集団の手がかりがないか、ずっと調べていたの」
「そうだったんだ・・・」
 今度はマグナが本気で呟き、はますますネスティに同情した。
「相手の情報があれば、様々な作戦を立てることが出来るからね」
「俺達のような素人に必要なのか?」
「戦場にプロも素人も関係ないわ」
 争いごとをするのだとがはっきりと言葉で示し、まだ、どこか気楽だった双子達がはっと息を呑む。
「戦場では命の遣り取りが当たり前」
「たとえ、アメルを護るだけの闘いだとしても、命を取る覚悟と取られる覚悟がいる」
「アメルと命を取られないためには作戦が必要」
「そして、より有利な作戦を立てるには情報が不可欠なのよ」
 いくら彼女達が外見年齢よりも実際年齢が遥かに年上だとしても、極普通に、平和に暮らしている人間がこんな台詞を言うはずがない。彼女達は経験しているのだ、作戦が必要な戦いというものを。
 時々、こんな風に彼女達はほんの少し、過去を匂わせる。穏やかで優しくて暖かな笑顔と雰囲気を持っていながら、己の中に修羅を棲まわせていることを。
 黙りこんでしまった子供達に刺激が強すぎたかと二人は顔を見合わせるが、今の内に最低限の覚悟を持ってもらわなくてはならないのだ。これから先、色々な意味で彼等は試練に見舞われるのだから。
「ふーん、最初に会った時から薄々カンづいていたが、お前等相当な闇を抱えてんな」
 両手を頭の後ろで組み、表情は悪戯小僧のようでありながら、瞳は狡猾な悪魔の色を浮かべた赤い護衛獣がをしげしげと見つめる。
「二つ名を持つほどの貴方なら、分かっているでしょう」
「確か、サプレスの住人って感情を察知する能力に長けているって本で読んだ記憶があるんだけどな」
 肯定も否定もせず(だが、発言的に肯定している色が強い)首を傾げてみせる二人に少年の姿を取っている彼はニヤリと悪魔の顔で笑った。
「相当奥に仕舞いこまれているし、その上きっちり精神力で包まれているから俺並みじゃねぇと分からねぇんじゃないか?」
 どちらにせよ、側に居て心地いいからたまに居させろよ、という彼にしては珍しい台詞にはお互いの顔を見合わせた。
「側に居る悪魔は貴方だけで十分。貴方以上の悪魔なんてあんまり会いたくないな」
「同感だわ。相手するだけで疲れるもの。だから、他の悪魔を連れてこないでね」
「誰が連れてくるかよ、もったいない。こんな極上の人間、渡すつもりなんかねーっての」
 なんとなく含みがありそうな台詞だが、彼の主人が疑問を突っ込む前に小さな手がそれを遮る。
「・・・でも、ね」
「ハサハちゃん・・・?」
 人見知りの強い妖狐の少女が黒のジャケットを引っ張った事に驚いて、は僅かに瞳を瞠った。
「でも、ハサハ、お姉ちゃん達、好き」
 たどたどしく、けれども精一杯の好意を示して見上げる藍色の護衛獣の無垢な瞳にも微かな驚きの表情を浮かべる。
「お姉ちゃん達の魂、とっても綺麗。万華鏡みたいにきらきらしている」
「ぼ、僕も、さんとさんが好きですから」
 人見知りの強さでは妖狐の少女に負けず劣らずのメイトルパの少年が必死な瞳で見上げてくる。
「優しい笑顔でも、どんな敵を前にしても怯まない人でも、さんとさんがそのままでいてくれればいいんです」
 という人の、そのままの、等身大の人物を好きなのだと緑色の護衛獣が普段の気弱な態度を捨てて、必死に訴える。
「それに、さんとさんの側は暖かくて、安心できて、ほっとするんです」
「・・・・・短イ間デスガ、貴女達ハ信用デキル人デス」
 黒い護衛獣が瞳を点滅させ、冷静な視点で彼女達に告げる。
「今マデノ戦イデ、ソレハ確認デキテイマス。貴女達ハあめる殿ダケデナク、主殿トとりす殿モ、ソシテ他ノ方々モ護ッテイマシタ」
 機械兵士特有の起伏の少ない話し方の中に、確かな信頼の感情が読み取れた。
「ソシテ、貴女達ナラバ、主殿達ヲ任セラレルト判断シマシタ」
「ま、結局はそういうことだな。俺だってそれなりにお前達を気に入ってんだ。言っておくが、何もお前達の感情だけじゃないぞ」
 護衛獣カルテットの思わぬ好意にの瞳は見開かれたままだ。
「あの、さん、さん」
 控えめな声に視線を向ければ、何かを考え込んでいるかのような表情の双子と聖女が二人を見つめている。
「その、本当はあたし達を窘めたかったんですよね?いつ、どこであの人達に襲われるかもしれないのに、どこか呑気だったあたし達を」
「そうだな。街中にある先輩達の家に襲撃を掛けるぐらいの奴らだから、もっと用心するべきだった」
「うん、確かにあたし達、無用心だったかも」
 心底反省している様子の彼等にはふわりと優しい微笑みを浮かべた。
「そんなに自分を責めなくてもいいのよ?確かに少し呑気であったのは咎められることだけど」
「でもね?本当に危なかったら、今朝、外出を誘われた時に貴方達を止めていたわ」
 そういえば、と顔を見合わせる彼等に二人は止めなかった根拠を説明する。
「確かに街中にいた私達を襲撃したけれど、あれはまだ、この街の警備に隙があって、そこを突く事ができたから」
「一度、あんな騒ぎが起きれば当然、警備は強化されるわ」
「そんな中で再び襲撃を行えば、どうなるか分かりきっているし、彼等を率いていた大将もそれは分かっているはず」
「それでも敢えて、この街で襲撃を掛けるような無謀を行う馬鹿でもないはずよ」
 推測ではあるものの、それでもある程度は納得できる説明に三人も成る程と頷いた。
「とはいえ、今までの闘いはかなり運が良かったとも言えるの」
「相手は軍人だものね」
「え?、軍人だって分かっているのか?」
 だったら、ネスに教えたらいいのに、と驚いたように聞いてくるマグナには困ったように首を横に振る。
「ネスティも彼等が軍人だろうってことは予想をつけているわ」
「問題はね、どの国の、どんな部隊なのかってこと」
「どの国の、どんな部隊・・・?」
 きょとん、と首を傾げるトリスには頷いてみせる。
「結構、国ごとに其々の特徴みたいなものがあるの。あと、部隊によっても特色が出てくるわね」
「うーん・・・それが分かったとして、利点があるの?」
「戦略を練ることが出来るわよ。そうね、国が特定できれば、その国の有り得そうな偽情報を流したりして混乱を引き起こせるかしら」
「一時的なものだとしても、混乱が起きれば私達にちょっかいを出す余裕はなくなるし、混乱に乗じて身を隠す事も出来る」
「あと、部隊の特色だけど、召喚師を多く抱え込んだ部隊なのか、遠距離攻撃を重点に置いた部隊なのか、傭兵を多く取っている部隊なのか。唯それだけの違いでも、闘い方は大きく変わってくるでしょう?」
 の解説に双子達はなるほどと頷いた。
「だから、ネスはあんなに資料を引っ繰り返していたんだ・・・」
「でも、特定できるものがないらしくって、煮詰まっていたのよね」
 だから、とはどことなく排他的な雰囲気を醸し出している建物を振り仰ぐ。
「『蒼の派閥』本部っていうぐらいだから、この世界の国の情報も相当量、あるわよね?」
「ネスティ、それを調べに行ったんじゃないかな?」
「ま、全て私達の推測でしかないけれどね」
 本当は、違うのだけれど。
 彼は彼の命綱を受け取りに行っているだけなのだけれど。
 今はまだ、教える事は出来ない。
 彼が・・・ネスティが『融機人』であることを、弟妹弟子達は知らないから。
 有り得そうな推測でネスティが『蒼の派閥』本部の門を潜った事に一応の納得をしてもらう。
 そっと二人が物憂げなため息を吐いた時。
「だから、中に入れてって言っているでしょう!」
「さっきから言っているが、ここは関係者以外は立ち入り禁止だ」
「あたしだってさっきから言ってるじゃない、召喚師だって!!」
「嘘をつけ、お前のような子供が召喚師なものか」
 突如、沸き起こった騒ぎに視線を向ければ、オレンジがかった金色の髪で薄紫を基調とした服の小さな女の子が門番と押し問答を繰り広げていた。
「ああ、そっか。黒幕出現の後、コレがあったか」
「ミニスイベント・・・っていうよりもケルマイベントがこの後発生するのよね、確か」
 がお互いの顔を見合わせ、ボソボソと囁き合っているうちに門番はしつこい少女にイライラしてきたらしい。遣り取りする口調にもそれがはっきりと現れてきている。
「ねぇ、あの子、マズいんじゃない・・・?」
 トリスが呟いたその時、とうとう門番が手を振り上げる。
「あっ!」
 何人かの驚きの声が上がった瞬間、栗色の影が側を走り抜けた。その直後、素晴らしく痛そうな破裂音が辺りに響く。
!」
さん!?」
 門番の平手打ちを自分が受け、それを受け止めきれずに地面に倒れ込んだ可憐な美少女の姿に手を上げた門番も驚いてその場で固まっている。
「大丈夫だから」
「でも、すごく腫れています・・・」
 可憐な美少女の頬が赤く腫れ上がっているのは見ていて非常に痛々しい。しかも、その美少女が心配掛けないように健気に微笑んでいたりすれば、そのつもりではなかったとはいえ、罪悪感が湧くというものである。
「す、すまない、お嬢さん。その、痛む・・・よな・・・?」
「こんな小さな女の子が張り飛ばされるのを見る事を思えば、これぐらい平気です」
 自分で立ち上がりながら、それでも門番に向かって嫌味を吐くに心配した双子達が一歩、後ずさった。
「お嬢が吹っ飛ぶぐらいの力で、こんな小さな女の子を殴ろうとしたんだ。ここの大人って、何を考えているんだろうね」
 冷静な視線でじっと見つめてくる知的な美少女が纏う、冷気漂う雰囲気に門番の顔が徐々に青ざめてくる。
「あ、あの、この子、知り合いなんです。すみませんっ」
「あ、ちょ、ちょっと!?」
「いいから、貴女もっ」
 とにかく、この場を去る事が先決だと本能で悟ったマグナがとっさに金色の髪の少女の手を引き、大慌てで掛け出した。いきなり手を引っ張られた少女が文句を言おうとするが、トリスが逆の手を引き、大急ぎで庭園まで駆け戻る。
 ベンチのところまでノンストップで走り、足を止めたところで何人かの口からため息が零れた。
「こ、ここまで来れば大丈夫だよな・・・?」
 何が大丈夫なのか分からないが、何となく本能で何かの危機をやり過ごした事を感じたマグナが呟く。
「そ、そうだよね・・・。あ、結構走っちゃったけど、貴女も大丈夫?」
 門の所に置いておくとマズいと思い、咄嗟に引っ張ってきた少女の顔をトリスが覗きこんだ。
「だ、大丈夫・・・だけど」
 至近距離で顔を覗きこまれたせいか、少し体を引き、警戒心の篭った視線で目の前の集団を見回している。
 そんな少女を見ながらは自分の荷物を漁り、の頬を診察していた。
「結構、腫れているわね。口の中は切っていない?」
「身代わりになるつもりだったから、歯は食いしばっていたわよ」
「そう。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢して」
「つっ・・・」
 赤く腫れている頬に荷物から取り出した『ひえピタ』を貼り付けるとが少し顔を顰める。
「いつも思うけど、姉様の鞄の中身って一体どうなっているの?」
「とりあえず、救急セットはあるわね。流石に注射器やアンプルやアンビューや挿管セットは揃えていないけど」
「いや、姉様。そこまで揃えたらそれは『救急セット』じゃなくて、『救命救急セット』になるから」

 尤も、血圧計と聴診器がある時点で救急セットから離れかけているけど。
 その二つはウケ狙いって言ったじゃない。

「おねえちゃん・・・痛い・・・?」
 くいくいっとミニマントの裾を引っ張られ、視線を向けると無垢な瞳に『心配』と大きく貼り付けたハサハがを見上げている。
 純粋に心配している姿にもふわりと微笑んだ。
「大丈夫。心配してくれてありがとうね、ハサハちゃん」
 ちょうどいい位置にある頭を撫でてやると、妖狐の少女は嬉しそうに瞳を細めて笑う。

(ああ、癒される・・・)

 ほんわかとした笑顔に思わず自分達も和んだが、ふいに金色の髪の少女の声が辺りに響き渡った。
「・・・赤の他人の貴方達には関係ないでしょう!」
「そ、それはそうかもしれないけど・・・」
 おそらくは大事な友達を失くしたが為にイラついているのだろう。ゲームで聞くよりもずっとその声は棘があり、そして鋭い。
 けれど。彼女の事情を知っているが故に、は琥珀の瞳の奥に揺れている不安の影を読み取る事ができた。
 キツい少女の言葉にやや、たじろいだ風のマグナを助けようと、足を向けかけた二人だったが、続いた言葉に足が止まる。
「そうですよ、マグナさん、トリスさん。まずは自己紹介です」
「・・・・・はい?」
 キョトン、とする双子達に構わず、アメルはふんわりとした微笑みで自分達の名前を名乗っていく。
「あたしはアメルと言います。このお二人は双子でマグナさんとトリスさん。そして、お二人の護衛獣でバルレル君にレオルド君、ハサハちゃんにレシィ君。それから、門番さんから助けた人がさんでその親友の方がさんです。貴女のお名前を教えてくれますか?」
「・・・ミニス」
 立て板に水状態で自己紹介をしていき、最後ににっこり笑顔と共に名前を訊ねるアメルに毒気を抜かれたのか、少女は素直に名前を明かす。
「ミニスちゃんですか、可愛いお名前ですね」
 にこにことアメルの笑顔が輝く。
「ねぇ、ミニスちゃん、あたし達とお友達になるのは嫌ですか?」
「え?」
 驚いたように顔を上げたミニスにアメルが満面笑顔を向け、もう一度尋ねた。
「ミニスちゃんは、あたし達とお友達になるのは嫌ですか?」
「う、ううん、嫌じゃ、ない・・・」
 戸惑いながらも首を横に振る少女−−−ミニスにアメルは最大級の笑顔を向ける。
「じゃあ、あたし達はもう、ミニスちゃんとお友達ですね。お友達なら、赤の他人じゃありませんよね?」
「・・・・・あっ!」
 アメルの誘導尋問(違)の意味が分かった双子達が揃って声を上げ、尊敬の視線をアメルへと向けた。
「お友達ならミニスちゃんがどうして、あそこに入ろうとしたか、教えてくれますよね?」
 にっこり、にこにこ。

(ナイスです、アメルさん)

 滅茶苦茶強引な論法であるにも関わらず、その笑顔で納得させる聖女様には心の中で惜しみない拍手を送る。
 そして、その笑顔で毒気を抜かれたのだろうミニスもポツリポツリと事情を話し出した。





「じゃあ、そのペンダントを捜しているんだ」
「分かった、俺達もそのペンダントを一緒に捜すよ」
「・・・えっ?」
 協力の申し出をしたマグナをミニスは驚いて見上げる。
「友達、だもんね?」
 そんなミニスにトリスが笑顔で頷いてみせる。
「それじゃあ、これだけの人数だし、二手に分かれようか?手間も省けるしね」
「そうね。姉様と私は繁華街を中心に捜してみるわ」
 言外に協力を申し出るの言葉に他の者達も同意の頷きを返した。確かに、二手に別れた方が効率はいいだろう。
「じゃ、あたし達は庭園を中心に捜してみようか」
「そうだな。庭園なら、俺達のテリトリーだし」

(そういえば、派閥時代はよく脱走しては庭園にいたっていう裏設定があったとかなかったとか言っていたな・・・)

 握り拳で気合を入れる双子達には生暖かい視線を向ける。確かに、庭園付近はこの双子の独壇場(?)だ。
「そうだ。、あたし達の子を2人程連れて行ったらどうかな?」
「ああ、それがいいかもしれないな。役に立つはずだし」
 人数の公平な割り振りを考えれば、その方がいいかもしれないと二人も考え、その申し出を有難く受け取る事にする。
「えーっと・・・じゃ、ハサハちゃんとバルレル君をお願いしようかな」
「・・・(こくん)」
「そーだな。お前達との方が面白そうだ」
 ハサハはともかく、バルレルがあっさり承諾した事に周囲はかなり驚いた視線をサプレスの召喚獣へと向けた。性格的にまず、あっさりと承諾などしないはずなのだ、彼−−−バルレルは。
「言っただろーが、お前らの側は居心地がいいんだと」
 その居心地の良さが何から来る物なのかある程度予想している二人はただ、苦笑を浮かべるのみだ。
「ありがと、バルレル君」
 とりあえず、狂嵐の魔公子の存在はあらゆる意味で有難いので同行を承諾して貰ったことにお礼を口にすれば、横を向いてお馴染みの『けっ』という吐き捨てるような呟き。だが、の二人はまったく、その態度に何も言わない。
 ただ、穏やかに笑みを浮かべているだけだ。
「あの、さん、手を出してもらえますか?」
 突然の聖女の申し出に一瞬キョトンとするだったが、すぐに自分が頬を腫らしている事を思い出す。
「この頬のことなら、別に癒さなくてもいいのよ、アメル」
 やんわりと断りを入れるだったが、今度は双子達におおいに詰め寄られる。
「どうして!?」
「それだけ腫れているのに!」
 勢いのある双子達にもはただ、やんわりと微笑み、首を横に振るだけである。
「じゃあ、お兄ちゃんの召喚術で・・・」
「俺のリプシーで・・・」
「召喚術も使わないでね」
 双子達の召喚術にもはやんわりとした拒否をする。
「ねぇ・・・理由があるの?」
 ふと、今まで黙っていたミニスが首を傾げながら二人に問い掛けた。大切な友人を見失ってしまい、余裕をなくしていた彼女だったが、落ち着きを取り戻せば年齢よりも遥かに高い精神の持ち主だ。の様子から何か、理由があるようだと察したのだろう。
 問い掛けられたは少し目を見開いた後、ふわりと微笑んだ。
「ええ。私だけでなく姉様もだけど、生死に関わる怪我か、よほどの緊急事態でない限り、召喚術の癒しは受けないことにしています」
 自分だけ丁寧な言葉遣いをされたミニスの眉が顰められる。そんなことをして欲しくないのだが、それを言う前に多分にお人よしの性格であろう双子達が彼女達に詰め寄った。
「何で?何で、癒さないの!?」
 凄い勢いで詰め寄る双子と聖女に二人は思わず一歩、その場から後ずさる。だが、説明をしなければ彼等は納得などしないだろうと思い、小さく息をついた。
「本来の治癒能力を衰えさせないために」
「え?」
 キョトン、と首を傾げる姿に今度は少し、噛み砕いて説明する。
「生き物には本来、自然に怪我を治せる治癒能力があるの。ホラ、かすり傷だって数日経てば跡も残らずに治るでしょう?」
「召喚術はその自然な流れを捻じ曲げて治療するもの。その不自然な事を頻繁に行えば、元々持っている治癒能力さえ落とすことになるわ。あと、自分自身への戒め」
「戒め・・・?」
「たとえ、動けなくなるような怪我をしても、召喚術で治せる。そんな甘い考えでは闘ったとき、必ず自分に隙を作ることになる」
「命の遣り取りをする戦場では、その考えこそが命取りになるの。だから、私達は召喚術の癒しを受けない」
 期せずして、再び彼女達の中の修羅を窺わせる台詞を聞くことになった少年少女達は、何かを飲み込んだような複雑な表情になった。
 その表情を見た二人は苦笑を浮かべ、パンパン、と両手を叩いた。
「さぁて、何時までもここで話をしている場合じゃないでしょう?」
「そうよ。ミニスさんのペンダントを捜さなくちゃ」
「あ、うん」
 複雑な顔のままであったが、それでも新しくできた友人の為に彼等は小さく頷く。
「一応、確認するわね。ミニスさんはマグナ、トリス、アメル、レオルド君、レシィ君と一緒に庭園を中心にペンダントを捜す」
「私と姉様、ハサハちゃんとバルレル君は繁華街を中心に捜す。見つけても見つけられなくても、2時間後、ここに集合ね」
「分かった」
 簡単に手順を確認するとマグナは真面目な顔で頷いた。
「では、解散」
 の言葉を最後に、結構な人数だった一団は二つの塊に分かれ、それぞれに捜索を開始したのだった。



     





・・・・・サモナイ界巨乳代表その2(笑)登場まで辿り付けなかった・・・・・(汗)
いや、原因は分かっているんです。戦術の説明のしすぎなんです、ハイ。
あ、いないとは思いますが、この戦術をまともに信用しないでください。
所詮は素人が考えたものですから。(だから、信用する人なんかいないって)
次こそは、巨乳さん登場です。
(余談ですが、巨乳その1は最強先輩召喚師であることは、お分かりですよね?)



さてさて、今回の『いきなり次回予告』です。



「このことは黙ってろよ」耳元でささやく
不安を隠せないハサハ。
そんなハサハの前に突如現れたレシィが言う…「あいつはプロだから!」
次回、『はプロなのか???!』



・・・・・プロって、何のプロなのさ?そしてレシィ、何故それを知っている?
ハサハもそりゃ、不安になるって(違)